第5項 国際経済
冷戦終結後、経済面での問題が政治問題化されやすくなるとともに、世界経済の相互依存関係の深まりにより、従来専ら国内政策の分野として考えられていた問題についても、国際的な調整が必要となる状況が生じてきている。そうした中で、93年12月に関税及び貿易に関する一般協定(GATT)ウルグァイ・ラウンド交渉が実質的に妥結したことは、先進国を中心として協調して世界経済の健全な発展を図るという意味からも重要な意義を有するものであった。
他方、先進国経済を見れば、北米では景気拡大が確かなものとなりつつあり、また、イギリス等にも緩やかな景気回復が見られるが、全体としては依然として低迷しており、その中でも失業率の上昇が大きな政治、社会問題になっている。経済再建を掲げて登場した米国のクリントン大統領をはじめ、主要先進国の指導者はそろって経済再生に向けて努力を続けているが、世界的に景気が本格的に回復するにはいまだ相当の時間を要するものと考えられている。
サザーランドGATT事務局長と会談する羽田外務大臣(共同)
経済協力開発機構(OECD)諸国の実質経済成長率について見ると、91年0.8%、92年1.5%と92年は若干回復の兆しが見えたものの、93年は再び低下し1%前後の見通しである。失業者についても、OECD諸国では94年中に3,500万人前後に達すると見通されている(OECD資料)。
その中で、持続的成長の回復と雇用の増加に向けての先進国間の政策協調の努力が続けられている。7月の東京サミットでは、このために財政・金融面でのマクロ経済政策と労働市場での硬直性の緩和等ミクロ面での構造調整政策の「二面戦略」の下、各国が協調して適切な措置をとる決意が示された。
貿易面では、92年の世界貿易量の伸びは対前年比5.2%と若干改善の兆しを見せたものの、93年は主要先進国の景気低迷を反映して2.6%程度に、とどまると見通されている(OECD資料)。その中でのウルグァイ・ラウンドの妥結は、今後の世界経済の一層の活性化と発展への契機となるものとして強く期待される。
また、各地域での統合、協力の動きも一層進行している。欧州では、11月に欧州連合(EU)が発足し、94年には経済・通貨統合の第2段階に移行するなど統合の深化が進む一方で、同年1月には欧州経済領域(EEA)協定が発効するなど統合の拡大も進んでいる。北米でも、北米自由貿易協定(NAFTA)が、米国内で政治的議論を引き起こしたものの、11月に批准され、94年1月に発足した。
アジア太平洋は、多角的自由貿易体制の下、地域としての制度的枠組みを持たず、それぞれの多様な発展段階に応じた経済成長を遂げ、生産面のみならず需要面からも世界経済の発展を下支えする役割を果たすようになっている。こうした特性を活かしつつ、地域経済面での協力関係を推進していくため、従来よりアジア太平洋経済協力(APEC)において様々な活動がなされてきた。11月にはこの地域の首脳が初めて一堂に会し、APEC経済非公式首脳会議が開催され、地域全体の役割、貢献及び協力のあり方に関し意見交換が行われた。
先進国経済が全般に低迷する一方で、開発途上国の経済は、地域的な差異はあるものの全体的に比較的良好な状態にあり、途上国全体の成長率は、91年の4.5%から、92年には5.8%、93年には6.1%となる見込みである。特に、アジア太平洋地域は安定的に5%から10%の成長率を達成しており、また、中南米においても多くの国で経済状況が著しく好転している(数値はIMF資料)。
他方で、それ以外の地域の諸国は依然として厳しい経済状況にあり、特に、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国の1人当たりの国内総生産の伸び率は87年以降連続してマイナスになっている。このような後進開発途上国の厳しい経済状況は、累積債務問題や一次産品市況の低迷、高い人口増加率、国内経済改革の困難、マクロ経済の不安定といったあらゆる途上国問題と関連している。
4月のG7閣僚合同会合の際の外相会合に出席する武藤外務大臣
途上国の経済発展を促進し、世界経済へ統合していくことは、世界の平和と繁栄、さらには環境といった地球的規模の問題の解決のために不可欠である。こうした認識に立って、東京サミットにおいては、それぞれの国の経済の発展段階や実績に合わせた支援を行うこと、そして援助のみならず貿易、投資及び債務戦略をも含む包括的取組みが重要であることに合意された。さらに、10月に日本で開催された「アフリカ開発会議」においても援助のみならず貿易や投資を通じた自助努力の重要性について認識の一致をみた。
中・東欧、旧ソ連諸国、モンゴル等移行期にある諸国は、依然厳しい経済状況に置かれている。中・東欧諸国の経済成長は、92年は平均でマイナス5%であり、特に、ルーマニア、ブルガリア等の農業中心国が経済再建に困難を抱えている。旧ソ連諸国はさらに厳しい状況にあり、92年に平均でマイナス18%の成長と2,000%のインフレを記録し、ロシアにおいては93年も900%程度のインフレが見込まれている。また、ロシア経済に大きく依存するロシア以外の旧ソ連新独立国家(NIS)諸国においては、ロシアによるエネルギー価格の国際価格水準への引上げ、金融引締め政策、そして7月の旧ルーブル紙幣のロシア国内での流通停止といった政策が経済に大きな打撃を与えた(以上数値はOECD資料及びロシア国家統計委発表)。
これらの国の改革が成功し、世界経済に完全に組み入れられることが、世界の平和と安定のために不可欠であるとの認識の下、主要先進国は、東京サミット等の場を通じてこれらの国の自助努力に対して協調して支援を行っている。また、特にロシアに対しては東京サミットのプロセスの一環として4月に東京で外務、大蔵大臣合同のG7及びG7とロシアとの間での閣僚合同会合がそれぞれ開催され、支援の国際協調体制の枠組みがつくられるとともに、具体的支援パッケージがとりまとめられた。