I.アジア及び大洋州
(1)内政
94年は、95年5月の中間選挙(上院議員の半数、下院議員、州知事、市長等の改選)に向けての政党間の連合結成など政界再編の動きが活発となった。ラモス政権与党は、これまで下院では多数派を占めていたが、94年8月に上院多数党との政策連合を結成したことにより、上院においても政権基盤を拡大させた。92年のラモス政権発足以来の重要課題である治安の回復については、反政府勢力(共産勢力、回教徒ゲリラ、国軍反乱分子)との個別の和平交渉を実施し、国内の不安定要因の除去に積極的に取り組んだ。一般犯罪についても、ここ数年、犯罪発生件数は減少傾向にあるが、殺人や誘拐などの凶悪犯罪は依然として多発しており社会問題となっている。
経済面では、ラモス政権は、中期経済開発計画を策定し、計画が終了する98年までに国民1人当たりのGNPを1,000ドル以上とすることを目標とし、人的資源の開発、貿易・投資の自由化、国際競争力の強化とそれによる持続的成長、貧困の撲滅と社会的公正の実現に向け努力している。94年上半期(1-6月)にはGNPは前年同期比5.07%増と90年以来の高い伸びを記録したが、一方で、インフレ再燃の兆を懸念する声や、輸入増加による経常収支の急速な悪化も見られる。
(2)対外関係
ラモス大統領は、フィリピン経済の建て直しを図るとの観点から、諸外国との経済・貿易関係の強化とフィリピンへの投資拡大を目指す経済外交を進めてきている。活発な要人往来がある中で、クリントン米大統領が、92年11月の在フィリピン米軍基地撤退以来米大統領として初めてフィリピンを訪問したことが注目される。
(3)日本との関係
8月、村山総理大臣がフィリピンを訪問し、ラモス大統領と会談し、両国の一層の友好関係強化が確認された。経済協力面では、フィリピンは、93年には日本の経済協力の16.54%(支出純額ベース)を受けており、中国、インドネシアに次いで第3位となった。フィリピンにとっては、日本の経済協力はフィリピンが受け取る二国間援助の6割強を占めている。フィリピン経済にとり、日本の援助の重要性はますます増しており、今後は経済インフラに加え、社会セクターへの援助、環境、人口といったグローバルな問題への援助等に焦点をあてていくことが重要である。
貿易面では、日本はフィリピンにとり米国に次ぐ貿易相手国である。89年以降、一貫して日本の輸出超過となっているが、対日輸出品目を見ると、伝統的な一次産品だけでなく、近年の日本企業の直接投資の結果として、半導体等の工業製品の比率も増えてきており、貿易構造の更なる高度化が予想される。
投資面では、近年、日本は米国と並びフィリピンへの最大投資国となっており、最近の円高傾向の中、日本企業の生産拠点多様化を反映し、最近の直接投資の伸びは著しい(93年約1億700万ドル、前年度比66%増)。ただし、米、香港等のアジアNIEsからの投資の伸びも大きいことから、日本だけが突出するといった状況ではなくなってきている。