(1) | 米国ジョージタウン大学における細川総理大臣演説(仮訳) |
(94年2月11日 於ワシントン)
オ・ドナヴァン学長、
並びに御列席の皆様、
私は、本日このジョージタウン大学において、お話しする機会を得ましたことを、嬉しく、また、光栄に思います。ジョージタウン大学は、日本ではその強力なバスケットボール・チームというよりは、さまざまな分野で傑出した指導者を排出してきたことで有名です。ここジョージタウン大学は、私と妻の卒業した上智大学と密接な関係にあります。そのため、私と妻がこの大学に対して抱く気持ちには、特別のものがあります。そして、何より私が嬉しく思いますのは、皆様の中に数多くの若い方々がいらっしゃることです。私は、皆さんのために、そして、日本の若者たちのために仕事をし、皆さんと私たちがより良い未来を持てるように努力しているのです。
世界的な変革期という困難な時代にあって、将来は大変不確実なものとなっています。アメリカも、日本をはじめとする多くの国々と同様、深刻な問題に直面しています。しかし、アメリカは、依然として、多くの点で他の国にとっての模範であります。民主主義に基づいて社会を築き、より良い国民生活の実現を目指す国にとって、アメリカの経験から学ぶことは多いでしょう。
私がそう信じるのは、私自身の家族の経験にも基づいています。私と妻は、数年前、子供達がアメリカで生活する機会を得たことを嬉しく思っています。子供達は、アメリカの小さな町でホームスティをして、友達を作り、個性と自由な競争を尊重する社会で生活することの意味について、理解を深めることができました。
新しい時代を一言で表現しようとすれば、「変革」ということになるでしょう。
旧ソ連諸国の政治状況には、劇的な変化が見られます。欧州においては、かつてない高度な統合に向けて、歴史的な動きが見られます。そして、米国は、変化を実現しようとする新しい大統領の下にあります。私自身についてみても、多数の日本国民が政治を根本的に変えようという決断をしなかったなら、本日、日本の総理大臣として皆様にお話しすることはなかったでしょう。
本日、私は、変革という課題について考えを述べたいと思います。また、より安定し、繁栄した世界を築きあげるため、日本がどのような役割を果たすべきかについて、考えを述べたいと思います。このような共通の目標に向けて、日米両国の協力は、特別な重要性を持っています。
日本において、戦後一貫して続いてきた政治と行政のシステムを改革する過程が始まりました。最近の新聞の見出しからお分かりになるように、この過程は、私たちにとって、また、私自身にとっても、苦痛を伴うものです。先日のワシントン・ポスト紙の記事は、私のことを「ポーカー・フェイス」と書いていました。私自身はそうは思っていないのですが、最近の出来事を考えると私は確かに、この頃、少しばかり憂欝そうに見えるのかもしれません。実はクリントン大統領と私は多くの共通点を持っているのではないかと思います。私たちは二人とも、現在の職務についてから、難しい問題に直面してきました。二人とも、新聞やテレビで悪く言われたこともありました。そして、二人とも、改革に向けて人々の理解を得るために、大変な苦労をしてきました。しかし、クリントン大統領が前進しているように、私たちも前進しています。問題なのは、日本の変化が他の国には遅すぎるように見えることです。また「日本株式会社」といった誤ったイメージの問題もありますが、こと改革に関する限り、「日本株式会社」のとおりであったらよいのにと思うことすらあります。しかし、現実には、ご存知の通り、日本国民の間で議論が絶えないのが真実であります。また、改革に関する意見の相違が、改革の進展を遅らせているという現象もあります。しかし、私がはっきり申し上げたいことは、私たちは前進しているのみならず、目標の実現に強い意思を持っているということなのです。
私の目標は、政策の議論を日本の政治の中心に据えることです。この改革は、より開かれた政治過程を生み出すための出発点でもあります。世論調査によれば、国民の大多数が、私のしようとしていることを強く支持しています。この過程は、別の理由からも重要です。私は、政治に対する国民の信頼と関心を呼び戻したいと考えています。変革は、こうした方向に向かって一歩を踏み出したに過ぎません。しかし、これは、日本において、過去半世紀の間で最も重要な政治改革の運動なのです。
内側からの変革のもう一つの主要課題は、規制緩和です。私は、熊本県知事時代に、中央政府による規制が社会の効率を大きく損ねていることを、身をもって経験しました。日本は、諸外国から、このようなイメージで見られていることも率直に認識しなければなりません。このため、私は、総理大臣として、企業や消費者のコストを高めている規制の撤廃に取り組むことを決意しました。例えば、私は、現在の3分の2の価格で住宅の購入を可能にするような、規制緩和を含めた措置を望みたいと考えています。
規制緩和は、様々な目的を実現する上で役立ちます。第1に、日本の市場の透明性を高め、外国企業のアクセスを容易にします。第2に、企業のコストを引き下げ、その結果、多くの製品の価格引下げを可能にするとともに、輸入の促進にもつながります。第3に、よりオープンで効率的な行政システムを作り出します。私は、行政改革と規制緩和を推進する本部を統括し、この努力に自ら関与していく考えです。
このような改革を進める理由は、それが私たち自身の利益に適うからであり、また、それが日本の国際社会における責任と調和するからだということを、私は強調したいと思います。ウルグァイ・ラウンド交渉で、コメについて痛みを伴う決断を下したのも、このような理由によるものです。この決断は、ウルグァイ・ラウンド交渉の成功裡の終結を確保するものでした。このラウンドの合意は、持続した長期的な経済成長、より一層自由化した貿易、そして世界の一層の繁栄という私たちの共通の目標を達成する上で、必要不可欠なものです。
数日前、日本政府は、大型の経済対策を発表しました。この対策には、所得税の大幅減税が含まれています。私は、この対策が強い個人消費を生み出すことになるものと、確信しています。この経済対策は、また、新しく改革された、公共事業に関する競争入札制度の下で市場に参加しようという外国企業にとって、良いニュースです。また、世界にとっても良いニュースです。というのも、この対策は、世界の一層の繁栄という、私たちの共通の目標に向けての重要な一歩だからです。私は、日本と米国が、緊密に協調しながら、それぞれの国の経済成長政策を断固として支えていくならば、対外不均衡の問題は緩和されるものと、確信しています。
日本の内部の変革は、他の意味も持っています。これらは、対外関係における日本人の考え方や行動の変化を象徴するものです。私たちすべてが望む、より安定した平和な世界を築くために、日本がよりダイナミックな役割を果たすべき時が既に来ています。
日本がより一層の役割を果たすべきだと考える分野が、いくつかあります。その中には、地域紛争の予防と解決、安定的な国造りに対する支援、環境問題や人口問題といった地球的規模の問題への取組に対する支援が含まれています。
私は、地域紛争の解決に当たり、暴力に代えて安定をもたらすためには、「包括的アプローチ」をとることが有効であると考えます。このアプローチには、和平のための外交的努力、国連の平和維持活動、人道的支援、暴力により引き裂かれた国の再建のための開発復興援助といった要素が含まれることが必要です。カンボディア紛争を成功裡に終結させた過程は、このアプローチの良い例です。日本は、この過程の各段階で積極的な役割を果たしました。
日本は、国際的にもはや傍観者ではありません。私たちは、世界の問題となっている地域の安定化のための努力に、物の面でも人の面でも支援することを決意しています。例えば、日本は現在、モザンビークにおける国連平和維持活動に参加しています。また、3月には、エル・サルヴァドルにおける選挙監視を支援するため、チームの派遣を考えています。中東やその他の紛争地域において、日本は、平和に向けた国際社会の努力を支援するため、積極的な役割を果たす用意があります。日本政府は、旧ユーゴーにおける紛争による被災地域に対し、人道援助やその他の支援の拡充を決定しました。
これらの努力は必要不可欠ですが、その他に一層重要な課題があります。冷戦の終結は、軍備管理・軍縮に向けての好機を作り出しました。日本にとっての重要な目標のひとつは、核兵器拡散の防止のため、NPT(核不拡散条約)体制を強化することです。私が総理大臣に就任して最初に行った外交政策の決断の一つが、1995年以降のNPT無期限延長に対する強い支持であったのは、そのためです。
ここ数日、北朝鮮が核武装する場合には、日本は核政策を変更するのではないか、と論ずる記事が見られます。私は、そういう記事を書く人には、日本に来て、日本国民と議論してほしいと思います。そうすれば、日本国民が核の問題を如何に深刻に受け止めているかがわかると思います。私は、この点に関して、日本の立場を明確にしておきたいと思います。日本が核武装するなどということはあり得ません。核武装は、日本の国益に反するものです。私たちは、皆さん方と同様、朝鮮半島における現在の状況に対して、強い懸念を持っています。私たちは、韓国や米国の指導者と緊密に協力して、この問題の解決のために努力していく決意です。
通常兵器管理の問題についても、日本は、積極的な役割を果たしています。日本は、武器の輸出を行っていない唯一の主要国です。3年前、日本は、国際的な通常兵器移転の監視を容易にするため、国連軍備登録制度を提案しました。私たちは、これを一層効果的にするため、この制度を幅広いものにしていきたいと考えています。
長期的な観点から世界の安定と繁栄を図る上で、援助は重要な役割を果します。日本は、今や、世界最大のODA供与国となっています。日本は、援助を通じ、いわゆる「グット・ガバナンス」(「良い統治」)を助長することに積極的に取り組んでいます。私たちは、被援助国が、より民主的な政府の構築、市場経済の導入、軍事支出の抑制及び大量破壊兵器の不拡散の推進等の分野で努力することを、奨励しています。被援助国がこうした政策を推進するかどうかは、日本政府が、ODAに関する決定を行うに際し、重要な考慮要因となっています。
世界の長期的な安定と繁栄を考える上で、世界中の人々の福祉を脅かしている問題についても、考慮を払わねばなりません。四つの重要な課題について、調整のとれた行動が必要です。地球環境の保全、人口問題への取組、エイズの蔓延の防止、社会的脅威である麻薬の撲滅、の四つです。
日本は、2年前に、地球環境保全のために、70億ドル以上のODAを拠出することを表明しました。それ以来、日本の援助は、メキシコやインドネシアにおける植林計画、ブラジルにおける廃棄物処理、中国における酸性雨の調査等に使われています。また、環境保全は、日米包括経済協議の地球的展望に立った協力の分野の主要な柱の一つとなっています。私は、この重要な分野において、日米両国の一層緊密な協力を実現したいと考えます。
さらに、日本政府は、人口とエイズに関する計画を支援するため、今後7年間で30億ドルの援助を行うことを決定しています。米国も同期間にこれらの分野で90億ドルの援助を行うと承知しております。私たちは、また、麻薬の撲滅や癌の治療についても、国際協力を強化していきたいと考えています。
御列席の皆様、
21世紀が近づきつつありますが、私は、世界で最もダイナミックな地域であるアジア太平洋には、日米協力のさまざまな機会があると考えています。シアトルでのAPEC経済非公式指導者会議において、クリントン大統領は、確信をもって、米国の将来にとってのアジア太平洋の重要性について述べられました。大統領は、昨年の東京訪問の際にも、同様のことを述べられました。私は、このメッセージを歓迎します。私たちは、安全保障と経済の両面において、アジアにおける米国の存在と関与を必要とし、かつまた、それを求めます。
私たちは、日米安保条約を強く支持し、在日米軍に対して大きな財政支援を行っています。日本の接受国支援は、1993年度で46億ドルに達しており、1995年度には、米軍人・軍属の給与を除く在日米軍経費の7割を、日本が負担することが見込まれています。日米安全保障体制は、新しいアジア太平洋の時代においても、政治・軍事の両面にわたり、引き続きこの地域の安定にとって不可欠なものとなっています。
アジア太平洋において日本と米国が協調して行動することが、孤立主義と保護主義の危険に対する、最も確実な保証であります。また、日米両国は、例えば中国に対して、この地域の安定のために建設的な役割を果たすように働きかけていく必要があります。その意味で私は、中国との関係を拡大しようとしているクリントン大統領の政策を支持しています。対話と政策協調は、この地域の国々の相互信頼を深める上で、非常に重要です。
ビジネスの世界では、関係緊密化が進展しています。また、新しい動きも見られます。例えば、日本企業と米国企業がインドネシアの発電システムを改善するために協力しています。また、中国の自動車産業の発展のために、日本と米国の企業が技術支援を行っています。このような共働作用は、APECのメンバーが、いかにして、それぞれの得意分野を活かし、米国流の表現を使えば「ウィン-ウィン」となる(両当事者が「勝ち負け」ではなく、ともに「勝ち」となる)ような結果をもたらすことができるかを、示しています。
来年は、第二次世界大戦終戦50周年にあたります。かつて、戦場であったアジア太平洋は、今や世界で最も希望に満ちあふれた地域です。半世紀前の紛争と破壊の苦い思い出は、常に、私たちが直面にしている課題を思い出させてくれます。私たちは、相互の尊重に基づき、平和で繁栄した未来を目標とする、新しい時代を築いていかなければなりません。
御列席の皆様、
半世紀にわたって、日米両国は、基本的に強固で、積極的な関係を有してきました。私は、日米関係の将来は更に明るいものになると確信しています。
現在日米両国で進行中の変革は、日米関係の一層の強化に資するものです。私たちは、深刻や貿易、経済問題を解決していかなくてはなりませんが、私たちは、解決することができます。しかし、そのためには、疑念と不信を捨て、パートナーシップの精神とお互いに対する敬意をもって、協力して取り組んで行かねばなりません。私たちは、これらの問題のため、日米関係がゆがめられることがないように注意しなければなりません。政治、安全保障並びにグローバルな政策問題での日米両国の緊密な協力関係がいかに重要かを念頭に置いて、日米関係がバランスの取れたものであるように努めなければなりません。
また、私たちは、日米関係の中に見られる豊かな人間関係の側面も心に留めておく必要があります。日米関係に最も大きな価値を与えているのは、政府でも企業でもなく、結局、人々なのです。多数の日本人とアメリカ人が、お互いに深い友情を育んでいます。こういった人々は決して有名人というわけではありませんが、私たちの社会の中核となっている人々です。この中に含まれるのは、学生、教師、企業家、技術者、芸術家、ミュージシャン、スポーツ選手、それにジャーナリストも含まれています。そして、両国のさまざまな町、ワシントンに、東京に、デンバーに、名古屋に、マイアミに、大阪に・・・住んでいます。これらの人々は、共通の価値観と関心を持ち、それぞれ家族とともに、同じような問題を抱えています。そして、誰もが、より良い未来への夢と希望をもっているのです。日米間に存在するこのような強固な人間の絆こそ、私たちがこの良好な関係を更に一層良いものにしようと努力する最大の理由なのです。これこそ私の目標であり、また、私が皆さんにお約束する点です。
私は、自分と共通の夢と希望を持った日本とアメリカの方々とともに、私たち、私たちの子供たち、そして世界中の友人たちのために、より良い生活を確実なものにするため、全力を尽くしていきたいと考えています。
ご清聴ありかどうございました。 (了)
(94年4月14日 於マラケシュ)
議長、
私は、ウルグァイ・ラウンドを提唱した一国の代表として、交渉の終了を心から歓迎いたします。私は、この機会に、交渉の決着に向けた参加各国のリーダーシップ及びサザーランド事務局長、ダンケル前事務局長を始めとする関係者の貢献に対し、深甚なる敬意を表します。また、この歴史的合意の署名式のために、マラケシュという素晴らしい舞台を提供されたハッサン二世国王陛下及びモロッコ政府に対し、深く感謝いたします。
議長、
ウルグァイ・ラウンド交渉の決着は、国際経済秩序に対する信頼を確保する上で極めて重要なことであります。1930年代の保護主義の台頭が世界貿易、そして世界経済の低迷を招いた苦い経験に照らせば、今回の交渉の成否が今後の世界の自由貿易体制、ひいては世界経済の拡大と活性化にとりいかに重要な意味を持つものであるかは明らかであります。
議長、
我が国は、交渉を成功に導くため一貫して強い意志を持って交渉に臨んでまいりました。私自身、7年半前の交渉開始以来様々な立場から多くの国や地域の人々と折衝し、相互に受入れ可能な合意に到達すべく、最大限の貢献を行ってきました。
世界最大の食糧純輸入国である日本は、農業交渉ではコメなどの困難な問題を抱えておりましたが、ウルグァイ・ラウンド交渉の成功のために応分の貢献を果たしリーダーシップを発揮することが我が国の国際的責務であるとの観点から、まさに断腸の思いで政治的決断を行い、農業協定を受け入れました。
また、鉱工業品の関税分野では、我が国は他の主要先進国の引下げ率を大幅に上回る61%もの引下げを行うこととなっており、その結果日本の平均関税率は1.5%という極めて低い率になります。
サービス貿易に関しては、我が国は、新しい多国間の枠組みを真に機能させるためには、各国の自由化の恩恵がすべての国に等しく適用されるべきであると信じています。なればこそ、主要先進国が最恵国待遇義務からの多くの例外を登録する中で、日本は何らの例外も求めなかったのであります。
このように、我が国の市場は、輸出者の努力次第で、一層の成功の機会を提供しています。
議長、
私達は、ウルグァイ・ラウンド合意を今後着実に実施すべく可能な限りの行動をしていかなければなりません。いわば、ウルグァイ・ラウンドの成果を生かせるか否かは、ここに集まる私達の双肩にかかっていると言っても言い過ぎではありません。
この関係で私は、多角的開放貿易体制に対する脅威となるような声高な主張があることに注意を喚起したいと存じます。ダンピング防止措置の濫用という形の産業保護、一方的措置の発動を可能とする手続の導入、地域主義への傾斜傾向などに強い懸念を有しています。こうした問題につき、我々は引き続き監視し、是正を図っていかなければなりません。
私達は、自らの行為によりラウンドの成果を減殺するようなことをしないとの強い決意を持つ必要があります。この点につき、明快なメッセージがマラケシュ宣言に盛り込まれることとなっていることを歓迎します。
私達は、また、多角的貿易体制を時代の要請に応えてより普遍的なものにするために、貿易と環境の問題に加えて、地域主義、貿易と投資など貿易に密接に関係のある問題についても検討を行っていくことが重要であると考えます。
我が国は、21世紀が平和と繁栄の世紀となるために、リーダーシップを発揮する決意であります。現在既に55億にも達している世界の人間一人一人が幸せを享受するためには、特に途上国の経済成長が必須であります。そのためにも、より強固な多角的貿易体制を世界貿易機関(WTO)の下で、共に確立しようではありませんか。
議長、
私は、各国がウルグァイ・ラウンドの成果及びその精神を踏まえ、自由・無差別な多角的貿易体制を維持・強化するため確固たる意志を持って行動することを強く望みます。この関連で、ウルグァイ・ラウンド合意の早期発効を強く支持する旨述べて、結びの言葉に代えたいと思います。
(1994年7月25日 於バンコック)
(アジア太平洋地域の安全保障情勢に関する意見交換における発言)
1、ARFの意義
今回初めて開催されたこのARFは、アジア太平洋地域における全域的な政治・安全保障対話の場として、国際社会から大きな注目を集めております。
アジア太平洋地域は、経済面においてはその多様性と解放性を活かして、ダイナミックな発展を遂げ、一歩一歩相互依存関係を進めてまいりました。他方、安全保障面においては、アジア太平洋地域では民族も宗教もイデオロギーも多様であること、様々の脅威認識があることを理由に、例えばヨーロッパと異なり、全域的な対話を進めることは困難との議論をこれまで繰り返してまいりました。確かに、紛争や対立の続いていたこの地域において、数年前には、全域的な政治・安全保障対話を開始することは夢に過ぎませんでした。しかし、冷戦の終結後、この地域においても、各国の政策の透明性と、お互いの安心感を高めるための、全域的な政治・安全保障対話を行っていくことの重要性についての認識が高まってまいりました。ARFは、そのような認識の高まりの中で生まれた、歴史的な機会であります。冷戦終結後、時を経ずしてこのような会合の開催に至ったことは、来し方を振り返りますと感慨深いものがあります。タイ政府をはじめ、この準備に当たった関係者に対し、深い敬意を表したいと思います。
はじめに、私はこの地域がどのような地域となることを目指すべきかについて一言したいと思います。軍事大国にならないという決意が我が国の経済発展の一つの要因であったことは広く知られています。我が国のかかる経験に基づいても、私は軍縮を促進し、それによって生じた人的、経済的資源を貧困の解消、民生の安定、教育の向上などの社会開発分野に振り向けて行くべきであると確信を持って言えると思います。アジア太平洋地域の目覚ましい経済的発展は人々の生活と価値観を豊かにすることにつながるべきであり、各国の軍事力の増強につながることがあってはなりません。私たちが将来の世代のために準備すべきは、軍事力によって強化されたアジア太平洋ではなく、世界に開かれた、誰もが平和と自由と尊厳の中に生活できるアジア太平洋であります。そして、そのようなアジア太平洋の実現にとって、米国のプレゼンスは引き続き大変重要な要因であり、また、ARFを通じて、我が国としては、アジア太平洋諸国間の相互理解、相互信頼の増進のための協力を進め、長期的な視点に立って安全保障面の環境の整備・向上を推進していくことが重要であります。
2、我が国の安全保障政策
この機会に、我が国の安全保障政策についてご説明したいと思います。
我が国は、過去の戦争の反省の上に自衛のためを除き武力行使を禁じた平和憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念を有しております。かかる理念に従い、日米安全保障態勢を堅持するとともに、節度ある防衛力を保持しております。特に我が国は、核兵器の非人道性を知る被爆国として核兵器の究極的廃絶を願う国民感情の下、核兵器を作らず、持たず、持ち込みを認めないという非核三原則を国是としています。また、我が国はNPTの無期限延長を支持していることを改めて表明致します。
更に、我が国の安全保障政策の一環として、国際的な不拡散態勢の強化があります。米露の核軍縮に大きな進展が見られる一方で、大量破壊兵器やミサイルの拡散の危険性は近年むしろ増大しており、不拡散の問題は緊急の課題となっております。NPTの無期限延長などNPT体制の強化、全面核実験禁止条約交渉の早期妥結、国連軍縮登録制度の完全実施等の推進、兵器及び関連物資の輸出管理体制の強化に、我が国は積極的に取り組んできております。
北朝鮮の核問題は、このような国際的な不拡散体制にとって深刻な挑戦であります。しかしそれのみならず、アジア太平洋地域においては、地域の平和と安定に直接関わる間題であり、我が国として、韓国、米国、中国、その他の関係国と協力してこの問題を解決するための努力を引き続き行っていく考えであります。
(信頼醸成に関する意見交換における発言)
1、我が国のARFに対する基本姿勢
ARFは、アジア太平洋諸国間の相互理解、相互信頼の増進のための協力を進め、長期的な視点に立って安全保障の環境の整備・向上を推進していく場とすべきであると認識しており、かかる認識については、すべての参加国によって共有されているものと確信いたしております。そのために、相互理解、相互信頼を高めるための措置、すなわちMRM(Mutual Reassurance Measures)の推進を目標とすべきであります。そのために事務レベルでの作業を開始すべきでありましょう。
2、相互の安心感を高めるための措置[MRM]
私は本日ARFというこのテーブルに我々一同が着席していること自体重要なMRMであると考えます。我が国としては、このARFのプロセスを推進していくため、当面、次の三本柱、すなわち、
(1) 各国の政策の透明性を高めるための「情報の共有」
(2) 相互の理解と信頼を深めるための「人的交流」
(3) 「グローバルな活動の推進に向けての協力」
について検討していくことを提案します。
疑惑や懸念は、しばしば相手についてよく理解していないことによって生じたり、増幅されるものであります。「情報の共有」は、お互いに国防政策や軍備政策や軍備状況について情報を共有することによって、お互いの安心感を高めることを目的とするものであります。各国が年次の国防白書を発行したり、国防政策に関する短いペーパーをARFやARF・SOMの場で紹介することを提案したいと思います。次に「人的交流」は、安全保障関係者が、相互理解、相互信頼を醸成するため一層の交流を行うことを主眼としています。また、「グローバルな活動の推進に向けての協力」は、国連等のグローバルな活動を通じて得られた経験を、お互いに分かち合い、こうした活動を一層効果的にまたきめ細かく行っていくことを目的とするものであり、PKOに関するセミナー等の開催についての協力が考えられます。
3、今後のARFの在り方
これらのMRMを進めていくに当たっては、地域安全保障対話の推進に向けてのモメンタムを失わないように進めることが大事であります。他方勿論これらを進めていくに当たっては現実的視点も失ってはなりません。私はARFについては高い理想、そして着実な努力の二つが組み合わされるべきであると考えています。
本7月25日はアジア太平洋地域にとってARFの誕生日という記念すべき日になるでしょう。せっかく生まれた、このARFという子供を立派な大人に育てるべく、皆で力を合わせて着実に努力していくことを確認しようではありませんか。
(94年7月26日 於バンコック)
1. はじめに
プラソン・スーンシリ外務大臣閣下、
ASEAN各国及び各対話国外相の皆様、
御列席の皆様、
近年、ASEAN拡大外相会議は、アジア太平洋地域の包括的な対話の場としてますます国際社会から注目を集めております。今回の拡大外相会議に出席する機会を得ましたことは、私の大きな喜びとするところであり、この会議の成功のために多大な努力を積み重ねて来られたタイ政府をはじめ関係各位に対し、深甚なる敬意を表する次第であります。
我が国では、およそ1ヵ月前に新内閣が成立しました。新内閣は、外交面では、我が国の従来の基本的な外交政策を継承し、引き続きアジアを重視しつつ、地域の平和と繁栄のために積極的な貢献を行っていくことをこの機会に改めて明確に表明いたします。
2. 継続して行う努力
議長及び御列席の皆様、
国際社会は今、新たな平和と繁栄の枠組みに向けての変革期におかれており、アジア太平洋地域においても、様々な、新しい変化がおこっております。このような変化の中で、この地域の平和と繁栄を確保するために、私たちが、引き続き維持・確保していくべき重要な柱があると考えます。このような柱として、我が国としては、特に以下四つの点について引き続き積極的に貢献してまいります。
まず第1に、多数の開発途上国を擁するアジア太平洋地域においては、経済発展が地域の繁栄と安定のための重要な基盤であるということは言を待たないところであります。経済的に安定した生活を人々に確保することによって社会の強靭性を高めることは、政治的な安定を確立し、平和を築くための重要な要素であります。そして、このような経済社会発展の重要な基礎条件は経済社会基盤の整備と人材の育成にあります。我が国としては、ODA等を通じ引き続き開発途上国の離陸に向けての自助努力を支援していく所存であり、また、ASEAN諸国に対する我が国からの投資・技術移転が今後さらに促進していくことが期待されます。
第2に、この地域の経済発展を考える上で忘れてはならないことは、ASEANという地域協力が果たしてきた役割です。ASEANは、地域協力のあり方として大きな成功を収めた一つの例であり、域内協力の先駆けとして、その後に続くアジア・太平洋における様々な協力の枠組みの一つのモデルであります。我が国として、このような地域協力を進めるに当たり、これまで以上にASEAN諸国との関係を深めていく所存であります。また、世界経済が種々の困難を抱える中、ASEAN諸国は飛躍的経済発展を遂げておりますが、それはこの地域の豊かな多様性と高い開放性を活かして得られた果実であります。今後、周辺諸国との連携を深めつつ、果実を一層実り豊かなものとしていくことがアジア太平洋地域経済全体の発展にとっても重要であると考えます。
議長及び御列席の皆様、
第3に、冷戦後も地域の発展のために重要なものとして、この地域における米国のプレゼンスがあります。米国の存在と関与は、この地域の平和と安定にとって不可欠の要因であり、我が国としても、米国のこの地域に対する関与の重要性を認識し、引き続き日米安保体制を堅持し、その円滑かつ効果的な運用を確保するため努力していく所存です。
最後に、経済・政治の両面における多国間の枠組みの重要性も何ら変化するものではなく、その重要性はますます増大しております。我が国としても、この地域において、民間の活力を活かした持続的経済成長のために、多角的自由貿易体制の維持・強化をすべく、ウルグァイ・ラウンド合意の明年1月1日からの実施に向けてWTO設立協定の年内の受諾を図るとともに、ウルグァイ・ラウンド後の新たな問題に関する議論についても積極的に貢献してまいります。また、冷戦後の国際社会においては、世界の平和と安定のために、普遍的な国際機関である国連の果たす役割には非常に大きなものがあります。今後、我が国としても、国際社会の期待に応え、引き続き国連の改革の努力しつつ、アジアの平和国家としての我が国の経験を活かしつつ、国連においてより責任ある役割を分担することが必要と考えています。さらに、冷戦終結後地域紛争が各地において勃発している中、国連平和維持活動の役割も一層増大しており、我が国として、積極的にこれに貢献していく所存であります。
軍備管理・軍縮の面では、国連軍備登録制度の完全な実施を呼び掛けるとともに、大量破壊兵器の拡散を防止するための国際的枠組みや体制の整備・強化を図るべく、核兵器不拡散条約の無期限延長を支持するとともに、全面核実験禁止条約交渉の早期妥結を希望するものであります。また、兵器及び関連物資の輸出管理体制を整備・強化することも重要であり、我が国はこの分野における協力を積極的に推進してまいります。この関連で、北朝鮮の核問題は、国際的な不拡散体制に対する重大な挑戦であるのみならず、北東アジアの安全保障にとって重大な懸念であります。我が国として、引き続き韓国、米国、中国その他の関係国と協力し、対話による本問題の解決に向けて努力していきたいと考えます。
3. 新しい課題に対する取組
議長及び御列席の皆様、
現在の国際社会において見られる経済発展と相互依存関係の進展といった情勢変化に伴い、アジア太平洋地域全体、ひいては国際社会全体が新たに取り組んでいかなければならない課題もでてきております。
まずはじめに、アジア太平洋地域において、政治・安全保障面の全域的な対話の場というものが志向されております。このASEAN拡大外相会議は、92年よりこの地域の全域的な政治・安全保障対話を開始しており、今後ともその重要性は一層高まっていくものと考えられます。また、昨日開催されたASEAN地域フォーラムは、この地域の各国の政策の透明性とお互いの安心感を高めるための本格的な対話の場であり、歴史的意義を有するフォーラムであります。このような重要なフォーラムにおいて良い第一歩が踏み出されたことは喜ばしいことであり、共通の問題意識に基づいたこの地域の安全保障の在り方が次第に明確になっていくことは、世界全体の平和と繁栄にとっても有意義であります。我が国としても、ARFを通して、諸国間の相互理解、相互信頼の増進のための協力を進め、長期的な視点に立って安全保障面の環境の整備・向上の推進に向けて積極的に参画してまいる所存であります。
第2に、近年、この地域において、APEC、AFTA、NAFTAといった経済面での地域協力が現れており、これらは「世界に開かれた地域協力」として発展していくべきものであります。特に、APECについては、この地域の経済協力の中核として発展させていくとの機運が高まっており、ASEAN諸国と緊密に協力してまいりたいと考えております。
第3に、インドシナ諸国における変化があります。カンボディア和平の達成と各国の市場経済化・開放化の着手により、インドシナ諸国はアジア太平洋地域の中で新たな発展の源となりつつあります。また、米越関係の進展もインドシナ地域における新たな好ましい動きであります。インドシナ諸国の発展は、当該諸国のみならず国際社会全体にとって重要であり、協力して取り組むべき問題であります。我が国は、ASEAN諸国をはじめ各国、国際機関と協力しつつ、インドシナ諸国全体の総合的な発展に貢献していく考えであり、かかる観点から、現在準備を進めているインドシナ総合開発フォーラムの開催も有益なものとなりましょう。また、カンボディア和平は、国際社会全体の努力の成果であり、これを前進させることは世界的視点からも重要であります。しかしカンボディアにおいては、ポル・ポト派の問題が以前として存在し、その解決のためのカンボディア王国政府の努力に対し、国際社会の適切な支援が必要とされています。
議長及び御列席の皆様、
国際社会に対する新たな挑戦、課題は、以上にとどまるものではありません。第4の新しい課題は、国際社会全体で取り組まなければならない人類共通の課題であります。
人権問題は、国、地域の特殊性及び種々の歴史的、文化的、宗教的背景を踏まえつつ、最も効果的な方法で取り組むべきでありますが、人権は、人類共通の普遍的価値であり、政治、経済、社会状況如何に拘らず尊重されるべきであります。人権尊重は世界平和の基礎であり、我が国としても、人権分野でも各国と協調しつつ積極的な国際協力を推進してまいります。
また、環境、麻薬や難民といった地球規模の問題は、人類全体にとり深刻な問題であり、先進国と開発途上国が一体となった取組の推進が急務であります。環境については、如何にして経済発展と同時にこれを保全していくか、という課題があります。このような観点から、我が国は、環境分野の途上国援助として92年からの5年間で9,000億円から1兆円をめどに大幅に拡充・強化する等国連環境開発会議のフォローアップを積極的に行っていくとともに、この地域の環境保全のためASEAN諸国とともに協力していく所存であります。
4. 結び
議長及び御列席の皆様、
ASEANはその創立以来4半世紀余りを経て、質的に大きく変化してきており、我が国とASEANとの関係もその時代の変化につれ、変わってきております。しかしながら、最も重要なことは日本・ASEAN双方にとって、お互いの重要性が増大してきており、今後ますます大切なパートナーとなっていくであろうことであります。我が国としても、これまで以上にASEANをこの地域の核と認識とし、ともに歩き続ける友人としての関係を築いていきたいと考えております。
ありがとうございました。
(94年9月6日 於カイロ)
議長、
大統領閣下、
事務総長閣下、
御列席の皆様、
私は、本日ここに日本国を代表して、わが国のこの会議及び人口問題に関する所見を述べますことを光栄に思います。また、会議をホストされたエジプト政府及びこれまでこの準備に携ってこられた国連人口基金をはじめとする会議関係者の方々に心から敬意を表します。
(背景)
議長、
冷戦後の国際社会は、地域紛争の危険の増大などに見られるように流動的で不安定な状況に置かれています。紛争の背景にはしばしば貧困と社会の不安定の問題があり、世界の安定と繁栄を確保するためにも、経済社会問題の解決により、紛争の根本原因を取り除くことが本質的に重要です。人口問題は、国際社会が発展する中で複雑化し、今や地球規模の問題として我々の前に立ちはだかっており、緊急の取組を必要としています。私は、この人口問題は、経済社会問題全体に関わっており、その取組には基礎的保健、教育、女性の地位向上を含んだ総合的アプローチが必要であると考えております。こうした考えに基づき、我が国は、人口問題に積極的に取り組むため、本年2月に「地球規模問題イニシアティヴ」を打ち出し、人口・エイズ対策において途上国援助を大幅に拡充することを決定しました。
私は、今回の世界会議は、今世紀に開かれる最も重要な会議の一つであり、人類がこの問題にどの様に取り組んでいくのか、21世紀に向けての指針が定められるものと確信しています。
(環境との関係)
議長、
一昨年のリオ・デ・ジャネイロでの国連環境開発会議でも、人口と持続可能な開発と地球環境問題の密接な関係が指摘されました。急激な人口増加、都市への過度の人口集中、不安定な国家間の人口移動、環境への負荷の大きい生産・消費パターンや技術の導入、多量の廃棄物の排出などにより、人類は人間活動の制約に直面しています。
私は、ここで目指すべきものは、人口の急増が、環境破壊や資源の枯渇を生じさせたり、消費・生産活動に深刻な影響を及ぼしたりすることを認識し、それらの持続可能な均衡を図ることだと考えます。途上国、先進国双方が固有の責任を共に負っており、途上国は人口増加率を抑えることが、先進国は生産・消費パターンの見直しや低公害車の導入、太陽光発電等再生可能エネルギー利用といった環境に優しい技術の開発・促進を図ることが肝要と思います。また、国際社会は、持続可能な開発という目的を達成するために、環境保全・資源保護に配慮した協力を促進すべきであり、さらに、増大する人口に対応するためには、世界の食料の安定供給という面に着目し、持続可能な生産性の高い農業の発展に向けて政策の強化に努める必要があると考えます。
我が国は、昨年、環境への負荷が少なく、持続的に発展することができる社会の構築を目指した環境基本法を制定し、現在、これを具体化する環境基本計画を策定中です。さらに我が国は、昨年アジェンダ21行動計画も発表致しましたが、これに沿ってこれからも、国連環境開発会議でも約束した環境分野のODAの強化・充実を図るとともに、環境に優しい社会作りを進めて行く予定です。
(リプロダクティヴ・ヘルス)
議長、
私は、今回の会議における主要テーマの一つは、リプロダクティヴ・ヘルスであると認識しています。我が国においては、女性の地位向上、意思決定過程への参画を促進する等の観点から、基本的人権を尊重した人口問題へのこの考え方は重要と考えます。
我が国は、このリプロダクティヴ・ヘルスに関する活動に力を注いでおり、一貫して男女平等の教育を行ってきたほか、母子健康手帳の交付など一連の母子保健システムにおいて、女性及び次世代を担う子供の健康向上のために、思春期から妊娠、出産、子供の健康についての検診・相談・指導の機会を設け、これらを実施することにより、その健康保持および増進を図ってきております。このような施策により、女性の正確な情報に基づく選択・意思決定が可能となり、男性の行動の在り方の改善と併せ、乳児死亡率、出生率の低下等がもたらされていると考えております。
リプロダクティヴ・ヘルスとの関連では、エイズも人口問題の重要な地位を占めていますが、この関連で先月我が国において「第10回国際エイズ会議」が開催されたことも付言させていただきます。
(NGOとのパートナーシップ)
議長、
我が国は、近年、NGO活動の重要性を強く認識しております。NGOは、政府や国際機関が必ずしも十分に対応できないところで地域に根付いた活動を展開しており、今や政府や国際機関とは補完関係にあると言っても過言ではありません。また、我が国は、今後とも、プロジェクトを形成する段階からの対話も含め、人口分野での二国間協力においてNGOによる草の根レベルでのプロジェクトの支援を強化していきたいと考えており、NGOとのこうした関係の構築は国際的にも重要であると考えます。
(「行動計画」に対する考え)
議長、
我が国は、これまで開催された各種準備会合を経て策定された新しい行動計画案を支持するものであります。私は、今次会議においてこの行動計画案が全会一致で採択され、全世界が21世紀に向け一体となって人口問題に取り組める環境が整うことが必要と考えます。行動計画案には、末だ合意に至っていない点が残っていますが、私は、それらの点について、参加各国が、世界の人口問題の現状を認識し、この会議に於いて現実的対応を行っていくことを強く訴えたいと思います。
(我が国の人口問題への取組)
議長、
次に、我が国の人口問題に対する具体的な取組につき述べたいと思います。我が国は、第2次世界大戦直後に人口急増に直面し、これを自助努力により解決し、その後の経済成長を成し遂げた国として、また最近は、他の先進国と同様に、急速な高齢化に取り組まねばならない国内的事情から、従来より人口問題に深い関心を有しております。この戦後の人口問題の解決にあたっては、NGO、草の根的な地域レベルでの保健婦・助産婦等による家族計画の普及活動のみならず、戦前からの男女の教育水準の向上、母子保健に代表されるようなプライマリー・ヘルスケアの促進が重要な役割を果たしたことを申し上げたいと思います。人口問題の解決に向けては、生活水準の向上とともに、こうした地道な活動が非常に大切であると考えます。我が国は、平和国家として、このような経済・社会分野をはじめとする、我が国の得意な分野での取組を中心として、その国際貢献を積極的に進めて参りたいと考えます。
また、本会議の成功に向け我が国は、本年初頭に、国連人口基金と共催で「人口問題に関する東京賢人会議」を開催し、東京宣言を発表して、行動計画案の作成に貢献を行ったほか、今次会議及び同時に開催されるNGOフォーラムへの支援等積極的に協力を行っています。
(我が国の「地球規模問題イニシアティヴ」の発表)
議長、
我が国は、人類の重要課題である人口問題への取組は、我が国が力を発揮できるものであり、またその使命と考えています。その具体的な決意の現れとして、政府開発援助の最大供与国である我が国は、人口とエイズの分野における途上国援助に関する「地球規模問題イニシアティヴ」を本年2月に打ち出しました。これは、1994年度から2000年度までの7年間でこれら分野へのODAを総30億ドルをめどに積極的な協力を進めていくものです。これらの問題で我が国のパートナーとして協議を行ってきた米国は90億ドルの協力を表明しています。我が国はこれにより、米国と共に人口・エイズという人類共通の課題に対する世界的な取組を促進して参りたいと考えております。私は、この我が国のアピールに対し、多くの国々、国際機関、NGOの方々が応えていただき、人口問題への取組が世界の大きな潮流になることを強く希望するものです。
私は、この会議の成功を踏まえ、我が国がこのように今後も人口問題に対し積極的に取り組んでいくことを表明して演説を終了したいと思います。
ご静聴有り難うございました。
(94年9月27日 於ニュー・ヨーク)
議長、
事務総長、
御列席の皆様、
貴議長の就任をお祝い申し上げます。あわせて、歴史的な変革の時代に総会議長として卓越した手腕を発揮されたインサナリ前議長の御努力に敬意を表します。
また、前会期中に、アパルトヘイトと訣別した南アフリカ共和国が国連に完全復帰したことに衷心より祝意を表します。
(我が国の国際貢献に関する基本的な考え方)
議長、
現在、国連が果たすべき役割は、かつてないほど増大しています。私は、我が国が国連加盟当時に国際社会の恩恵に預かったことを想起し、人類全体のより良き未来の実現のために、その政治的・経済的地位に相応しい国際貢献を主体的に進めるべく外交政策を展開していく考えです。
国際貢献についての我が国の基本的な考え方を述べれば次のとおりです。
我が国は、貧困の撲滅と経済開発のため、並びに紛争防止や不安定要因除去のため、経済協力の積極的な供与をはじめとする種々の努力を行っております。
我が国は、先の大戦の反省の上に立ち、世界の平和と繁栄に貢献するとの決意を保持しております。我が国は、憲法が禁ずる武力の行使はいたしません。また、軍縮・不拡散に積極的に取組みつつ、自らは核兵器を保持せず、武器輸出を行わないなど、引き続き平和国家としての行動に徹してまいります。以上に則り、我が国は、これまでも国連の要請を受け、カンボディア、モザンビーク等に自衛隊や文民を派遣してきました。我が国としては、今後ともこのような国連平和維持活動に積極的に協力してまいります。また、最近とみに、その重要性が指摘される、開発、環境、人権、難民、人口、エイズ、麻薬等の地球規模の経済・社会問題について、これまで以上の貢献を行う決意です。
今日、国連が真剣に取り組むべきことは、第1に、国際の平和と安全の維持であり、第2に、経済・社会問題の解決であります。そして、第3に、これらの課題に効果的に取り組むための国連改革の推進です。これらの面で、我が国がいかなる貢献を行っていくかについて私の所見を申し述べます。
(軍縮・不拡散)
議長、
第1の課題である国際の平和と安全の維持のために、我が国が、紛争解決のための外交努力及び平和維持活動とともに重視している分野は、軍縮・不拡散であります。
唯一の被爆国であり、非核3原則を堅持する我が国は、核兵器の廃絶を究極的目標とし、今後とも全ての核兵器国に対し、一層の核軍縮努力を行うよう促すとともに、核不拡散条約の無期限延長を支持し、未加入国に速やかな参加を呼びかけます。さらに、現在行われている全面核実験禁止条約に関する交渉の早期妥結へ向け、特に、すべての核保有国が一層積極的に参画することを求めます。私は、全面核実験禁止条約の交渉が妥結した暁には、日本、例えば広島市において、条約署名式を首脳レベルで行い、核兵器廃絶に向けた新たな出発点とすることを提唱いたします。
この関連で、我が国は、北朝鮮が米朝協議等の国際社会の対話による核兵器開発問題の解決に積極的に努力するよう強く求めます。
通常兵器の安易な移転とそれに伴う過剰な蓄積は、世界の様々な地域の平和に対する不安定要因の一つであり、例えば、アフリカ等の一部地域の内戦における戦闘の激化及び夥しい死傷者発生の背景となっています。国際社会は、この問題の具体的解決策について真剣に取り組む必要があります。通常兵器移転の透明性を高めるため発足した国連軍備登録制度は、グローバルな信頼醸成措置として重要性を高め、現在80か国以上の参加を見ておりますが、更に多くの加盟国の参加を強く期待します。我が国としては、軍備保有を登録対象に加える等、他の加盟国と協力して制度の拡充や発展に努める所存です。
(地域紛争の予防と解決)
地域紛争の予防と解決のためには、和平のための外交努力や、国連平和維持活動、人道援助、社会制度構築、及び復旧・復興援助といった平和の構築のための援助を総合的に組み合わせて取り組むことが重要であります。
特に、紛争が抜き差しならぬ状態になる前に手を打つことが重要であり、予防外交の推進を強く提唱いたします。この観点からも、不安定要因を抱える地域や国に対し、当該国と強調しつつ社会及び政情の安定化のための支援を積極的に検討すべきものと考えます。国連平和維持活動は、カンボディアをはじめ多くの地域において成果を生んでおり、今後とも重要な役割が期待されています。国連平和維持活動をより効果的なものとするため、その任務、期間、規模、経費等を注意深く審査するとともに、要員の安全確保に十分配慮することが必要です。さらに、国連平和維持活動の財政基盤の強化は急務であり、とりわけ、加盟国により分担金の滞納の解消が必要であります。あわせて、そのような活動の財政健全化のための改善策を検討することが緊急の課題であります。
また、紛争後の平和の定着のため、我が国は、民主化支援をより一層行ってまいります。特に、自由かつ公正な選挙の実施に対する支援を重視します。
ルワンダ難民という想像を絶する悲劇を前にし、我が国は、これまで国連難民高等弁務官事務所、国連ルワンダ支援団に対し、資金面及び物資面での協力を行ってまいりました。今般、我が国は、医療、給水、空輸等のため400人を超える自衛隊員を現地に派遣することを決定し、すでにその活動の一部を開始いたしました。我が国は、今後ともルワンダ問題解決のために、アフリカ諸国をはじめとする国際社会とともに尽力する決意です。
旧ユーゴー紛争については、我が国は、国際社会がこれまで行ってきた和平努力を支持しており、すべての紛争当事者がコンタクト・グループによりボスニア・ヘルツェゴヴィナに関する和平案を受諾するとともに、国連の活動に協力するよう求めます。
議長、
第2の課題は、開発や環境問題、人権等の経済・社会分野の問題解決であります。
(開発)
変革する国際環境の下で、開発の問題が改めて世界的な課題となっており、新たな開発戦略の策定が求められています。
このような観点から、我が国は、かねてより、援助、貿易、投資、技術移転等を組み合わせた「包括的アプローチ」と各国の発展段階に応じた「個別的アプローチ」を軸とする新たな開発戦略を提唱してきております。
昨年東京で開催された「アフリカ開発会議」は、このような開発戦略の具体化を検討する場として有意義な会合でありました。この会合の成果を更に発展させるため、本年12月、インドネシアにおいて「アジア・アフリカ・セミナー」が開催されます。
今日、開発のより進んだ途上国が、その経験や技術を他の途上国と分かち合う「南南協力」の推進が重要となっており、我が国としては、世界規模で「南南協力」を展開するために、具体的な提案を行う予定であります。
また、我が国は、世界最大の援助供与国として引き続き政府開発援助の拡充に努めてまいりますが、その実施にあたっては、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器の開発・製造等の動向、民主化の促進、市場経済導入への努力等に十分注意を払っていきます。
今次総会における「開発のための課題」の審議にあたっては、私が今申し述べたような諸点をも踏まえ、意義ある議論が展開されることを期待します。
(人類共通の問題)
今や世界は、相互依存が進む中で、環境や人口など先進国、途上国が共同して取り組むべき人類共通の新たな課題に直面しています。
我が国は、環境面では、国際的枠組みの強化、環境関連技術の途上国への移転、環境分野の政府開発援助の拡充・強化等に積極的に取り組んでおります。人口及びエイズの問題については、本年2月に「地球規模問題イニシアティヴ」を打ち出し、途上国援助を大幅に拡充することを決定するとともに、私自身、先般カイロで開催された人口会議に出席し、人口問題の解決の重要性を訴えました。
我が国としては、社会の安定のため、国際協力を通じた人材育成並びに女性の地位の更なる向上の重要性を深く認識しており、このような観点から明年の社会開発サミット及び世界女性会議の成功を重視し、国連諸機関が行う「開発と女性」を含めた社会開発分野に関する活動に積極的に協力いたします。
経済開発と人権は、民主的な社会の発展のいわば車の両輪であり、相互に補強し合う関係にあります。人類の普遍的価値である人権の尊重を全ての国において促し、効果的に人権状況の改善をもたらすためには、政治、経済及び社会的安定の促進に加え、法制度の整備や人権意識の高揚のための継続的な活動の積み重ねが重要であります。こうした観点から、我が国としては、人権高等弁務官の活動に協力を惜しみません。
(時代に適合した国連改革)
議長、
以上の二つの課題に効果的に取り組むため、国連は、新しい時代に適合した機構改革や行財政改革を積極的に取り進めていくことが必要であります。
国連がその活動強化に向け改革を進める上で、特に重要なのは安全保障理事会の改組です。安保理の活動は、今や世界の平和と安定のための幅広い分野にわたっています。国連加盟国の数は、創設時の51か国から184か国にまで増加しましたが、安保理の構成は、国連創設時の世界を前提に構想されたものから殆ど変化しておりません。他方で、国際的により大きな責任を担い得る国が出てきています。こうした状況を踏まえ、安保理を、その機能の効率性を確保しつつ、世界の現状を反映した形で改組し、強化することが必要であります。
我が国は、先に述べた国際貢献についての基本的な考え方の下で、多くの国々の賛同を得て、安保理常任理事国として責任を果たす用意があることを表明いたします。今会期中に加盟国の間で議論が加速され、明年の記念すべき第50回総会における改革案の合意につながることを期待しております。
改革が行われるべきは、安保理だけではありません。
184を数える加盟国が参加する総会は、他の国連機関との連携を深めつつ活性化されるべきであります。
近年、開発、環境、人権等の経済・社会分野において一層の活動の調整及び明確な優先課題の設定に向けた努力が始まっております。人類の未来にとって死活的に重要なこれらの課題に取り組むためにも、経済社会理事会の機能と機構を更に強化する必要があります。信託統治理事会は、その歴史的使命を終えており、国連機構全体の改革の中で、廃止へ向けた検討が進められることが適当と考えます。また、先の総会で合意された内部監査局の設置をも踏まえ、行財政改革を一層強力に推進すべきであります。
いわゆる「旧敵国条項」は、憲章の署名から約半世紀を経て意味を失った規定であり、我が国はその削除を引き続き訴えます。
(結語)
議長、
以上、私は、国連が取り組むべき三つの課題として、国際の平和と安全の維持、経済・社会問題の解決及び国連改革の必要性について申し述べました。
時代に適合した国連改革が進展し、加盟各国間の協調を維持・拡大することができれば、私は、国連が普遍的な国際機関としての正統性を高め、現代の課題に一層効果的に対処できる組織へと進化していくものと確信しています。この会期が、国連の新時代を開いた総会として、歴史に残るような意味あるものとなるよう、各国が協力することを呼びかけます。