I.アジア及び大洋州

 92年にパッテン総督により提案された直接選挙の要素をより多く取り入れた政治改革法案は、英中間で合意に至らないままに香港の立法評議会で採択され、94年9月には同法に基づく区議会選挙が実施された。こうした動きに対し、中国側は英中共同宣言、香港特別行政区基本法等に反するものであると反発し、この政治改革法により選出される議会は97年の返還時に解散するとの決定を全国人民代表大会常務委員会で行っ た。こうしたことから、香港をめぐる英中間の政治的雰囲気は、かなり冷めたものとなった。一方、返還まで残すところ1,000日を切るという状況の下で、実務的な側面での協力関係を推進する努力が両国間で続けられ、その結果英国が現在使用している軍用地の引継問題や、新空港建設をめぐる財政問題などについて両国間で一応の合意を見た。
 経済面では、94年も引き続き基本的には好調に推移した。貿易額は10% 以上の伸びを見せ、新空港関連の工事も緒につき始めたことから、GDPは5.5%前後の伸びが予想されている。香港経済の懸念材料としては、相変わらず雇用市場が逼迫していることに伴う賃金の上昇、空港やコンテナ施設等のインフラが飽和状態に達していること、オフィス賃料の上昇などが指摘される。また、中国経済との結び付きが深化していること から、今後の中国経済の動向の香港経済に与える影響が注目される。
 日本との関係では、日本の企業や金融関係機関が着実に香港への進出を果たしており(在留邦人数約2万人、進出企業数推定2,000社、銀行数70行)、香港における日本の利益と役割はますます大きなものとなってきている。こうした中で、経済界を中心として緊密な交流が行われているほか、92年に引き続きパッテン総督の日本公式訪問が実現したことは、返還を間近に控えた香港と日本との間の関係強化に寄与した。

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