1. 国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説等
(1) | 第129回国会における細川内閣総理大臣施政方針演説 |
(94年3月4日)
(変革に向けた不断の挑戦)
昨年8月の政権発足以来、私は、「責任ある変革」を旗印に、政治改革、行政改革、経済改革の3つの改革の実現に取り組んでまいりました。
1つの時代が終わり、新たな時代の姿が必ずしも明らかになっていない中にあって、将来への展望を明るいものとするためには、自らの力で新しい路を切り拓いていく以外に方法はありません。政治、経済、社会の仕組みを根本的に作り変えるという変革の途を選択し、苦しくてもそれを歩み続けることが、この時代に政権を担当する者の歴史的使命であります。
政治改革の実現は、本政権にとって最優先の課題でありましたが、この度、政治改革関連法の改正法が成立をみたことは、新しい責任ある政治の実現に向けて大きな一歩を踏み出すものであります。まずは、法の施行準備に万全を期すこととし、両議院の同意を得て、早期に衆議院議員選挙区画定審議会の委員を任命し、審議会の勧告があり次第、速やかにいわゆる区割り法案を国会に提出いたしたいと存じます。
もとより、政治腐敗を根絶し、政治への信頼を回復するためには、政治家一人一人の倫理観の確立がすべての基本であることは論を待ちません。いわゆるゼネコン疑惑に見られるように、依然として政治と金にまつわる構造的な問題が取り沙汰されていることは誠に残念なことであります。今後ともより実効ある腐敗防止策を始め、制度の改善に向けた努力を怠ってはならないと考えております。
政治改革は、「責任ある変革」を実行するための土台であり、我々はやっと、政治が主体的に取り組まなければならない本当の意味での変革の出発点に到達したにすぎません。21世紀まで余すところ僅かな期間しかないことを考えれば、国際社会から信頼される「質の高い実のある社会」を目指して、着実に歩みを進めていかなければなりません。
新たな発展の基礎を築くためには、まずは時代の要請に合わなくなった制度や慣行を打破していくことが必要であります。政治改革が1つの節目を迎えた今、国際社会における責任を果たすためにも、これから経済改革と行政改革に本腰を入れて取り組んでいかなければなりません。
私は、改革政権としての本旨を忘れることなく、新たな変革に挑戦してまいりたいと思います。
(不況からの脱出と経済改革の推進)
<景気回復に向けた切れ目の無い財政出動の実現>
何と言っても、今、国民の皆様方が切実に願っておられるのは、深刻な不況からの脱出であります。一部には明るい兆しが見られるものの、全体として見れば依然として先行きに対する不透明感、閉塞感がぬぐいきれず、我が国経済は、予断を許さない状況にあります。特に、雇用が厳しい情勢にあることは重く受け止めなければなりません。
こうした状況を克服するためには、時機を失することなく可能な限りの有効な施策を集中的に展開していくことが肝要であります。先般、大型の所得税・住民税減税や第3次補正予算による追加措置を含む15兆円を超える市場最大規模の総合経済対策を策定しました。これを平成6年度予算につなげることによって、切れ目の無い財政出動を実現し、できるだけ早い時期に景気を本格的な回復軌道に乗せなければなりません。
平成6年度予算では、景気に可能な限り配慮して公共事業関係費や地方単独事業の伸びを確保するとともに、住宅、上下水道、公園、環境関連施設の整備など国民生活の質の向上に資する分野に思い切って重点投資を行うなど、本格的な高齢化社会の到来を見据え、社会資本の整備等を着実に推進することとしております。また、苦境にある農家や中小企業の皆様方を支援するための対策や雇用の安定を確保するための対策には最大限の配慮を尽くしております。
現下の経済の緊急状態にかんがみ、1日も早い来年度予算の成立を切に要望する次第であります。
<より自由で活力に満ちた民間活動のために>
今回の不況は、景気循環要因やバブル崩壊の影響に加え、これまで合理性を有してきた経済の仕組みが有効に機能しなくなっているという構造的な要因も大きく作用しているものと考えられます。これを解決し長期的な発展を確実なものとするためには、日本経済の主役たる民間活力のダイナミックな展開が不可欠であります。私は、民間企業の方々が進んで困難に挑戦し、必ずやこれを克服されんことを確信します。こうした努力を勇気づけ後押しするためにも、中長期的な展望を明らかにしつつ、事業の再編や新規産業の創出・発展につながるような経済改革を確実に押し進めていかなければなりません。
中でも規制緩和については、経済的規制は「原則自由・例外規制」とし、社会的規制についても不断に見直しを行うという姿勢でこれに取り組み、ビジネス・チャンスの拡大と消費者選択の多様化、内外価格差の縮小による購買力の向上などを図ってまいります。特に、土地の有効・適正利用や住宅建設の促進につながる分野や、情報通信など新規産業の創出を刺激する分野、流通、エネルギーなど内外価格差の縮小につながる分野、輸入促進関連の分野などに重点を置いて、思い切った措置を講じてまいります。さらに、内外価格差の原因となり、新規産業の創出や対日アクセスを阻害している競争制限的な行為の排除など独占禁止法の厳正な運用に努めてまいります。
(行政改革への本格的な取組と財政改革の推進)
<議論から実施段階にきた行政改革>
我が国の経済社会の構造を新たな時代にふさわしいものに改革していくに当たり、行政改革は避けて通れない緊急の課題であります。戦後から今日に至る発展に我が国の行政組織・制度が有効に機能してきたことは大方の意見が一致するところでありましょうが、経済社会環境の著しい変化によって、国民の行政に対するニーズが大きく変化しているにもかかわらず、行政は必ずしもこれに十分に対応できる態勢とはなっておりません。政治や経済が大きく変わる中にあって、ひとり行政だけが旧態依然としていられるはずがありません。
公正で透明な、そして何よりも国民の利益を第一とする行政の確立を目指して、今こそ、行政の在り方に思い切ってメスを入れなければなりません。私は、規制緩和といった官民の接点を始めとして、聖域を設けることなく、時代にそぐわなくなった制度や仕組みを洗い直し、幅広く官民の役割分担、中央と地方の関係、縦割り行政の弊害是正などについて改革を進めるとともに、行政情報の公開にも取り組んでまいりたいと思います。
これまで臨調や行革審等の場において膨大な議論が積み上げられてきましたが、行政改革の実効が十分にあがっていないとの批判があることも事実であります。今国会に、行政改革委員会の設置法案を提出することとしておりますが、この際、いかに行政改革を実効あらしめるかが問われていることを肝に銘じ、目に見えるような形で行政改革を進めていくべく決意を新たにいたしております。
<国民合意の下での財政・税制改革の実現>
この度、過去最大の所得税・住民税減税の実施を決定したことは、現下の経済状況からみて不可欠の、そして適切な措置であったと考えておりますが、平成6年度末の公債残高が200兆円を超え、地方財政の負債も含め、誠に深刻な状況にある財政事情に無責任でいることは許されません。財政事情の更なる悪化を放置し、後世代に大きな負担を残してはならないことを是非とも国民の皆様方にも御理解いただかなければなりません。
本格的な高齢化社会においても、経済社会の活力を損なうことなく、時代の要請に的確に対応していくためには、財政改革を推進し、引き続き健全な財政運営を確保しなければならず、公債残高が累増しないような財政体質を作っていくため一層の努力を払っていく必要があります。また、地方財政についても、その円滑な運営を図っていかなければなりません。このため、行政改革と併せて、歳出の徹底した合理化・重点化を進めることとしております。また、税制については、活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し、所得・消費・資産等バランスのとれた税体系を作るため、国民負担と税制の在り方、減税とその財源、税負担の適正・公平の確保などといった幅広い諸問題について議論を深め、速やかに合意を得て、年内の国会において関係法律の成立が図られるよう努力を傾けてまいります。
(質の高い実のある社会を目指して)
「質の高い実のある社会」を実現するために、私は、第1に「創造性に溢れた個性豊かな社会の構築」、第2に「豊かで質の高い生活基盤の構築」、第3に「高齢化が活力に結びつく社会の構築」の3つの具体的提案を行いたいと思います。
<創造性に溢れた個性豊かな社会の構築>
これからの世の中を展望いたしますと、多様な個性が豊かに伸びていくことにより、新しい文化や経済活動が生まれ、新たな活力の源泉になるのだろうと思います。これは同時に、国際社会の責任ある一員として行動し、貢献していく上でも重要な基礎を築くものでもあります。今、私たちは、新たな発展を目指して、化学技術、教育、情報通信といった分野での更なる前進が求められております。
科学技術は、経済社会の発展の原動力であり、未来の夢を与えるものであります。科学者や技術者が生き生きと創造的な活動ができる環境を整えていくことは将来へのかけがえのない投資であります。よく我が国は基礎的、先端的な研究に立ち遅れていると言われますが、私は、宇宙、生命、環境、エネルギーなど21世紀をにらんだ研究分野において、国際的協力も視野に入れつつ我が国として先導的な役割を果たしていくべきであると考えます。このため、研究施設や研究情報基盤の整備に加えて、創造性に溢れた人材の育成や人材・情報交流の円滑化などにも配慮しながら研究開発体制の整備を促進してまいります。
また私は、日本が世界に誇る豊かな個性ある文化を、個人から、地域から、また国レベルで発信し、相互の交流を通じて新たな文化創造を目指す「文化を発信できる社会」を作り上げたいと思います。若手芸術家の育成や地域の特色ある文化活動の推進など文化・芸術・スポーツの振興に取り組んでまいります。さらに、諸外国との対話を通じて、お互いの多様性を理解しあえる環境を築くために、「留学生受入れ10万人計画」の推進や、語学教育の一層の充実、開発援助に携わる人材の養成などの「人づくり」と国際的な文化交流を重点的に進めてまいる考えであります。
教育を通じて個性豊かな人間性を育てることは、創造的で文化の香り高い国を作っていくための基本であります。教育に関して、画一的であるとか、主体性が育たないとか様々な意見がありますが、私は、幅広く初等中等教育から大学教育まで、より魅力的な開かれた教育を目指して教育改革を進めてまいりたいと考えております。
次代を切り拓く創造性溢れる経済活動が期待されるものとして、情報通信分野があります。技術の急速な進歩によって、こと情報に関しては空間・時間の制約がなくなり、これまでの生活や経済活動を一変させるような社会が21世紀初頭にも実現できそうなところまできております。しかしながら、残念なことに我が国の情報化は期待どおりには進展していないのが現実であります。私は、目指すべき情報化社会に向けて、長期的な視点に立った新しいヴィジョンを早急に策定し、公共分野において情報化に積極的に取り組むほか、情報通信ネットワークの整備の促進、通信と放送の融合化、情報教育の推進など総合的な施策を展開してまいる考えであります。
なお、効力発生した情報通信分野を含めた新規産業の創出を支援するため、中小企業の新分野進出の支援や、柔軟な構造を持った労働市場の形成、金融・証券市場の活性化、大胆な構造転換の促進なども着実に推進してまいります。
<地方分権の推進等による豊かで質の高い生活基盤の構築>
日本は、世界第2位の経済大国にまでなりましたが、生活の真の豊かさを実感できずにいるというのが国民の皆様方の正直な気持ちではないかと思います。地方では、大都市と比べ働き場所が少ないとか、文化や教育へのアクセスなどの利便性が十分でないといった問題がある一方、都市部では、住宅問題や通勤地獄などに代表されるように生活にゆとりがないと感じている方も多いと思います。こうした問題の原因として、東京圏への諸機能の一極集中や生活関連の社会資本の不足の問題などがあり、早急に効果的な対策の実施に取り組んでいかなければなりません。
私は、何よりも、それぞれの地域が主体的に、創意工夫しながら魅力ある地域づくりを進め、それが国土の均衡ある発展につながるような基盤を整備していくことが必要であると考えます。そのためには、まず、住民に身近な問題は身近な自治体が担っていくことを基本として、地方税財源の充実を含め、地方分権を強力に押し進めていかなければなりません。法律の制定も視野に入れながら、基本理念や取り組むべき課題と手順を明らかにした大網方針を年内を目途に策定したいと考えております。
さらに、他極分散型国土の形成に向けて、都市・産業機能の地方分散を促進するとともに、拠点都市を道路・鉄道・航空で結ぶ効率的な高速交通ネットワークの形成や過疎・山村地域の振興などを進めてまいります。また、国土保全対策や災害対策全般の一層の充実に努めるほか、北海道の総合開発と沖縄の振興開発にも引き続き積極的に取り組んでまいる考えであります。
地域を問わず国民の一人一人が豊かさを肌で実感できるようにするためには、生活の利便の向上に直結するような生活関連資本をより一層充実したものにしていかなければなりません。このため、例えば、もっと快適で余裕をもった広さの住宅に住めるよう、住宅産業の思い切った構造改革や住宅輸入の促進などを通じて住宅コストの引下げを図るとともに、計画的に土地の高度利用を進めてまいります。また、道路、公園、上下水道、廃棄物処理施設などの整備や通勤混雑の緩和のための都市鉄道の輸送力増強などの社会資本整備を着実に推進していくことが必要であります。
環境とエネルギーの問題は、今に生きる我々の問題であると同時に、将来の世代や地球全体のことも視野に入れて取り組まなければならない重要な課題であります。かけがえのない美しい自然を始め、恵み豊かな環境を我々の子どもたちに引き継ぐことができるよう早急に環境基本計画を策定し、総合的な対策を実施したいと思います。また、省エネルギーの推進や代替エネルギーの開発導入の加速化と併せて、安全性の確保を前提に、原子力の平和利用を進めてまいります。
安全で安心な生活は日本が世界に誇るべき財産ともいうべきものであり、これを守っていくことは政府の重要な役割であります。暴力団犯罪の悪質・巧妙化、薬物・拳銃事犯の多発化に加え、犯罪が広域化・国際化するなど最近の治安情勢には極めて厳しいものがある一方、交通死亡事故も高水準で推移しております。私は、法秩序の維持や安全の確保に遺漏なきよう取り組んでまいる所存であります。
また、消費者重視の視点の下に製品の安全性に関する消費者利益の増進を図るために、製造物責任制度の導入を始めとする総合的な消費者被害防止・救済対策の確立に向けた関係法律案を今国会に提出することといたしております。
<高齢化が活力に結びつく社会の構築>
日本が世界一の長寿国になり、世界でも未だ経験したことのない本格的な高齢・少子社会を迎えることについて、国民の皆様方が不安を抱くとすれば、それは政治の責任であります。21世紀を活力のある明るい福祉社会としていくために、年金・医療・福祉等の各分野のバランスのとれた総合的な「高齢社会福祉ヴィジョン」を早急に策定し、福祉社会の将来像と国民の負担の在り方についての国民的なコンセンサスを形成していくことが重要であります。
まず私は、21世紀初頭までに、本人が希望すれば少なくとも65歳までは働くことのできる社会の仕組みを作り上げたいと思います。高齢者の雇用継続を援助するための給付を雇用保険制度に創設するほか、高齢者の再就職や能力開発を積極的に支援してまいります。また、国民の老後生活を支える柱である公的年金制度については、こうした高齢者雇用の促進と連携の取れた仕組みとするとともに、その長期的安定を図ることにより、本格的な高齢化社会にふさわしいものへと改革してまいります。
次に、高齢期にも健康で安心できる社会を築くために、財源の確保に配慮しつつ、「高齢者保健福祉推進10か年戦略」、いわゆるゴールドプランを抜本的に見直し、ホームヘルパーなど介護サービスの充実を図ってまいります。また、医療保険制度や老人保健制度については、看護に伴う患者負担の解消や保険給付の範囲・内容の見直しなどを行い、医療サービスの質の向上や患者ニーズの多様化に適切に対応できるようにしてまいりたいと思います。
また、「障害者対策に関する新長期計画」に基づいて、障害者に優しいまちづくりの推進など積極的に障害者対策を進めてまいります。
豊かな人生を送るために何より大切なものは健康であり、がんを始めとする成人病や難病に対する総合的な対策を図ってまいります。特に、がん克服を目指し、新たに「がん克服新10か年戦略」を策定するとともに、エイズ対策については、拠点病院の整備や治療薬等の研究開発など医療体制の充実に努めるとともに、本年我が国で開催される国際エイズ会議の支援など世界のエイズ対策への貢献に努めてまいります。
出生率の低下や女性の社会進出など、子どもや家庭を取り巻く環境は近年大きく変化してきております。今年はちょうど、「国際家族年」でもあります。これを契機として、保育対策の充実や児童環境基金の創設など安心して子どもを生み育てる環境づくりに取り組んでまいります。さらに、仕事と家庭が両立できるように雇用保険における育児休業給付制度の創設や介護休業の法制化の検討を含めた介護休業制度の充実を図るとともに、パートタイム労働対策なども進めてまいりたいと思います。
また、女性が、政治・経済・社会のあらゆる分野に男性と平等に参画する男女共同参画型社会の形成に向けて総合的な施策の推進とそのための体制整備に取り組んでまいります。
(国際的に開かれた経済社会の実現と多角的な海外貢献の推進)
<国際社会と調和のとれた経済社会の実現>
昨年12月、7年以上にわたったウルグァイ・ラウンド交渉が遂に妥結したことは、世界経済の未来に明るい希望の灯をともすものであります。交渉の妥結に当たり、米は関税化の特例措置が認められる一方、米以外の農産物については関税化するという内容の農業合意案を受け入れることとなりましたが、自由貿易体制の維持強化によってもたらされる幅広い国民的利益という観点から、ぎりぎりの検討を行い、私は、まさに断腸の思いでこれを決断いたしました。
農林水産業は、国民生活に欠かせない食料の安定供給を始め、伝統と地域文化に裏付けられたゆとりある生活空間の提供といった多面的な機能を保有しております。特に、米については、水をたたえた水田と豊かに実った稲穂は、この日本列島の象徴であり、国土や自然環境の保全のためにもかけがえのない役割を果たしてまいりました。
私は、このような時であるからこそ、農業に携わる人々の不安感を払拭し、安心して営農にいそしむことができるよう政府として万全を期していかなければならないと考えております。昨年末に設置された「緊急農業農村対策本部」の陣頭に立って、農業再生のヴィジョン作りと国内対策に全力で取り組んでまいる決意であります。
また、林業、水産業につきましても、森林の整備・保全の推進、生命の源である豊かな海の恵みを活かした水産業の振興などに努めてまいります。
今我が国は、大幅な経常収支黒字を抱えており、依然として閉鎖的な市場であるとの声が根強く存在いたします。このような批判の中には誤解に基づくものもありますが、これをむしろ日本に対する積極的な期待ととらえ、改善すべきは、日本自身のために積極的に改善していかなければなりません。
現在進めている経済改革や行政改革は、こうした国際社会の期待に応える所以でもあります。内需主導型の経済運営と併せて、規制緩和などによる対日アクセスの改善や内外価格差の是正、政府調達手続における透明性の確保、OTO機能の活用、輸入インフラの整備などを推進し、国際的な貿易ルールの下に、外に向かって開かれた経済社会を実現していかなければならないと思います。
先般行われたクリントン大統領との会談で、日米包括経済協議におけるいわゆる目標値の設定をめぐって意見の一致を見なかったことは誠に残念なことでありました。今や、自由貿易原則を堅持しつつ、国際社会との調和のために我が国が果たすべき責任は従来にも増して重くなったと私は受け止めており、中期的な経常収支黒字の十分意味のある縮小に向けて効果的な手段を講じていかなければならないと考えております。
<国際強調の下に進める多角的な海外支援の実施>
世界の平和と安定の実現への道のりは決して平坦なものではありませんが、世界は今、共通の目標を目指してその英知と努力を結集しており、その道筋が少しずつ浮かび上がってきております。カンボディア和平の実現や中東和平交渉の進展は、まさに国際社会の協調による問題解決の可能性を象徴するものであります。
言うまでもなく国連は、国際社会を挙げての努力を結集する要となるものであり、新たな時代の要請に応えることができるよう、その機能を強化していくことが重要であります。本年は、安保理改革が国際的に議論される年となりますが、我が国としてもこの議論に積極的に参画しつつ、国際社会の期待に応え得るかたちで責任を果たしてまいりたいと思います。
今後、経済的な支援はもちろんのこと、人的協力や知的協力など我が国が有する資産を十二分に活用し、また、それをうまく組み合わせることにより、平和憲法を有する我が国ならではの多角的な国際貢献を展開し、多様性が尊重される、より平和で繁栄した世界の実現に取り組んでまいりたいと思います。
日本が一層の役割を果たすべき分野の一つに地域紛争の予防と解決への協力があります。私は、地域紛争を解決し、安定をもたらすためには、和平のための外交努力、国連の平和維持活動、人道支援、暴力により引き裂かれた国の開発復興援助といった「包括的アプローチ」をとることが有効であると考えております。カンボディア紛争を成功裡に終結させた過程は、このアプローチの良い例であります。我が国は現在、モザンビークの国連平和維持活動に参加しておりますが、今月中にエル・サルヴァドルに選挙監視要員を派遣するほか、中東和平進展の鍵となるパレスチナ人の民生安定のための支援実施や旧ユーゴーにおける紛争被災地域に対する人道援助の拡充など、今後とも平和に向けた国際社会の努力を支援してまいります。
冷戦の終結は、軍備管理・軍縮に向けての好機を作り出しました。私は、今後とも非核三原則を堅持するとともに、核兵器を含む大量破壊兵器やミサイルの拡散防止に積極的に取り組んでいくつもりであります。核兵器開発問題をめぐり、IAEAによる北朝鮮の申告済原子力施設に対する査察実施が行われることとなりましたが、更に北朝鮮の前向きな措置を引き出すことが重要であります。今後とも事態の推移があれば的確に対応していかなければならないと考えておりますが、我が国としては、引き続き韓国、米国を始めとする関係諸国と緊密に連携しつつ、この問題の平和裡な解決に努力してまいります。また、旧ソ連の核兵器廃棄への協力、通常兵器移転に関する国連軍備登録制度の効果的な実施などにも取り組んでまいります。
世界の平和と繁栄を図る上で、政府開発援助は重要な役割を果たします。日本は今や、世界最大のODA供与国となっておりますが、政府開発援助大綱に照らし、被援助国の民主化や人権及び自由の保障、市場経済化、軍事支出の抑制の努力を支援することも念頭に置いて、これを有効に活用してまいります。
また、環境、人口、エイズ、麻薬、難民問題など地球的規模の問題についても、政府開発援助などを通じて積極的に貢献するとともに、国連の場を中心とする国際的取組の舵取りを率先してまいりたいと思います。
<関係国とのより緊密で発展的な関係の構築>
過去半世紀にわたって、日米両国は、強固で、積極的な関係を維持してきました。今、両国の間には深刻な貿易、経済問題が横たわっておりますが、冷静に、相互信頼の精神で協力してその解決に取り組んでいかなければならない問題であります。クリントン大統領とも、このために日米関係がゆがめられるようなことがあってはならないということを確認し合いました。今や日米関係は、それぞれの立場や見解を尊重しながらも協調の道を探るという、新たな段階に至りつつあります。現在日米両国で進行中の改革努力は、こうした日米関係をより強化するものであります。引き続き日米両国が政治・安全保障、経済、地球的規模の協力の各分野について緊密な関係を維持し、日米パートナーシップをより安定したものにしていくことは、両国間のみならず、世界の平和と発展のためにも不可欠であります。
特に、冷戦終了後の世界にあって、依然として不安定要因を抱えるアジア太平洋の安全と安定にとって、日米安全保障体制は一層重要性を増してきております。我が国は、自ら適切な規模の防衛力を保有するとともに、この日米安全保障体制を堅待することを引き続き防衛対策の基本としてまいりますが、防衛力整備の指針である「防衛計画の大綱」が策定されて約20年の歳月が経過いたしました。私は、この間の国際情勢の劇的な変化や科学技術の目覚ましい進歩などを踏まえながら、改めて「大綱」の基本的な考え方について整理してみることが必要であると考えております。国民各層の御意見も聴きながら、できるだけ早く在るべき方向を見定めてまいりたいと思います。
来年は、第二次世界大戦終戦50周年に当たります。かつて戦場であったアジア太平洋は、今や世界で最も希望に満ちた地域に発展いたしました。この地域の首脳が一堂に会した昨年11月のAPEC非公式首脳会議は、地域協力の新しい歴史を開く出来事でありました。その際私は、他の首脳との率直な意見交換を通じて、地域としての一体感が除々に、しかし確実に醸成されつつあることを実感いたしました。この地域全体にわたる政治及び安全保障対話も本格化しつつあり、今年から中国、ロシアなども参加して「アセアン地域フォーラム」が開催される予定であります。この機運を逃すことなく、この地域における安定した開かれた協力関係の構築を目指してまいりたいと思います。
日中関係は、国交正常化20周年、平和友好条約締結15周年を経て大きく発展しております。私は、今月後半に訪中し、中国側指導者と率直な意見交換を行うこととしておりますが、両国間の協力関係が国際社会に一層貢献するものとなるよう努力してまいる考えであります。
韓国との間では、昨年の首脳会談で私が金泳三大統領との間で確認したように、人的・文化的交流を更に拡大し、未来に向けた自然な形での関係発展のために努力してまいります。また、北朝鮮との国交正常化の問題については、今後とも核兵器開発問題等における動向を慎重に見守っていくことが必要であると考えております。
ロシアとの関係については、エリツィン大統領の訪日により今後の日露関係進展の新たな基礎が作られました。昨年12月の新議会選挙及び本年1月の内閣改造後、ロシア情勢は不透明さを増しておりますが、我が国としては、大統領訪日の際署名された東京宣言に従い領土問題を解決し、日露関係を完全に正常化するため最善の努力を払うとともに、改革に対し適切な支援を行ってまいる所存であります。
欧州では、昨年11月に欧州連合が発足しました。これまでのECよりも更に統合の度合いが強固なものとなり、この動きは北欧や中・東欧へも拡大しつつあります。このように一体性を強める欧州が国際社会において発言力を強め、ますます重要な役割を担っていくことは間違いありません。私は、我が国と価値観を共有する友人たる欧州との対話、政策協調を更に拡げ、深めてまいりたいと思います。
(結び)
新たな日本に生まれ変わらなければならないという国民の皆様方の厚い思いが結実して、この連立政権が発足し、約半年が過ぎました。この短い期間の中でもいくつかの大きな課題に直面しましたが、これまで誰も踏み入れたことのない道を進むことを選んだ者にとって、これは当然の試練であります。私たちにとって、国民の皆様方の声だけが唯一の道標べであり、これに応えながら大きな歴史的な変革を実現してまいりたいと思います。
ここに重ねて皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。
(94年3月4日)
第129回国会が開かれるに当たり、我が国の外交の基本方針につき所信を申し述べます。
(国際情勢認識)
東西冷戦という単純な座標軸が消滅した今日、世界は、平和と繁栄の新しい枠組みを模索しています。しかし、その道のりは長く、平坦ではありません。現在の国際社会は、変革期の不透明さと不確実さに満ちており、多くの課題を抱えています。世界経済は、先進国では北米等で景気回復の足取りが力強くなっていますが、多くの国が景気の低迷と深刻な失業問題に悩んでいます。
地域紛争については、カンボディアでは永続的平和と復興の第一歩が印される一方で、旧ユーゴラスヴィアやソマリアの紛争は、国際社会の懸命の努力にもかかわらず解決の兆しが見えません。また、北朝鮮の核兵器開発疑惑や旧ソ連の解体等による大量破壊兵器の拡散の危険は、世界の安寧を脅かしています。
さらに、開発途上国の貧困や地球環境、人口、難民といった地球規模の問題は、むしろ深刻さを増しています。
(日本外交の目標について)
このように国際社会は、多難たつ目まぐるしい変革の波の中で海図なき航海を続けています。しかし、私は、その前途には航海の導となる灯
(主要政策課題)
次に、ただ今述べた基本的理念の下で我が国として取り組むべき主要な政策課題につき述べたいと思います。
<繁栄の確保>
景気の低迷や失業は、保護主義的な動きを強め、経済摩擦を激化しがちであります。これを防ぎ、豊かで繁栄した世界を実現するためには、各国の一層の政策協調が必要です。世界のGNPの約6分の1を占める我が国が大きな役割を果たす責務があることは、改めて申し上げるまでもありません。
ウルグァイ・ラウンドが7年を超える困難な交渉を経て、昨年12月に成功裡に妥結したことは、自由貿易主義、開放的多国間主義、そして国際協調の勝利であります。我が国も様々な困難の下でぎりぎりの交渉を行い、コメに関する我が国の立場を最大限主張しました。包括的関税化の特例措置の設定等を内容とする農業合意案の受入れは、ウルグァイ・ラウンド交渉成功のために応分の貢献を果たすことが我が国の国際的責務であるとの視点から、まさに、断腸の思いで行ったものであります。最終文書署名のための閣僚会合は、4月にモロッコで開催される予定ですが、関連合意文書の締結に関し、鋭意準備を進めますので、速やかに国会の御承認が得られるよう御協力をお願い致します。今後とも、ウルグァイ・ラウンドの成果を着実に実施し、我が国のみならず世界経済全体の繁栄の基盤である多角的自由貿易体制の維持・強化に努めてまいります。
翻って我が国の経済状況は、予断を許さず、依然大きな経常黒字を抱えています。こうした状況を念頭に、政府は先月、所得税減税を含む景気浮揚のための内需拡大や経済活力喚起のための規制緩和推進等を柱として、市場最大規模の15兆2,500億円に上る総合経済対策を発表しました。この対策の着実な実施を通じ内需主導型の持続的成長を確保し構造改革を進めていくことは、調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の安定的発展にも資するものであると信じます。特に、規制緩和に関しては、我が国国民生活の質的向上に直接つながるものであることから、今後一層の努力を傾注していく必要があります。
<平和の確保>
私は、外務大臣就任以来、世界中で平和の願望が高まっていることを痛感しております。このような平和への願望にこたえるべく、我が国としてもできる限りの努力を行ってまいります。
今日、北朝鮮の核兵器開発疑惑は、北東アジアの平和と安全の確保に対する脅威であり、核不拡散の努力に対する大きな挑戦であります。今般、国際原子力機関(IAEA)による北朝鮮の申告済みの施設に対する査察が行われることとなりました。そのため、当面は、米朝間の話合いの進展が鍵となりますが、我が国としては米国、韓国、中国などの関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し核兵器不拡散条約脱退の完全な撤回、国際原子力機関との保障措置協定の完全な履行及び南北非核化共同宣言の実施を通じて疑惑を払拭するよう、粘り強く働きかけてまいります。
我が国は、大量破壊兵器の拡散を防止するための国際的枠組みや体制の整備・強化を図るとの観点から、核兵器不拡散条約の無期限延長を支持し、核兵器国による一層の核軍縮促進を目指し、全面核実験禁止条約に関する交渉に積極的に参加しております。さらに、我が国は引き続き旧ソ連の核兵器廃棄のための協力を行ってまいります。なお、昨年署名した化学兵器禁止条約についても、できるだけ早期に締結できるよう努めてまいります。加えて、ウクライナの非核化に向けての働きかけも強化していく所存です。
また、最近の大量破壊兵器や通常兵器の拡散の懸念に対処すべく、国際的な輸出管理体制を見直し、強化する必要があり、我が国もこの検討に積極的に参加しています。
なお、このような我が国の努力にもかかわらず、最近一部の外国報道等において我が国の非核政策に対し根拠のない疑問が投げかけられています。我が国は、唯一の被爆国として非核三原則を堅持するとともに我が国の原子力利用は、平和目的に限定しており、核兵器開発を行うことはあり得ないことをこの場で改めて強調したいと思います。
旧ユーゴースラヴィアやソマリアの地域紛争は、民族的、部族的、宗教的対立に根ざしており、その解決は容易ではありませんが、国際社会は粘り強い取組を行っています。
特に、世界の新たな悲劇の象徴であるボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいては、依然として流血が続いています。我が国は、今後とも関係諸国及び国連と協力しつつ和平の実現に努力してまりいます。また、2月には、人道支援の一層の強化、マケドニアの安定維持のための協力、我が国関係在外公館の体制再構築等を内容とする施策を決定したところであります。
この他、我が国は、これまでも地域紛争解決のため、外交面での努力、財政面での協力のみならず、アンゴラ、カンボディア及びモザンビークにおける国連平和維持活動に参加するなど、人的貢献も行ってまいりました。特にカンボディアにおける国連平和維持活動への参加は、痛ましい犠牲を伴うものでしたが、和平の実現に大きく貢献したものと考えます。今月には中米和平に対する支援の一環としてエル・サルヴァドルに選挙監視要員を派遣すべく準備を進めております。さらに、民族的、部族的対立や宗教的対立に根ざす紛争が増加している今日、知恵を出すことこそ重要であり、我が国にふさわしい貢献に努めてまいります。
<より人間的な世界を目指して>
より人間的な世界とは、自由、民主主義、人権の尊重が確保され、繁栄を享受できる世界であります。現在、世界各地で民主化、市場経済化に向けた改革努力が進められています。これは、大きな歴史の潮流であり、我が国は引き続き支援してまいります。
また、一部の開発途上国の目ざましい発展の陰で、多くの開発途上国にあっては人々が依然貧困と飢餓に苦しんでいます。これらの開発途上国が困難を克服し、経済と社会開発に取り組むことは、世界の平和と繁栄に不可欠と確信しております。そのためには、援助とともに貿易、投資の促進を含む包括的な取組が重要と考えます。
開発途上国に対する援助は、我が国がこれまでの発展の過程で得てきた経験をいかせる国際貢献の最も重要な柱であります。我が国は、昨年6月、平成5年から5年間で700億ドルから750億ドルをめどとする政府開発援助の第5次中期目標を策定しました。また、厳しい経済情勢の下ではありますが、我が国が果たすべき役割を深く認識し、平成6年度予算案では1兆634億円の政府開発援助にかかわる予算の審議をお願いしております。私は、政府開発援助大綱の下、国民の皆様に納得頂ける援助、そして開発途上国の人々に真に感謝されるような平和と発展につながる援助の実施に引き続き努めて行きたいと思います。
さらに、我が国は、昨年秋から冬にかけカンボディア、モンゴル、インドシナ地域及びアフリカの復興、開発問題についての国際会議の議長国や主催国を務める等開発途上国の発展や民主化、市場経済化を支援するための多国間協調の枠組みづくりに主導的な役割を果たしております。今後とも、このような取組の先頭に立っていきたいと考えます。
<地球規模の問題>
環境、人口、エイズ、麻薬や難民といった地球規模の問題は、人類全体にとり深刻な問題であり、先進国と開発途上国が一体となった取組の推進が急務であります。このため、開発途上国に対する積極的な環境援助に加え、2月の総理訪米の際、7年間で30億ドル、およそ3,000億円以上を人口、エイズ分野での途上国援助に向けることを表明いたしました。本年9月にはカイロで「国際人口・開発会議」が開催されます。特に人口問題は、環境や開発と密接な関係を有する問題であり、我が国は、この会議に貢献するために去る1月に「人口と開発に関する賢人会議」を主催するなど、積極的に対応しているところであります。
(国際強調の推進)
国際社会の相互依存関係がかつてないほどに深まっている現在、ただ今述べた諸課題への取組に当たっては、国際協調の強化が不可欠であります。
<日米欧>
国際情勢が厳しい局面にある現在、日米欧が率先して政策強調を進め、世界の諸課題に取り組むことが不可欠であり、我が国としても、引き続きサミットを始めとする場において日米欧間の政策協調の強化に努めてまいります。
新たな国際情勢の下においても日米安保条約を基礎とする日米間の緊密な協力関係を維持していくことが、我が国の外交の基軸をなすことにはいささかの変わりもありません。むしろ、日米基軸外交は、アジア太平洋地域の平和と安定を確保するためますます重要であります。
去る2月、細川総理が訪米し、3度目の日米首脳会談が開催されました。首脳会談では、包括経済協議についての意見の不一致はあったものの、政治、安全保障面や地球規模の問題の解決に向けた日米間の協調は、経済面での意見に不一致によって損なわれてはならないとの認識で一致したところであります。
包括経済協議については、客観的基準と数値目標をめぐる意見の調整のため私自身予定を1日繰り上げてワシントンを訪問し、ゴア副大統領、クリストファー国務長官、ベンツェン財務長官、カンター通商代表と会談し、合意を目指して懸命の折衝を行いました。しかし、残念ながらこの問題をめぐる両国の立場が収束せず、しばらく冷却期間を置くこととなりました。他方、首脳会談では、北朝鮮、中国、ロシア等の国際情勢について、今日の日米関係の幅と深みを反映した協議が行われました。また、環境、人口、エイズといった地球的規模の問題に関する協力推進のための行動計画を作成しました。さらに、私は、今回の訪米中ぺリ一新国防長官とも会談し、日米安保体制の重要性について意見の一致を見ました。
経済問題をめぐり、日米関係は厳しい局面を迎えておりますが、私としては、日米協力関係全体の維持・強化に努めるとともに、経済・貿易面で一刻も早く打開の糸口を見出して懸案の解決を図り、日米間のパートナーシップを一層強固なものとすべく、全力を傾注していく決意であります。
欧州連合条約の発効によって統合が新たな段階を迎えた欧州との関係についても、これを一層確固たる基盤の上に構築していくことが今まで以上に必要であります。平成3年の「日・EC共同宣言」に基づき、基本的価値を共有するパートナーとしての関係を更に深め、経済・貿易中心の関係にとどまらず、国際社会に共通する様々な課題についても対話と協力を促進してまいります。
<アジア太平洋等>
国際社会の急激な変化の中にあって、アジア太平洋地域は比較的安定した政治情勢の下で目ざましい経済成長を遂げており、明るい要素が多い地域であります。このような好ましい環境の中で、現在この地域では様々な形の域内協力が進められています。
近年、政治、安全保障の分野では、従来からの我が国の提案に沿った形で全域的な対話を行おうとする機運が急速に高まっています。特に本年は、アセアン拡大外相会議の参加国に加え、中国やロシア等の参加も得て、外相間で地域全体にわたる政治、安全保障問題についての意見交換を行うという「アセアン地域フォーラム」が初めて開催される予定です。このような場を通じ、各国の政策についての透明性を増すことによって域内各国の安心感を醸成していくことが重要です。
経済面における域内協力の枠組みとしては、アジア太平洋経済協力(APEC)が存在します。昨年11月に初めて開催されたAPEC経済非公式首脳会議においては、アジア太平洋地域における域内協力についての将来の展望と今後の協力について方向が示されるという大きな成果を産みました。
我が国は、このような政治、安全保障、経済面等にわたる域内協力が国際社会全体の平和と繁栄につながるものであるとの認識の下、今度ともその促進に主導的な役割を果たし、この地域をまさしく平和の湖にしていきたいと思います。
アジア太平洋地域のみならず国際社会においてますます大きな存在となることが予想される中国と我が国との関係は、良好に発展しています。私自身、1月に中国を訪問し、江沢民
朝鮮半島は、北朝鮮の核兵器開発疑惑により、アジア太平洋地域の不安定要因となっています。我が国と北朝鮮との国交正常化交渉も中断していますが、政府としては、今後の北朝鮮の動向を慎重に見守りながら国交正常化の問題に取り組んでいきたいと考えます。こうした状況の下、自由・民主主義という共通の基盤に立つ隣国の韓国との関係は、我が国にとってますます重要になりつつあります。3月下旬には、金泳三
インドシナ地域では、カンボディアに自由な選挙による新政府が誕生し、ヴィエトナム、ラオスでは、開放的な経済改革が進んでいます。我が国は、この地域全体を視野に入れた開発のため「インドシナ総合開発フォーラム」の設置を提唱し、本年後半にはその開催を予定していますが、今後ともこのフォーラムの場等を通じ国際協力を推進していきます。
南西アジア地域でも民主化や経済自由化が進んでおり、我が国としては、こうした努力を支援するとともに、この地域における核不拡散の確保に取り組んでまいります。
<国連>
世界の平和と安定のため国連は極めて重要な役割を期待されており、国連の機能を一層強化することが急務であります。本年は、特に安全保障理事会の改組に関する作業部会が開かれ、内外で幅広い議論が活発に行われることが予想されます。我が国は、過去2年間安保理非常任理事国として、より平和な世界の構築に向け、真摯
(主要諸国・地域との関係)
もとより、我が国が国際協調を推進していくに当たっては、その他の主要諸国及び地域との関係も重要です。
<ロシア>
昨年10月のエリツィン大統領の訪日は、新生ロシアと我が国との関係の進展のための新たな基礎をつくった極めて重要な訪問でありました。それ以降、昨年12月には議会の選挙が行われ、本年1月には内閣改造がありましたが、ロシアの情勢は不透明さを増しており、今後の内政動向を注視していく必要があります。
日露関係については、我が国は、ロシアの議会選挙に際し監視団を派遣したほか、2月には日露事務レベル協議及び平和条約作業部会を開催するなど、政治対話を活発に行っております。さらに、民間レベルでは、東京で第1回の日米露三極会議が開催されるなど、日露間の対話は幅を広げております。
このような中、私は今月ロシアを訪問し、ロシア指導部に対し、領土問題を解決し、日露関係を完全に正常化することが、日露二国間においてのみならず、アジア太平洋地域の平和と安全のために重要であることを改めて強調する考えであります。また、その際、ロシアの民主化、市場経済化及び「法と正義」に基づく協調外交という改革路線が引き続き堅持されることの重要性を指摘し、そのような改革が維持される限り、我が国としてこれを積極的に支持していく方針であることを再確認する考えであります。
<中東>
昨年9月にイスラエル・PLO間で暫定自治に関する原則宣言が合意され、私自身、ワシントンでの歴史的な署名式典に立ち会いました。その後、原則宣言実施のための努力がイスラエルとパレスチナ人との間で行われるとともに、米国の努力により、イスラエルとシリアとの間などで他の和平交渉も真剣に続けられています。我が国は、パレスチナ人の民生安定のため、2年間で2億ドルの支援を約束し、このうち約5,000万ドルの具体的支援を既に発表しています。中東地域の平和と安定の促進には、国際社会の支援が不可欠であり、我が国としても、域内関係者との政治対話の強化、中東和平多国間協議への参画、対パレスチナ支援等に今後とも努めてまいります。
<中南米・アフリカ>
中南米諸国では、総じて民主化と市場経済化が着実に進展しつつある一方、構造的貧困等取り組むべき課題も残っています。我が国は、引き続きこの地域における改革努力を支援していく考えです。
アフリカ諸国では、昨年10数か国で大統領選挙や議会選挙が行われる等政治改革が進んでいる反面、国内情勢が混乱している国も多くあり、経済的困難の克服も難しくなっています。我が国は引き続きこの地域における政治面、経済面での改革努力を勧奨するとともに二国間及び多国間の枠組みを通じた支援を行ってまいります。
(広報・文化・科学技術)
世界の平和と安定を実現するためには、国家間の相互理解と信頼関係の構築が必要です。
したがって我が国に対する諸外国の理解を深めるための広報活動の強化とともに国際文化交流促進の努力をしてまいります。また、昨年アンコール遺跡救済国際会議を主催したように、人類共通の遺産である有形、無形の文化財、遺産の保存や開発途上国の教育、文化振興等、文化の面でも積極的に協力してまいります。さらに、科学技術は未来を開く鍵であり、可能な限りその英知を分かち合うべく国際協力を着実に促進していくことが重要です。
(邦人安全対策と危機管理)
国際情勢の流動化や海外で活動する邦人の増加に伴い、海外で事故や犯罪に巻き込まれる例が増加しています。海外の邦人の安全をより良く確保するための対策強化とともに、各地における内乱、クーデター等の緊急事態に際し、政府として迅速かつ的確な邦人保護のための対応が行えるよう在外公館の危機管理能力を一層高めるよう努力してまいります。
(結び)
以上申し述べましたような外交の課題を実現していくためには、目まぐるしく移り変わる国際情勢に的確に対応し、先を見据えた機動的な外交活動を展開していかなければなりません。私は、その足腰とでもいうべき外交実施体制と諸機能の強化に一層努めてまいります。しかし、外交は国民の皆様の後ろ盾があって初めて可能となります。私は、我が国の外交に対する国民皆様の一層の御理解が得られるよう引き続き努力していきたいと思います。
国際社会の将来にとり極めて大切な時期に我が国の外交の舵取りを任せて頂いた者として、私はその重責に身の引き締まる思いであります。なにとぞ議員と国民の皆様の一層の御支援と御協力をお願い申し上げます。
(94年5月10日)
この度、私は、内閣総理大臣に任命されました。内外に困難な課題を抱える今日、心を引き締め、全力で取り組んでまいります。
所信を申し述べるに先立ちまして、4月26日の痛ましい中華航空の事故の犠牲となられた方々とそのご遺族に対し慎んでお悔やみ申し上げるとともに、負傷し入院されている方々に心からお見舞い申し上げます。政府としては、事故原因の究明を急ぎ、このような惨事が繰り返されることのないよう安全対策に万全を期してまいりたいと思います。
細川連立内閣は、国民の大きな支持の下に「改革」の旗を掲げ、懸命に前進を続けてまいりましたが、不幸にして業なかばで退陣されました。私に与えられた任務は、まず、この「改革」の旗を受け継ぎ、もう一度しっかりと握り直し、高く掲げ続けることだと考えています。
私の出身地信州の文豪、島崎藤村が郷里、馬篭で語った中に「血につながるふるさと、心につながるふるさと、言葉につながるふるさと」という味わい深い言葉があります。私はかねてこの言葉を言い換え、「血につながる政治、心につながる政治、普通に言葉の通じる政治」を心がけてきました。改革を進めるに当たって、私が大切にしたいのは、お互いに普通の言葉で率直に議論し、理解を深め、共に歩んでいくことであります。
私は、「改革」に加えて「協調」の姿勢を重視した「改革と協調」の政治を心がけたいと思います。今回、連立与党内で残念な経過があり、一部の会派が閣外へ去られることになりました。しかし、私自身、今後とも与野党のご意見に一層検挙に耳を傾けていくつもりであり、できるだけ幅の広い合意の上で政治を進めていく決意と誓いにいささか変わりありません。内閣総理大臣の重みと日本国の誇りを噛みしめつつ、この時代を生きる国民の皆様と苦しみも喜びも分かち合いながら、先頭に立って、難局にくじけず、明日を目指した課題に取り組んでまいります。
(混迷からの脱出と改革前進のための政治の確立)
昨年夏、38年間にわたる自民党の長期単独政権に替わって、連立政権が誕生したことは、我が国の政治の在り方に新しい息吹を与えたものでありました。国民の政治に対する新しい関心や期待も生まれ、これまでの行政や経済社会を息詰まらせたものを見直す大きな流れを作ったという意味で歴史的に重要な意義を有するものと言えると思います。
連立政権は、新しい時代の風を背に、政治改革、経済改革、行政改革の3つの改革に向けて全力を投入してまいりました。こうした努力については多くの国民の共感をいただき、政治改革関連法の成立を始め諸改革の方向性を明らかにするなど、8か月という短い期間ではありましたが、その成果は評価され得るものと確信いたします。新内閣は、新たな陣容でスタートすることとなりましたが、昨年夏の連立政権発足時の志を忘れることなく、これまでの経験をバネに、決意も新たに国政運営に取り組んでまいりたいと思います。 現在、平成6年度予算の国会審議が全く進んでおらず、また、日米経済協議の再開が難航し、朝鮮半島情勢も不透明な状況にありますが、これは尋常ならざる事態であり、これらの問題の対処に政治家として責任を痛感せざるを得ません。国民の皆様の不安感や政治に対する不信感を拭い去るためにも、今ほど事態の打開に向けて政治の指導力が問われているときはありません。私は、誠心誠意を尽くして、政府の最高責任者としての重責を果たしてまいります。
新内閣に課せられた最初の使命は、我が国をこうした困難な状態から脱却させ、一刻も早く将来が見通せる軌道に乗せることであります。このため、内閣としては一丸となって懸案の解決に当たる覚悟であり、国会におかれましても実りある政策論議が行われるよう格別のご協力をお願いいたしたいと存じます。
将来を左右するような幾多の課題に直面していくとき、我が国の向かうべき進路に誤りなきを期するためには、政策論議が政治の中心課題となるような政治体制でなければなりません。灯し続けてきた政治改革の火をここで絶やすことなく、最重要の課題として引き続き追求してまいる決意であります。国民の政治への信頼回復のために、今こそ政治腐敗の根絶を期して具体的行動を起こしていかなければなりません。改革を進めるに当たって、今後解決しなければならない幾つかの重要な課題が残されておりますが、その第一歩として、新内閣としては、衆議院議員選挙区画定審議会の勧告を尊重して関連法案を早急に提出し、次回総選挙が新制度の下で実施できるよう、可能な限り早い時期の成立を目指して努力してまいりたいと考えます。
今日本は、大きな歴史的な岐路に立っております。21世紀に向かってどのような社会をつくっていくのか、そして国際社会の中でどのような立場で平和と繁栄に貢献していくのかが内外から厳しく問われています。我が国の行く末を考えると、日本の政治、行政、経済社会の改革は大きな歴史の流れであり、もはや避けては通れない課題であります。しかしながら、改革とは既存の利害との衝突にほかならず、改革を成し遂げるためには大きな痛みと困難を乗り越える勇気と情熱が必要であります。そのためには、これから目指すべき社会とそこに至るまでの道筋について、国民の理解と支援を仰ぐための努力こそが求められます。私は、今後、開かれた中での政策決定を旨とし、国民の皆様と積極的に意見を交わしながら我が国の進むべき方向を見定めてまいるつもりであります。そうした国民合意の下で、より豊かで安心のできる社会をつくり、国際社会の中で信頼される国となるために、着実に改革を進めてまいる決意であります。
(より豊かで安心のできる社会の構築)
ほんの数年前のことでありますが、いわゆるバブル経済の中にあって、多くの国民が、一見全てがうまく回転し、それが未来永劫続くような錯覚に陥ったことは記憶に新しいところであります。しかしながら、その後我々は、過剰なまでの自信は転落の始まるであるという歴史の鉄則を痛いほど経験させられたのであります。
そういう中で、我が国経済はこれまでにない苦境を経験し、ともすれば将来に対する自信が揺らぎかねない状況にまで立ち至っております。しかし、悲観的にのみならずに、過去の反省の上に立って、これまでのしがらみや惰性にとらわれることなく、しっかりとした将来の目標に向かって、進取の気性で立ち向かうならば、おのずと新たな発展の道は開けると確信します。また、日本経済はそれを成し遂げるに十分な活力を持っていることは言うまでもありません。
幸いにして、経済の一部には明るい兆しも見受けられるようになりましたが、更にこれを順調な回復過程につなげることが重要であります。このような時に平成6年度予算の成立が大幅に遅れていることは由々しき事態であり、このことが景気回復の足を引っ張り、国民生活に重大な影響を与えかねません。新内閣としては、前内閣が提出した平成6年度予算を引き継ぎ、責任を持ってその実施に当たる考えであります。景気回復を一層確実なものにするために、既に国会に提出申し上げている法律案などとともに、新年度予算の一日も早い成立に是非ともご協力いただきますようお願いいたします。
我が国経済を本格的な回復軌道に乗せ、将来の発展の芽を育んでいくためには、民間の新たな挑戦や将来への投資を鼓舞していくことが重要であります。そのためには、政府が将来の展望を指し示し、自ら率先垂範して改革を確実なものにしていかなければなりません。私は、前内閣が提案し、まだ途中段階にある経済改革や行政改革、財政改革、税制改革、地方分権の推進などの諸改革を継承し、これらの着実な実施のために全力を尽くしてまいります。
経済改革については、情報通信や環境調和型産業などの分野における新たな視点からの新産業の育成や厳しいリストラの波に意欲を持って立ち向かい新事業の展開を図ろうとしている中小企業の更なる活性化などを推進し、また、諸規則の緩和や廃止を進めることによって経済体質の転換を図り、民間の協力も得て内外価格差の縮小に努めるとともに、市場の活性化や経済活動の国際協調を促進してまいります。私は、こうした努力が必ずや国民生活の向上にも資するものと信じます。
また、本格的な高齢化社会の到来に対応するため、雇用や、年金、医療、介護等の福祉政策をより強力に推進するとともに、国民生活重視の観点から住宅、交通、下水道等の生活環境の整備を促進してまいりたいと思います。現在、困難な状況に置かれている農業の問題については、ウルグァイ・ラウンド農業合意による影響も踏まえ、早急に農業再生のための抜本的対策を確立するとともに、農山漁村地域の振興に全力を挙げたいと思います。さらに、教育や科学技術を未来への先行投資として位置付け、多様な個性が重んじられ、新しい文化や経済活動が生み出されるような社会の実現を目指してまいります。
とりわけ、女性が社会のあらゆる分野に男性と平等に参画する男女共同参画型社会の形成に総合的な取組を行ってまいりたいと思います。
これらの対策の中でも、税制の抜本的な改革は、活力ある豊かな高齢化社会の実現を目指し、誠に深刻な状況にある財政の体質の改善に配慮しつつ、福祉政策等を積極的に展開していくためにも、また、減税措置に対する財源を確保するためにも、その実現を急がなければならない重要な課題であり、均衡のとれた税体系を構築していかなければなりません。政府としては、国民の皆様のご理解を得つつ、先般の各党間の確認事項を尊重し、国会の議決に沿い、各会派の皆様のご理解とご協力をいただきながら、6月中に成案を得て、必ずや年内に税制改革が実現されるよう最大限努力してまいります。
行政改革と地方分権の推進は、今や国民的課題であると承知しており、これを時代の要請に適合したものにするため、政治家として勇断をもって取り組んでまいる決意であります。行政改革については、規制・保護行政からの脱却、中央省庁の再編、縦割り行政の弊害除去、特殊法人の整理・合理化・補助金制度や公務員制度の見直し、情報公開制度の確立、行政監察体制の強化などの検討を進め、行政の簡素化、効率化、透明化を目指してまいります。また、地方分権を推進するための法的措置を講じ、東京一極集中の是正を図るとともに、それぞれの地方特有の歴史や文化、風土を活かした、特色を持った魅力ある地域づくりを目指していきたいと思います。
(信頼と協調のための積極外交の確立)
来年は、太平洋戦争終結50周年に当たりますが、我が国が過去に行った行為は、国民に多くの犠牲をもたらしたばかりでなく、近隣諸国の人々に今なお大きな傷痕を残しております。先般の閣僚の発言が近隣諸国の方々に与えた悲しみと憤りは、このことを示すものであり、発言が撤回されたとはいえ、このような事態に至ったことは誠に残念であります。この機会に、我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことの認識を新たにし、これを後世に伝えるとともに、深い反省の上に立って、平和の創造とアジア太平洋地域の輝かしい未来の建設に向かって力を尽くしていくことこそが、これからの日本の歩むべき道であると信じます。私は、新内閣の政治信条として、このことを常に念頭に置いて政治を進めていくことを改めて誓いたいと思います。
終戦からつい最近に至るまでの間、我が国は米ソを両極とする堅固な冷戦構造に組み込まれていたがために、ともすれば国際社会の動きを傍観視する傾向にあったことは否めない事実であったと思います。しかしながら、外交や対外関係は、対人関係同様、数字や、通り一遍の儀礼だけでは済まされない問題であり、まさに信頼関係の構築こそがその本質であり、また要諦であります。
冷戦構造が崩壊し、国際社会は今、新たな秩序を求めて死に物狂いの努力を行っております。この連休中に、私は、イタリア、フランス、ドイツ、ベルギー等を訪問いたしましたが、EUに新たに4か国の加入が認められた中で、ドロールEC委員長を始め各国首脳が新たな平和と安定の枠組みの必要性を熱っぽく語り、様々な困難に直面しながらも、共に手を携えてその実現に取り組んでいる真摯な姿勢に接しました。これら諸国の我が国に対する期待の大きさと国際協調の重要性を改めて痛感した次第です。特に、今次訪問中にユーロ・トンネルの開通式がありましたが、これはイギリスと大陸が一つになるという今世紀末を飾る一大事業であると同時に、国際社会の結びつきがますます強まっていることを象徴する出来事として感慨に浸ることができました。我が国としても、平和な歩みの中で蓄えてきた技術やノウハウなどをフルに活用して政府開発援助の推進や地球環境問題などグローバルな課題の解決に努力するとともに、自ら舞台に進み出て、世界の平和と繁栄に積極的な役割を果たし、国際社会の信頼を勝ち取っていくことが必要であります。そのためには、日本が掲げる理想や果たし得る役割について理解を得るべく粘り強く訴える一方で、国際社会の動きに協調しながら、時として痛みを伴う決断をすることや、あるいは毅然とした態度をとることも必要であろうと考えます。
我が国は、これまで半世紀にわたり、一貫して平和主義、国連中心主義の理念を堅持してまいりました。昨今の国際情勢を見るにつけ、憲法に掲げられたこの理念は誤りではなかったばかりか、ますますその輝きを増してきております。私は、このような実績を有する我が国であるからこそ、地域紛争の解決や軍備管理・軍縮の推進などに取り組むとともに、国連の平和活動に積極的に参加し、また、安全保障理事会を始めとする国連の機能強化についても自ら進んで関与し、成し得る限りの責任を果たしていくべきであると考えております。
また、日米安保条約に基づく同盟関係を維持し、それを基礎にして日米間の緊密な協力関係を更に発展させ、また、アジア・太平洋の一員としてこの地域の安定と発展に寄与していくことは我が国外交の基本であります。しかしながら、日米間で深刻な経済問題が未解決のままになっているほか、朝鮮半島の情勢が不透明になっているなど、今我々は、ここで外交上の判断を誤ると、我が国の将来に大きな禍根を残しかねない問題に直面しております。私は、この難局を乗り越えるために、強い決意を持ってあらゆる外交努力を傾注してまいります。
このところ諸外国との間で貿易摩擦の種が跡を絶ちませんが、その背景には我が国が世界の中でも突出した経常収支黒字を抱えていることがあります。この経常収支黒字は国際的な自由貿易ルールの下で国民のたゆまぬ努力の結果として生じているものではありますが、一つの国が大幅な黒字を続けることは、どうしても貿易相手国の反発を招くことになります。また、我が国市場の閉鎖性に対する批判が依然として引きも切らない状況にあることを考えるならば、経常収支黒字の段階的圧縮に向けて国際社会と調和のとれた経済構造への転換を図っていくことが重要であります。この場合、諸外国に言われたから何かをやるというのではなく、発想を転換し、自らのために行うという姿勢で規制緩和を中心さする市場開放や内需主導型の経済運営の確立など、主体性を持って大胆に経済改革を進めていかなければなりません。このような観点に立って、先般取りまとめた対外経済改革要綱を実のあるものにしていく考えであります。また、こうした努力を通じて日米経済協議の再開を図り、一層強固な日米関係の構築に努めてまいりたいと思います。
また、自由貿易体制の発展に向けた国際社会の努力の結集であるウルグァイ・ラウンド合意は、来年1月1日には発効させることが目標となっており、我が国として、協定及び関連法案を本年中に国会に提出し、速やかな成立を図ることは当然の責務であります。さらに、今後、自由貿易体制を一層揺るぎないものにしていくために、「貿易と環境」、「貿易と投資」などの新たな分野の問題についても各国との間で議論を深めていかなければならないと考えております。
北朝鮮の核兵器開発疑惑をめぐる現在の問題は、国際社会の核不拡散努力に対する挑戦であり、核兵器の究極的な廃絶を目指す我が国の理念にも反するものであります。また、我が国を含む北東アジア地域の安全保障を損ないかねない危険をも孕んだ問題であります。我が国としては、北朝鮮を国際的に孤立させないよう、米国、中国、韓国など近隣諸国と協同して、粘り強く協議を行うとともに、朝鮮半島における核兵器開発の阻止と非核化が実現するよう最大限の努力を行ってまいりたいと思います。いずれにせよ、国連の方針が決定された場合にはその方針を尊重するのは当然であります。また、憲法の下で緊急の事態に備えるとともに、日米及び日韓の各国間で緊密に連携し、協調してこれに対応し、必要に応じアジアにおける関係各国と連携してまいりたいと思います。
外交は生き物であり、筋を通した姿勢を保ちつつも、その時々の情勢に応じて、将来を見据えて最も適切な決断を下していかなければなりません。その意味で、まさに政治の指導力が問われるところであります。我が日本を国際社会の中で信頼され、愛される国とするために、私は、このことを肝に銘じて、今後の外交課題の解決に当たってまいる覚悟であります。
(結び)
今、我々は、国際社会や、国内社会にあっても、古い秩序が壊れ、しかし、まだ新しい秩序が見えない、大きな、激しい変革のうねりの中にいます。
こうした中で、人々は、不安や危機感を抱きますが、むしろ、私たちの心構えによっては、より良い世界、より良い社会に向けて、新しい可能性を切り開く「創造」の時とすることができます。いたずらに流れに逆らっても実りはなく、また、いたずらに流れに身を委ねているだけでは未来を見失ってしまいます。
このような時であるからこそ、私たちは、将来への明確なヴィジョンを持ち、勇気を奮って行動していかなければなりません。平和な世界を築くため日本国が積極的に貢献していくこと、美しい環境を大切にしつつ本当の意味での豊かさを実感できる社会をつくり、我々の子どもたちに引き継いでいくこと、「簡素で賢明」な政府をつくり、活気ある経済を育て、弱い立場の人々を守っていくこと、これらの目標には誰もが異論のないところだと思います。21世紀に向けて、これらをどう実現していくかについて、国民の皆様との間で、そして議会で議論を尽くし、ヴィジョンを具体的に煮詰め、実行に移していがなければならない時期です。もう回り道をしているゆとりはありません。
私は、普通の言葉で政治を語り、国民の皆様とともに、誰もが安心して生活のできる国、そして世界に日本人であることを誇りに思える国づくりを目指してまいりたいと思います。
あらためて、国民の皆様及び議員各位のご理解とご支援を心よりお願い申し上げ、所信といたします。
(94年7月18日)
私は、先の国会において、内閣総理大臣に指名されました。歴史が大きな転換期を迎えているこの時期に国政の舵取り役を引き受けることの責任の重さを自覚し、力の及ぶ限り、誠心誠意、職務に取り組んでまいります。
(はじめに)
冷戦の終結によって、思想やイデオロギーの対立が世界を支配するといった時代は終わりを告げ、旧来の資本主義対社会主義の図式を離れた平和と安定のための新たな秩序が模索されています。このような世界情勢に対応して、我が国も戦後政治を特色づけた保革対立の時代から、党派を超えて現実に即した政策論争を行う時代へと大きく変わろうとしています。
この内閣は、こうした時代の変化を背景に、既存の枠組みを超えた新たな政治体制として誕生いたしました。今求められているのは、イデオロギー論争ではなく、情勢の変化に対応して、闊達を政策論議が展開され、国民の多様な意見が反映される政治、さらにその政策の実行が確保される政治であります。これまで別の道を歩んできた3党派が、長く続いたいわゆる55年体制に終止符を打ち、さらに、1年間の連立政権の経験を検証する中から、より国民の意思を反映し、より安定した政権を目指して、互いに自己変革を遂げる決意の下に結集したのがこの内閣であります。これによって、国民にとって何が最適の政策選択であるかを課題ごとに虚心に話し会い、合意を得た政策は、責任をもって実行に移す体制が歩み始めました。私は、この内閣誕生の歴史的意義をしっかりと心に刻んで、国民の期待を裏切ることのないよう、懸命の努力を傾けたいと思います。
我々が目指すべき政治は、まず国家あり、産業ありという発想ではなく、額に汗して働く人々や地道に生活している人々が、いかに平和に、安心して、豊かな暮らしを送ることができるかを発想の中心に置く政治、すなわち、「人にやさしい政治」、「安心できる政治」であります。内にあっては、常に一庶民の目の高さで物事を見つめ直し、生活者の気持ちに軸足を置いた政策を心がけ、それをこの国の政治風土として根付かせていくことを第一に考えます。
世界に向かっては、先の大戦の反省の下に行った平和国家への誓いを忘れることなく、我が国こそが世界平和の先導役を担うとの気概と情熱をもって、人々の人権が守られ、平和で安定した生活を送ることができるような国際社会の建設のために積極的な役割を果たしてまいりたいと思います。我々の進むべき方向は、強い国よりもやさしい国、であると考えます。
このような政治の実現のためにも、世界に誇るべき日本国憲法の理念を尊重し、これを積極的に国民の間に定着させていくことが必要であります。また、年長者を敬う心や弱い立場の人々への思いやりなど、日本の良き伝統や美風も大事にしなければなりません。しかしながら、従来どおりの政策の維持発展だけでは真に国民の求める政治とはなりません。時代の変化に対応して、硬直化した社会制度を見直し、思い切った改革を行うことが不可欠であります。改革は、政治の安定があってはじめて実効が上がります。逆に、勇気をもって改革に取り組んでこそ、国民の信頼と支持によって政治の安定を得ることができます。私はこの好ましい循環を信じて、たとえ苦しい作業であっても、改革の道を邁進したいと思います。
時代は大きく揺れ動いており、このような時には、政治が、進むべき道を明確に示し、強力な指導力を発揮することが求められます。同時に、こういう時であるからこそ、国民の声が反映された政治でなければなりません。私は、国民とともに我が国の政治の進路を考える姿勢をもって、党派を超えて、様々な意見に耳を傾け、国民の前に開かれた形で論議をし合意を求めるという、民主政治の基本を大事にしていきたいと思います。
(政治改革の実現に向かって)
今後行うべき諸改革の出発点として、まず取り組むべきは政治改革であります。政治は、国民に奉仕するもの、政治家は、国民全体、人類全体の利益の視点に立って行動すべきもの、というごく当たり前のことが額面どおりに受け取られず、むしろ、政治は、胡散臭いものとみられています。政治がその原点に立ち返り、国民の不信を払拭することが今ほど求められているときはありません。このためには、まず清潔な政治への自覚が求められます。「選挙で選ばれる人間は、選ぶ人間以上にしっかりとした道徳観がないと、選ばれる価値はない」というのが私の信念であります。
同時に、制度面の改革について、今までの成果を押し進め、なお努力を重ねなければなりません。このため、今後の衆議院議員の総選挙が新制度で実施できるよう、審議会の勧告を得て、速やかに区割り法案を国会に提出するとともに、政治の浄化のため、更なる政治腐敗防止への不断の取組を進め、より幅の広い政治改革を推進してまいります。政治の改革に終わりというものはありません。私は、今後とも政治改革に力を注いでいく決意であります。
(平和国家としての国際貢献)
世界は今、歴史的変革期特有の不安定な状況におかれています。冷戦の終結によって確実に1つの歴史は終わりましたが、次なる時代の展望は未だ不透明であります。中東などで和平に向けての進展がみられる反面、北朝鮮の核開発問題、旧ユーゴースラヴィアでの地域紛争等は、国際社会の平和と安定に対する深刻な懸念材料となっています。また、世界経済についても、全体として明るさを取り戻しつつあるものの、先進国における失業問題、開発途上国における貧困の問題、地球規模の環境問題等深刻な問題が横たわっています。
このような国際情勢の下で、我が国がどのように対応していくべきか。一言で申し上げれば、国際社会において平和国家として積極的な役割を果たしていくことであります。我が国は、軍備なき世界を人類の究極的な目標に置いて、二度と軍事大国化の道は歩まぬとの誓いを後世に伝えてゆかねばなりません。また、唯一の被爆国として、いかなることがあろうと核の惨禍は繰り返してはならない、との固い信念の下、非核三原則を堅持するとともに、厳格に武器輸出管理を実施してまいります。もとより、国民の平和と安全の確保は重要です。私は、日米安全保障体制を堅持しつつ、自衛隊については、あくまで専守防衛に徹し、国際情勢の変化を踏まえてその在り方を検討し、必要最少限の防衛力整備を心がけてまいります。
平和国家とは、軍事大国でないとか、核兵器を保有しないといったことにとどまるものではありません。今日、国際社会が抱える諸問題の平和的解決や世界経済の発展と繁栄の面で、従来以上に我が国の積極的な役割が求められています。強大な軍事力を背景にした東西対立の時代が終わった今こそ、我が国が、その経済力、技術力をも活かしながら、紛争の原因となる国際間の相互不信や貧困等の問題の解消に向け、一層の貢献を果たすべき時であります。このような観点から、核兵器の最終的な廃絶を目指し、核兵器等の大量破壊兵器の不拡散体制の強化など国際的な軍縮に積極的に貢献してまいります。また、貧困と停滞から脱することができないでいる開発途上国や旧ソ連、中・東欧諸国に対し、引き続き経済支援を行っていきたいと思います。
(サミットを終えて)
先般のナポリ・サミットは、この内閣の基本姿勢について各国首脳の理解を得る格好の機会でありました。私は、各国首脳と個人的な関係を培うとともに、新政権の政策の基本方向や外交の継続性について、率直に説明し、理解を得られたと確信いたしております。
国際的な政策協調を進めていく上で、日米欧の協力は、その中核をなすものであり、今回のサミットでは、引き続きインフレなき持続的成長に向け政策協調を強化し、深刻な雇用問題について一致して取り組んでいくとの明確な意思表示を行いました。また、北朝鮮の核開発問題について、北朝鮮が、国際社会との対話に応じ、核兵器開発疑惑の払拭に努力するよう求めるなど、当面する政治、経済両面の問題について、主要国首脳の間で忌憚のない意見交換と明確な方向を打ち出せたことは有意義な成果であったと考えます。
(国連における貢献)
冷戦後の国際社会においては、世界の平和と安定のために、普遍的な国際機関である日連の果たす役割には非常に大きいものがあります。今後、我が国としても、国際社会の期待に応え、引き続き、国連の平和維持活動について、憲法の範囲内で、積極的に協力していくとともに、国連の改革に努力しつつ、より責任ある役割を分担することが必要であります。常任理事国入りの問題は、それによって生ずる権利と責任について十分論議を尽くし、アジア近隣諸国を始め国際社会の支持と国民的理解を踏まえて取り組んでまいりたいと思います。
国連における国際貢献も、政治・安全保障の分野に限りません。人類へのやさしさを追及する意味でも、環境保全、人権、難民、人口、麻薬等の地球規模の問題への対応がますます重要になっています。我が国としても、これらの課題の解決に積極的に取り組み、軍事力によらない世界の平和と共存への貢献に力を注ぐ考えであります。
(自由貿易体制への貢献)
世界貿易に目を転じますと、今年は、戦後の世界の自由経済体制の基軸となってきたブレトン・ウッズ体制発足50周年に当たります。本体制の下、自由貿易体制の利益を最も享受してきた我が国としては、ウルグァイ・ラウンド合意の来年1月1日の発効に向け、その責務として、早急に協定及び関連法案を国会に提出し、年内の成立を図るなど、自由貿易体制の維持発展への取組を強化してまいります。また、調和ある国際関係の維持のためにも、我が国の経済政策は公正な市場経済の堅持を大原則とし、新たな国際経済秩序の形成に進んで貢献する姿勢で臨むことが必要であります。このような観点から、今後とも、我が国市場の一層の開放と内需中心の経済運営に努め、経常収支黒字の十分意味のある縮小の中期的達成に向けて努力していく決意であります。
(アジア太平洋地域ほか地域間関係)
我が国の外交を考える場合、まず我が国自身がその身を置くアジア太平洋地域との関係を語らねばなりません。戦後50周年を目前に控え、私は、我が国の侵略行為や植民地支配などがこの地域の多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことへの認識を新たにし、深い反省の上に立って、不戦の決意の下、世界平和の創造に力を尽くしてまいります。このような見地から、アジア近隣諸国等との歴史を直視するとともに、次代を担う人々の交流や、歴史研究の分野も含む各種交流を拡充するなど相互理解を一層深める施策を推進すべく、今後その具体化を急いでまいります。
同時に、アジア太平洋地域は、世界でも最も躍動的な成長が続く活力ある地域であります。我が国としては、APECの一層の発展に努めるほか、政治・安全保障面では、米国の関与と存在を前提に、本年から開始される中国、ロシア等を含めたASEAN地域フォーラムへの積極的な参画等を通じた努力を行ってまいります。
朝鮮半島においては、北朝鮮の金日成主席が逝去されましたが、私は、今回の事態が朝鮮半島の平和と安全に悪影響を与えることなく、米朝協議や南北首脳会談の早期開催など、対話による問題解決に向けた動きが更に前進し、核兵器開発に対する国際社会の懸念が払拭されることを強く期待いたします。我が国としては、私が、近く訪韓するなど、今後とも、米国、韓国、中国などと緊密に連携し、平和的解決を指向して最善の努力をしていく考えであります。
我が国と米国との関係は、先の日米首脳会談でクリントン大統領との間で再確認したとおり、相互にとって、最も重要な二国間関係であり、我が国外交の基軸であることはもとより、アジアを含む世界の平和と安定維持にとっても極めて重要な関係であることは言うまでもありません。私は、日米包括経済協議の早期の成功を含め、日米間の協力関係の更なる発展に全力を傾注してまいります。
ロシアとの関係では、東京宣言を基礎として、領土問題を解決し、平和条約を締結して、関係の完全な正常化を達成するとともに、その改革に対し、国際協調の下、適切な支援を行ってまいります。また、欧州統合の動きを歓迎するとともに、日欧間の政治対話を含めた包括的な協力関係を築くことに引き続き取り組んでまいります。
(今後の我が国経済社会の在り方)
我が国は、世界第2位の経済大国でありながら、生活者の視点からは真の豊かさを実感できない状況にあります。加えて、人口構成上最も活力のある時代から最も困難な時代に急速に移行しつつあります。こうした情勢の中で、お年寄りや社会的に弱い立場にある人々を含め、国民一人一人がゆとりと豊かさを実感し、安心して過ごせる社会を建設することが、私のいう「人にやさしい政治」、「安心できる政治」の最大の眼目であります。同時に、そうした社会を支える我が国経済が力強さを失わないよう、中長期的に、我が国経済フロンティアの開拓に努めていくことも忘れてはなりません。このような経済社会の実現に向けての改革は、21世紀の本格的な高齢社会を迎えてからの対応では間に合いません。今こそ、行財政、税制、経済構造の変革など内なる改革を勇気をもって断行すべき時期であります。
(景気の現状と当面の経済運営)
まず、経済の現状をみますと、依然、雇用情勢や中小企業など産業の状況には厳しいものがあるほか、急激な円高の進行など懸念すべき要因もみられますが、このところ、次第に明るい動きも広がっております。この動きを加速し、景気を本格的な回復軌道に乗せていくことが当面の重要な課題であります。このため、平成6年度予算の円滑な執行や為替相場の安定化など景気に最大限配慮した経済運営に努力し、雇用の安定確保など可能な限りの対策を講じてまいります。
(規制緩和と行政、財政、税制改革)
生活者の立場から、また、我が国の経済社会の活性化の見地から、行政と経済社会活動の接点ともいえる諸規制が果たして今日の実情に照らし適切なものであるかどうか、経済社会活動のあるべき姿をゆがめるものになっていないかを今一度徹底的に検証しなければなりません。先日取りまとめた規制緩和策を速やかに推進することは当然として、さらに、5年間の「規制緩和推進計画」を策定し、将来の新規産業分野への参入の促進や内外価格差の縮小による国民の購買力の向上などの視点も考慮しつつ、一層の規制緩和を実施していく決意であります。
また、国民本位の、簡素で公正かつ透明な政府の実現と、縦割り行政の弊害の排除に力を注ぎ、公務員制度の見直し、特殊法人の整理・合理化、国家・地方公務員の適正な定員管理、行政改革委員会の設置による規制緩和などの施策の実施状況の監視、情報公開に関する制度の検討など強力な行政改革を展開してまいります。
さらに、地方がその実状に沿った個性あふれる行政を展開するためにも、地方分権を推進することが不可欠であります。このため、その基本理念や取り組むべき課題と手順を明らかにした大綱方針を年内に策定し、これに基づいて、速やかに地方分権の推進に関する基本的な法律案を提案したいと考えています。
本格的な高齢社会を控え、国の財政も新たな時代のニーズに的確に対応していかなければなりません。そのためには、200兆円を超える公債残高が見込まれるなど一段と深刻さを増した財政の健全化が必要であり、財政改革を推進して一層の財政の体質改善に努力してまいります。
また、税制面では、活力ある豊かな福祉社会の実現を目指し、国・地方を通じ厳しい状況にある財政の体質改善に配慮しつつ、所得、資産、消費のバランスのとれた税体系を構築することが不可欠であります。このため、行財政改革の推進や税負担の公平確保に努めるとともに、平成7年度以降の減税を含む税制改革について、総合的な改革の論議を進め、国民の理解を求めつつ、年内の税制改革の実現に努力してまいります。
同時に、今後、21世紀に向け、生活者重視の視点に立って、公共投資基本計画について、税制の具体的な検討作業を踏まえつつ、その配分の再検討と積み増しを含めた見直しを鋭意進めてまいります。
(雇用創出のための経済フロンティアの拡大)
将来の経済の活力を維持し、新たな雇用を創出していくためには、創造性と技術力にあふれる新規産業を育成し、経済フロンティアを拡大していかなければなりません。特に、これまでの人や物の流れを変え、家庭の生活様式や企業活動を根底から変革する可能性のある、情報化の推進が重要であります。世界情報インフラ整備等への国際的な取組を始め、国際協調の在り方も念頭に置きつつ、高度情報化社会の実現に向けて政府として総合的な取組を行ってまいります。
また、次の世代の我が国社会を真に創造的でダイナミックなものとするためには、将来を支える若者の教育や、科学技術の振興が極めて重要であります。私は、これらを我々の未来への先行投資と位置付けるとともに、学術、文化、スポーツの振興にも力を入れ、新しい文化や経済活動が生み出されるような社会の実現を目指してまいります。
(農林水産業の振興)
農林水産業は、国民生活にとって必要不可欠な食料の安定供給という重要な使命に加え、自然環境や国土の保全等の機能を持ち合せております。また、農山村や漁村は、私自身にとってそうであるように、多くの国民にとって、心のふるさとともいうべき存在となっているのではないでしょうか。現在、農林水産業は厳しい試練にさらされております。私は、その多面的な役割を念頭に置いて、ウルグァイ・ラウンド合意による影響を踏まえ、農林水産業に携わる人々が将来に希望と誇りをもって働けるよう、これら地域の活性化を含め、総合的かつ具体的な対策を早急に検討、実施してまいります。
(人と環境にやさしい国づくり)
私は、国づくりの神髄は、常に視点の基本を「人」に置き、人々の心がやすらぎ、安心して暮らせる生活環境を作っていくことにあると信じます。そのため、安定して年金制度の確立、介護対策の充実などにより、安心して老いることのできる社会にしていくこと、子育てへの支援の充実による次代を担う子どもたちが健やかに育つ環境を整備していくこと、また、体が弱くなっても、障害を持っていても、できる限り自立した個人として参加していける社会を築くことなど、人々が安心できる暮らしの実現に全力を挙げる決意であります。さらに、人々が落ち着いて暮らしていける個性のある美しい景観や街並を築き、緑豊かな国土と地球を作り上げていくため、環境問題にも十分意を用いてまいります。
また、男性と女性がやさしく支えあい、喜びも責任も分かちあう男女共同参画社会を作らねばなりません。男女が政治にも、仕事にも、家庭にも、地域にも、ともに参加し、生き生きと充実した人生を送れるよう、最善を尽くしてまいります。
(結び)
内閣総理大臣を拝命して20日足らず。我が国に対する国際社会の大きな期待と、国民の皆様がこの内閣に寄せる熱い思いを肌で感じ、あらためてその任務の重さに身の引き締まる思いであります。内外に難題が山積する今、私は、「常に国民とともに、国民に学ぶ」という自分の政治信条を大切にし、国民の知恵と創造力をお借りしながら、もてる限りの知力と勇気をもって政策の決定を行うとともに、決断したことは、断固たる意志をもって実行するとの基本姿勢で、新しい時代の扉を開いてまいる決意であります。
議員各位と国民の皆様のご理解とご協力を切にお願する次第であります。
(94年9月30日)
天皇皇后両陛下には来る10月2日から御訪欧の途につかれます。各国との友好親善を深められ、つつがなく御帰国されることを心からお祈り申し上げます。
(はじめに)
政権を担って約3か月が経過いたしました。この連立政権の歴史的意義については、先国会冒頭で申し上げましたが、私は、価値観の多様化を反映した複数の政治勢力が、透明で民主的な論議を通じて合意点を見いだしながら進める政治は、より民意を映し出す、この時代にふさわしい仕組みであると信じます。とはいえ、長く相対峙し、激しい論議を闘わせてきた会派による連立内閣の誕生に対して、当初、内外に、いささかの戸惑いが生じたのは無理からぬことでありました。政権を安定させ、国民から安心感をもって迎えられる政治を実現することは、山積する課題に対処するためにも、我が国への国際社会の高まる期待に応えるためにも急務と言わねばなりません。それには、「人にやさしい政治」、「安心できる政治」を目指すという私の政治理念を現実の政策に具体化し、この内閣の誕生で何が変わったか、何を変えようとしているのかを国民の前に明らかにしていく努力が求められます。こうした観点に立って、今日まで、連立三会派は、開かれた論議を重ね、懸案の重要課題について、一つ一つ改革に方向を見いだしてきました。これは、イデオロギー対立から政策対話へという時代の流れを背景に、この連立政権が過去の行き掛かりを乗り越えて成し遂げた成果であったと考えます。
しかし、この内閣がその真価を問われるのはこれからであります。改革を更に押し進め、世界から信頼され、国民が安心して暮らせる社会の実現へと結実させていけるかどうかは、今後の努力にかかっております。戦後我が国の発展を支えてきた経済社会システムが内外の変化に対応できなくなりつつある今日、21世紀を見据えて、改革すべきは大胆に改革しなければなりません。今国会を改革に向けての大きなステップとするため、当面する諸課題への対処方針を申し述べ、皆様の御理解と御協力を得たいと思います。
(政治の改革に向かって)
政治腐敗や政・官・業の癒着構造などに起因する国民の政治不信を払拭し、真に国民の利益を代弁する健全な政党政治を確立することが今ほど求められているときはありません。
私は、この国の政治の改革には三つの大きな柱があると考えます。
第1は、選挙制度を改革するとともに、腐敗防止を徹底し、政治の基本姿勢を変えていくことであります。先般の区割り審議会の勧告に基づき、区割り法案を今国会に提案いたしますが、この法案の成立により、一連の制度改革が初めて施行され、長年の懸案が実行に移されます。是非とも早期に成立させていただくようお願いいたします。
政党への公費助成が制度化されることによって、政治が腐敗防止に一層厳しい姿勢を要求されることは当然の理であります。政府としては、各党間で進められている、更なる政治腐敗防止措置に関する協議の帰趨を見守りながら、政治の浄化に向けた不断の取組を含め、幅の広い政治改革の推進に努力を払ってまいります。
第2は、地方分権の推進であります。住民が身近な地域の問題を自ら考え、地域の政治や行政に参加して課題解決にかかっていくこと、また住民の声が政治に反映されていくシステムを生み出すことこそが、この国に真の民主主義を定着させていく道であります。地方がその実情に応じて、責任をもって個性ある行政を行う地方分権の推進は、今や時代の大きな流れであり、国と地方の役割分担とそれぞれの行政の在り方を見直し、権限委譲、国の関与の廃止や緩和、地方税財源の充実等を進めることが必要であります。政府としても、地方分権の推進に関する大網方針を年内に策定し、これに基づき、速やかに地方分権の推進に関する基本的な法律案を提案いたします。
第3は、立法府と行政府の在り方に係る改革であります。国会改革については、国会自身において種々検討が行われております。三権分立の趣旨を踏まえ、政治の判断が適時的確に行われるよう、議会制民主主義の活性化を目指して、立法府、行政府双方で一層の努力を行っていかなければなりません。
改革を実現する上でも忘れてならないのは、あるべき政と官の役割分担であります。政治家は、改革の方向付けとその実現に強いリーダシップを発揮し、行政官は、その専門知識を活かして誠実に具体的政策の実施に当たるという双方の役割と責任を十分に自覚し、歯車がかみ合ってこそ改革は現実のものとなります。
(行財政改革、税制改革の推進)
経済社会改革を進めるためには、まず、政府自らが身を削って努力するとの姿勢が必要であります。行政改革の断行こそ、この内閣が全力を傾けて取り組まねばならない課題であります。縦割り行政の弊害を是正し、行政を簡素化、合理化し、透明な政府を実現していくために、行政組織、公務員制度、特殊法人等諸般の改革を進めていくとともに、情報公開に関する制度の検討など行政改革を一層推進していかなければなりません。このうち各省庁における特殊法人の見直しについては、本年度内に行うことといたします。
行政改革の推進は、中央政府の問題にとどまりません。中央と地方の関係で、一層の地方分権の推進が必要であることは先程申し上げたとおりですが、官と民との関係では、国民生活の向上はもとより、経済の活性化や国際的調和の観点に立って、規制緩和を断行することが不可欠であります。規制の妥当性を厳しく見直すため、近く改めて内外からの要望も把握し、本年度内に、今後五年間の規制緩和推進計画を策定し、実施してまいります。また、決定済みの規制緩和措置の早急な実施の観点からも、許認可一括法案の早期成立をお願いいたします。
政府としては、これらの課題について、行政改革委員会を設置することにより、従来にもまして、厳正かつ強力な体制で改革を推進してまいる所存であります。
行政と財政の改革は密接不可分の問題であります。本格的な高齢社会を控え、財政が新たな時代のニーズに的確に対応していくには、公債発行残高が200兆円を超える見込みであるなど一段と深刻さを増した状況にある財政の健全化に努め、その対応力を回復させる必要があり、このため財政改革を強力に進めてまいります。
活力ある福祉社会の実現のためには、行財政改革を一層推進し、歳出の削減に努力するとともに、税負担の公平確保に努めつつ、税制改革を実現させなければなりません。このため、中堅所得者層を中心とする税率構造の累進緩和等による3兆5,000千億円の個人所得減税を行うとともに、国民が広く税負担を分かち合えるよう、消費税について、現行制度の抜本的改革を行い、地方税源充実のため創設する地方消費税と合わせた税率を5%に引き上げることとし、関係法案を今国会に提出することとしております。なお、当面の経済状況に配慮する観点から、2兆円の特別減税を加え、5兆5,000億円の減税を継続するほか、消費税の改正及び地方消費税の導入は、平成9年4月からの実施とすることとしております。また、真に手を差しのべるべき方々にしわ寄せがなされることがないよう、きめ細かな配慮を行ってまいります。
(経済構造改革のために)
経済は、このところ明るさが広がってきており、緩やかながら回復の方向に向かっておりますが、設備投資は総じて減少が続いており、雇用情勢についても厳しさがみられます。また、急激な円高など懸念要因もあります。できる限り早く本格的な回復軌道に乗せるため、設備投資や雇用、中小企業等の動向に引き続き細心の注意を払っていく必要があります。また、国際社会との調和ある発展を図り、経常収支黒字の十分意味のある中期的縮小を達成するためにも、引き続き内需主導型の経済運営を行ってまいります。
新しい時代に対応し、創造力と活力にあふれた経済社会を構築することは、21世紀に向かって我が国が成し遂げねばならない重要課題であります。今こそ、経済の潜在的能力を引き出し、その活性化を図るため、構造的な改革に取り組むべきときであると考えます。
第1に、消費者の選択の幅の拡大、新規市場の創造、内外価格差の是正などの観点から、既存の各種規制や民間慣行について、抜本的に見直し、より自由で創造性が発揮される社会環境を整備していくことであります。
特に、内外価格差は、国民生活の豊かさを阻害し、産業にも割高な費用負担を強いるものであり、政府としては、現状を早急に調査し、結果を公表するとともに、障害除去のための対策を講ずるなど、その是正・縮小に積極的に取り組んでまいります。
また、この関連で、安易な公共料金改定が行われることがないよう、引き続き先に実施した事業の総点検の結果を踏まえて、案件ごとに厳正な検討を加え適切に対処するとともに情報の一層の公開に努めてまいります。
第2に、経済社会に活力のある今のうちに、本格的な高齢社会に備える意味でも、また、国際的に調和のとれた内需主導型の経済社会の実現に資する意味でも、社会資本整備の質的・量的な拡充を図ることが必要であります。公共投資基本計画について、適正な財源の確保を図りつつ、生活者重視等の視点に立った配分の再検討と全体規模の積み増しを含めた見直しを早急に進め、10月には政府として決定する所存であります。
第3に、産業の空洞化が指摘される中にあって、我が国産業が雇用を確保しつつ、新規事業分野を開拓し、創造性豊かな産業へと脱皮することが重要であります。科学技術や学術の振興など未来への発展基盤の整備と併せて、産業・雇用構造の転換の円滑化の観点から、経済・産業政策と雇用対策の整合性を確保しつつ、政府としての一体的・総合的な政策を推進してまいります。
特に経済の活性化と国民生活の高度化のためには、官民を挙げて広範な分野で情報化を推進することが極めて重要であります。先般、内閣に高度情報通信社会推進本部を設置したところであり、世界情報インフラ整備等の国際的な取組、教育、医療・福祉等公的分野の情報化の促進、情報通信関係技術開発の推進等に総合的に取り組んでまいります。
(人にやさしい国づくり)
我々は豊かさを手に入れるため懸命に走り続けてきた結果、ややもすれば、利潤追求と物質万能の考えに偏りがちな側面があったことは否定できません。私は、国民一人一人が、その人権を尊重され、家庭や地域に安心と温もりを感ずることのできる社会を作り上げていくことが「人にやさしい政治」の真骨頂ではないかと考えます。
このため、迫りくる本格的少子・高齢社会に備え、年金、医療、福祉等の社会保障についてその再構築を図ります。安定した制度の確立の観点から、年金改正法案の早期成立をお願いするとともに、高齢者介護の面で、地域住民のニーズをより反映したサービスの拡充を早急に図ってまいります。また、子供が健やかに生まれ育つための環境づくりを進め、障害者の自立と社会参加を一層促進いたします。
我々が祖先から受け継いだ美しい自然や環境を未来の世代に引き継ぐことも、重要な課題であります。このため、環境の保全と経済発展が両立する環境調和型経済社会の構築に積極的に取り組んでまいります。
文化の振興の問題も忘れてはなりません。人々の心から「うるおい」が失われ、生きることの充実感が希薄になっていくことは現代が抱える大きな問題です。今こそ、精神的に「人間らしく生きたい」という国民の願いを行政が真剣に受けとめ、教育・スポーツに力を入れるとともに、地域の自主性を尊重しつつ、文化、芸術の振興への環境整備に一層力を注ぐべき時期であると考えます。
政策決定への女性の参画の遅れ、家事や育児・高齢者介護の面での女性への負担などが指摘されております。私は、男女があらゆる分野に共に参画し、共に社会の発展を支えていくという、男女共同参画社会の実現に向けて努力してまいります。
「人にやさしい政治」は、生活者の立場に立った政治でなければなりません。一例として、今年の渇水問題があります。深刻な影響を被られた地域の方々に心からお見舞いを申し上げます。これを教訓として、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということにならないよう、森林の保全・育成を通じた水源の涵養、水資源の総合的な開発などの中長期的な対策に取り組んでまいります。国民の日々の生活の安全と安定に直結する問題への対応については、今後とも全力を挙げて万全を期する所存であります。
(平和国家として歩むべき道)
我が国が過去の一時期に行った侵略行為や植民地支配は、国民に多くの犠牲をもたらしたのみならず、アジアの近隣諸国等の人々にも今なお大きな傷跡を残しております。平和で豊かな今日においてこそ、過去の過ちから目を背けることなく、次の世代に戦争の悲惨さと、そこに幾多の尊い犠牲があったことを語り継ぎ、不戦の誓いを新たにし、恒久平和に向けて努力していかなければなりません。これこそが日本の対外政策の原点であると信じます。
このため、「平和友好交流計画」を発足させ、歴史図書・資料の収集、研究者に対する支援等を行う歴史研究支援事業と、各国との交流を通じて対話と相互理解を促進する交流事業を二本柱として、今後十年間で1,000億円相当の事業を新た展開してまいります。また、残された戦後処理の課題についても、誠意をもって対応していく考えであります。
我が国は、戦後50周年を明年に控え、世界の平和と繁栄に向け、従来以上の幅広い分野で、より積極的な役割を果たしていかなければなりません。
まず第1に、地域紛争の平和的解決、とりわけ平和維持活動に対する協力や紛争に伴う難民など人道上の問題への対応であります。従来の取組に加えて、今も内戦の後遺症が色濃く残っているルワンダについて、我が国は、難民支援のため、様々な資金協力、物資協力とともに、人的支援についても、この程、国際平和協力法に基づき自衛隊部隊等による人道的な国際救援活動の実施を決定いたしました。隊員の安全確保に最大限の考慮を払いつつ、円滑な活動の実施に万全を期してまいります。また、この場をお借りして、留守家族の皆様の御協力に改めて感謝申し上げたいと思います。
第2には、国連の役割と我が国の貢献であります。世界の平和と安定の確保のため、我が国としては、憲法が禁ずる武力の行使は行わないことを明らかにする一方で、国際平和維持活動や軍縮、経済・社会分野等の問題について積極的な貢献を行うとともに、国連の改革と機能強化に積極的に取り組み、多くの国々の賛同と国民の一層の理解を得て、安保理常任理事国として責任を果たす用意があることを申し上げたいと考えます。
第3には、貧困に悩む途上国や市場経済への移行努力を続ける諸国への支援であります。これらの諸国に対する支援に当たっては、政府開発援助大網を踏まえ、民主化や人権及び自由の保障、軍事支出の抑制努力等を念頭に置きつつ、その充実を図ってまいります。
また、深刻さを増している環境、人口、麻薬、エイズ等の地球規模の問題に対しましても、人類や地球に対するやさしさを追求していく国家として、過去の経験に基づく知恵や技術を活かし、その解決に一層積極的な役割を果たしてまいります。
我が国自身の防衛力整備については、冷戦後の国際情勢の変化も踏まえつつ、世界の軍縮を願い、平和国家を目指す我が国にふさわしい、専守防衛に徹した必要最小限の防衛力の整備を心掛けてまいります。
(マラケシュ協定の批准と総合的な農業対策の実施)
戦後の50年はそのままガットに基づく多角的自由貿易体制の歴史でもありました。その利益を最も享受してきた我が国としては、引き続きこの体制の発展への取組を強化していく必要があります。政府は、ウルグァイ・ラウンド交渉の結果作成された「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」及び関連法案を今国会に提出いたします。是非とも来年1月1日の発効に向けて、年内成立をお願いいたします。
特に、農業につきましては、ウルグァイ・ラウンド農業合意の実施に伴う新たな国際環境への対応が求められておりますが、これを契機として、我が国農業・農村の自立と持続的な発展を期するとともに、農業に携わる人々が将来に希望をもって働けるよう、今後の我が国の農業再生の抜本的な対策の実施を急がねばなりません。このため、先の農政審議会報告を踏まえ、食管制度の改革を始め、農業経営の効率・安定化、生産基盤整備、農山村地域の活性化など各分野にわたって速やかに総合的な施策を講じていく決意であります。
(アジア太平洋地域の安定と発展に向けて)
私は先般、東南アジア諸国を訪問し、未来を展望した新たな協力の在り方について、率直な意見交換を行ってまいりました。東南アジア諸国、そして我が国を含むアジア太平洋地域は近年その発展のエネルギーと多様性を活かしつつ、様々な面での協力を推進しようとの気運が高まっております。我が国としては、この地域の人々との共生という考え方に立って、ASEAN地域フォーラムへの積極的な参画等による努力を行っていくほか、経済面では、11月のAPEC非公式首脳会議等の場を通じ、この地域を世界の成長センターとして発展させていくため、開かれた地域協力を推進し、積極的な役割を果たしてまいります。また、近年大きな発展を続けている日中関係や日韓関係は、そうしたアジア太平洋地域の安定と発展にとっても重要であり、我が国は引き続きこれらの関係を重視していく考えであります。
北朝鮮については、核兵器開発問題に関する米朝間のやり取りをめぐる状況を注意深く見守りながら、一日も早く、残された問題が解決して核兵器開発に対する国際社会の懸念が払拭されるよう、米国、韓国、中国等関係諸国と緊密に連携し、最善の努力をしていく考えであります。また、我が国としては、今後の北朝鮮の動向を慎重に見守りながら、日朝間の国交正常化問題に取り組んでいきたいと考えます。
日米関係は、冷戦後の世界の平和と繁栄を形造っていくためにも最も重要な二国間関係であります。私は、我が国外交の基軸としてこのような日米関係の維持・強化に努めることとし、日米安保体制を堅持してまいります。経済面では、日米包括経済協議について、日米双方が誠意を尽くして合意を実現すべく、現在ワシントンにおいて精力的に話合いを行っているところであります。
(結び)
先日、我が国初の女性宇宙飛行士、向井千秋さんにお会いしました。向井さんは、スペースシャトルの座席で点火の瞬間を迎えた気持ちを、不安感ではなく、これでやっと宇宙に行ける、宇宙で仕事ができるという、一種ほっとした気持ちと表現されました。その言葉に深い感銘を覚えると同時に、私も総理の席について、政治の舵取りを委ねられた以上、理想の政治を目指し全力を尽くすとの決意を新たにしたところであります。
私が目指す「人にやさしい政治」は、易きにつき、改革の産みの苦しみを避けて通る政治でありません。人にやさしくあるためには、自己に厳しくあらねばなれません。社会の構成員に対しても真に責任をもった政策決定を行う政治、未来の世代に対しても胸を張って責任をもてる政治が今最も求められております。私は、そのような政治の実現を目指してまいります。
国民の皆様と議員各位の御理解と御協力をお願い申し上げます。
(平成6年8月31日)
明年は、戦後50周年に当たります。私は、この年を控えて、先に韓国を訪問し、またこのたび東南アジア諸国を歴訪しました。これを機に、この重要な節目の年を真に意義あるものとするため、現在、政府がどのような対外的な取組を進めているかについて基本的考え方を述べたいと思います。
1 | 、我が国が過去の一時期に行った行為は、国民に多くの犠牲をもたらしたばかりでなく、アジアの近隣諸国等の人々に、いまなお癒しがたい傷跡を残しています。私は、我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐えがたい苦しみと悲しみをもたらしたことに対し、深い反省の気持ちに立って、不戦の決意の下、世界平和の創造に向かって力を尽くしていくことが、これからの日本の歩むべき進路であると考えます。 |
我が国は、アジアの近隣諸国等との関係の歴史を直視しなければなりません。日本国民と近隣諸国民が手を携えてアジア・太平洋の未来をひらくには、お互いの痛みを克服して構築される相互理解と相互信頼という不動の土台が不可欠です。 | |
戦後50周年という節目の年を明年に控え、このような認識を揺るぎなきのもとして、平和への努力を倍加する必要があると思います。 | |
2 | 、このような観点から、私は、戦後50周年に当たる明年より、次の二本柱からなる「平和友好交流計画」を発足させたいと思います。 |
第1は、過去の歴史を直視するため、歴史図書・資料の収集、研究者に対する支援等を行う歴史研究支援事業です。 | |
第2は、知的交流や青少年交流などを通じて各界各層における対話と相互理解を促進する交流事業です。 | |
その他、本計画の趣旨にかんがみ適当と思われる事業についてもこれを対象としたいと考えています。 | |
また、この計画の中で、かねてからその必要性が指摘されているアジア歴史資料センターの設立についても検討していきたいと思います。 | |
なお、本計画の対象地域は、我が国による過去の行為が人々に今なお大きな傷跡を残しているアジアの近隣諸国等を中心に、その他、本計画の趣旨にかんがみふさわしい地域を含めるものとします。 | |
この計画の下で、今後10年間で一千億円相当の事業を新たに展開していくこととし、具体的な事業については、明年度から実施できるよう、現在、政府部内で準備中であります。 | |
3 | 、いわゆる従軍慰安婦問題は、女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、私はこの機会に、改めて、心からの深い反省とお詫びの気持ちを申し上げたいと思います。 |
我が国としては、このような問題も含め、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、関係諸国等との相互理解の一層の増進に努めることが、我が国のお詫びと反省の気持ちを表すことになると考えており、本計画は、このような気持ちを踏まえたものであります。 | |
なお、以上の政府の計画とあいまって、この気持ちを国民の皆様にも分かち合っていただくため、幅広い国民参加の道をともに探求していきたいと考えます。 | |
4 | 、また、政府としては、女性の地位向上や女性の福祉等の分野における国際協力の重要性を深く認識するものであります。 |
私は、かねてから、女性の人権問題や福祉問題に強い関心を抱いております。明年、北京において、女性の地位向上について検討し、21世紀に向けての新たな行動の指針作りを目指した「第4回世界婦人会議」が開催されます。このようなことをも踏まえ、政府は、今後、特にアジアの近隣諸国等に対し、例えば、女性の職業訓練のためのセンター等女性の地位向上や女性の福祉等の分野における経済協力を一層重視し、実施してまいります。 | |
5 | 、さらに、政府は、「平和友好交流計画」を基本に据えつつ、次のような問題にも誠意を持って対応してまいります。 |
その一つは在サハリン「韓国人」永住帰国問題です。これは人道上の観点からも放置できないものとなっており、韓国、ロシア両政府と十分協議の上、速やかに我が国も支援策を決定し、逐次実施していく所存です。 | |
もう一つは、台湾住民に対する未払給与や軍事郵便貯金等、長い間未解決であった、いわゆる確定債務問題です。債権者の高齢化が著しく進んでいること等もあり、この際、早急に我が国の確定債務の支払を履行すべく、政府として解決を図りたいと思います。 | |
6 | 、戦後も、はや半世紀、戦争を体験しない世代の人々がはるかに多数を占める時代となりました。しかし、二度と戦争の惨禍を繰り返さないためには、戦争を忘れないことが大切です。平和で豊かな今日においてこそ、過去の過ちから目をそむけることなく、次の世代に戦争の悲惨さと、そこに幾多の尊い犠牲があったことを語り継ぎ、常に恒久平和に向けて努力していかなければなりません。それは、政治や行政が国民一人一人とともに自らに課すべき責務であると、私は信じております。 |