5. 湾岸危機に関する資料

 

(1) 記者会見における内閣官房長官発言要旨

   (イラク軍のクウェイト侵攻について)

    (90年8月2日)
  1.  本日未明,イラク軍がクウェイト領内に侵攻したとの情報に接しており,極めて遺憾である。
  2.  わが国としては,かかる事態の悪化を深く憂慮しており,直ちにイラク軍の撤退を要請するとともに,イラク,クウェイト両国間に存在する諸問題が,武力によることなく,話し合いにより解決されることを強く希望する。

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(2) 内閣官房長官談話

    (90年8月5日)
  1.  日本政府は,国際紛争は平和的に解決されなければならないとの立場から,イラク軍のクウェイト侵攻を強く非難し,イラクが国連安保理決議第660号を直ちに履行するよう改めて要請する。
  2.  政府はかかる立場に立って,既に在日クウェイト資産の保全に資する措置を取ったが,これに加えて,今般,以下の措置をとることを決定した。
(1) イラク及びクウェイトからの石油輸入の禁止。
(2) イラク及びクウェイトへの輸出の禁止。
(3) イラク及びクウェイトに対する投資,融資その他資本取引の停止のための適切な措置。
(4) イラクに対する経済協力の凍結。
3.  政府は,国連安保理において制裁決議が成立する場合には,同決議を誠実に履行する。
4.  政府は,この地域における日本国民の安全を確保するため,引き続き必要な措置をとることとする。
5.  政府は,問題を交渉により解決するための国際的努力を全面的に支援する。

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(3) 外務大臣談話

    (90年8月7日)
   国連安全保障理事会は,6日午後3時40分(東京時間7日午前4時40分),イラクに対する強制制裁決議を採択した。国連安全保障理事会が国連憲章第7章に基づきかかる包括的制裁決議を採択したことを我が国としても歓迎する。
   国際の平和と安全を確保する上で,国連の活動への期待が今日高まっている。国際社会が一致団結して,イラク軍の撤退,域内の平和の回復のために行動することを決定したことは,極めて重要な意味合いをもつものと高く評価する。
 我が国としては,5日発表した我が国独自の措置にあわせ,今般の安保理決議を誠実に履行してまいる考えである。
 我が国としては,1日も早く安保理決議の目的が達成されることを強く希望する。

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(4) 内閣官房長官談話

    (90年8月24日)
  1.  今月2日のイラクによるクウェイト侵攻及びクウェイト併合という国際法違反の暴挙については,政府はこれを強く非難し,イラク軍が直ちに撤兵すべきこと,クウェイトの正統政府が復帰すべきことを要求してまいりました。政府は同時に,8月5日イラクに対する経済制裁を決定し,これを実施してまいりました。事件発生以来3週間余りが経過し,この間世界の圧倒的多くの国が国連安全保障理事会決議の実施に多大の精力を払っているにもかかわらず,イラク政府がこれに応じていないのは憂慮に堪えません。
  2.  国連安全保障理事会は経済制裁決定に引き続き,在イラク・クウェイトの外国人の安全を保証すること,出国を希望するものは出国させるべきこと等を決定し,事務総長の特使をイラクに派遣いたしましたが,イラク政府はこれに何らの前向きの答えを出さなかったのであります。イラク政府が自国内の外国人に対する出国の自由を含む適正な取扱いの義務を定める関連条約及び確立した国際法規に違反する行為を取り続けていることは誠に許すべからざる事態であります。
3.  政府としては事件発生以来,関係諸国とも協議しつつ,邦人の安全につきできる限りの措置を講じてまいりました。現在クウェイトより出国した多くの邦人を含め,多数の外国人がイラク当局の手により自由を奪われた状態におかれている事態は国際社会において許されてはならない行為と言わざるを得ません。政府としては,この事態の解決を始め,邦人の安全確保のため一層の努力を続ける決意であります。
4.  他方において,国際の平和と安定に責任ある役割を果たさねばならない立場にある我が国としては,憲法の下,関係諸国と協力し平和の回復のためにできる限りの貢献をしなければなりません。政府としては,そのためにできるだけ早く具体策の取りまとめを進めてまいる所存であります。
5.  事態の深刻なることを踏まえ,国民の御理解を求める次第であります。

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(5) 記者会見における内閣総理大臣発言要旨

    (90年8月29日)
  1.  御承知の通り現在中東に於ては,国際社会全体にとって,また,我が国自身にとって,重大な脅威と受け止めなくてはならない事態が発生しております。それは,申すまでもなく,イラクによる不法な侵略によって中東の湾岸地域の平和が崩れ去ったことであります。
  2.  イラクによるクウェイト侵略とその併合は,国連憲章を真っ向から否定するものであり,さればこそ,国連の安全保障理事会は,これを国際の平和と安全の破壊と認定して,クウェイトからの即時・無条件撤兵に応じないイラクに対して,全国連加盟国の義務として,厳しい経済制裁を実施することを決定したのであります。
3.  中東地域と言えば,我が国から遠く離れた地域ではありますが,今回のイラクの侵略は,我が国にとって3つの点で重大な問題であることを,国民の皆様にも理解して頂きたいと思います。
 第1に,我が国としては,国際社会に対するこのような露骨な侵略行為は断固否定しなくてはならないということであります。我が国の国際的対応が,この事態の本質を少しでも見失ったものとなる場合には,我が国が拠って立っております平和国家の理念そのものが,内外から問われることになります。
 第2は,我が国は,この中東湾岸地域に石油エネルギー供給の7割を依存しておるということであります。従って,当然のことながら,この地域の平和と安定が守られることは,我が国自身が自らの努力を傾けなければならない重大な国益であるという事実を,認識する必要があります。
 第3に,世界の石油埋蔵量の実に65パーセントを占めるこの地域の平和の回復は,我が国ばかりでなく,世界経済のこれからの発展と繁栄にとって,死活的に重要な意味を持っております。東西冷戦が終わりを遂げて,今後21世紀に向って,冷戦時代の発想を乗り越えて新しい国際秩序の構築に,日本も先進民主主義国の一員として,国際的な責任を負って行かなくてはならない立場にありますので,湾岸地域の平和の再建は,到底他人任せにすることは許されない,自らも積極的に貢献して行かなければならない問題なのであります。
4.  国連の制裁決議に応じて,アメリカをはじめ,ヨーロッパ,アラブ,アジアの多くの国々が,イラクの手で無残に破壊された湾岸地域の平和の回復のために立ち上がっており,この決議にはソ連も支持を与え,また,国連の加盟国でない永世中立国のスイスも,国連決議に,自発的に,経済制裁には加わっています。正に,平和を守らなければならないという広範な国際的努力が行われているところであります。もし我が国の対応が遅れたり,自分自身の重大な国益がかかっているこの地域の平和のために日本は何もしないという印象が世界に拡がりますと,我が国の将来にとっては極めて大変なことになります。我が国は国際的に孤立して行かれる国ではありません。私はこういう考え方に立って,予定していた中東訪問も暫時延期して,我が国の平和への貢献策の取りまとめに当って来たところであります。
5.  今夜政府が発表しました貢献策は,今後更に肉付けを必要とします。おおよそ次の二つの柱を中心として,それを行います。
 第1は,イラクの一層の侵略を抑止すると共に,経済制裁の実効性を確保するために,湾岸地域とその周辺海域に展開している米,欧,アラブ等のいわゆる多国籍軍に対する,輸送,物資,医療等の面での協力であります。これを実施するに当っては,我が国の憲法上の立場を遵守して行くことは,申すまでもありません。
 第2は,今回の事態によって,大きな困難に直面している周辺諸国に対する経済的支援であります。難民に対する人道的援助もその一環であります。
6.  平和を守るためには,不断の努力が求められます。我が国が国際社会の中でより大きな地位を占めるようになればなる程,平和を守るための責任は重くなり,我が国自身,その自覚に立って,より一層の貢献を求められます。今日の中東の事態ばかりではなく,今後そのような我が国の行動が求められることにもなります。これから国際社会の中で,我が国が,平和を守り,これを維持するための国連の活動やこれを支持する加盟国の国際的努力に協力して行く責任を,より適切に果たして行くことが出来るよう,現行の法令・制度を見直して,国際社会への貢献のため,憲法の枠組の中で出来る限りの責任を果たすという観点から,例えば,まだ私案ですけれども,国連平和協力法というような法律の制定も真剣に考えてみる必要があると思います。
7.  イラクの隣国併合という未曾有の事態は,あくまで国連安全保障理事会の決議の定めるところに従って解決されなければなりません。かかる努力が実を結ぶためには,なお相当期間に亘る忍耐と粘り強い努力が必要であります。政府としては,アラブ諸国をはじめ,各国と協力して,国際社会が受け入れることの出来る,公正な問題の解決を探求する努力を積極的に支援して行きたいと考えます。
 また,イラクに対しては,その行為を厳しく咎める世界の声に率直に耳を傾けることを強く求めますと共に,イラクが国連安保理事会の決議を受け入れる場合には,我が国をはじめ世界の諸国との間での協力関係を,改めて築き直すことも可能であるということを指摘したいと思います。
8.  最後に,イラク及びクウェイトに於て極めて困難な状況に置かれ,自由を奪われ,これに耐えて来ておられる在留法人の皆様とその留守家族の方々のことを想い,私は深く心を痛めております。皆様の御労苦,御心労は察するに余りあるものがございます。
 我が国の同胞が,また多数の国の国民が,国際法にも人道にももとる不当な取り扱いを受けていることは,誠に許し難いことであります。既に国連や赤十字国際委員会も,問題の解決のために動き出しております。政府としましては,これからも在留邦人の方々の安全確保のために出来る限りの努力を続けると共に,国際社会と共に,皆様の安寧と行動の自由が回復されますように,あらゆる努力を尽して行く決意であります。国民の皆様におかれましては,我が国の将来に想いを致され,政府の対応に対する御理解と御協力を,心からお願い申し上げる次第であります。

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(6) 中東における平和回復活動に係る我が国の貢献策

    (90年8月29日)
  I. 湾岸における平和回復活動に対する協力
   湾岸の平和と安定の回復のため安保理の関連諸決議に従って活動している各国に対し,適切な方法により思い切った協力を行う。
1. 輸送協力
 各国の活動に伴う膨大な輸送需要に鑑み,政府が民間航空機・船舶を借り上げ,食糧・水・医薬品等の物資を対象に輸送協力を行う。
2. 物資協力
 砂漠地帯という過酷な自然環境の下で行われる各国の活動を支援するため,防暑,水の確保等の面で資機材を提供するために必要な措置をとる。
3. 医療協力
 物的・財政的のみならず,人的側面においても積極的貢献を行うとの観点から,各国に対する医療面での協力を行うため,100名を目途に医療団を緊急に派遣し得る体制を速やかに整備することとし,とりあえず先遣隊を早急に派遣する。
4. 資金協力
 湾岸の平和と安定の回復のため,上記1.~3.の措置に加え,各国が行う航空機・船舶の借り上げ経費等の一部にあてるため,適切な方法により資金協力を行う。なお,資金協力の規模及び方法等については,今後早急に検討を行うものとする。
  II. 中東関係国に対する支援
1. 周辺国支援
 緊急かつ深刻な経済的困難を抱えるに至ったジョルダン,トルコ,エジプトといった域内周辺諸国に対して,相当規模の譲許性の高い資金支援等の経済協力を実施する。また,関係国際機関に対しても,我が国からこれら諸国に対する積極的支援を働きかける。
2. 難民援助
 関係国際機関等のアピールを踏まえ,必要資金の相当部分を負担することとし,とりあえずジョルダンの難民支援のため1000万米ドル強の援助を行う。

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(7) 記者会見における内閣官房長官発言要旨

    (90年8月30日)
   中東に於ける平和回復活動にかかる我が国の貢献策の一環としての資金協力については,昨日の閣議了解を踏まえ,政府部内で昨夜来鋭意検討を進めてきたが,湾岸地域における平和と安定の回復のための国際的な努力に対し,我が国としても積極的に貢献すべきであるとの決意から,思い切った施策を講ずることとし,輸送協力,物資協力及び医療協力を含め,10億米ドルの協力を適切な方法により行うこととした。

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(8) 記者会見における内閣官房長官発言要旨

   (我が国の対中東貢献策について)

    (90年9月14日)
   去る8月29日,政府は,「中東における平和回復活動に係る我が国の貢献策」を発表したが,本日,更に以下の通り決定した。
  1.  先般の貢献策のうち,「中東関係国に対する支援」については,今次事態により,深刻な経済的損失を被ったエジプト,トルコ,ジョルダンといった周辺諸国に対し,総額20億ドル程度の額の経済協力を実施する。
(1)  このうち,エジプト,トルコ,ジョルダンに対して,先ず,6億ドルの,今次非常事態に対応する例外措置として超低利(金利1%,返済期間30年)の緊急商品借款を供与することとする。
(2)  上記(1)に続く支援策については,今後,情勢の推移を見極めつつ,関係各国及び国際機関とも協議しつつ,その具体的内容を決定していくこととするが,我が国としては,関係国際機関を含む国際的な支援体制が作られるよう,積極的に働きかけていくこととする。
  2.  また,貢献策のうち,「湾岸における平和回復活動に対する協力」については,先般,厳しい財政事情等も総合的に勘案の上,10億ドルの協力を行うことを決定したところである。
 今般,その後の中東情勢等にも鑑み,湾岸地域における平和と安定の回復のための各国の国際的努力に対し,我が国としても,更に積極的に貢献していく必要があるとの見地から,先の10億ドルに加え,今後の中東情勢等の推移等を見守りつつ,新たに10億ドルを上限として追加的に協力を行う用意がある旨,表明することとする。

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(9) 国際連合の安全保障理事会決議678採択に伴う内閣官房長官談話

    (90年11月30日)
  1.  11月29日(現地時間)国際連合安全保障理事会は決議678を採択した。
   我が国は,国際社会の責任ある一員として,国際連合憲章に従った湾岸危機解決のためのこれまでの安全保障理事会の努力を評価するとともに,本件決議がこの努力を強化するものとして支持する。
 本決議は,イラクのクウェイトからの即時無条件撤退を求めた決議660を始めとする一連の安全保障理事会決議の履行が国際社会の秩序維持のために基本的重要性を持つとの見地に立ち,これら決議が明年1月15日までに履行されない場合には,関係国がその履行を実現するために,あらゆる必要な手段を取る権限を与えるものであり,極めて重大な決議である。
2.  我が国は,最後まで平和的な形で本件危機の解決が実現するよう強く希望するものである。
 又,我が国としては,イラクが本決議をそのための最後の機会と認識して,事態が真に重大な局面を迎えることのないよう速やかに関連安全保障理事会決議を履行し,クウェイトからの撤退,すべての外国人の即時・無条件解放を実施するよう改めて強く要求する。

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(10) 内閣総理大臣談話

    (91年1月17日)
  1.  1月17日(現地時間),米,欧,アラブ諸国を含む国連加盟国は,イラクのクウェイトからの全面撤退とクウェイト正統政府の権威回復を求める国連安保理諸決議の実現を図るため,武力の行使に踏み切りました。
  2.  我が国は,これまで,イラク政府に対し,国連安保理諸決議の速やかな履行を強く要求するとともに,最後まで,本件危機を平和的に解決するための努力を尽くしてきました。しかるに,イラク政府は,終始安保理決議を無視し,1月15日までの猶予期間を越えてなおクウェイトの侵略と併合を続けてきました。我が国は,このようなイラクの暴挙を強く非難するとともに,本件危機を平和的に解決するための国際社会の努力が無に帰するに至ったことを深く遺憾とするものであります。 
3.  隣国に対するイラクのあからさまな侵略と併合は,国際の平和と安全の維持に大きな責任を有する国際連合の権威に対する挑戦であり,これを看過することは,我が国がその生存のために是非とも必要とする公正で安定した国際秩序そのものを危殆に瀕せしめるものであります。我が国は,かかる視点に立って,安保理決議678に基づき,侵略を排除し,平和を回復するための最後の手段としてとられた今般の関係諸国による武力の行使に対し,確固たる支持を表明するものであります。
4.  我が国は,国際の平和と安全を回復するための関係諸国の行動に対し,国連安保理決議に従って,できる限りの支援を行う決意であります。さらに,我が国は,関係国際機関とも協力して,避難民の救済のため可能な限りの援助を行うこととし,既に実施に移しつつあるところであります。
5.  我が国は,イラク政府が,国際社会の一致した意思を尊重し,直ちにすべての関連安保理決議を受諾するよう強く求めるものであります。我が国としては,湾岸地域における戦闘行為が早期に終結し,中東において,永続性のある平和と安定が一日も速やかに達成されることを強く望むものであります。
6.  政府としては,湾岸及び周辺地域に在留する邦人の安全に万全を期すべく既に所要の措置をとってきておりますが,今般の情勢の展開により不測の事態が生ずることのないよう,邦人の保護のため引き続き可能なあらゆる手段を尽くす所存であります。また,内外におけるハイジャック等緊急事態の発生があり得ることに備え,その防止のため必要な措置をとっているところであります。
7.  また,政府は,国際協調のもとで,日本経済への悪影響を最小限に抑止し,国民生活の安定に努力する所存であります。国民の皆様方に対しても,より一層の省エネルギーへの努力をお願いする次第であります。
8.  今次事態に際し,政府は,内閣に内閣総理大臣を長とする「湾岸危機対策本部」を設置し,政府が一体となって総合的かつ効果的な緊急対策を強力に推進することといたしました。
9.  政府は,以上の政策が,我が国の国益にかない,かつ国際協調のもとに恒久の平和を希求する我が国憲法の理念にも合致するものであると確信し,国民の皆様方の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。

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(11) 外務大臣談話

    (91年1月17日)
  1.  1月17日,イラクのクウェイトからの全面撤退とクウェイト正統政府の権威回復を求める国連安保理諸決議の実現を図るための武力の行使が開始された。
  2.  国際社会は,昨年8月2日のイラクによるクウェイト侵攻以来,国連安保理決議に従った問題の平和的解決を実現するためあらゆる努力を重ねてきた。我が国としても,かかる国際社会の動きと協調の下,問題の平和的解決に向けた様々の外交努力を行ってきた。
3.  こうした努力にもかかわらず,イラク政府は終始安保理決議を頑なに拒否し,決議678の定める1月15日までの猶予期間を越えてもなおクウェイトの侵略と併合を継続してきた。我が国はこのようなイラクの暴挙と国際社会に対するあからさまな挑戦を強く非難するとともに,同国の頑なな態度ゆえに本件危機を平和的に解決せんとする国際社会の努力が無に帰するに至ったことを深く遺憾とするものである。
4.  我が国は,安保理決議678に基づき,侵略を排除し,平和を回復するための最後の手段としてとられた今般の武力行使に対し,確固たる支持を表明するとともに,同決議に従って,できる限りの支援を行う決意である。
5.  我が国は,また,イラク政府に対し,国際社会の一致した意思を尊重し,すべての関連安保理決議を直ちに受諾するよう強く求める。

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(12) 湾岸危機に関連する重大緊急事態への対処についての海部内閣総理大臣演説

(91年1月18日)

 湾岸危機に関連する重大緊急事態への対処について政府の基本的な考え方を明らかにし,皆さんのご理解とご協力を得たいと思います。

 昨日、米,英,アラブ諸国を含む国連加盟国は,イラクのクウェイトからの全面撤退とクウェイト正統政府の権威回復を求める国連安保理諸決議の実現を図るため,武力の行使に踏み切りました。

 我が国は,これまで,この湾岸危機の解決にできる限りの貢献をすることが国際社会における責任であると認識し,国連安保理決議に先駆けて対イラク経済制裁措置を実施するとともに,湾岸の平和回復活動に対する総額20億ドルの支援,周辺国に対する20億ドル程度の支援,2,200万ドル強にのぼる避難民援助を柱とする中東貢献策を決定し,着実に実施に移してきました。あわせて,イラクに対しても,国連安保理決議に従い,クウェイトからの全面撤退を求める一連の外交的措置をとってまいりました。国際社会においても,米国とイラクの直接の外相会談や国連事務総長のイラク訪問など事態の平和的解決に向けてのあらゆる努力がぎりぎりまで行われたことはご承知のとおりであります。

 しかるに,イラク政府は,終始安保理決議を無視し,1月15日までの猶予期間を超えてなおクウェイトの侵略と併合を続けてきました。我が国は,このようなイラクの暴挙を強く非難するとともに,本件危機を平和的に解決するための国際社会の努力が無に帰するに至ったことを深く遺憾とするものであります。

 隣国に対するイラクの明らさまな侵略と併合は,国際の平和と安全の維持に大きな責任を有する国際連合の権威に対する挑戦であり,これをこのまま見過ごすことは,我が国がその生存のために是非とも必要とする公正で安定した国際秩序の根幹を揺るがすものであります。また,これは,自由と民主主義を基礎とした対話と協調による新しい秩序づくりへの希望を打ち砕くものでもあります。我が国は,かかる視点に立って,安保理決議678に基づき,侵略を排除し,平和を回復するためのやむを得ざる最後の手段としてとられた今般の,米国を中心とする関係諸国による武力の行使に対し,確固たる支持を表明するものであります。

 今般の事態に際し,政府は,直ちに,安全保障会議を開催し,緊急事態への対処方針を速やかに決定するとともに,その後の臨時閣議において,内閣に「湾岸危機対策本部」を設置し,同本部において早速,所要の対策を取りまとめ,政府が一体となって総合的かつ効果的な緊急対策を強力に推進することといたしました。

 我が国は,国際の平和と安全を回復するための関係諸国の行動に対し,国連安保理決議に従って,我が国憲法の下で,できる限りの支援を行う決意であり,既に決定した湾岸の平和回復活動に対する支援策を着実に推進するとともに,関係諸国などに対する新たな支援を行うこととしております。さらに,我が国は,関係国際機関とも協力して,避難民の救済のため可能な限りの援助を行うこととし,既に実施に移しつつあり,資金・物資面では,国連災害救済調整官事務所が国際社会に要請した被災民救助初動経費3,800万ドルを速やかに拠出し,さらに毛布などの救援物資を周辺国政府の要請に応じて供与することとしております。また,特に,避難民の移送という人道的かつ非軍事的な分野においては,安全確保を前提として民間航空会社に要請を行うこととするとともに,ほかに方法がない場合には,必要に応じ,自衛隊輸送機の使用についても,その可能性を検討することといたしました。

 我が国は,イラク政府が,国際社会の一致した意思を尊重し,直ちにすべての関連安保理決議を受諾するよう強く求めるものであります。我が国としては,湾岸地域における戦闘行為が早期に終結し,我が国が原油輸入の7割以上を依存している中東において,永続性のある平和と安定が一日も速やかに達成されることを強く望むものであります。

 政府としては,湾岸や周辺地域に在留する邦人や周辺海域を航行する船舶の安全に万全を期すべく既に所要の措置をとってきておりますが,今般の情勢の展開により不測の事態が生ずることのないよう,邦人などの保護のため引き続き可能なあらゆる手段を尽くしてまいります。また,内外におけるハイジャックなどの緊急事態の発生があり得ることに備え,その防止のため必要な措置をとっているところであります。

 また,政府は,国際協調の下で,日本経済への悪影響を最小限に抑止し,国民生活の安定に努力してまいります。幸い,過去2回の石油危機時と比べ,我が国経済の石油に対する依存度が大きく低下しており,また,我が国の142日分の石油備蓄を国際的にも連携をとりながら機動的に活用することにより,当面,国内の石油需給ひいては国民生活に大きな影響を与えることはないと判断しています。石油のほか国民生活に関係の深い物資の需給や価格についても調査,監視に努めるとともに,的確な情報を迅速に提供してまいります。国民の皆さんにおかれても,より一層の省エネルギーへの努力や冷静な行動をお願いいたします。

 政府は,以上の政策が,我が国の国益にかない,かつ国際協調の下に恒久の平和を希求する我が国憲法の理念にも合致するものであると確信し,皆さんのご理解とご協力を切にお願いする次第であります。

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(13) 記者会見における湾岸危機に関する内閣官房長官発言要旨

    (91年1月24日)
   本日,午前9時から,総理,大蔵,通産の3大臣と両官房副長官と,党4役が集まり,湾岸協力の問題について意見交換を行った。その結果,総理のイニシアティブにより,次のとおり対処することとし,所要の手続きを進めることとなった。
   多国籍軍に対する資金協力として,90億ドルを追加支出する。このため,補正予算第2号を提出する。なお,財源については,後世に負担を残さないよう,国民に負担をお願いする。
 IOMの要請に基づき,
(1)  被災民(ベトナム人等)をカイロからベトナムまで我が国の民間航空機により移送する。
(注)  第1便は,今のところ,一両日中にも成田を出発する予定である。
(2)  今後必要が生じた場合には,人道的立場から,自衛隊による輸送機を使っての被災民移送を行うための準備を進める。そのため,所要の政令を制定する。
(注)  上記の諸措置を実施するため,本日午後,湾岸危機対策本部会議及び安全保障会議を開催する。

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(14) 停戦提案及びクウェイト解放に際しての内閣官房長官談話

    (91年2月28日)
  1.  米国の停戦提案を心から歓迎したい。また,クウェイト解放が実現したことについて,クウェイト政府及び国民に対し心からの祝意を表したい。同時に,クウェイト国民,多国籍軍兵士をはじめ,クウェイト解放のために多大の犠牲を払われた方々に対し心から敬意を表したい。
  2.  これは,多国籍軍に参加している諸国をはじめとする国際社会をあげての連帯・協力によるものであり,これを契機として,湾岸地域における真の国際の平和と安全が達成されることを切望するものである。
3.  我が国としては,イラクが国際社会の総意を踏まえた米国提案を受諾して,湾岸地域の平和回復のために協力することを強く求めるものである。
4.  我が国は,これまで平和回復のための国際社会の努力および周辺国等を積極的に支援してきたところであるが,今後のクウェイトの復旧・復興を含む,中東地域の平和と安定達成のため,引き続き積極的に協力を行っていく所存である。

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(15) 中東の諸問題に対する当面の施策

    (91年3月20日)
  1.  中東地域は,我が国を含む国際社会にとって,世界の平和と安定の維持,エネルギーの安定的供給の観点から,極めて重要な地域である。また,中東を含む国際社会の諸問題に応分の協力を行うことは,国際社会の安定と繁栄に大きな責任と役割を有する我が国にとって,極めて重要と考える。
  2.  我が国としては,中東諸国との相互理解の基盤を一層深めるため,人的交流の活発化等の努力が必要である。
3.  今後の中東政策を進めるに当っては,まず,地域内の諸国の意向や施策を最大限に尊重し,これを支援して行くことが基本となる。
4.  政府としては,以上を踏まえて,中東地域,ひいては世界の安定と繁栄の確保に,積極的に協力して行くこととする。当面の考え方及び施策は,次の通りである。
(1) 中東地域の安全保障
(イ)  国際連合が停戦監視等を目的とする平和維持活動(PKO)を実施する場合には,その活動の形態にもよるが,財政支援その他の分野での協力を行うべく,検討を進める。
(ロ)  地域の安全保障の問題について,中東諸国,周辺関係国,域外主要国との政治対話を強化する。
(ハ)  域内諸国の経済的安定・発展に協力することにより,域内の安定向上への努力を側面的に支援する。
(2) 軍備管理・軍縮
(イ)  今般の湾岸危機の経験を踏まえ,通常兵器の国際移転問題に関する透明性・公開性の増大に向けて,国連への報告制度の確立等,国連を中心とする基準・ルール作りに貢献する。また,通常兵器輸出の自主規制に関しては,各国の枠組の整備・強化の検討を呼び掛ける。
(ロ)  核兵器,化学兵器等の大量破壊兵器及びミサイルの不拡散については,国際原子力機関(IAEA)の保障措置制度,これらの兵器の原材料等に関する国際的な輸出規制の枠組の整備・強化に努力する。また,化学兵器禁止条約の早期締結を促進して行く。
(ハ)  グローバルな軍備管理・軍縮問題等に関して,国際連合が我が国で軍縮会議を開催するよう提唱し,これを支援する。また,このような会議や,国連軍縮委員会,ジュネーヴ軍縮会議等の場を通じ,我が国の積極的な姿勢を訴えて行く。
(3) 中東和平
(イ)  被占領地パレスチナ人の窮状に配慮しつつパレスチナ人への支援に適切に対処することとし,緊急食糧援助を行うことを検討する。また,イスラエルとの要人往来をはじめ,各種交流を強化する。
(ロ)  国際連合安全保障理事会決議242及び338を基礎に,(1)イスラエルの全占領地からの撤退,(2)独立国家樹立の権利を含むパレスチナ人の民族自決権の承認,(3)イスラエルの生存権の承認,を通じ,恒久和平を達成すべしとの基本的立場に立って,主要当事者,関係国等との政治対話を強化し,有効な和平プロセス進展に向けた国際的努力に積極的に参加する。
(ハ)  中東和平達成への交渉の枠組として,国際会議の開催を支持する。
(4) 経済復興
(イ)  クウェイト人道援助を緊急に行うこととし,対イラク人道援助についても国際機関のアピールを踏まえ,各国とも協調しつつ適切に対処することとする。
(ロ)  クウェイトへの復興援助については,技術協力を中心に行う。なお,イラクへの復興援助に関しては,今後のイラクの体制を注視して行く。
(ハ)  湾岸危機により経済的打撃を受けたその他の関係国への支援については,二国間援助を中心に適切に対処して行く。
(5) 環境面での協力
(イ)  今般の湾岸危機に際して発生した,原油流出,油井炎上といった,環境の破壊等への対応に対し,持てる技術,人的資源等を通じ,出来る限り協力する。そのため,資機材の送付に続いて,流出原油防除・環境汚染対策調査団による現地のニーズの把握を踏まえ,今後の協力策を検討する。
(ロ)  国際機関のアピールを踏まえ,国際機関を通じた協力を行うことを検討する。

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(16) 政府声明

(91年4月24日)
1.  昨年8月2日のイラクのクウェイトに対する不法な侵攻及びその併合に始まった湾岸危機については,イラクが正式停戦のための国際連合安全保障理事会決議687を受諾したことに伴い,正式停戦が成立した。
 ペルシャ湾には,この湾岸危機の間に,イラクにより多数の機雷が敷設され,これらがこの海域における我が国のタンカーを含む船舶の航行の重大な障害となっている。このため,米国,英国,フランス,ドイツ,ベルギー,サウディ・アラビア,イタリア及びオランダは,掃海艇等を派遣し,機雷の早期除去に努力しているところであるが,なお広域に多数の機雷が残存しており,これらの処理を終えるには,相当の日月を要する状況にある。
2.  ペルシャ湾は,世界の原油の主要な輸送経路の一つに当たっており,この海域における船舶の航行の安全が一日も早く回復されることが,国際社会の要請となっている。
 この海域における船舶の航行の安全の確保に努めることは,今般の湾岸危機により災害を被った国の復興等に寄与するものであり,同時に,国民生活,ひいては国の存立のために必要不可欠な原油の相当部分をペルシャ湾岸地域からの輸入に依存する我が国にとっても,喫緊の課題である。
3.  かかる状況を踏まえ,政府としては,本日安全保障会議及びこれに続く閣議において,自衛隊法第99条に基づく措置として,我が国船舶の航行の安全を確保するために,ペルシャ湾における機雷の除去及びその処理を行わせるため,海上自衛隊の掃海艇等をこの海域に派遣することを決定した。
 できるだけ速やかに準備を整え,関係諸国の理解と協力を得て,実行することとしたい。
4.  今回の措置は,正式停戦が成立し,湾岸に平和が回復した状況の下で,我が国船舶の航行の安全を確保するため,海上に遺棄されたと認められる機雷を除去するものであり,武力行使の目的をもつものではなく,これは,憲法の禁止する海外派兵に当たるものではない。
 歴史の深い反省に立って誓った「国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」という平和国家の理念を将来にわたり堅持する決意に変わりはない。
 国際社会において大きな責任を果たすことが求められている我が国としては,資金,物資の面での支援のみならず,これらと併せて人的な支援を行っていくことが必要であることは,広く御理解をいただいているところであるが,今回の措置は,船舶の航行の安全の確保及び被災国の復興という平和的,人道的な目的を有する人的貢献策の一つとしても,意義を有するものと考える。
5.  国民各位の御理解と御協力を切に希望する。

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