I.アジア及び大洋州

 94年前半は、特段の大きな動きもなく、ラオ政権は成立以来最も安定した時期を迎えた。後半に入ると、ラオ政権は、証券汚職疑惑事件に係る政府実施措置報告書をめぐる野党側の追求などに直面したが、最も大きな打撃となったのが、11月から12月にかけて実施された州議会選挙での南インド2州での惨敗であった。また、与党コングレス党内においても、党人事の刷新や経済的弱者への配慮の必要性の議論が起こるとともに、砂糖汚職疑惑事件をめぐる閣僚の辞任をきっかけに、内閣の刷新を要求する声が高まるなど、ラオ政権は楽観し得ない状況におかれることとなった。
 経済面では、91年の経済危機を契機に始まった経済改革の結果、インドのマクロの経済状況は大きく改善してきている。94年は鉱工業生産が回復に転じたほか、農業も豊作に恵まれ、93年を上回る成長(5%前後)が見込まれている。景気回復を反映した輸入増加による貿易赤字の拡大にもかかわらず、大量の外貨の流入の結果、外貨準備高は顕著に増加し、現在史上最高の190億ドル台(金、SDRを除く)にのぼっている。そのため、政府は大量の外貨流入による国内のインフレ圧力と、ドル余剰基調によるルピー貨の実質的上昇圧力解消に努めている。外国直接投資も基本的に順調に進展している。経済改革も全体としては着実に進展している。ラオ政権は経済改革を最優先の政策課題として、機会あるごとにインド経済の体質強化と貧困撲滅のためには経済改革は不可欠であり、改革は不可逆である旨を訴えており、国民にもその点についてのコンセンサスが徐々に形成されつつある。そのほか、中長期的経済成長にとり経済インフラの未整備がボトルネックになるとの認識から、政府は政府資金に加え、国内外の民間資金をインフラ整備のために導入すべく種々のインセンティヴの提供に意を用いている。
 対外関係でも、経済面を重視した外交の多角化への努力が続けられた。特に、米国との関係は、5月のラオ首相の訪米により改善され、その後要人往来も極めて活発となった。また年前半のラオ首相の英国、独訪問は、貿易・投資を中心とする二国間関係の強化に役立ったほか、6月のロシア訪問は、一時停滞していた両国間での実務関係の再活性化のきっかけとなった。さらに、ラオ首相は、9月にはヴィエトナム、シンガポールも訪問し、アジア諸国との関係強化にも努めた。一方、パキスタンとの間では、1月に久方ぶりに外務次官級協議が開催され、カシミール問題も討議されたが、双方の主張は平行線をたどり、何ら進展はなかった。その後、二国間関係は依然厳しい状況にある。日印間においては、日本の民間企業の間で、経済自由化を進めるインドに対し将来の有望な市場としての関心が高まっており、各種民間投資環境調査団がインドを訪問するなど、経済分野を中心とする関係の深化が見られた。

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