第2節 邦人保護・危機管理体制の強化

 

1. 邦人保護・危機管理体制の強化の必要性

 

 依然不安定な世界情勢の中、日本からの海外渡航者が1,000万人、在留邦人が60万人を超え、海外進出企業の数、海外資産も飛躍的に増え、国際社会において日本のプレゼンスが増大している。

 平素から外交活動の最前線拠点である在外公館は、緊急時には、邦人保護を含む危機管理の拠点となる。もともと在外公館の多くは、インフラが劣悪で治安条件も悪い地にあるが、緊急事態には、情報の混乱、通信・電気の途絶など、制約が倍加する中でその機能を発揮することが求められている。

 近年、緊急事態や邦人を狙った犯罪が多数発生しており、91年に海外で日本人が騒乱、災害等の緊急事態に遭遇し、日本政府が何らかの保護措置をとった事例は45件に上った。また、特に90年8月に生じた湾岸危機は、在外公館の邦人保護・危機管理体制の強化につき特に重要な教訓を与えた。具体的には、情報収集・分析機能の一層の強化、回線が途絶した場合にも迅速な連絡を可能とする通信・連絡機能の強化、また、在外公館が電気、食糧などの制約の下でも「砦」としての機能を維持する能力の向上が急務であるということである。

 91年6月の海外移住審議会の緊急意見書は、通信体制の整備、安全確保に必要な情報の国民への提供、輸送能力の拡充、在外公館施設とその設備や人員体制の拡充など、緊急事態への対処能力の強化を政府に提言した。さらに、同年12月、外交強化懇談会は、邦人保護・危機管理体制及び施設整備など在外公館の機能、体制の強化を早急に推進すべきであると提言している。

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2. 機構、定員、予算面等での努力

 

 92年度に、機構面では、緊急事態における邦人保護体制の強化を目的とした邦人援護官が新設された。定員面でも、邦人保護・危機管理体制整備のための定員増が認められた。

 92年度予算においては、危機管理体制の抜本的強化のため、対前年比108.2%増(7.0億円増)の13.5億円を計上した。電信(有事無線)、緊急邦人無線、自動車電話、携帯電話、ポケットベル、海事衛星通信(インマルサット)、パラボラアンテナ、外電ティッカーなどにより通信・連絡機能を、また発電機、燃料タンク、緊急備蓄などにより公館機能維持能力を大幅に強化した。

 しかし、欧米諸国の水準に比べ日本の邦人保護・危機管理体制は未だ不十分であり、今後、ハード面及びソフト面の一層の拡充を進める必要がある。

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3. 官民協力体制

 

 91年の湾岸危機や91年から92年にかけて邦人の凶悪犯罪被害が多発したことを背景として、上記の邦人保護・危機管理体制のソフト面の拡充のため、国内においては、92年6月に、海外における日本人の安全対策に関する情報交換、研究、対策を官民が協力して行う海外邦人安全対策官民協力会議を発足させた。また、海外においては、国際機関代表部を除く170公館において邦人安全対策担当官を指名して安全対策全般にわたる責任者としたほか、アジア、中南米、中近東、アフリカ地域を中心に現地公館と日本人会等の現地在留邦人組織により構成される安全対策連絡協議会を112公館において設置するなど、緊急事態等に備え日頃から官民の協力体制を強化している。

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