I 資 料
1. 国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説
(90年10月12日)
第119回国会の開会に臨み,当面する諸問題につき所信を申し述べ,皆さんのご理解とご協力を得たいと存じます。
(世界の平和と繁栄のための外交の展開)
世界は今,歴史的な変革期にあり,新しい国際秩序を真剣に模索しています。自由と民主主義,そして市場経済を基礎として,協調と対話による世界平和構築の流れが現実のものとなりつつあるとの希望が持てるようになりました。今月3日,東西両ドイツの統一が実現しましたが,これは,この歴史の流れを象徴する偉大な成果であり,心から祝意と敬意を表します。
しかし,新たな国際秩序に向けての我々の希望を打ち砕くかのように,去る8月,イラクのクウェイト侵攻とその一方的併合という事態が発生しました。武力による侵略,併合は決して容認されないという国際法規は,全世界の国民が,ひとしく平和のうちに生存する権利に係わる最も基本的な規範であります。今回のイラクの行為は,東西対立の構図が大きく変化し,冷戦時代の発想を超えて,世界の歴史が平和共存の新しい秩序を求めて動き始めたこの時に,世界の人々の希望を真正面から否定するものであって,これを既成事実化することは絶対に許されません。国連は,今回の事態に対し,累次の安全保障理事会決議に示されるように迅速かつ適切に対応しており,国際社会は,イラクの不法な行為に一致団結して対抗していくとの共通の認識を有しています。私は,国連を中心とするこのような国際的努力を全面的に支持するものであり,国連安全保障理事会の決議に従って,湾岸地域に,単に戦争がないというにとどまらない真の意味での平和,いわば,公正な平和が一刻も早く達成されることを強く求めます。
今回の事態は,我が国の平和国家としての生き方を厳しく問われる戦後最大の試練であります。政府は,国際社会の主要な一員として国際社会の正義を守る観点から,国連決議に先立ち,速やかにイラクに対する包括的な経済制裁措置を決定しました。さらに,非産油発展途上国を含め国際社会全体にとって死活的重要性を持ち,我が国にとっても主要な原油供給地域である湾岸地域の平和と安定を回復するために払われている国際的努力に対し,輸送,物資,医療,資金面で総額20億ドルまでの協力を行うこととし,また,今回の事態によって深刻な経済的困難に直面しているエジプト,トルコ,ジョルダンといった周辺諸国に対し,20億ドル程度の経済協力を実施することとしました。政府は,ジョルダンなどの避難民に対し,物資援助,帰国の輸送協力,医療調査班の派遣などの救済策も実施しています。
私は,先般の中東5か国歴訪を通じ,我が国の考え方及び貢献策をこれら諸国の首脳に示し,評価を受けてきたところであります。5か国首脳は,それぞれ湾岸危機に直面して危機の長期化がもたらす危険を懸念しており,平和的解決のために国際社会が連帯して国連決議の実効性を一層確保していく重要性を強調していました。また,中東歴訪中,イラクのラマダーン第1副首相とも話し合う機会を持ち,その際,私は,湾岸危機を極めて憂慮していることを表明し,イラクは国連決議に従ってクウェイトから撤退しクウェイト正統政府を復帰させること,また,すべての在留外国人を速やかに解放し,自由な出国を認めることを強く求めるとともに,事態は平和的に解決されなければならず,そのためには膠着状態の局面打開が必要であり,そのきっかけをつくるため,クウェイトからの撤退というイラク側の決断が必要であることを強調しました。我が国としては,事態の解決のため,政治対話の道は閉ざすことなく粘り強く外交努力を続けてまいります。
イラクが,在留外国人の自由を拘束し,人質状態においているのは国際法上も人道上も許されないことであります。今後とも,国連などの国際機関や諸外国と協調しながら,すべての在留外国人の早急な解放を強く要求するとともに,とりわけ,出国の自由を奪われている邦人については,一刻も早い解放に全力を尽くしてまいります。
なお,イラクが速やかに国連決議を完全に履行し,再び湾岸地域に真の平和が戻ってきたときには,我が国は,イラクとの関係を再構築していく用意のあることも明らかにしておきたいと思います。
国連が目指す平和は公正な平和であり,平和国家とは,国際社会の一員として平和を守る責任を果たす用意がある国のことであります。平和を希求する我が国は,今回のように世界の平和に重大な影響を及ぼす事態に際して,平和回復のための国際的努力を傍観することなく,我が国ができる役割を積極的に見出し,それを果たしていかなければなりません。もとより,我が国は,戦後45年,2度と他国に脅威を与えるような軍事大国にならない,国権の発動たる戦争は絶対にしないと誓い,武力による威嚇又は武力の行使を国際紛争解決手段としては放棄する決議を掲げてきました。この理念には国民的合意があり,同時に,我が国のこの立場は,アジア・太平洋地域の平和と安定に大きく貢献してきたものと確信しています。したがって,我が国は,このような理念と立場に合致する方法で平和を守る責任を果たしていかなければなりません。
今回の湾岸危機にとどまらず,これからの時代においては,国連を中心とする国際的努力の重要性が高まるものと考えられます。その際,我が国が,効果的に人的,物的両面での協力を行っていくことが必要であります。自分の国土への現実の脅威がないからといって座視することなく,冷戦後の新しい世界で,強国が小国を侵略し併合するという正義と平和への挑戦に,国際社会の主要な一員としてどう対処していくのか,この暴挙をやむを得ないとして容認してしまうのか,そうだとすれば,新しい世界の秩序に希望は持てません。政府が,国際連合平和協力法案を準備し,その審議をお願いするのは,我が国がこうした事態に対応できる法体制を一日も早く整備すべきであると考えるからであります。この法案に基づく国際連合平和協力隊は,自衛隊など公務員をはじめ広く各界各層の協力と参加を得て創設されるものであり,憲法の枠組みの下,武力による威嚇又は武力の行使は伴わないものであります。この平和協力隊の創設は,日本国民が全力を挙げて達成することを誓った人間相互の関係を支配する恒久平和の確立という憲法の崇高な理念を,一層推し進めるものと確信します。その実現のために皆さんのご理解とご支持をお願いするものであります。
また,今回のイラクのクウェイト侵攻の背景の一つには,イラクに対する大量の武器輸出があったことは否めないと考えられます。これまで,厳格な武器輸出規制を行ってきた我が国としては,核,化学,生物兵器などの大量破壊兵器やミサイルなどの国際的な不拡散体制を一層全地球的なものとし,その維持,強化を図るとともに,通常兵器の輸出についても適切な抑制が行われ,あわせて,一層の透明性,公開性が確保される必要があることを国際社会に訴えたいと考えます。
欧州を中心とする劇的な変化の後を受けて,アジア・太平洋地域にも,韓国・ソ連間の国交樹立など好ましい動きが及び始めました。このような中で,この地域の緊張を一層緩和し,その平和と安定を確保していくことは,我が国にとってこれまで以上に重要な課題となっております。
日ソ関係については,北方領土問題を解決し,平和条約を締結して,真に安定的な関係を確立することにより,両国間の互恵的協力を飛躍的に発展させ得る明るい展望を開くことが重要であります。先月のシェヴァルナッゼ外相との会談においては,明年4月に予定されているゴルバチョフ大統領の訪日を日ソ関係の抜本的改善の契機としたいとの共通の認識が確認されました。私は,大統領に対し,一日も早い両国関係の正常化を実現するために,今こそ勇気をもって決断することが何よりも重要であると呼び掛けてまいりたいと考えております。
中国については,安定的な関係の強化に引き続き努めてまいります。中国が国際的に孤立化の道を歩むことなく,改革と開放の政策を名実ともに推進していくよう,更なる努力を強く期待するとともに,我が国としても,第3次円借款を徐々に実施に移すなどの支援を行っていきます。
朝鮮半島においては,初の南北首相会談が開催されるなど情勢は大きく変化しつつあります。我が国のこの地域における政策の基本は,韓国との友好協力関係の維持,発展であり,過日の虜泰愚大統領の訪日は,日韓新時代を構築していく上で大きな成果を挙げたものと考えます。北朝鮮との関係については,先般の自民党・社会党代表団の訪朝の結果,昨日,懸案の2人の帰国が実現し,第18富士山丸問題が解決され,また,日朝間の正常化に向けた当局間対話の道筋がつけられたことを歓迎し,政府としては,朝鮮半島の平和と安定のため,韓国,米国などの関係諸国と連携をとりつつ,日朝間の話合いを進めたいと考えます。なお,朝鮮半島をめぐる情勢が新たな局面を迎えているこの機会に,私は改めて同地域のすべての人々に対し,過去の一時期,我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されたことについて,深い反省と遺憾の意を表したいと思います。
東南アジア最大の不安定要因であるカンボディア問題については,我が国は東京会議を開催するなどの努力を行ってきましたが,この問題をめぐる最近の和平努力の成果を歓迎し,今後とも包括的解決に向けて積極的な貢献を行ってまいります。
新しい国際秩序の構築に向けて外交を展開していく上でも,日米間の確固とした協力関係は必要不可欠であります。今回のブッシュ大統領との会談でも,イラク・クウェイト問題への対応をはじめ広く世界の平和と繁栄に対して両国が有する共通の責任と,協調してこれを果たしていく必要性とを相互に確認したところであり,今後とも,このような日米のグローバルパートナーシップを更に強化してまいります。
日米間には,一時厳しい局面も生じましたが,両国は構造協議に真剣に取り組み,成功裡
なお,このような日米関係の基礎は,締結30周年を迎えた日米安全保障条約であります。我が国としては,この体制を今後とも堅持し,その円滑かつ効果的な運用を図るとともに,他国に脅威を与えるような軍事大国への道を歩まず,引き続き節度ある防衛力の整備に努めてまいります。
本年末には,ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉が最終期限を迎えます。世界経済の健全な発展のためには,多角的自由貿易体制の維持・強化が必要不可欠であり,政府としては本交渉の成功に向け,全力を傾注してまいります。なお,米の問題については,我が国における米及び稲作の格別の重要性にがんがみ,国会における決議などの趣旨を体し,国内産で自給するとの基本的方針で対処してまいります。
(土地問題の解決)
地価の高騰は,国民の住生活の安定と向上を妨げ,「持てる者」と「持たざる者」との資産格差を拡大しております。公正な社会を建設していくという観点からも,私は,土地対策は内政の最重要課題と考えており,その解決に正面から取り組んでいく決意であります。土地を持っていればもうかるという,いわゆる土地神話を打ち破ることが何よりも必要であり,土地を投機の対象としてはならないという観点から,具体的な対策を実行していかなければなりません。
政府としては,土地基本法の理念を踏まえ,昨年末策定した「今後の土地対策の重点実施方針」に沿って対策を推進しておりますが,さらに,土地政策審議会においては今後の土地政策の在り方について,また,税制調査会においては土地税制の総合的な見直しについて,鋭意ご審議をいただいており,いずれも近々ご答申をいただける予定となっております。政府としては,これらの審議会のご意見を受けて,土地税制改革のための所要の法案を次期通常国会に提出するなど総合的な土地対策を早急かつ強力に推進してまいります。
(物価・エネルギー対策の推進)
物価対策は,国民が日々の生活において真に豊かさを実感できるかどうかを左右する重要な課題であります。幸い,我が国では,景気拡大が続く中で物価は安定的に推移してきておりますが,中東情勢に起因する原油価格の上昇,労働力需給の引き締まりなどの懸念される材料もあり,今後の動向に細心の注意を払うとともに,便乗値上げを厳しく監視するなど引き続き物価の安定に十分配慮してまいります。内外価格差問題につきましても,今後とも,引き続きその是正,縮小に努めてまいります。
また,中東情勢の不安定化は,この地域に原油輸入の7割以上を依存している我が国にも影響を及ぼしつつあり,政府としては,エネルギーの安定供給を確保すべく,石油の供給確保,原子力など石油に代替するエネルギーの開発,導入に積極的に取り組むとともに,省資源,省エネルギーを一層推進してまいります。国民の皆さんや企業におかれても,これからの冬の需要期を迎え,例えば,暖房の温度を1度下げれば,2.5日分の原油消費量に相当するエネルギーが節約できるといったことも念頭に置いて,省エネルギーに積極的なご協力をお願いいたします。
(税制・行財政改革の推進)
消費税を含む税制問題については,ご承知のとおりの経緯を経て,現在,国会の「税制問題等に関する両院合同協議会」において協議が重ねられておりますが,消費税の必要性を踏まえつつ,各党各会派間で高い次元から協議が行われ,早期に結論が得られることを期待しております。
我が国の財政は,なお,164兆円にも達する公債残高を抱えるなど依然として極めて厳しい状況にあります。今後の情勢変化に財政が弾力的に対応していくためには,再び特例公債を発行しないことを基本として,公債依存度の引下げなどにより,公債の残高が累増しない財政体質をつくり上げていかなければなりません。
また,第2次行革審の最終答申を最大限に尊重し,国,地方を通じた行財政の改革を進めるとともに,新たな行革審を発足させ,引き続きこの問題と真剣に取り組んでまいります。
(国会開設100年を機に政治改革の断行)
国会は,来る11月29日をもって開設100年を迎えます。皆さんとともに心からお祝いしたいと思います。
折しも国際的に民主主義の価値が再認識され,異なる体制をとってきた国々の民主主義への相次ぐ移行は,20世紀を締めくくる歴史のうねりを感じさせます。先のヒューストン・サミットにおいても,今世紀最後の10年は「民主主義の10年」と謳われたところであります。この時期に改めて民主主義の原点をみつめ,政治に対する国民の信頼を確固としたものにするためには,政治倫理の確立が重要であります。同時に,金のかからない,政党本位,政策中心の選挙を実現していくことが是非とも必要であります。政府としては,国会開設100年という大きな節目の年にあたり,先般,選挙制度審議会からいただいた答申を基に,民主主義の根底を支える選挙制度及び政治資金制度の抜本的改革を図っていくことこそが,時代から課せられた厳粛な使命と受けとめ,答申の趣旨を十分尊重し,できるだけ早く成案を得,不退転の決意でこれに取り組んでまいります。各党各会派の皆さんには,政治家として痛みを伴う改革であるかもしれませんが,我が国の将来を思い,民主政治がますます根の強いものとなるよう,この改革にご理解とご協力を切にお願いいたします。
皇位継承に伴う儀式である即位の礼及び大嘗祭の挙行は,来月に迫りました。即位の礼を粛然と実施するため万全の準備を進めるとともに,大嘗祭が厳かに執り行われるよう必要な手だてを講じ,これらの滞りない挙行を期してまいります。
(結び)
私は,今,地球は小さくなったという言葉を実感をもってかみしめています。経済,文化,情報などあらゆる面で国境を越えた交流が活発に行われ,また,世界を分断し20世紀の大半を特徴づけたイデオロギー上の敵対関係は薄れ,世界の人々は,平和と豊かさを求め,同じ方向に向かって歩み始めています。ついに「地球はひとつ」と言える時代を迎えつつあるのであります。
このような中で,我が国は,自分が考えている以上に地球上で大きな存在となっています。本年1月の東欧,5月の南西アジアそして今回の中東訪問での各国首脳との会談においても,我が国に対する世界からの大きな期待をひしひしと感じたところであります。今や我が国は,国際社会の主要国の一つとして,これにふさわしい真の国際国家への道を歩まなければなりません。
我が国は,憲法で,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,安全と生存を保持しようとの決意を宣言しています。諸国民との信頼の絆
私は,先月,「子供のための世界サミット」に出席し,世界で毎日4万人の子供たちが死亡しているという悲しい現実を前に,子供たちに対する我々世代の責務につき,各国首脳間で幅広い討議を行ってまいりました。特に,私からは,本年が国際識字年とされたことからも,1億人以上の初等教育を受けられず文字を知らない子供たちのために,識字率の改善を含む基礎教育の拡充などを強く訴えてきました。子供たちは,次の世代を担う存在であるばかりではなく,我々大人に,忘れかけていた大切なものを呼び起こさせてくれる人類の宝であります。この子供たちのためにも,彼らが未来への大きな希望を旨に抱くことができる,平和で豊かな,真に「地球はひとつ」と言える世界の構築に,力を合わせて努力していこうではありませんか。
ここに重ねて,皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。
(91年1月25日)
第120回国会の再開に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにし,皆さんのご理解とご協力を得たいと思います。
(外交)
世界は今,21世紀を臨む最後の10年間を迎えました。振り返りますと,20世紀は,2度にわたる不幸で悲惨な世界大戦を経て,最近に至るまで,米ソ二大国の対立を中心とした東西冷戦構造が世界を支配していました。
しかし,人類は今,幾多の試練を乗り越えて,輝かしい未来に向けて新たな歴史の扉を開こうとしています。世界は,米ソ関係を中心に,対立から対話と協調の時代へと着実に歩み始め,冷戦の中心的な場であった欧州では,東欧の民主化,ドイツ統一の達成を経て,パリ憲章の採択によって,対立と分断の時代に終止符を打ちました。
このような歴史的な時に,イラクは,クウェイト侵略という暴挙に出たのであります。この力による不法な支配に対して,国際社会は当初から,国連の権威の下に,度重なる安保理決議の採択や多国籍軍の活動,国際的な経費分担などを通じて,先例のない協力関係を構築してまいりました。また,国連が示した1月15日の期限まで,事態の平和的解決に向けて,我が国を含めあらゆる国際的努力が行われました。
しかるに,イラクのフセイン大統領はこれらを無視し,平和的解決に向けた国際社会の努力を踏みにじったことは誠に遺憾であり,今後の国際連合を中心とする国際秩序の維持の上からも,断じてこれを許すことは出来ません。現在,思想,信条を超えて,20を超える国が多国籍軍に参加し,多数の国がそれに物的,資金的援助を行っているのも,まさにこのためなのであります。国際社会で主要な地位を占めるに至った我が国が,この事態に積極的な貢献をすることは当然の責務であり,自ら成し得る努力をせず,これを怠れば,国際的孤立化への道を歩むことになります。こうした道は是非とも避けなければなりません。
このような考え方に立って,我が国は,安保理決議678に基づき,やむを得ざる最後の手段としてとられた,米国を中心とする関係諸国による武力の行使に対し,確固たる支持を表明するものであります。また,国際の平和と安全を回復するための関係諸国の行動に対し,我が国憲法の下で出来る限りの支援を行う決意であり,このため,既に決定した貢献策に加え,関係諸国が当面要する経費に充てるため,90億ドルの新たな追加支援を行うこととしました。これは,侵略者は絶対に許さないという国際社会の正義の立場から,我が国が国際的な役割を果たしていくために是非とも必要なものであります。国民の皆さんにも応分の負担をお願いすることになりますが,どうか,ご理解とご協力をいただきたいと思います。さらに,我が国は,関係国際機関とも協力して,避難民の救済のため可能な限りの援助を行うこととし,国連の避難民救済関係機関が国際社会に要請した当面の経費全額を引き受けました。特に,避難民の本国への輸送という人道的かつ非軍事的な分野においては,安全確保を前提として我が国民間航空会社に協力を強く要請し,困難な状況の下,承諾を得たところであります。既に,関係国際機関の具体的要請があれば,速やかに出発出来る準備を整えました。なお,民間機が活用されないような状況において,人道的見地から緊急の輸送を要する場合には,必要に応じ,自衛隊輸送機により輸送を行うこととしました。我が国が,国際社会において,人道的,非軍事的な面で,このような責任を率先して果たしていくことは,憲法の基本理念に合致するものであると確信しています。
我が国は,イラク政府が,国際社会の一致した意思を尊重し,直ちにすべての安保理決議を受諾するよう強く求めるものであります。そして,湾岸地域における戦闘行為が早期に終結し,中東において,永続性のある公正な平和が一日も早く達成されることを切望するものであります。
今後こうした事態を防止していくためにも,国際の平和と安全のための国連の権威と機能を高め,各国はこれに積極的に協力していかなければなりません。前回の臨時国会における国連平和協力法案の審議や各界各層における議論を通じ,我が国が平和のために資金,物資面のみならず,人的側面においても貢献すべきであるという点については,国民の間に共通の理解が確認されたと認識しています。自民,公明,民社各党間の合意を尊重して,新たな国際協力のあり方につき,一日も早く成案を得たいと考えております。
また,今回の事態と関連して,核,生物・化学兵器やミサイルの拡散防止を徹底し,通常兵器の輸出についても,一層の透明性,公開性を通じて適切な管理が行われることが,湾岸地域ひいては世界全体の将来の安定のために必要であると痛感しています。化学兵器禁止条約交渉の早期妥結をはじめ,これらの分野での国際的取組を強化すべく努力してまいります。
アジア・太平洋地域において,緊張緩和を促進し,この地域の経済発展を一層図っていくことは,重要な課題であります。この地域に残された対立や紛争を解決し,地域全体に平和と繁栄をもたらしていくために,我が国は積極的な役割を果たしていかねばなりません。
アジア・太平洋地域の長期的な安定と繁栄を確保していくためには,ASEANをはじめとした地域協力の場を通じ,対話と協力を拡大していくとともに,不安定要因である朝鮮半島問題やカンボディア問題などの解決,そして日ソ関係の抜本的改善を図っていくことが重要であると考えます。
朝鮮半島では,南北首相級会談の開催,韓ソ国交樹立など緊張緩和に資する新たな動きがみられており,我が国としても,この流れを一層加速化させるため積極的に行動していかねばなりません。我が国の朝鮮半島政策の基本は,日韓友好協力関係の強化にあります。今般の私の韓国訪問は,在日韓国人3世問題を決着させ,日韓新時代の3原則を首脳相互で確認し成果をあげましたが,今後とも,21世紀に向けて未来志向の協力関係を具体化していくために努力してまいります。北朝鮮との関係については,国交正常化のための本会談がまもなく開始されることとなっており,今後とも朝鮮半島をめぐる情勢全体を視野に入れ,朝鮮半島の平和と安定に資する形で,韓国,米国などの関係諸国と密接な連携を取りつつ,交渉を進めてまいります。
カンボディア問題については,昨年12月,関係国の努力によりパリ会議の早期開催が合意されました。我が国は,これまでも積極的な和平努力を続けてまいりましたが,今後,カンボディア各派が残された問題に積極的に取り組むとともに,すべての関係国が和平達成後のカンボディア,ひいてはインドシナの復興も念頭に置いて,緊密に協調していくことを呼び掛けたいと思います。
ソ連のペレストロイカは,その真価が問われる重大な局面を迎えています。私は,ゴルバチョフ大統領が,人間中心の民主主義社会の建設のため,ペレストロイカを正しい方向に進めることが世界の平和と安定のために必要不可欠であると考え,これを高く評価,支持してきました。この関連で,バルト諸国において一度ならず武力が行使されるに至ったことには,深い憂慮の念を表明せざるを得ません。事態がこれ以上悪化することなく,民主的,平和的方法で解決されることを強く求めているところであります。
このような中で日ソ関係は,本年4月に予定されるゴルバチョフ大統領の訪日を控え,戦後の日ソ交渉における最も重要な時期を迎えようとしています。日ソ関係の抜本的改善のためには,何よりも北方領土問題を解決し,平和条約を締結することが必要であります。北方領土問題の解決を棚上げしたまま,経済関係のみを進めるとの無原則な政経分離の方針は国民の望むところではありません。ゴルバチョフ大統領の訪日を,新しい日ソ関係構築のための突破口となる歴史的意義のあるものとすべく,私は,ゴルバチョフ大統領に最大限の努力を強く求めるものであります。私も努力を惜しむものではありません。日ソ間の「戦後の時代」を本当に終わらせることができるのは,勇気ある決断なのです。
中国との関係については,中国が諸外国との協力関係を維持,発展させていくことが重要であります。中国が改革・開放政策を名実ともに推進し,また,国際社会に対し一層の建設的役割を果たすよう更なる努力を期待するとともに,我が国としては,中国との関係を重視し,その近代化努力に対して出来る限りの協力をしてまいります。
日米関係は,我が国外交の基軸であります。我が国が,アジア・太平洋地域の平和と繁栄,更には世界全体の新しい国際秩序の構築に向けて積極的外交を展開するに当たっても,日米協力関係が確固としたものであることがとりわけ重要です。日米両国の相互依存関係の進展を背景に,両国は今後とも難しい問題の解決を迫られる場面が増大していく可能性もあります。しかし両国は,世界の平和と繁栄に対する共通の責任を自覚し,日米構造協議のフォローアップを着実に行っていくなど2国間の共同作業を前進させていくと同時に,人類が直面する様々な共通課題の解決に向けて,同盟国として地球的規模で協力していく,いわゆるグローバル・パートナーシップを一層強固なものとしていくことが必要であります。さきに日米親善交流基金を創設することとしたのも,両国国民の交流とコミュニケーションを更に深めることを期待したものであります。ブッシュ大統領の訪日の機会には,21世紀に向けた両国の協力関係の基盤を更に強固なものとしてまいります。
日米関係の基礎をなす強固な絆
日米とともに,自由,民主主義,市場経済という同様の価値観,社会制度を有する欧州諸国は,現在,ECを中心として新秩序の構築に意欲的に取り組んでいます。我が国としては,政治,経済,文化各面における関係の一層の緊密化や東欧諸国の経済再建のための協力などを通じ,このような欧州諸国との友好協力関係の強化に努めてまいります。
国際経済面では,経済のグローバル化が一層進む中で,保護主義の圧力も依然として根強く,多角的自由貿易体制の維持・強化が喫緊の課題となっています。昨年12月のブラッセルでのウルグァイ・ラウンド閣僚会議では,最終合意が達成されず継続協議となりました。この交渉は,21世紀に向けて世界の経済的繁栄の枠組を構築するという重大な役割を有しており,もしまとまらなければ,保護貿易主義の急速な台頭など世界経済に深刻な影響を与えることが予想されます。自由貿易の利益を多く享受している我が国としては,国際経済秩序の主要な担い手として,この交渉の成功に全力を傾注してまいります。
我が国が,国際社会において名誉ある地位を占め,世界の尊敬と信頼を得ていくためには,地球環境,麻薬問題などの世界が心から解決を望んでいる地球的規模の人類共通課題に率先して取り組み,それらを解決していく必要があります。また,債務累積問題など経済的社会的困難に苦しむアジア,アフリカ,ラテンアメリカの開発途上国や,市場経済への移行という困難な課題に挑む東欧諸国に対し積極的な援助を行い,国際的にも均衡のとれた経済社会の発展に貢献してまいります。
(経済運営)
我が国経済は,4年を超える内需主導型の景気拡大を続けています。しかしながら最近になって,湾岸危機に起因する原油価格の不安定化や米国における景気後退の様相など不透明な状況も生じています。
政府としては,引き続き,物価の安定を図ることを基礎としつつ,主要国の経済政策の協調にも配慮し,適切かつ機動的な経済運営に努めることにより,経済活動の自律的発展,雇用の安定,輸入の拡大などによる対外不均衡の是正,為替レートの安定を図り,もって内需を中心とした景気の拡大を出来るだけ息の長いものとするよう努めてまいります。また,これらの経済運営を通じ,我が国経済を国際的に調和のとれた構造に転換してまいります。
幸い,物価は安定的に推移してきておりますが,原油価格,為替レートや労働力需給などの動向に細心の注意を払い,的確な情報を迅速に提供するとともに,便乗値上げを厳しく監視するなど,その安定に十分配慮してまいります。内外価格差問題についても,引き続き,その是正,縮小を図ってまいります。
我が国は,中東地域に原油の7割以上を依存していることから,政府としては,イラクによるクウェイト侵略の国民生活や産業活動への影響を出来る限り小さくするよう努力してまいりました。幸い,過去2回の石油危機時と比べ,我が国経済の石油に対する依存度が大きく低下しており,また,我が国の142日分の石油備蓄を,国際協調の下,機動的に活用することにより,当面,国内の石油需給ひいては国民生活に大きな影響を与えることはないと判断しています。しかし,今後とも,依然として脆
雇用の安定と激しい環境変化に対応出来る創意と活力ある中小企業の育成は,極めて重要な課題であります。このため,特に,近年人手不足感が広がっている中小企業を中心に,労働力の確保,定着を図るなど中小企業施策を充実,強化するとともに,高齢者や障害者の雇用就業機会の確保,職業能力開発,地域雇用対策など労働力需給不均衡の改善に努めてまいります。
また,事業者の公正かつ自由な競争を維持,促進するため,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処,抑止力の強化を図るとともに,独占禁止法の運用の透明性を高める施策を講じてまいります。
(行財政・税制改革の推進)
平成3年度予算においては,歳出の徹底した見直しなどを行うことにより,公債発行額を可能な限り縮減し,財政の健全化に向けて新たな第一歩を踏み出しました。
しかし,なお公債残高は,平成3年度末には168兆円にも達する勢いであり,我が国の財政は,依然として極めて厳しい状況にあることに変わりはありません。高齢化社会においても経済・社会の活力を維持し,また,国際社会において増大する責任を果たしていくためには,公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくことが重要であります。このため,再び特例公債を発行しないことを基本として,今後とも公債依存度の引下げに努力を積み重ねてまいります。
また,第2次行革審の最終答申を最大限に尊重し,国,地方を通じた行財政改革を推進するとともに,先般発足した行革審においても,国民生活重視や国際化対応などの新たな改革課題についての審議を促進するなど,引き続きこの問題と真剣に取り組んでまいります。
また,地方財政については,その円滑な運営を期することとしています。
消費税を含む税制問題については,国会の両院合同協議会において,消費税の必要性を踏まえつつ,建設的な合意が得られることを期待しており,具体的な結論が得られれば,その趣旨に沿って誠実かつ迅速に対応してまいります。
(土地・住宅問題の解決)
土地問題の根本的解決のためには,土地神話を打破し,二度と地価高騰を生じさせないことが必要であります。これまで実施してきた監視区域の運用の強化,土地関連融資の規制などの対策により,問題が深刻な東京や大阪などにおいては,地価が沈静化傾向にあるなど,その成果のきざしが見えてきております。政府としては,更に確実な成果をあげるべく,引き続き本問題を内政上の最重要課題として位置づけ,新たに決定した「総合土地政策推進要綱」に基づき,土地基本法の理念を踏まえた実効ある施策の推進に努め,需給両面にわたる総合的かつ構造的な土地対策を講じてまいります。また,税制面においても,「地価税」の創設をはじめとして土地の保有,譲渡,取得の各段階にわたり総合的な見直しを行い,所要の法案を今国会に提出することとしています。このような取組により,中堅勤労者が相応の負担で一定水準の住宅を確保し得る地価水準の実現に努めてまいります。さらに,国民が豊かさを実感出来る住生活を実現するため,新たに第6期住宅建設5か年計画を策定し,良質な住宅ストックや良好な住環境の形成を計画的に図ってまいります。
(国土の均衡ある発展)
東京一極集中を是正し,多極分散型の均衡ある国土の発展を図っていくことは,土地・住宅問題の解決,豊かな国民生活の実現にも寄与する重要な課題であります。
このため,政府としては,国の行政機関などの移転を含め,都市,産業機能の地方分散を進めるとともに,整備新幹線の計画的な建設やリニアモーターカーの実用化の推進などの交通基盤施設の充実,道路網の体系的整備や生活に密着した高度の情報・通信網の整備により,全国的な交流ネットワークの形成をすすめてまいります。
さらに,「ふるさと創生」を契機として機運の高まってきた自らの創意と工夫を活
首都機能移転問題については,さきに行われた国会の決議を受けて,政府においても有識者会議を発足させたところであり,国民的規模の議論を踏まえつつ検討を進めてまいります。
(生活環境の整備)
快適で住みよい地球を実現していくためには,経済活動などを通じた地球への負荷を極力少なくし,環境の保全と経済社会の安定的発展の両立を図っていくことが必要であります。そのためには,地球的規模で省資源・省エネルギー対策を推進していくとともに,廃棄物対策の強化,拡充などを図ることにより,貴重な資源を大事に使う,いわば「リサイクル社会」を構築していく必要があります。このため,現行の廃棄物処理制度を基本的に見直すとともに,生産,流通,消費の各段階において,廃棄物の減量化や再資源化など資源の効率的利用を推進してまいります。また,地球環境問題の解決についても,国際的枠組づくりへ我が国として主導的役割を果たしていくとともに,地球温暖化防止行動計画の着実な実施や地球再生計画の具体化,開発途上国への資金的,技術的支援などを総合的に推進してまいります。これらの施策を通じて,我々の社会を地球にやさしい環境保全型の社会に変革すべく努力してまいります。
国民が,真に豊かさを実感出来る社会を建設していくためには,下水道,環境衛生,都市公園などの社会資本整備の計画的充実を図っていくことが必要不可欠であります。政府は,昨年6月,「公共投資資本計画」を策定し,向こう10年間の公共投資に関する枠組と基本的方向をとりまとめたところであり,今後は,この計画を踏まえ,快適でうるおいのある生活環境の創出に向け,国民生活の質の向上に重点を置いた社会資本整備を図ることとしています。
流通産業が,良質な物品・サービスを低廉な価格で,かつ,消費者ニーズの多様化,高度化に対応して提供していくために,出店調整手続きの迅速性,明確性などを確保するため大規模小売店舗法の改正などを行うとともに,消費生活に密着した魅力ある商店街,商業集積づくりのための総合的対策を講じ,小売商業の育成と新しい流通構造の構築に取り組んでまいります。
(農林水産業の振興)
農林水産業は,国民生活にとって最も大切な食料の安定供給という重要な使命に加えて,地域社会の活力の維持,国土,自然環境の保全など我が国経済社会の発展と国民生活の安定に不可欠な役割を果たしています。また,農山漁村は,個性豊かな地域文化を継承し,国民が生きる喜びを再発見出来る場として,重要かつ多面的な機能を有しています。
私は,今後の農林水産行政の推進に当たっては,確固たる長期展望の下,生産基盤の整備,先端技術の開発・普及,次代を担う意欲ある後継者の育成などを図ることにより,農林漁家の皆さんが誇りと希望を持って農林水産業を営めるような環境づくり,活力に富み明るく住みよい農山漁村づくりに努めてまいります。
なお,我が国農業の基幹である米については,米及び稲作の格別の重要性にかんがみ,国会における決議などの趣旨を体し,国内産で自給するとの基本的方針で対処してまいります。
(明るい長寿社会における福祉の充実)
本格的な高齢化社会が迫って来つつある今日,出生率の低下,女性の社会進出など子供と家庭を取り巻く環境についても大きな変化が生じています。私は,子供から老人まで,長い人生を健康で生きがいと喜びを持って過ごすことの出来る長寿福祉社会の構築に向け,福祉政策の更なる展開を図ってまいります。
このため,「高齢者保健福祉推進10か年戦略」を引き続き強力に推進していくとともに,老人保健制度を見直し,老人問題の中心課題の1つである介護の体制づくり,制度の長期的安定を図ってまいります。一方,子供を持ちたい人が健やかに子供を生み育てることが出来るよう,児童手当制度の充実,育児休業制度の確立など総合的視点に立って必要かつ効果的な環境条件の整備に努めてまいります。また,生涯にわたり健康を確保するため,疾病の予防や難病の克服,救急医療体制の整備など良質な医療の効率的提供,麻薬・覚醒剤対策,食品の安全性対策などを積極的に推進してまいります。障害者や母子家庭の方々にも,きめ細かな対策を講じてまいります。
(教育,文化,スポーツの振興等)
我が国は,物質的には豊かな国となっていますが,物で栄え,心で滅びる国とならないよう,知育偏重でなく個性と創造性を伸ばす教育を実現し,国民が芸術文化に親しみ自らの手で新しい文化を創造していける基盤を確立するとともに,生涯にわたる学習機会の整備やスポーツの振興に努力してまいります。また,基礎的独創的な研究をはじめ学術研究の推進,宇宙,海洋や原子力の開発利用の推進などの科学技術の振興に精力的に取り組んでまいります。同時に,これら各分野における国際交流を一層推進してまいります。
労働時間の短縮をはじめとする労働環境の改善に積極的に取り組むことも大切な課題です。このため,政府としても,完全週休2日制の普及促進などの施策を講じてまいりますが,国民の皆さんや企業におかれても,是非ご協力いただくようお願いいたします。
最近の治安情勢についてみますと,暴力団の対立抗争事件の多発,各種薬物乱用の深刻化,テロ・ゲリラの凶悪化など厳しさを増しております。治安の確保は法治国家の根幹であり,政府としては,安全な国民生活の確保に万全を期してまいります。また,最近の交通死亡事故の増加にかんがみ,交通安全の確保に努めてまいります。
(「信頼の政治」の確立)
国会は昨年,開設100年を迎え,新しい世紀に第1歩を踏み出しました。この記念すべき年に,私は,「信頼の政治」の確立に思いも新たに取り組んでまいります。
私は,民主主義国家においては,政治の公正さが社会の公正さの基本であり,是非とも政治改革を実現しなければならないと考えております。そのためには,まず何よりも政治倫理を確立することが重要であります。それとともに,政治や選挙の仕組みそのものを改め,政治資金の透明性を確保し,金のかからない政党本位,政策中心の政治や選挙を実現していくことが必要であります。政府としては,選挙制度審議会答申の趣旨を十分尊重して,選挙制度や政治資金制度の改革を一体のものとして実現し,あわせて,投票価値の平等が確保されるよう不退転の決意で取り組んでまいります。出来るだけ早く成案を得,国会においてご審議いただけるよう努力してまいりますので,各党各会派のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。
(結び)
昨年は即位の礼が挙行され,名実ともに平成日本の出発の年になりました。あらためて平和国家に徹することを誓うとともに,21世紀に向け,自由と民主主義の価値観を大切にする国家として,また,世界,とりわけアジアの一員として,平和と繁栄に責任を果たしていく決意であります。
世界は,東西冷戦構造を乗り越え,新しい時代に着実に歩みを進めつつあり,昨年のサミットでも,今世紀最後の10年は「民主主義の10年」と謳
世界経済に多大な影響を及ぼす国家となった今日,国内では,誰もが豊かさを心から実感出来る社会を実現していく必要があります。また,芸術,文化,スポーツなどの振興により,文化の香り高い国家を築き上げていかなければなりません。これまで,我が国は,生産や供給を重視することによって,今日の産業社会をつくり上げてきましたが,その成果を維持,享受しながら,その基盤の上に立って,消費者本位,国民生活重視や内需中心の経済発展などを基本として,公正で心豊かな社会の建設に努力していこうではありませんか。
私は,人類が,21世紀の曙
ここに重ねて,皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。
(91年1月25日)
第120回国会が再開されるに当たり,我が国外交の基本方針につき所信を申し述べます。
(はじめに)
現在の国際社会は正に歴史的激動期の中にあります。社会主義諸国における経済の失敗と旧来のイデオロギーの衰退が見られ,また,自由と民主主義,市場経済の価値の再確認がなされております。東西関係は,イデオロギーに基づく対立関係から,協調を基調とする関係へと変化するに至っております。そして,対話と協力の中で,新しい国際秩序を構築するための真剣な努力が続けられております。しかし,ソ連は国内改革に着手したものの,政治,経済,社会の各分野で混乱が見られ,改革の将来は未だ不透明であります。また,国際社会は過渡期に特有の不確実性と不安定性を内包しております。さらに,世界は,依然として国家間の対立,紛争を惹
(湾岸危機)
昨年8月のイラクのクウェイト侵略により発生した湾岸危機は,正にこのことを象徴的に示す事態であります。これに対し,国連安全保障理事会は,イラクのクウェイトからの全面撤退を実現するために一連の決議を採択し,世界の多くの国々は,国連を中心とする強い結束の下に,湾岸の平和と安定を回復するための幅広い協力を進めてまいりました。我が国としても,総額40億ドルに上る中東貢献策を着実に実施に移すとともに,イラク政府最高首脳部に対し国連安保理決議の速やかな履行を繰り返し強く申し入れるなど,問題の平和的解決に向けた外交努力を尽くしてまいりました。
しかし,イラクは終始,国連安保理決議や,デクエヤル国連事務総長のイラク訪問を含む,各国による平和的解決のための努力を無視する態度を採り続けてまいりました。今月17日に開始された多国籍軍の武力行使は,国連安保理決議に基づいて最後の手段として行われたものであり,我が国としてもこれに対する確固たる支持を明確にしております。イラクがクウェイトからの撤退を頑
我が国は戦後,国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,自らの安全と生存を確保することを決意いたしました。それだけに,公正で安定した国際秩序の維持は,我が国の生存のために不可欠であり,我が国としては,国際秩序を武力によって破壊しようとする試みを絶対に許すべきではありません。また,国際秩序の維持において重要な役割を果たすべき国連の権威を無視する態度を看過すべきでもありません。さらに,湾岸地域は世界の石油埋蔵量の65パーセントを占め,また,我が国が石油輸入の約7割を依存している重要な地域であり,その安定を確保すること自体が我が国にとって極めて重要な課題であります。
米国を始めとして多くの国が,国内の経済困難を抱える中で,国民の犠牲と膨大な軍事支出を覚悟して多国籍軍に参加している時に,主要先進国の中でこの地域の石油に最も依存している我が国が,憲法に従い多国籍軍の武力行使に参加しないというその立場につき,国際社会の十分な理解を得るためには,国連安保理決議の履行を確保するために,財政面の支援を始めとして,我が国としてできる限りの協力を自ら進んで行うことが極めて重要であります。我が国が経済大国であるだけに,我が国が相当の経費分担を行うことについての強い期待が国際社会に存在することも否定できない事実であります。我が国が,財政支援と我が国としてなし得る人的協力の両面での努力に十全を期さなければ,国際社会で孤立する方向に自らを追い込んでいく可能性すらあると申し上げても過言ではありません。
このような考えに立って,政府は,湾岸地域の平和回復活動に従事する米国を中心とする各国を支援するため,湾岸平和基金に対し新たに90億ドルの拠出を行うことといたしました。また,国連災害救済調整官事務所が国際社会に要請した避難民救済のための初動経費3,800万ドルの全額を引き受け,速やかに拠出いたしましたが,今後とも避難民援助には特に意を用いてまいりたいと考えます。さらに,我が国の民間航空機により避難民を本国に輸送するとともに,必要に応じ自衛隊輸送機による避難民の輸送を行うための準備を進めてまいります。
他方,我が国は湾岸の戦火が一刻も早く収まることを強く望むものであります。そのためには,イラクのクウェイトからの撤退が不可欠であり,フセイン大統領の早急な決断を強く求めるものであります。
なお,イラクのクウェイトからの撤退が実現しても,湾岸の長期的な安定を図っていくために,経済の復興,安全保障や軍備管理などの面での国際協力が必要であります。さらに,中東地域の大きな不安定要因であるパレスチナ問題の解決なくして中東地域の安定を図ることはできず,湾岸危機の解決後,国際社会がその解決のために以前にも増して努力を強化することが必要であります。我が国としても,これらの問題をめぐる国際協力のあり方についての検討を進め,関係諸国とも協力しつつ,この地域の長期的安定のために積極的に努力してまいります。
(米国との関係)
今回の湾岸危機によって改めて明らかになったことは,国際の平和と安全を守る上で中心的な役割を果たし得る国は米国をおいてほかにないということであります。イラクによる国連決議の履行の期限を目前に控え私が米国を訪問したのも,このような認識に立って湾岸危機を中心に緊密な協議を行うためでありました。
日米関係は今後とも我が国外交の基軸であります。しかし近年,米国において,対日貿易赤字の累積を背景に日本の経済力を米国にとっての脅威とみなす見方も出るに至っており,さらに今回の湾岸危機を契機として,我が国が一層の責任を果たすことを求める声が急速に高まっております。米国世論の中に見られる対日不信を克服し,また,米国政府内外に高まりつつある対日期待に応えるため,我が国が自らの判断において,進んでその責任と役割を果たしていくことが,日米関係を将来に向かって強化していくために極めて重要であります。
日米安保体制の信頼性の向上と円滑な運用の確保のために努力するとともに,我が国の安全にとって必要な節度ある防衛力の整備を進めていくことは,日米同盟関係を強化するための不可欠の前提であります。現行の日米安保条約は,昨年,締結30年の節目の年を迎えました。省みれば昭和27年,我が国は,当時の不安定な極東情勢の中で国の安全と復興を図るため米国との間に安全保障条約を締結し,さらに昭和35年,日米両国対等の立場に立って現行条約を結んだのであります。我が国が,激動する国際社会の中にあって平和を享受し,未曽有の経済的繁栄と国民生活の向上を見てきたことは,この選択が正しかったことを立証するものであります。そして今や日米安保体制は,アジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠の枠組みともなっております。国際政治の変革期にあって,国連を中心とする平和維持の努力が行われていることも事実ではありますが,この日米安保条約を堅持していくべき必要性についてはいささかの変化もありません。政府としては,このような認識に立って,在日米軍経費の負担について新たな措置を講ずることとし,所要の特別協定を今国会に提出して,ご審議をお願いすることといたしております。
また,日米両国が二国間の様々な問題を協力と共同作業の精神で着実に解決していくことが重要であります。さらに,両国が,新たな国際秩序の構築,世界経済の運営,開発途上国の経済開発や地球環境のような国境を越えた様々な問題についての協力を含め,政治,経済両面にわたるグローバル・パートナーシップを強化していくことが重要であると考えます。そして,このような日米の協力関係の基盤となる相互理解を一層強化するため,500億円の原資により新たに設立される日米親善交流基金をも活用し,両国国民の対話と交流を促進してまいります。
政府としては,このような考え方に立って,本年春に予定されているブッシュ大統領の訪日を,21世紀に向けて,より強固な日米関係を構築する機会にしたいと考えております。
(アジア・太平洋諸国との関係)
冷戦の終焉
朝鮮半島に対する我が国の政策の基本は,韓国との友好協力関係の強化にあります。昨年5月の虜泰愚
北朝鮮との間では,朝鮮半島をめぐる情勢全体を視野に入れ,その緊張緩和,平和及び安定に貢献するとの姿勢で,国交正常化のための本会談に臨む方針であります。また,この交渉の機会等を通じて,北朝鮮が国際原子力機関との保障措置協定を締結するよう強く働き掛けていく方針であります。
カンボディア問題については,我が国としても,カンボディア人当事者に対する働き掛けを含め,包括和平の達成に向けた外交努力を一層強化してまいります。また,和平合意が達成された暁には,国連の活動に対する資金協力や要員派遣,難民や避難民の帰還に対する協力及び復興援助を積極的に行う決意であります。
ASEAN諸国は,東アジア地域の平和と安定,さらには世界経済の発展を確保する上で重要な地位を占めております。我が国としては,ASEAN諸国との間で,この地域の経済協力のみならず,アジア・太平洋の諸問題について,対話と協力を深めていくことが重要であると認識しております。
我が国が中国との間において良好な関係を発展させていくことは,アジア・太平洋地域の平和と安定のためにも重要であります。私は,中国が改革・開放政策を推進し,国際社会に対し一層の建設的役割を果たすことを強く期待いたします。そのためにも我が国は,中国の近代化努力に対し,現在,徐々に実施に移している第3次円借款を始めとして,できる限りの協力を行ってまいります。
また,我が国は,アジアに強い関心を向けつつある豪州,ニュー・ジーランドとの友好協力関係を発展させてまいります。
さらに,アジア・太平洋地域の開発途上国に対する経済協力の推進や域内の貿易及び投資の拡大に努めてまいります。
南西アジアでは,南アジア地域協力連合を通じた域内協力を推進する動きも見られますが,他方で,カシミール問題を始めとする不安定要因があります。また,アフガニスタン問題についても,解決のための一層の努力が必要となっております。我が国としては,ネパールやバングラデシュの民主化への好ましい動きをもとらえつつ,これらの地域の安定と発展のため,できる限りの協力を行ってまいります。
私は,今や,アジア・太平洋地域の長期的な安定を確保する方途について真剣に検討すべき時期に至っていると考えます。この地域においては,そのための道程が欧州と異なることは当然であります。なぜならば,この地域の地政学的な条件や安全保障上の環境が欧州とは大きく異なっているからであります。
第1に,アジア・太平洋地域では,域内の多くの国が開発途上国であることもあって,各国の最大の関心事は経済発展であり,核戦争の脅威を含む軍事的な緊張の緩和を最大の関心事項としてきたこれまでの欧州とは大いに異なっております。
第2に,従来の欧州では,NATOとワルシャワ条約機構の二極に集約された形での東西関係が存在していたのに対し,アジア・太平洋地域では,中国の存在を含めて,東西関係では律し切れない様々な要因があり,国際政治上の力関係が多極的であります。この地域では,同盟関係は二国間のものがほとんどであり,また,各国の利害の対立及びこれに伴う脅威認識も多様であることから,全体として安全保障の構図が複雑であります。
第3に,欧州においては,戦後の国境問題等の解決という過程を経た上で,いわゆるCSCEの作業が始められたのに対し,アジア・太平洋地域においては,依然として朝鮮半島における南北対立,カンボディア問題,日ソ間の北方領土問題などの未解決の紛争や対立が存在します。
そして,第4に,欧州ではEC統合の動きを中心として,政治的にも経済的にも統合に向かう大きな流れがあるのに対して,アジア・太平洋地域では,むしろ国家,地域の政治的,社会的,文化的な多様性や経済発展段階の相違を基礎としつつ,経済的な相互依存関係が追求されております。
このようなアジア・太平洋地域の特徴を踏まえ,その平和と安定を確保していくためには,まず,朝鮮半島における対立,カンボディア問題,北方領土問題等の未解決の紛争や対立の解決を図り,その過程を通じて,北東アジア,東南アジア等の地域毎に,それぞれの地域の長期的な安定を図るための対話や協力関係を強化していくことが重要であります。
より広い範囲の地域協力については,域内諸国の安定のために経済発展が重要であることに鑑
このような考え方に立って,我が国としては,アジア・太平洋地域の長期的な安定を確保するための方途について国際的なコンセンサスを形成すべく,各国との対話を深めてまいる方針であります。
(ソ連との関係)
アジア・太平洋地域の安定と繁栄を確保する上で,日ソ関係の抜本的改善が不可欠であります。そのためにも北方四島の返還を実現し,平和条約を締結して,質的に新しい両国関係を構築することが必要であります。
今般,私はソ連を訪問し,ゴルバチョフ大統領やベススメルトヌィフ外相と胸襟
他方,ソ連は現在複雑かつ困難な局面を迎えております。経済改革は停滞し,連邦と共和国の関係にも混乱が見られます。特に,バルト諸国において武力が行使されたことは,憂慮すべき事態であり,私は今回の訪ソにおいて,その民主的,平和的解決を強く求めるとともに,我が国としては,ソ連が民主化,自由化に向けた努力を引き続き堅持することを強く期待する旨を表明いたしました。
(欧州との関係)
欧州では,昨年11月,CSCEのパリ憲章が署名され,欧州における対立と分断の時代の終焉
また,東欧諸国の民主主義や市場経済の実現に向けた改革の成功は欧州,ひいては世界の安定に寄与するとの認識に立って,引き続き東欧の改革を積極的に支援してまいります。
(その他の地域との関係)
中南米では,近年,顕著な民主化の進展が見られ,また,多数の国々が市場経済に基づく真摯
アフリカでも,多くの国が民主化や経済構造調整の努力を行っており,我が国としてもこのような努力を可能な限り支援してまいります。また,南アフリカのアパルトヘイト問題については,南アフリカ政府と黒人側の話合いを通じ,平和的解決の道が開かれつつありますが,我が国としては,今後とも南アフリカ当事者との対話の拡大,南アフリカ黒人支援の強化等を通じ,このような努力を支援してまいります。
(世界経済への貢献)
世界経済は,主要国間の大幅な対外不均衡,根強い保護主義圧力などの問題を依然として抱えており,さらに,最近に至って先進国経済が減速する一方,湾岸危機の影響が懸念されております。
我が国は,世界第2の経済大国として,このような状況に対処し,世界経済の健全な発展を確保するために一層積極的に貢献していかなければなりません。特に,ウルグァイ・ラウンド交渉については,仮にこれが失敗するようなことになった場合の国際的悪影響には計り知れないものがあり,我が国としては,この交渉を何としても早期に成功させるため,引き続き最大限の努力を行ってまいる方針であります。
また,我が国としては,サミット等を通じ主要先進諸国間の政策協調を積極的に推進いたします。さらに,対外経済関係を円滑に運営するため,今後とも内需主導型の経済運営を堅持するとともに,市場アクセスの一層の改善,規制緩和を始めとする構造調整の推進などを通じて輸入拡大に努めてまいります。
(国際協力構想)
以上のような諸政策を推進していく上でも,平和のための協力,政府開発援助の拡充,国際文化交流の強化を3つの柱とする国際協力構想の一層の強化が重要であり,我が国は今後とも,このための努力を行ってまいります。また,国際社会に貢献するという同じ考えに立って,地球環境,麻薬,国際テロ,難民,人権などの人類共通の問題の解決のための協力や,技術移転を含む科学技術面での国際的貢献を引き続き強化してまいります。
平和のための協力について我が国は,従来より国連平和維持活動に対する資金協力を行うとともに,ナミビア,ニカラグァ及びハイティにおける国連選挙監視団に要員を派遣してまいりました。今後さらに,国連平和維持活動に対する協力を含め,憲法の精神に則
軍縮の分野においては,今般の湾岸危機を通じその重要性が再認識されつつある核,化学・生物兵器及びミサイルの不拡散体制の強化や通常兵器の国際移転に関する透明性,公開性の増大などを目指す国際的な努力に,我が国としても積極的に参画してまいります。また,軍縮会議において,核実験禁止に関する議論の進展及び化学兵器包括禁止条約の採択のために,我が国としても一層の努力を行ってまいります。
我が国の国際協力の中心は政府開発援助であります。多くの開発途上国において経済困難が一層深刻化している中で,世界の国民総生産額の1割を超える経済力を有する我が国としては,今後とも政府開発援助の拡充,強化を図っていかなければなりません。このため,現在実施中の第4次中期目標に沿って,引き続き政府開発援助の着実な量的拡充,内容の改善及び援助実施体制の強化に努力するとともに,援助の効果的,効率的実施に努めてまいります。
さらに,我が国と諸外国との間で,相互の文化の紹介や知識の交流を通じ,一層深みのある相互理解を実現すべく努力してまいります。また,世界の文化遺産の保存を図り,開発途上国との文化協力を推進してまいります。
(外交実施体制の強化)
激動する国際情勢に的確に対応し,外交活動を行っていくためには,外交実施体制の一層の強化が必要であります。また,今般の湾岸危機を通じて,その重要性が改めて認識された危機管理体制や海外における邦人の保護のための体制の強化も必要であり,これらにつき一層の努力を行ってまいる所存であります。
(結び)
我が国は今後,その持てる経済力と科学技術力を十二分に活用して,世界の平和と繁栄の確保のために進んで責任と役割を果たしていかなければなりません。そうすることによって初めて,我が国は諸外国からの信頼を得ることができるのであり,この信頼無くして我が国が国際社会において名誉ある地位を占めることはできません。
政府がこのような考え方に立って多方面にわたる外交を進めていくに当たって,国民各位のご理解とご協力は不可欠であります。政府といたしましても,全力を傾けて積極的な外交の推進に取り組んでまいる決意であり,国民及び議員各位の力強いご支援を改めてお願い申し上げる次第であります。
(91年8月5日)
第121回国会の開会に臨み,当面する諸問題につき所信を申し述べ,皆さんのご理解とご協力を得たいと存じます。
はじめに,先般の雲仙岳の噴火により亡くなられた方々とそのご遺族に対し,深く哀悼の意を表し,また,負傷された方々や避難生活を続けておられる方々に心からお見舞いを申し上げます。
天皇皇后両陛下におかれましては,被災地において,親しくお見舞いをいただいたところであります。
政府は,災害発生後,直ちに非常災害対策本部を設置し,調査団を派遣するとともに,私も現地において,長崎県知事,島原市長,深江町長からのご要望を承り,これまでに本部決定した21分野にわたる救済対策を,鋭意実行に移しているところであります。
今回の災害は,近年にない大規模な火山活動によるものであり,既に長期に及んでいるため,避難されている方々の生活や教育環境などの安定確保がとりわけ重要であります。このため,政府,県,市長一体となって,応急仮設住宅の建設をはじめ各般の対策を講じているところでありますが,引き続き,地方財政への十分な配慮も払いながら,適切な応急対策を強力に推進するとともに,災害終息後の,この地域の防災,振興,活性化などの地域づくりについても真剣に考慮し,必要な措置を積極的に講じてまいります。
なお,雲仙岳の火山活動は,現在も予断を許さない状況が続いています。今後とも,住民の方々の生命の安全を第1に,適切な避難措置などを講ずるとともに,引き続き厳重な観測・監視を行ってまいります。
今般明らかとなった証券会社による特定顧客に対する損失補填
政府は,損失補填
今後は,こうした問題の再発を防ぎ,一般投資家の信頼を回復するため,取引一任勘定取引や事後的な損失補填
また,今回の証券業界の不祥事に関連して,行革審に対し,証券市場の監視・適正化のための是正策について検討を要請したところであります。
なお,一部の銀行において,職員の関与した不祥事が発生したことは誠に残念であり,関係者に強く反省を促すものであります。
(政治改革の実現)
私は,就任以来,政治改革の実現こそが,時代から託された使命と考え,不退転の決意で取り組んでまいりました。国民の皆さんが信頼のできる,分かりやすく公正な政治を確立し,その負託に応えていくことが政治の原点であります。しかしながら,謙虚に振り返れば,いわゆる政治と金の問題に端を発して,国民の不信感が高まってきた現実を認めないわけにはいきません。
政治改革の根本には政治倫理の確立があり,一人一人の政治家が高い倫理観を持って,自らを厳しく律する姿勢を徹底していかなければなりません。他方,制度面においても改めなければならない問題が現在の政治の仕組みにあることも事実ではないでしようか。
議会制民主主義を支えるのは選挙であり,議会政治は政党政治であります。しかるに,現在の衆議院の中選挙区制の下では,いかなる政党であっても,多数の議席を確保し,責任ある政権党となるためには,同じ選挙区から複数の候補者を立てざるを得ないのです。すなわち,130の選挙区すべてで1名ずつの当選者を出しても,512の議席の4分の1を占めるにすぎないのであります。複数候補者を必要とするこの制度においては,主義,主張を同じくする候補者同士が,政策以外の分野で個人的レベルでの争いを強いられます。政策論争を離れた選挙では,政党政治の中心たるべき政策はともすれば大切な場面で姿を消し,有権者との個人的なつながりが重視され,その維持,拡大に莫
政府は,以上のような基本的な考え方から,政治改革の重要な柱として,政治倫理の確立と政治資金の公正さの確保,さらには,内外の課題に国全体の観点から的確,機敏に対処する政治を確立するために,小選挙区比例代表並立制を提案しています。小選挙区制に比例代表制を並立させることで,少数意見の国政への反映にも配慮し,より細かく民意を吸い上げることとしています。選挙区割りについては,厳選中立な第三者機関である選挙制度審議会で策定したものをそのまま提案しています。その中で,1票の格差も,やむを得ない場合を除き,1対2未満になるように努力をしていただきました。また,今回の案では,衆議院の議員定数を512から471に大幅に削減し,政治改革に臨む私どもの決意を,国民の皆さんにはっきりとお示ししたつもりであります。
政治改革の端緒となった政治資金自体の問題については,今日,政治にある程度の資金が必要であることは事実ですが,本来の政治活動以外の部分にに多額の費用がかかり,その集め方,使い方に大きな批判があることはご承知のとおりであります。
今回の改革では,政治資金は政党中心に調達するという流れをつくるとともに,政治資金の公開性を高め,規制の実効性を確保することとしています。また,連座制の強化をはじめ選挙の腐敗行為に対する厳正な措置をとり,さらに,これら一連の制度改革の上に立って,諸外国でもみられる政党に対する公費負担制度を導入することとしています。これは,政党の政治活動が国家意思の形成に資するという公的性格に着目したものであり,また,政治活動の公正さの確保や財政基盤の強化などの上でも,必要なものであると判断しました。
なお,参議院議員の選挙制度の改革については,引き続き,論議を深めているところであります。
現在の衆議院議員の選挙制度は,戦後の混乱期を除いて60年を超える歴史を有しております。今回の改革は,この歴史の中で積み重ねられた弊害を思い切って除去しようとするものであります。この改革は,国会議員一人一人の政治生命に直結する問題であり,厳しく利害が対立し,政党間にも議論があるところであります。しかし,今,政治の現実をみる時,この厳しくつらい改革を何としても成し遂げ,国民の信頼と負託に応えられる新しい政治をつくり上げていかなければならないのではないでしようか。公職選挙法改正案をはじめ政治改革関連三法案の成立に向け,皆さんのご理解とご協力をお願い申し上げます。
(行財政改革の推進)
我が国の財政は,依然として極めて厳しい状況にあり,これまでの大幅な税収増加をもたらしてきた経済的諸要因が流れを変えてきていることなどを踏まえ,今後の予算編成に向け,引き続き,制度や歳出の徹底した見直しに取り組んでまいります。また,先般提出された行革審の第1次答申などを最大限に尊重し,国,地方を通じた行財政の改革を推進してまいります。
(我が国の果たすべき国際的役割,責任)
私は,先月,ロンドンにおいて開催されたサミットに出席し,世界の平和と繁栄に大きな責任を有する先進民主主義諸国の首脳と,21世紀に向けた国際秩序の強化や世界的パートナーシップの構築を目指して,率直かつ活発な意見交換を行ってまいりました。この中で私は,アジア地域からの唯一の参加国として,この地域の視点を積極的に取り上げ,今回のサミットをグローバルなものにすることに意を注いでまいりました。
また,サミットに先立ち,ブッシュ大統領と,ケネバンクポートの別荘で会談し,日米の協力関係が両国のみならず世界全体のためにも極めて重要であり,世界的課題に両国が共同で対処することが世界の平和と繁栄に必要不可欠であることを改めて相互に確認したところであります。
国際社会が国連の下に団結して湾岸危機を克服したことを背景として,今回のサミットでは,新しい国際秩序を構築していくに当たっては,国連を中核とする多数国間の協力を重視するという姿勢が明らかにされました。これは,冷戦構造克服後の世界に,健全な方向性を与えようとするものであり,従来から国連中心主義を提唱してきた我が国の立場にも沿うものであります。
今後,各国は,このような世界平和の維持における国連の機能,役割の強化に積極的に参加し,それを強力に支援していかなければなりません。我が国としては,これまでも,国連による平和維持活動に対し,資金面で重要な協力を行うとともに,選挙監視団に要員を派遣するなど人的側面での協力も実施してまいりましたが,今後,人的な面での協力を一層適切かつ迅速に行うことができるよう,国内体制を整備することが必要であります。先般の湾岸危機を通じ,国民の間でも,我が国が,世界平和のために資金,物資面のみならず,人的側面においても積極的な役割を果たしていくべきであるとの共通の理解が,定着したものと考えます。もちろん,我が国の平和主義の理念は,過去の歴史の反省の上に立って堅持してまいりますが,この理念を現実のものとするためにも,人道的な国際協力を一層進めるとともに,世界平和を守る秩序作りの国際共同作業には,我が国としても積極的に参加し,成し得る役割を担っていくことが必要であります。
このような考え方から,国際緊急援助活動を従来にも増して充実強化するため,自衛隊の参加を可能とする法改正を行うことについて検討を進めているところであり,国連の平和維持活動に対する協力については,自民,公明,民社3党間の合意の経緯や,今後の協議をも踏まえつつ,国際平和協力に関する新たな法案について,我が国として積極的な役割を果たし得るものとなるよう鋭意検討を進め,今国会に法案を提出できるよう努力してまいります。
なお,ペルシャ湾への原油流出などによる環境汚染に取り組まれた専門家や技術者の方々,クルド人を中心とする避難民救済やバングラデシュのサイクロン災害のために努力された国際緊急援助隊,そして現在,ペルシャ湾で機雷の掃海作業に従事している自衛隊員をはじめ,これまで我が国の国際的な人的貢献にご苦労いただいた方々に対し,ここで改めて感謝と敬意を表します。また,先般,ペルーで国際協力事業に尽力され,テロにより亡くなられた方々に対し,謹んで哀悼の意を表するとともに,このような事態の発生の防止に最善を尽くしてまいります。
先の湾岸危機が我々に残した教訓の1つに,自国の安全保障に必要な限度を超えた軍事力がいかに危険であるかという問題があります。今後,こうした事態の再発を防ぐためにも,軍備管理,軍縮の推進が極めて重要であり,核,化学・生物兵器などの大量破壊兵器やミサイルの拡散を防止するとともに,通常兵器の移転につき,その透明性,公開性を増大させていくことが必要であります。なお,私は,従来より,核の究極の廃絶を訴えてまいりましたが,この度,米ソ間で戦略兵器削減条約が署名されたことは,極めて喜ばしいことと考えます。
本年5月,我が国の提唱により開催された国連軍縮京都会議には,私も参加し,通常兵器の移転に関する国連報告制度の創設をはじめ,我が国の軍備管理,軍縮に関する考え方を具体的に明らかにしました。国連報告制度については,今回のサミットでも支持が表明されたことから,この制度の確立を,関係国とも協力しつつ,秋の国連総会に決議案として提案し,その実現を期してまいりたいと考えます。我が国としては,サミットにおける宣言をも踏まえつつ,今後とも,軍縮管理,軍縮のための国際的努力を積極的に推進する上で必要な役割を果たしていく決意であります。
また,私は,先の通常国会で,我が国の経済協力の実施に当たっては,その国の軍事支出の動向,大量破壊兵器の開発・製造や武器輸出入の動向などにも十分な注意を払うことを明らかにしました。この考えはサミット諸国からも好意をもって評価され,他のすべての援助国も同様の措置をとるよう奨励されたところであり,我が国は,今後とも,この点をも踏まえ,的確な経済協力を実施してまいります。
なお,武器輸出三原則などにより厳格な武器輸出管理を実施してきている我が国としては,今般の武器の不正輸出事件を重大に受け止めており,容疑事実が確認された場合には,現行法にのっとり厳正に対処していくとともに,今後とも,産業界に対する指導の強化など一層厳格な輸出管理を実施してまいります。
サミット諸国首脳の共通の認識となったウルグアイ・ラウンド交渉の成功は,多国間の自由貿易によって経済的繁栄を享受し,ここまで発展してきた我が国が,率先して取り組んでいかなければならない課題であります。
今回のサミットで,年末までに交渉を成功裡
サミット終了後に行われた参加国首脳とゴルバチョフ大統領との会談において,参加国首脳は,ペレストロイカの正しい方向に沿ったソ連の改革への自助努力を支援していくことを表明し,現状では技術的支援が有効との共通の立場から,IMFや世界銀行との特別提携関係や技術的支援の拡充などにより,サミット参加国が協調して適切な協力を行っていくというメッセージを,ゴルバチョフ大統領に伝えました。
また,ソ連の新思考外交は全世界にわたって適用されることが必要であり,この関連で,北方領土問題の解決を含む日ソ関係の正常化が重要であることが,参加国によって確認されました。
さらに,アジア・太平洋地域の平和と繁栄を図っていくためには,ASEAN拡大外相会議をはじめとしたこの地域の既存の枠組みを通じ,対話と協力を拡大していくことが必要であり,また,中国の経済,政治両面にわたる改革の進展,不安定要因である朝鮮半島問題やカンボディア問題の解決,モンゴルの民主化と市場経済化が図られることなどが重要であると考えます。こうした認識も,議長声明に盛り込まれたところであり,我が国としても,引き続き,地域全体の平和と繁栄のため,積極的な役割を果たしてまいります。私が,近く中国,モンゴル訪問を予定しているのも,このような基本姿勢に立ったものであります。
今回のサミットに引き続き,私はEC議長国であるオランダを訪問し,ルッベルス・オランダ首相,ドロールEC委員長との間で,初の日・EC首脳協議を行いました。ECは,経済面のみならず,政治面での統合を推し進め,国際政治面でも大きな役割を果たしつつあることから,我が国とECが,グローバルパートナーとして,日米関係におけると同様,政治,経済,文化などの面で幅広い関係強化を促進していくことが不可欠であります。今回発表した日・EC共同宣言は,このような日・EC関係の新しい時代を象徴するものであります。
このようなご報告のできるのも,安定した経済発展を遂げてきた日本の総合的な国力と,先人の方々の努力の積み重ねの賜
(結び)
一昨年,ソ連,東欧諸国で始まった政治,経済の民主化に向けての胎動は,この地域に限らず,アジア,中南米,アフリカの諸地域でも広くみられ,今や,民主主義の力強い息吹やその再生は,全地球的規模で,深く,かつ大きなうねりをみせています。我々がここ数年,目の当たりにした,この民主主義の歴史的前進は,人類の新しい時代の夜明けを予感させるものであります。
私は,このように,民主主義という価値観が,人類の普遍的な原理として世界の人々に受け入れられ始めたこの時に,改めて,日本自身が我が身を振り返り,民主主義の一層の前進のために努力していくべきであると考えます。
今回,提案している政治改革は,国民が,選挙を通じ,自らの代表者を,政策やそれを掲げる政党の優劣で判断,選択でき,その結果,政治に民意を的確に反映できるシステムを構築しようとするものであります。政策,政党本位に民主主義が真に機能してこそ,国民の皆さんが,我が国の運命を,自ら主体的に選択,決定できる,本当に主権は国民にあると言える世の中になるのではないでしょうか。そして,このことは,国際社会において我が国の果たすべき役割,責任がますます増大する中で,我が国の進むべき針路に誤りなきを期していくためにも大切なことであると思うのであります。
改革には痛みを伴います。しかし,この痛みを乗り越え,自らを改革できるものにこそ未来があると信じます。21世紀に向け,先進民主主義諸国の枢要な一員として,我が国の民主政治の基盤を確固たるものとしていくために,政治改革は是非とも実現させなければなりません。
ここに重ねて,皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。