I.アジア及び大洋州
(1)内政
マハディール首相は、サバ州政権の野党サバ統一党(PBS)から奪回に成功するとともに、イスラム教の教義を極端に解釈するアル・アルカムの運動の非合法化により国内イスラム教徒の教義上の混乱を収拾し、また、いくつかの政治家のスキャンダルを無難に収拾するなど、95年の次期議会下院選挙に向け、引き続き強力な指導力を発揮している。
94年のマレイシア経済は、世界景気の回復に伴う輸出の拡大に加え、力強い内需の拡大もあって実質GDP成長率は8.5%となる見通しであり、引き続き高い経済成長を維持している。一方、経済の急拡大に伴う人手不足による賃金上昇や海外資金の流入等によるマネー・サプライの大幅な増大の結果、インフレ懸念が高まっている。
(2)対外関係
94年のマレイシアの対外関係は、ASEAN諸国、インドシナ諸国、ミャンマー、中国等の東アジア諸国との関係強化を引き続き追求し、イスラム国家としてイスラム諸国との緩やかな連帯の維持増進を図るとともに、欧米の先進工業諸国との経済関係の維持強化をも模索する、という方向で運営されてきた。近隣諸国との関係については、特にASEAN内で合意されている東アジア経済協議体(EAEC)構想を強力に推進するとともに、インドシナ諸国及びミャンマーに対しては経済関係の改善を通じてこれら諸国の安定を図る外交を展開している。イスラム諸国との関係についても、種々のハイ・レベルの交流が見られたほか、ボスニア問題について、イスラム教徒に対する欧米諸国の差別的対応を批判している。欧米諸国との関係については、経済面での交流にメリットを見出しつつも、これらの諸国に対する安全保障面での依存度を高めることに慎重である。
(3)日本との関係
マハディール首相の提唱してきたルック・イースト・ポリシー(東方政策)に象徴されるように、マレイシアは経済成長のモデルとして日本を中心とする東アジア重視の姿勢を維持してきている。一方、対日貿易赤字の拡大や技術移転に対する不満なども少しずつ表面化しつつある。