I.アジア及び大洋州

(1)内政

 94年には、92年9月のチュアン政権成立以来大きな課題であったより民主的な憲法の制定のため、国会における本格的審議が行われ、憲法改正作業が進展した。一方で、この憲法改正などをめぐりチュアン内閣を支える連立与党が対立し、一時政権の存立が危ぶまれたが、2度にわたる内閣改造を経て難局は克服された。今後、チュアン政権は、都市と農村部の地域格差是正、パンコックの交通渋滞解決及び地方自治の促進等の分野で一層の実績を上げることを求められている。
 経済面で94年は、順調に推移し、実質成長率は93年の8.2%を若干上回る8.4%になると見込まれている(政府見通し)。こうした経済成長の背景には、(あ)世界経済が全体として回復過程にあるという良好な輸出環境、(い)所得の増加による民間消費の拡大、(う)これらに伴う旺盛な設備投資がある。しかし、94年の消費者物価上昇率は、5.0%になるものと見込まれており、景気の過熱等により潜在的なインフレ圧力も高まっている。貿易面では輸出が伸びているものの、国内需要の拡大を背景に輸入も大幅に伸びており、赤字幅は拡大傾向にある。

(2)対外関係

 タイはASEAN議長国として94年7月、パンコックにおけるASEAN外相会議、ASEAN拡大外相会議を主催したほか、アジア太平洋地域の主要国外相が一堂に会して地域の安全保障問題を初めて討議するASEAN地域フォーラム(ARF)を成功に導くなど、大きな役割を果たした。また、タイはASEAN6か国にインドシナ3国及びミャンマーを加えた東南アジア10か国構想の推進を提唱するなど東南アジアの地域統合に向けても重要な役割を担いつつある。そのほかAPECなどにおいて、域内諸国等との経済面での協力の発展にも努力している。また、インドシナ開発、ASEAN内の地域協力のようなサブ・リージョナルな経済開発計画の推進にも努めている。近隣諸国との関係では、カンボディア問題に関しカンボディア及び豪州などよりタイがポル・ポト派を支援しているとの非難を受けたが、タイはこれを強く否定した。

(3)日本との関係

 9月、チュアン首相が公賓として日本を訪問し、アジア太平洋地域の安定・発展について緊密な協力を行うことについて確認した。訪日の際同首相は、日本からのタイに対する投資の一層の拡大を求めた。
 経済関係については、日本企業の現地での活動がタイの経済発展にとってプラスになるという認識がおおむね受け入れられてきていることもあり、引き続き良好な状況にある。貿易バランスは日本側の黒字が続いており、黒字幅も最近拡大傾向にあるため、タイから日本への輸出を増やすことが重要課題と位置付けられている。日本からの直接投資は、円高の進行等を背景に、投資申請件数が急増するなど新たな投資拡大の動きが見られている。
 日本からの経済協力については、インフラの整備、環境保全、地域開発、人材育成等を重点分野としている。タイの所得水準の向上の結果、94年1月に交換公文を取り交わしたタマサート大学工学部拡充計画が最後の大型無償協力案件となり、今後は円借款、技術協力が中心になっていく。
 この数年間急増したタイ人の本邦不法残留者問題については、日タイ相互の協力により解決すべく協議等が進められた。

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