1. 交実施体制 |
[外交実施体制の強化の必要性]
冷戦終結後の国際情勢の中で、外交の重要性はあらゆる分野において急激に増大している。外務省の業務量は冷戦終結以前から日本の国際的地位の向上とともに急速に増大してきたが、近年はますます増加の一途をたどっている。例えば、外務省本省と在外公館を結ぶ主要な通信手段である電信の総数は、93年の時点で15年前(78年)に比較して約5倍、経済協力額は約5倍、条約その他国際約束の締結数は約4倍、査証発給数は約3倍となっている。また、海外の在留邦人数、海外旅行者数の増加に伴う事務も増えており、この状況に適切に対処する必要がある。
このような通常業務の増大に加え、日本が世界の平和と繁栄、安定のための新しい枠組みの構築に積極的に参画していくことが必要となっている今日、新しい時代にふさわしい、より能動的かつ創造力豊かな外交を展開し得るような外交実施体制の整備・強化を図ることが不可欠である。具体的には、
(あ) | 主要先進国に比べてまだまだ不十分な外務省定員等の増強、 |
(い) | 種々の外交課題に適切に対応するための機構の拡充、 |
(う) | 在外公館の機能強化(在外公館施設等の強化、海外邦人安全対策・危機管理体制の強化)、 |
を速やかに実現することが必要である。
[機構・定員及び予算面での努力]
このような認識の下に、外務省は、94年1年間に機構・定員、予算の面で外交実施体制の強化に向けて次のような努力を行った。
機構については、NGO(非政府組織)に対する資金面での支援や情報の提供・交換などを今後一層強化・拡充するため民間援助支援室を新設するとともに、旧ソ連邦諸国の外交、内政、経済につきよりきめ細かい情報の収集・分析を行うため新独立国家室を新設した。また、在外公館については、95年1月に、カリブ海において指導的地位にあるジャマイカに大使館(実館)を設置するとともに、湾岸情勢に関する情報収集の重要な拠点であるアラブ首長国連邦のドバイに総領事館を新設し、在エンカルナシオン領事館を出張駐在官事務所へ移行した。これにより94年度末における日本政府の在外公館(実館)の数は大使館111、総領事館63、領事館1及び政府代表部6の合計181となる。
人員の増加については、情報収集・分析機能の強化、邦人保護を含む危機管理体制の整備、国際貢献策の充実・強化、外国人問題への対応などを重点として取り組んできた。この結果、厳しい予算、定員事情ではあるが、94年度には外務本省38人、在外公館112人の合計150人の増員となる。
外務省としては、既に定員の増加に限らず人材の採用・育成等の分野で、外交強化懇談会の報告を受けて所要の改革を実施してきている。今後とも、国際情勢の展開に機動的かつ適切に対応できる、活力ある外務省を目指して同報告の内容の実現、ひいては外交実施体制のより一層の拡充に向けて更に努力を重ねる必要がある。
予算面においては、厳しい財政事情の中ではあるが、94年度予算において、(あ)外交実施体制の強化(定員・機構の拡充、海外邦人安全対策・危機管理体制の強化を含む在外公館の機能強化、情報機能の強化等)、(い)国際貢献策の充実強化(二国間援助等の拡充、平和及び地球的規模の問題に関する協力、国際文化交流の強化)という2本柱を中心に着実な予算拡充に努め、前年度比4.6%増(305億円増)の6,946億円を計上した。
2. 領事体制 |
93年の海外渡航者数は、日本経済の状況や円高等の影響もあって、上半期は前年比5.3%減となったものの、7月以降は前年同期と比較して増加し、史上最高の1,193万人に上った。また、海外に3か月以上滞在する長期滞在者(永住者を除く)は、近年示していた前年比10%前後の急速な増加傾向から、93年は1.8%の増加となり、前年に引き続き伸び率は大きく低下したが、それでも93年10月現在で43万3千人に届こうとしている。
その中で、依然として日本人が海外において事件・事故に巻き込まれる事案が増大している。とりわけ、凶悪事件の被害が目立っており、94年においても18件、20名の日本人が犯罪被害に遭い殺害されている。一方、世界情勢が引き続き不安定な状況下で、日本人が世界各地の紛争、騒乱等の緊急事態に巻き込まれる危険性もますます高まっている。
政府としては、海外で事件・事故あるいは緊急事態にあった日本人の援護にできる限りの支援を行っており、特に、94年においては、自衛隊法の一部を改正する法律が施行されたことにより、緊急時における邦人救出のため政府専用機をはじめとする自衛隊機が使用可能となり、退避手段の充実が図られることとなった。
安全対策の面では、政府は国内において、安全相談センターを通じての各国治安情報等の提供、官民協力会議の開催、国別海外安全情報FAXサービスの充実、海外安全週間の実施等の施策を推進している。
また、領事体制を強化するために、政府としては領事専門家の育成を図り、領事事務関係のノウ・ハウの蓄積を最大限利用できる体制を整備し、統一的視点から領事機能の強化を推進していくなどの努力を続けている。
戦後間もなく活発に行われた中南米移住は、今やほとんど見られなくなり、これに伴って移住者の渡航を支援する国の業務も93年度をもって終了した。一方、現在150万人に達すると推定される中南米の移住者・日系人社会では世代交代が進んでおり、今日では日系二世・三世がその中心となりつつある。これらの日系人は、居住国の各界で活躍して各国の発展に貢献し、また日本とのかけ橋として貴重な役割を果たしており、こうした日系人 を支援するための体制作りの重要性が増大している。また、最近日本で就労する日系人が多数に上っており、これらの人々の福利向上等のための施策も重要な課題となっている。
日本においては、円高の影響等により93年入国外国人数が375万人と前年に比べ僅かに減少したが、同年末の外国人登録者数は132万人と前年同期に比べ増加しており(法務省統計)、入国・滞在する外国人の数は今後とも増加するものと考えられる。
日本は外国人労働者の受入れについて、専門的技術や知識を有する外国人の受入れは拡大するが、いわゆる単純労働者については、経済及び社会に対する影響が大きいことから国民的同意が十分得られないなどの理由により、今後とも慎重に検討することとし、現時点では受け入れないとの方針をとっている。
近年、日本とアジア等の開発途上国との経済格差から、これら諸国等から不法就労しようとして日本に来る者があとを絶たない。出入国管理及び難民認定法(入管法)に違反して不法滞在する外国人(大部分が不法就労者)は、94年5月現在29万3千人(法務省推定)と前年同期に比ベ僅かに減少し、従来の増加傾向に一応の歯止めが掛かったものの、4年前に比し約3倍の数になっている。これら不法就労者は、不法就労であるがゆえに劣悪な労働条件下で働かされたり、社会保障制度上の保護も事実上受けられないケースも多く、そのため人権に関わる問題も起きている。このような状況は、これら外国人の出身国における対日イメージを著しく損なうばかりでなく、健全な国際交流の妨げにもなる。そのため、関係当局は不法滞在や不法就労を行う者および不法就労を助長する者を取り締まるなど行っており、外務省としても査証発給の厳格化に努めるとともに、関係国に対し当該国における不法就労者送り出し業者の取締り、不法就労防止に関する啓発等につき協力を得るための対話を行っている。
また、開発途上国の国内産業に必要な人材の育成は、労働力の国外流出を防ぐ上からも有用であり、民間による研修及び研修生が研修で得た技能や資格を実際の業務の場で実践的に身に付けるための「技能実習」を支援している。
近年、国際的な情報伝達網の発達や国際的な相互依存関係の深まりを背景に、一国の世論が瞬時に世界各国に伝達されるようになっている。その結果、日本国内の世論が他国の世論に影響を与え、逆に、他国の世論が日本の世論に影響を与えるようになったこともあり、外交政策を考える上で、このように相互に影響を与え合う各国の世論を考慮する必要性が高まっている。このような状況の下で、外交を進めるにあたって諸外国の国民の日本に対する幅広い理解を図るとともに、日本国内においても国際情勢や外交政策に対する国民の一層の理解を図ることが極めて重要となってきている。
具体的には、国内広報の面では、国民の国際情勢や外交問題に対する関心の高まりに応え、94年度より外務省情報FAXサービスシステム(MOFAX)を開始し、一般国民に対する幅広い情報提供に努めているほか、外務省幹部が全国の大学に出向いて、国際情勢や外交問題についての講演を行う「外交講座」を行っている。また、複雑化する国際問題を、できるだけ分かりやすく解説するとの観点から、テレビ、ラジオ、ビデオ等の電波媒体を用いた広報に力を入れるとともに、活字媒体についても、「外交青書」をはじめ、オピニオン誌「外交フォーラム」や月刊誌「世界の動き」等のより一層の内容の充実を図っている。また、地方レベルの国際化、国際交流を支援するとの観点から、地方自治体と連携して「外交の窓」、「外交クラブ」等の各種イベントを開催している。
海外広報の面でも、在外公館を活用しつつ、マス・メディアのみならず、有識者、オピニオン・リーダー、マイノリティー、教育者、学生・児童等を対象としたきめ細かな広報活動を展開し、現代日本の素顔や日本の政策についての紹介を行うことにより、日本に対するイメージの向上や誤解の解消に努めている。また、先進国を中心とする世界的なマルチ・メディア環境の発達に対応して、従来の印刷物、ビデオ、人物交流といった広報手段に加え、新しい広報活動を企画している。すなわち、世界的な規模で急速に拡大しているコンピューター通信網であるインターネットを通じた情報提供を実現するとともに、外務省の広報資料を大量の文字情報のほか画像も収録できるCD-ROMにして配布できるよう準備している。