I.アジア及び大洋州

 民主化、市場経済化への移行期にあるモンゴルでは、その4年目を迎えて現ジャスライ政権が移行期特有の問題点を解決していく施策の成否が注目された。4月に野党を含め一部民衆がジャスライ政権を批判して退陣を要求し、一時期ハンガーストライキを起こしたものの、大きな政治的混乱には至らず収拾され、その後は比較的安定した政治情勢であった。与党の人民革命党員が9割以上を占める国家大会議でもこのハンガーストライキを契機として、一般民衆の困難な生活状況と一部指導層の汚職疑惑に対する不満が取り上げられるなど党の枠を越えた活発な議論が展開され、また、土地法、有価証券法をはじめ多くの法律整備が着実に進んでいる。
 経済は市場経済化の諸施策実施以降悪化していったが、94年はインフレ率の伸びが鈍化し、為替レートが引き続き安定するなど一部経済指標に明るい兆しが見られ、食料品、衣料品など基本物資の市場への出回りにも改善が見られている。しかし、低所得者層の増大及び失業者の増加傾向は相変わらず改善を見ておらず、政府は94年5月貧困緩和計画を打ち出すなど努力している。そのほか、エネルギー問題をはじめインフラ整備、対外的な債務返済など解決すべき問題は多い。
 外交面では、中国・ロシア両大国との間にバランスのとれた友好関係 を維持しつつ、アジア太平洋諸国の一員としての立場を強調し、西側諸 国との関係を深める多面外交政策を堅持、展開している。94年6月には、「国家安全保障の指針」「対外政策の指針」、「軍事ドクトリンの基礎」を採択し、冷戦後のモンゴルの外交政策の基本方針を確認した。また、4月には中国の李鵬(リホウ)総理がモンゴルを訪問し、中国・モンゴル間に新たな友好協力条約を締結し関係改善を図ると同時に、中央アジアのほか、ASEAN、インドシナ諸国など対アジア外交を活発化している。
 日本との関係では、近年来急速に発展しつつある両国関係を背景として、94年も引き続きハイレベルの交流が行われたほか、日本政府のイニシアティヴにより第4回モンゴル支援国会合が31の援助国及び国際機関を集めて東京で開催された。

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