4.日本国政府が関与した主要な共同コミュニケ等

(1) 第29回OECD閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(90年5月31日,パリ)

1.  OECD閣僚理事会は,1990年5月30日及び31日に開催された。議長はスイスのジャン・パスカル・ドラミュラ公共経済大臣が務め,副議長はイタリアのパオ口・チリノ・ポミチーノ予算大臣,レナート・ルジェロ外国貿易大臣及びスサナ・アグネリ外務政務次官並びに日本の中山太郎外務大臣,武藤嘉文通商産業大臣及び相沢英之経済企画庁長官が務めた。
   閣僚は,ユーゴースラヴィアのOECDへの加盟希望に関するブデイミール・ロンチャル同国外務大臣の声明に留意した。

 全般的な政策表明

   A.   閣僚は,欧州,特にドイツで進行している歴史的な変化を歓迎する。これらの変化は,多くの開発途上国における最近の進展とともに,多元的民主主義,人権尊重,競争的市場経済というOECD諸国共通の基本的価値へ向けての動きを示している。かかる動きは,真に一体化された世界的経済体制に向けての展望を開くものである。
   B.  OECD諸国は,これらの変化を支援するような方法で各国の政策を実施し,調整する考えであり,これはすべての国にとり利益となることである。OECD諸国は,グローバリゼーションと相互依存は大いなる好機をもたらすものであると認識し,この機会を十分に活用すべく,加盟国間及び域外の各国との間で積極的に協力していく。
   C.  1990年のOECD閣僚理事会は,広範で基本的かつ相互に密接に関連した,次のような結論に到達した。
   第一に,閣僚は,高い雇用水準及び公正な社会条件を維持できるよう,近年の良好な経済結果を基礎として,インフレなき成長を目指した政策を進展させていくことに合意した。このためには,堅固で均衡のとれたマクロ政策の維持,対外 不均衡の一層の縮小,構造政策の継続した進展及び開放的競争市場の育成が必要 である。
   第二に,閣僚は,あらゆる形態の保護主義と戦い,多角的開放貿易体制の強化を全面的に支持することにつき断固たる決意をもって臨むことを誓う。閣僚は,本年末までにウルグアイ・ラウンドを成功裡に終了させることにコミットしてい る。このためには,すべての分野で市場アクセスの改善及び透明性のある強化された多角的規則が必要である。このような行動は,競争のための条件を改善する国内での努力を補完するとともに,すべての国が強化されたガット体制の義務を全面的に受け入れることができるために必要な保証を与えることとなる。
   第三に,閣僚は,OECD諸国経済の市場アクセスの拡大,開発資源の移転の改 善,OECD諸国のインフレなき安定成長を通じて,経済成長及び社会的進歩に向けての開発途上国,特に後発開発途上国による努力を支援していくとのコミットメントを表明する。かかるコミットメントは,改革の過程にある中欧・東欧諸国に対しなされている支援により変更されるものではない。
   第四に,閣僚は,世界経済における役割と責任が着実に増しつつある「アジアの活力ある経済」との対話を更に進め,深めるようOECDに対し指示する。
   第五に,OECD諸国政府は,市場指向経済体制及び多元的民主主義の達成に努力している中欧・東欧諸国に対し,引き続きあらゆる可能な支援を提供する決意である。閣僚は,改革の過程にある諸国を国際経済体制に組み入れるとの目標から,経済改革プロセスを促進するための政策対話に関与することにより,OECDが明確かつ重要な役割を果たすべきであると考える。
   第六に,閣僚は,多くの環境問題は,今日全世界的広がりを有しており,従来にも増して関心と行動を必要としていることを強調する。これらの問題を解決するためには,世界全体としての持続的発展が確保されねばならないとすれば,すべての国が協調的で多くの点で整合する政策をとることが必要である。このためOECDは,特に経済政策決定と環境政策決定との一体化及び市場メカニズムの最適活用の分野で,こうした努力を協力して行っていくにあたっての役割を従来にも増して強化する。
   D.  今日、世界に影響を及ぼし世界的統合のプロセスを促進している急速かつ遠大な諸変革は,より一層の国際協力を必要としている。こうした変革に呼応して,OECDは,経済・社会政策の問題点を分析し適切な解決策を見出す能力故に,ますます重要な役割を有するようになった。

現下の経済情勢におけるマクロ経済政策

2.  閣僚は,過去1年の経済の進展に概ね満足であるが,いくつかのリスクが引き続き存在することに留意する。OECD諸国における顕著な成長は,全体として中期に持続しうる成長速度へ移行しつつある。対外不均衡の縮小については,一律でないにせよ顕著な進展がみられた。経済面での国際協力の一層の強化に裏付けられた金融政策,財政政策及び構造政策の全般にわたってバランスのとれた行動が,以下のことのために必要である。
  ―インフレを低下させること
  ―雇用創出を進め,失業者,特に長期休業者の再就職を助けること
  ―対外不均衡を縮小させること
  ―為替市場の安定化を促進すること
  ―生産につながる投資の健全な伸びを維持すること
  ―適切な場合には,より高い貯蓄を奨励すること
   OECDにおける強い成長と市場アクセスの拡大は,世界貿易の増大を通じてすべての国の利益となり,より良い経済パフォーマンスのために必要な構造変化を支援する。かかる観点から,ECの経済同盟に向けた進展,現在の欧州経済圏を創出するための努力,ドイツの統一及び中欧・東欧における経済改革は極めて重要な意味を持つ。
3.  最近ほとんどの国でとられた金融引締め政策は,インフレ圧力の鎮静に役立ったにもかかわらず,幾つかの国ではインフレは高まっている。価格安定へのコミットメントを改めて確認するため,通貨当局は特にインフレ率がまだ高すぎる場合又は金融市場がインフレ期待の高まりを示している場合においては,引き続き必要な警戒及び抑制を実施していく。低いインフレは,それ自体インフレ期待を引き下げ,金利の低下につながり,持続的成長の基礎を提供する。
4.  財政政策は,健全な公共部門のポジションの達成及び維持,公的部門の運営の改善及び資源配分の効率化といった十分に確立された目標に向けての一層の達成及び維持の進展を通じて,安定した経済環境を引き続き補強する。財政政策は,価格安定を達成するための金融政策における努力を補完する。
5.  OECD諸国の大半は,今後10年の間に,人口高齢化による医療及び年金支出の増大,教育費用の増大及びより高度な技術労働者の必要性,国によっては特殊な雇用の必要性への対応,環境面での配慮並びに多くの場合,インフラ投資及びその維持といった支出増加圧力に直面することとなろう。こうした圧力に対応するため,各国政府は行政管理及び公的支出の内容を改善する方策を決定するとともに,最も効率的に競争に委ねうる支出項目を特定する。閣僚は,加盟国のこうした課題の遂行の助けとなるよう,OECDによる一層の検討作業を期待する。
6.  OECD内外における膨大な投資需要は,多くのOECD諸国において貯蓄率が高まり,OECD地域全体としてより高い貯蓄率となることを必要とする。貯蓄率の上昇は対外不均衡の一層の削減を伴うことが重要である。公的部門の借入れがまだ高すぎる国においては,これをできる限り急速に減らすため一層の努力を行う。民間部門における追加的な貯蓄の必要がある国では,このための政策は国によって異なるであろうが,積極的にこれを行うべきである。したがって,閣僚は,OECDにおけるこの分野での一層の検討作業を期待する。
7.  労働市場,人的資源,教育及び職業訓練についての適切な政策をも通じて,インフレ圧力を高めることなく雇用を拡大することが不可欠である。このことは,労働のミスマッチ及び高技術労働者の全般的な不足が多くの国で顕著であることから,現在特に重要である。
8.  閣僚は,適切な国内政策に基づいた強力な経済面での国際協力を維持することの重要性を強調する。このような協力は,それぞれの国においても,マクロ経済政策から構造政策に至る広範な課題に対する当局の負担を軽減する。また,不必要かつ望ましくない為替及び金融市場の攪乱の回避に資するとともに,政治的には困難ではあるが望ましい構造改革の実施に貢献することとなろう。経済面での国際協力は,近年,より安定的でより予測可能な世界経済に貢献してきた。またそれは,信任を高め期待を留めることに貢献してきており,今後もそうあり続けるべきである。
OECD諸国における構造改革
9.  構造改革は,様々な分野において経済効率を高めてきており,引き続き高い優先順位が与えられよう。閣僚は,事務総長及び経済政策委員会による「構造調整の進展に関する報告」に留意した。閣僚は,海外直接投資,税制,そして特に金融市場等いくつかの分野においては,国際間の強い政策相互依存が刺激となって構造改革が持続的かつ実質的に進展していることに留意した。しかしながら,他の分野,特に貿易,農業,産業補助政策の分野においては,かなり多くのことがなされなければならない。閣僚は,構造改革全般にわたる進展を維持しつつ,これらの分野における実績が改善されることに特に関心を有する。今年末までにウルグァイ・ラウンドが成功裡に終結することは,1990年代におけるこれらの分野の構造改革を進展させる上で,大きな意味を持つ。
10.  閣僚は事務総長及び関係委員会に対し,OECDの構造サーベイランス・プログラムを引き続き拡大し,掘り下げ,強化させていくよう要請する。このため,閣僚は,各国政府が必要なデータをOECDに提供することを約束する。閣僚は,構造改革のプロセスを促進する手段として,こうした多角的相互審査を行うことの重要性を強調した。この審査には,行動を起こさないことのコスト,変化を妨げている障害を克服するための最も有望な方法を特定し,その情報を公開することが含まれる。
農業改革
11.  閣僚は,農業委員会と貿易委員会との共同報告「農業政策,市場及び貿易のモニタリングと見通し-1990年」に留意し,その結論を支持した。OECD諸国は,合意された政策改革の長期目標の実施に関し,限定的かつ不均一な進展しか達成しなかった。農産物市場は,内国支持の広範な使用,貿易に悪影響を与えるその他の措置及びひっきりなしの国際的緊張と紛争によって引き続き特徴づけられている。短期的には余剰農産物は減少したが,農業分野における構造調整が不十分なことに起因する問題は,依然解決されていない。農業政策は,生産の削減の要因となったものも含めて,OECD各国にとり,また他の国にとっても依然として負担が大きい。生産者補助金相当額(PSE)で計測した農業への助成は,2年連続して1989年にも減少したが,これは大部分政策以外の要因によるもので,1979年から1985年の平均値より依然として高い。OECD事務局の試算によると,農業政策による消費者及び納税者からの移転の総額は,OECD地域全体で,1988年の約2,800億ドルから1989年には約2,450億ドルになったが,1986年以前の如何なる年よりも高い水準に留まっている。
12. このような背景の下で,閣僚は,貿易の一層の自由化が可能となるよう,支持と保護に関し,農業政策の改革のための緊急の措置をとることに合意する。閣僚は,改革の長期目標,即ち,市場のシグナルが農業生産の方向づけに影響を与えうるようにすること及び公正で市場指向的な農業貿易体制を構築することに関する約束を再確認する。プンタ・デル・エステ宣言と中間見直し宣言は,現段階でこれら目標へのアプローチをどう表現するかの点で違いはあるものの,閣僚は,これらの宣言で合意された目標に沿って交渉を行う用意がある。一部の閣僚は,交渉は,内国支持,市場アクセスへの障壁及び輸出補助金のそれぞれの交渉分野で特定された政策コミットメントの追求と,検疫及び衛生措置に関する新しいルール作りを行うべきであると考える。他の閣僚は,輸入アクセスと輸出競争に直接または間接に影響を与えるすべての措置にコミットする形での支持と保護の削減,及び検疫と衛生措置のルールを追求することがより好ましいとする。長期目標を追求するに当たり,参加国の非貿易的関心事項に応えることを目的とする提案が考慮される。閣僚は,相違点を解決し,7月の貿易交渉委員会会合までに上記の目標を達成するための適切な枠組みを開発し,その後,いかなるタイムテーブルに従いどの程度行うかにつき合意に達し,強化され,より実効性のあるGATT規則及び規律について合意に達するよう,あらゆる努力を傾注するとの決意と約束を表明した。閣僚は,交渉の結果が貿易の一層の自由化を達成するための拘束力のある国内のプログラムに移し替えられねばならないことに合意した。
13.  閣僚は,OECDが,農業改革のプロセスに特有な側面,特に生産と結びつかない直接所得支持に関する一層の研究,OECD各国と主な非OECD諸国の農業助成と保護及びこれらが国際貿易に与える影響の計量的モニタリングの継続,農業助成と保護の削減による影響(開発途上国への影響を含む)の分析,中欧・東欧で進行中の改革による短期的及び長期的影響の分析並びに中期的市場動向の評価手法の改善を通じて,農業改革のプロセスに対する支援を継続していくことを要請する。
農村地域開発
14.  閣僚は,農村地域開発問題に関する作業プログラムを策定することを目的に設置された理事会作業部会の勧告をOECDが実施することを要請する。ミクロ及びマクロの両レベルでの社会政策,経済政策,農業政策及び環境政策の相互関連,並びに農村地域開発に対する総合的アプローチが農業改革のプロセス,とりわけ遠隔地域・コミュニティの抱える問題の解決にどのような貢献をなしうるかということについて特別な注意が向けられるべきである。
産業補助金
15.  産業補助金は,資源を衰退産業に温存させるとともにより効率的な産業から他へ振り向けることによって,一般に構造調整を促進するよりもむしろ阻害してきている。補助金は,また,貿易の流れを歪め,貿易摩擦の原因となり,公的予算に大きな負担をもたらす可能性もある。このため,閣僚は,このような支援の透明性及び管理に対して厳しく注意を払っていくべきであること及び貿易歪曲効果を持つ補助金を廃止し又は強化された規律の下に置くためにあらゆる努力がなされるべきであることについて,確固とした見解を有している。閣僚は,この観点からウルグアイ・ラウンドが与える機会に注目するとともに,より効果的に運用できるGATTのルール及び規律を開発する決意を表明する。
16.  これらにかんがみ,閣僚は,「補助金及び構造調整」に関する工業委員会のプロジェクトの第1段階報告を,補助金の規律の強化に役立つ補助金プログラムの透明性の増大に重要な貢献をするものとして歓迎する。閣僚は,透明性の一層の増大を図るため,工業委員会がプロジェクトの第2段階を早期に完了するよう督励する。加盟国による定期的なデータの提供は,国際的に比較可能なデータの基礎を作り出すものである。閣僚は,事務総長に対し,引き続き経済政策,貿易,工業委員会の協力を求めつつ,すべての形態の産業補助金の経済効果についての共通の国際的理解を強化するために,この重要なデータ・ベースを如何にして最も効果的に用いうるかを検討するよう求める。この作業は,共通に受け入れられるOECDガイドラインの策定に,場合によってはつながる可能性がある。
17.  閣僚は,通常の競争のための条件の障害となるすべての助成措置及び慣行を廃止し,商業造船及び船舶修理業における透明性を高める合意の枠組み及び原則を検討するOECD理事会造船作業グループと大韓民国とのリエゾン・グループのこれまでの努力に留意するとともに,これまでの成果を歓迎した。閣僚は,可能な限り早期に効果的な合意に到達するよう協力するとの約束を確認する。また,閣僚は,重要な造船業を有する他の諸国が合意の実施に参加することを奨励する。更に,この関係において,閣僚は,ウルグァイ・ラウンドにおいて貿易歪曲効果のある慣行を一般的に取り上げることの重要性を想起する。
金融市場及び海外直接投資
18.  金融市場統合のプロセスは,国内的にも国際的にも依然衰えない。OECD自由化コードはこのプロセスにおいて重要な役割を果たしてきた。閣僚は,OECDが継続的に自由化コードを強化し拡充すること,現行の自由化義務から後退しないことを確保すること,また,保護主義的投資政策の防止を助けることを求める。世界的なマーケットで活動する大型金融機関の形成の趨勢は,金融分野の規制及び監督における新たな課題をもたらす。閣僚は,OECDに対し,これを所管する国内的・国際的規制機関が制度上のリスクを封ずる措置を拡充し,また,強化すること及び断片的・拡散的な規制方式を避けることに資するため,かかる趨勢をモニターし,それが市場の効率性及び金融の安定性に与えうる影響を分析するよう求める。金融市場のグローバル化のモニタリングにおいては,OECD地域外の金融システム,とりわけ太平洋地域及び中欧・東欧の諸経済の動向にますます注目する必要がある。金融市場の統合が貯蓄税制の効果及び投資の国際的分配に与えうる影響は,一層の検討に値する。最後に資金洗浄防止措置の開発においては,引き続く金融市場の統合をも考慮に入れねばならない。
19.  国際経済関係の発展のために,海外直接投資の自由の過程及び同分野での国際協力は極めて重要である。閣僚は,1976年国際投資及び多国籍企業に関する宣言に対するコミットメント並びに強化された内国民待遇インストルメントの必要性につき再確認した。閣僚は,権限あるOECDの委員会による報告書に留意し,内国民待遇の例外を構成する既存の措置のスタンドスティル,無差別,透明性及びロールバックの諸原則に基づく拘束力あるインストルメント起草を含む76年宣言の見直しについて重要な前進が図られたことを歓迎した。閣僚は,可能な限り早期に新インストルメントを採択するとの観点より,OECDが残された問題を解決するためにあらゆる努力を払うよう求めた。閣僚は,1991年の次回閣僚理事会において,新しい内国民待遇インストルメントに係る提案につき報告を求めるとともに,同閣僚理事会において,1976年国際投資及び多国籍企業に関する宣言及び諸決定の見直しについての報告書及び同報告書に含まれる諸提案(OECD多国籍企業の行動指針に環境保護の新章を追加すること及び多国籍企業に対し,相反する要請が為されることを回避するための協力についての項目を追加することを含む)を検討することに合意した。
労働市場政策及び人的資源開発
20.  閣僚は,生産のインフレなき拡大と失業の削減の持続を支援し,また,1990年代にOECDが直面する課題(技術変化の仕事への影響,国際移民の影響を含む人口変化の諸傾向,執拗な長期失業及び技能労働力不足)に対応するための積極的労働市場政策の重要性を認識する。閣僚は,OECDにより開発された「労働市場政策の新フレームワーク」に関する労働力社会問題委員会の政策声明を歓迎する。この「新フレームワーク」は,労働力の質,雇用・訓練の機会の不平等の縮減を強調するとともに社会への参加を奨励した,包括的な積極的労働供給政策を開発することを目的としている。これらの政策の進展に関する報告は,1992年の閣僚理事会までに行われることが期待される。閣僚は,同委員会による労働市場政策のシステマティックな分析とモニタリングに関するプログラムを,OECDの構造調整の目的に貢献するものとして歓迎する。閣僚はまた,事務総長による「1990年代の婦人と構造変化」に関するハイレベル専門家グループの設置を歓迎し,政策行動に関する同グループの勧告を受けとることを期待する。
21.  閣僚は,即ち,民間部門が十分に参加しており,また,より積極的に労働力及び雇用に加わることを望んでいるにもかかわらず障害に会い意欲をくじかれている人々を支援するために,社会,労働市場,教育,訓練の各政策の間の適切な連携が確保されている,包括的アプローチが開発されねばならないことに合意する。
22.  加盟国においては,すべての人々に対する生涯にわたる教育と訓練を拡大し,その質を向上するための努力がなされている。不利益な立場にある人々のニーズを満たすことは,特に重要である。これらは,1990年11月の教育大臣会議の主要テーマに入っており,閣僚は,同会議の成果に期待する。
エネルギー
23. エネルギー市場は,環境,石油輸入の新たな伸び及びOECD内外の急速な経済発展によりもたらされた諸問題に対応して調整と展開を続けている。今後数年のうちに石油の需給バランスは逼迫する可能性がある。したがって,ありうべきエネルギー緊急事態に備える現在の努力を強化し,新エネルギー資源を開発し,供給を多様化し,エネルギー利用を効率化をし,エネルギー貿易を一層自由化し,並びにシステムの柔軟性を確保するために新エネルギー,再生可能エネルギー及び炭素を排出しないエネルギーに係る技術を開発し導入することによって,OECD諸国のエネルギー安全保障の水準を維持する必要がある。
24.  こうした諸目標を追求する上で,環境上及び経済上の考慮を統合し,市場が最も効率的にこれらの多様な目標を追求できるような柔軟なメカニズムを発展させることが,ますます重要となる。エネルギーの生産,輸送,使用が環境に及ぼす影響は,あらゆる燃料について明確な課題を提起する。輸送部門と電力部門は,ともに最も急速に成長する最終消費部門であるとともに,在来型の排出ガス,とりわけ気候変動に関連するものの主要な発生源であるため,特段の関心がもたれる。これらの課題に対応するため,加盟国内外のエネルギー動向とエネルギー利用の効率化に関して継続的かつ詳細にモニターし分析すること及びエネルギー安全保障と経済成長の目標を支持し続けながら環境問題に対応していくための戦略を分析するに当たって他の国際機関と協力することが必要である。
25.  OECD域外のエネルギー動向にも注目する必要がある。非OECDのエネルギー消費は世界の全エネルギー消費の半分に相当し,そのシェアは近い将来増加することが見込まれる。非OECD諸国の間には重要な差異が存在するものの,エネルギー政策における加盟国の経験を,そうした希望を有する中欧・東欧諸国及び必要に応じ開発途上国と共有することができる。こうした交流は,OECD諸国及び非加盟国双方にとって利益となる。
多角的開放貿易体制
26.  多角的開放貿易体制は,大きな機会と課題の双方に直面している。貿易は活況を呈しており,現下の良好な経済環境に大きく貢献している。世界的な相互関係の拡大により将来の力強い貿易の拡大が見込まれる。にもかかわらず,世界の貿易体制は依然として脆弱であり,緊張のもとに置かれている。国際貿易の重要で拡大しつつある部分は,ガットの規律が適用されていないか,十分に適用されていない。ガット規則の疑義のある解釈や適用が規則に基づく多角的枠組を依然として蝕み続けている。多くの国内政策決定が貿易に悪影響を与えている。保護主義的圧力は依然として強い。したがって,閣僚は,管理貿易アプローチ,バイラテラリズム,セクター主義,灰色措置及び一方的措置への傾向を拒絶するとの断固たる決意を再確認する。閣僚は,強化され,より時代に即したガットの下での多角的開放貿易体制へ開発途上国及び以前の中央計画経済を一層統合することを促進する。
27.  ラウンドの成功は,国際経済の課題の中で最優先事項である。失敗は,貿易体制,世界経済及び経済面での国際協力に一連の否定的影響をもたらす。主要問題について野心的,かつ均衡のとれた成果を達成し,最も広範な参加国の利益と関心を包含する全体的なパッケージを作ることが現在の至上命令である。最終的なパッケージの輪郭及びすべての主要分野での大筋の解決が交渉案文を含め7月までに策定され,年末までに最終的な合意が達成されねばならない。しかし,多くの主要分野において大きな障害がある。
   したがって,閣僚は,必要とされる困難な政治的決定を行う決意であることを表明し,特に依然として大幅な意見の相違が存在している分野において迅速な前進を図るよう交渉者に指示する。
28.  ウルグァイ・ラウンドは,強化されたガットの枠組のもとで実施される,世界貿易の新たな現実に対応した明確で実施可能な規則及び規律の一貫した体系を作ることにより,すべての参加国に対して大幅な自由化を達成しなければならない。閣僚は,特に以下の事項の達成に貢献するためOECD諸国が実行する用意のある具体的な措置を示し,率先していかねばならないと認識する。
  関税及び非関税分野における野心的で新たなコミットメント及び自由化措置,ガット非整合的なすべての貿易制限的または歪曲的な措置のロールパック並びに貿易障壁の段階的撤廃と詳細な計画に従った強化された規則及び規律を基礎とするガットへの統合を通じた繊維,衣類のセクターの自由化。
  パラグラフ12で述べられている農業における重要な進展。
  強化された多角的規則及び規律,特に,セーフガード,現産地規則,補助金及び相殺措置,ダンピング及びアンチ・ダンピング措置に関する改訂された強い規律。最恵国待遇の原則に基礎を置くセーフガードに関する包括的合意が必要とされている。補助金と相殺措置については,貿易の歪曲を除去し補助金競争の危険を回避するため国内補助金を効果的に規律する規則が必要とされている。相殺措置が正当な貿易に対する障害とならないために相殺措置についても改善された規律が適用されなければならない。
  新分野を含む個別の分野における強化された規則と規律とともに,多角的なルールのもとでのみ行動するとのコミットメントに向けた,紛争処理手続の一層の改善。
  先験的に除外されるセクターのない,可能な限り広範な参加を得た,関連OECDコードの下での成果と経験に配慮した,契約関係に基づき実施可能な規則からなる包括的で均衡のとれたサービス貿易自由化のための多角的な枠組。
  ガットの規律の拡大により貿易関連投資措置の貿易制限的及び歪曲的効果を削減し,除去するための透明性並びに内国民待遇及び最恵国待遇(MFN)の原則の尊重に関する規定を含む,可能な限り広範な参加を得た合意。
  知的所有権保護のための十分で実質的な基準及び効果的で適切な執行をもたらすため,透明性,並びに内国民待遇及び最恵国待遇(MFN)の原則の尊重に関する規定を含む,可能な限り広範な参加を得た合意。
29.  OECD諸国の閣僚は,多くの開発途上国の国際貿易体制へのよりよい統合を促進するために開発途上国が関心を有する分野における積極的な対応の重要性を認識する。右対応は,熱帯産品並びに強化された多角的な規制及び規律に伴われた農業,繊維を含め,パラグラフ28に言及されている他のすべての市場アクセスの問題に関する分野でなされなければならない。同時に,開発途上国は,多様性が認められるが,ウルグァイ・ラウンドの政治的なモメンタムにどのように貢献することを意図しているか,今まさに示すべきである。強化された体制からすべての利益を得るには,これらの国がプロセスに適切な貢献を行うことが求められている。行動の範囲は,貿易制度の合理化及び簡素化,国際収支の均衡のためにとられる措置に関するより効果的な規則,関税譲許及び関税,非関税障壁の自由化,並びに新分野に関する合意への参加の分野に存在する。
30.  閣僚は,ウルグァイ・ラウンドのすべての分野において,広範で実質的な結果を年 末までに達成する決意を確認する。このような成果は,多角的貿易体制の契約的な性格の上に構築された制度的な枠組を一層強化するコミットメントに基礎を与える。この重要な問題は,現在の交渉の成功裡終結が確保された然るべき時期に検討される。
輸出信用
31.  閣僚は,OECDの関係委員会等が,OECDの公的に支持された輸出信用アレンジメントについての87年改革措置のパッケージの実施を引き続き綿密にモニターしていることを歓迎する。閣僚は,また,これらの委員会等が,より一層の規律及び透明性を通じ,公的に支持された輸出信用及びタイド援助信用の利用によりもたらされる歪みを相当程度削減するバランスのとれた諸措置のパッケージにつき交渉を開始したことを歓迎する。閣僚は,交渉が促進され,1991年に最終報告書が閣僚に提出されることを求める。
非OECD諸国との関係
32.  閣僚は,OECD諸国と非OECD諸国,特に発展の基礎を多元的民主主義,人権の尊重及び市場経済という相互に支持しあう原則においている諸国との経済的な結び付きの強化が継続していることを歓迎する。閣僚は,OECDが継続して開発途上国,特に後発開発途上国との協力に高い優先度を与えること,アジアの活力ある経済及び中欧・東欧諸国との接触及び対話を深めること並びにこの目的のために必要な分析的な作業を積極的に発展させることを求める。
開発途上国
33.  開発協力は,政治,社会,経済,環境,人口,債務といった広範かつ多様な問題に及ぶため,世界的に重要な問題であり,新しいアプローチが求められている。閣僚は,昨年12月,開発協力大臣及び援助機関の長によりDACで作成された「1990年代の開発協力」に関する政策声明を支持する。この関連で,閣僚は,以下の重要なテーマを強調する。
開発途上国自身が自らの開発について究極的な責任を負う。幅広い基礎を持つ持続可能な成長を実現するためには,開発途上国の国民の積極的な参加及び国内資源を動員する能力とともに開発途上国自身の政策と制度が枢要である。
開発途上国が貧困の増大,経済的・金融的不安定及び環境劣化に直面するならば,先進国が長期的に繁栄することはできない。
開発協力は,政策,制度及びインフラストラクチャーの改善を支持する上で,とりわけ後発開発途上国では不可欠である。開発途上国が自国民の生産活力を刺激し,競争的市場及び活力ある民間企業を実現するのを支援するため,人的資源開発に特に重点が置かれねばならない。
多くの国々で人口増加の減速は持続可能な成長のための条件となっている。効果的な人口プログラム,特に自発的な家族計画を実施しようとする開発途上国の努力を支援することは,優先課題である。
環境上の観点から持続可能な成長に貢献することは国際社会全体にとって中心的な任務である。便益を増大させる一方で,開発計画に環境上の配慮を取り込むことは,往々にして費用の上昇を招き,援助国からのものも含めた追加的資金の手当て及び技術移転を必要とする。
34.  OECD地域の特に成長と金利に関する動向と政策は,開発途上国の経済パフォーマンスに大きな影響を及ぼす。そこで,閣僚は,ウルグァイ・ラウンドとの関連において,特に,開発途上国からの輸出に対し,OECD諸国の市場を一層開放すること及び現在それを阻害している歪みを取り除くことによって開発途上国の開発に貢献することの重要性を認識する。また,閣僚は,量及び質の両面で相当な追加的援助努力が重要であることを想起する。この観点から,閣僚は,国際機関によって設定された政府開発援助の量的目標に留意する。深刻な債務問題は未だ多くの開発途上国で障害となっている。したがって閣僚は,債務問題を解決するために断固とした行動をとり続ける必要があることを強調するとともに,強化された債務戦略を支持することを再確認する。閣僚は,後発開発途上国が直面している特別な困難を認め,次回パリ会議がこれら諸国のニーズにより良く合致する優先目標及び互恵的取極めを共同で設定する機会となることを望む旨を表明する。閣僚は,二国間援助機関及び国際開発銀行を含む多数国間援助機関が活動のすべての分野で環境への配慮を取り込む努力を続けることを奨励する。
アジアの活力ある経済
35.  東アジア及び東南アジアにおける活力ある市場志向経済の出現は,世界経済の持続的成長のための基盤を大きく拡張した。閣僚は,これらのアジアの活力ある経済との対話を一層進展させることは高い優先度があると考える。閣僚は,(1)技術及び経済のグローバリゼーション,(2)金融市場の改革,(3)貿易政策,(4)マクロ経済の連関を扱った4つの非公式ワークショップが最近成功裡に完了したことを歓迎する。閣僚は,この対話のモメンタムが維持されることを期待するとともに,これらの新しい重要なパートナーと緊密に協議しながらこの対話を一層発展させることを早急に計画する意向である。閣僚は,1991年の閣僚理事会における報告を要請する。
中欧・東欧
36.  中欧・東欧諸国において極めて重要な政治的・経済的改革のプロセスが進行している。その成功は究極的には諸国の努力にかかっているが,OECD諸国政府はこのプロセスを支持したいと考えている。この点でOECDは重要な役割を有しており,中欧・東欧諸国が市場経済へ移行する期間においてその政策を形成し,また,国際経済体制に自らの統合を求めていくに当たって,これら諸国との協力を一層発展させる用意がある。閣僚は,中欧・東欧諸国が国内市場改革及び多角的なルールに沿った貿易政策の双方を実施する上で,OECD諸国の市場アクセスの改善が必須であることに同意する。
37.  閣僚は,中欧・東欧諸国に関する現在のOECDの活動計画がOECDの主要な長所である経済分析(特に構造政策分野)及び政策対話を中心に発展していくことを期待する。最近設立された「移行する欧州経済に対する協力センター」により促進されるこうした活動には,中欧・東欧諸国における移行プロセスの経済的・社会的効果のモニタリングと評価が含まれる。こうした活動は,この分野において積極的に活動しているIMF,世銀,EC等の国際機関及びEC委員会との密接な協力によって実施される。閣僚は,この計画が,これまでと同様相手諸国自身の提供する情報により充実すること,それによって環境分野を始めとする必要とされる事項に対応しうること,状況や要請に対応できるよう柔軟であることを期待する。閣僚は,ポーランド及びハンガリーの改革プロセスを支援するためのEC委員会の調整によるG24の一連の行動を歓迎するとともに,政治的及び経済的改革に真剣に取り組んでいる中欧・東欧諸国に対し同様の支援を検討する用意があることに留意した。閣僚は,満足の意を以て欧州復興開発銀行設立協定が署名されたことに留意する。
38.  閣僚は,経済改革のプロセスを促進するためのCSCE参加国及びOECD諸国の専門家会議の主催をOECDに要請したCSCEボン会議の最終文書の勧告に対しOECD既に行った歓迎の意の表明を心から承認する。閣僚は,「移行する欧州経済に対する協力センター」の作業計画実施に当たりボン会議の要請を完全に考慮するとのOECDの決定を確認し,今後数箇月の間に,幾つかの会議,セミナー及び専門家会合が計画されていることに留意し,承認する。閣僚は,1991年の閣僚理事会におけるOECDの中欧・東欧に関する活動の報告を要請する。
環境
39.  環境状況の改善と持続可能な開発の推進はますます基本的な目標となってきている。社会のすべての分野,すなわち政府,産業及び個人の意思決定において,環境上及び経済上の考慮を統合することが必要である。多くの問題は,国境を越え,あるいは地球規模という性格をも有しており,問題解決のためにすべての国々が協力することが求められている。OECD諸国は,地球環境問題の解決に向けた国際的努力における特別な責任を有することを十分認識する。中欧・東欧諸国及び開発途上国を含む域外国は,ますます積極的役割を演じる用意ができつつあるように思われる。環境と開発に関する世界委員会報告書の地域的なフォローアップのために先般開催されたベルゲン会議は,環境問題の国際協力のための新しいモメンタムと方向を与えている。
40.  閣僚は,環境問題の分析に関するOECDの取組みの進展を歓迎するとともに,この分野における作業を一層広範なものとし掘り下げるよう要請する。これには,特に,環境指標の開発,環境上の目標を達成するための経済的手段及び市場メカニズムの活用に関するガイドラインの設定,主要な環境問題及びその考えられる解決策の経済的側面の評価,環境政策及び貿易政策の相互関係の分析,技術によるブレークスルー,省エネルギーとエネルギー利用の効率化及び環境に与える影響がより小さな社会経済活動によってなし得る貢献の評価並びに温室効果ガスの削減のための様々の代替戦略の世界規模での費用の評価が含まれる。
41.  閣僚は,この作業により,新たな重要な政策イニシアティヴが見いだされることを期待する。閣僚は,来年1月のOECD環境大臣会議の開催とそのテーマ「環境上及び経済上の意思決定の統合」を歓迎する。この会議は,環境分野におけるOECDの役割,活動及び次に取り組むべきことを総合的に,高いレベルで評価し,各国政府に対し政策指針を与えるものである。閣僚は,環境大臣会議及びOECDの作業の双方の結果を踏まえて,1991年の閣僚理事会において経済政策と環境政策の統合に関する結論を引き出す考えである。
42.  閣僚は,とりわけ地球規模の気候変動の可能性を懸念し,気候変動に関する政府間パネルにおける作業を強く支持するとともに,11月にジュネーヴで開催される第2回世界気候会議の重要性を強調する。閣僚は,OECDがIEAとの協力の下に気候変動に関する政策オプションの経済的側面に関する作業を継続することの重要性を強調する。この関連において,閣僚は,事務総長に対し,OECDの将来の活動に関する提案を含む環境分野におけるOECD及び他の国際機関の活動についての報告並びに種々の経済的手段とその活用に関するガイドラインの予備的評価を,来年の閣僚理事会及び環境大臣会議に提出するよう要請する。

 

 

 

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(2) 第16回主要国首脳会議(ヒューストン・サミット)関連文書(仮訳)

(イ) 政治宣言ー民主主義の確保ー

(90年7月10日,ヒューストン)

 1.

我々7カ国の首脳及び欧州共同体の代表は,この1年間に我々が目のあたりにした民主主義の歴史的な前進に勇気と英和をもって息吹を与え,その実現をもたらした,世界各地の人々に対して敬意を表する。今世紀最後の10年,我々の考えでは「民主主義の10年」となるべき時期を迎えるに当たり,我々は,民主主義の強化,人権並びに市場指向型経済を通じた経済の再建及び開発を支援することに対する我々のコミットメントを改めて表明する。我々は,欧州,日本及び北米の代表が,このサミットの場において,向う何年にもわたる重要な挑戦について討議する貴重な機会を与えられていることを強調する。

 2.

 欧州は,新時代の夜明けを迎えている。我々は,欧州大陸に巻き起こっている深く,かつ,歴史的な変革を,熱烈に歓迎する。「北大西洋条約の変容に関するロンドン宣言」は,かつて敵対しあっていた国々が,安定し,安全であって平和な欧州の建設に当たって協力しあうための新たな基盤を提供するものである。我々は,一にして自由な欧州を実現するための,あらゆる機会をとらえる決意であり,また,そのような努力に欧州共同体が貢献していると認めるものである。我々は,ドイツの統一を賞賛する。それは,人類の奪われざる自決の権利の具体的表れであり,また,欧州の安定に対する大きな貢献である。我々は,中欧及び東欧における抑圧的政権が,国民により自由に選択された政府に取って代わられたことを歓迎する。また,我々は,民主主義国家の基盤を成す法の支配と諸々の自由が導入されたことを賞賛する。我々は,最近の出来事を受けて,ルーマニアに対し,他の中欧及び東欧諸国において起きている積極的な潮流に従っていくよう求めるものである。

 3.  我々は,民主的政治体制に向かわんとするソ連の意図と,市場原理に沿って経済を改革しようとするソ連の試みを歓迎する。我々は,開放社会,多元的民主主義と市場指向型経済を創設しようとするソ連の努力を支援するため,ソ連と力を合わせることを確約する。そのような変化が,これらの原則に立脚する国際社会の中で,ソ連がその責任を果たすことを可能ならしめるであろう。我々は,ソ連政府とバルト諸国との間で建設的な対話が進行中であるとの徴候に意を強くし,すべての当事者に対し,民主主義の精神をもってこの対話を継続するよう求める。
 4.  市場指向型経済改革を伴う民主主義の前進は,欧州だけの現象ではない。我々は,前回会合して以来,世界の多くの地域において,民主的価値観の広がりを目のあたりにしている。
 アジアにおいては,モンゴル及びネパールにおいて新たな政治的開放性を示す心強い徴候が見られる。フィリピンにおいては,政府は引き続き民主主義定着のための勇気ある努力を払っている。
 我々は,中国における最近の進展のいくつかを是認するものであるが,一層の政治経済改革,特に人権分野における改革により,協力関係の更なる緊密化への見通しが強まるものと信ずる。我々は,昨年のサミットでとられるに至った措置を,この1年の間に修正を受けた形で,維持することにつき意見の一致をみている。我々は,中国における更なる前進に呼応して将来我々も調整を行い得るよう,これらの措置を継続的なレビューの下に置く。たとえば,基礎的な生活関連の既存融資分に加え,世界銀行の他の融資のうち中国経済の改革に資するようなもの,特に環境分野での関心に応えるものがあるかを模索するものとする。
 5.  アフリカにおいては,我々は,ナミビアの独立と民主主義の達成が,大陸全体を通じて自由,多元主義,及び市場指向型経済改革のための肯定的な例となることを希望する。我々は,また,南アフリカにおいて起きた積極的な進展,特に,政府と多数派たる黒人の代表との間の話合いが開始されたことを歓迎する。我々は,これが,人種差別のない民主主義社会への平和的な移行,そして,アパルトヘイト制度の完全な撤廃につながることを希望する。我々は,このような過程を引き続き支持するとともに,すべての当事者に対し,暴力やその提唱を慎むよう求める。
 6.  ラテン・アメリカにおいては,我々は,チリにおいて自由と民主主義が再び樹立されたことを歓迎する。我々は,ニカラグアにおける最近の公正かつ自由な選挙を賞賛し,エル・サルヴアドル及びグアテマラにおいて対話を通じる和平への過程に前進が見られることを賞賛する。我々は,民主主義及び法の支配を再び樹立するためのパナマ政府の努力を促す。我々は,ハイティにおける積極的な進展を,満足の意をもって留意する。我々は,キューバが,ラテン・アメリカの他の地域に見られる民主主義の潮流に加わるための措置をとることを希望する。
 7.  我々は,第2次世界大戦の終了以来世界の多くの部分を分断してきたイデオロギー的対立が減少していることを賞賛する一方,民族的及び宗教的な集団に対する不寛容が再び台頭していることを深い懸念をもって留意する。我々は,このような不寛容は対立につながり,ひいては政治的,経済的発展のみならず基本的人権をも脅かすことになり得るとの点で意見の一致をみた。
 8.  我々は,我々が自らの社会において実現を目指しているような基本的諸原則に対するコミットメントを再確認し,政治的自由と経済的自由は密接に繋がり合い,相互に補強し合うものであることを強調する。我々は,各自,自由を選択する諸国に対して,現実的な方法により,即ち,適当な場合,憲法上,法律上及び経済上のノウハウの提供並びに経済的支援を通じて,助力を与える用意がある。
 我々は,夫々の相異なる憲法上及び歴史上の経験を活かして,個別に,また,関係フォーラムにおいて共同で,次のことを行う用意がある。
―権利章典,民法,刑法及び経済組織法を含む法律の起草への支援
―独立への言論機関養成への助言
―行政,経営及び技術分野の研修計画の策定
一相互理解と知識の普及を助長する人的交流や交換計画の充実・拡大
 同一の精神の下に,最近のG24閣僚レベル会合は,中欧及び東欧に対する支援を,政治経済改革の進展に応じて供与することについて意見の一致をみた。
 我々は,先進民主主義諸国が直面している挑戦は,既に欧州において進行中の努力を継続するとともに,世界の他の地域における政治改革と経済発展を支援するため努力を拡大することであることに同意する。我々は,我々及び他の民主主義諸国の国民に対し,この偉大なる試みに参加するよう呼び掛ける。

 

(口) 国境を超えた問題に関する声明

(90年7月10日,ヒューストン)

テロリズム

 我々7カ国の元首及び首相は,あらゆる形態のテロリズムに対する非難,テロリスト又はその支援者に対し如何なる譲歩も行わないとのコミットメント,及びテロリズムと闘う努力において協力を継続する決意を再確認する。我々は,テロリストに支援を与える政府が,その支援を直ちに中止するよう要求する。我々は,テロリストが処罰されずに放置されてはならず,国際法及び国内法に従って裁判にかけられねばならないと決意している。

 我々は,人質数名が最近解放されたことを歓迎するものであるが,未だに人質が存在し,中には5年以上にもわたって拘束されている人々がいることに,引き続き深い懸念を有している。人質及びその家族の苦難は,終了されねばならない。我々は,すべての人質の即時,無条件,かつ,安全な解放を求めるとともに,人質とされたまま既に死亡している虞れのある人々のすべてを明らかにすることを求める。我々は,人質犯に影響力を有する者に対し,そのために影響力を行使するよう求める。

 我々は,1988年12月21日スコットランドのロカビー上空において,1989年9月19日ニジェール上空において,また,1989年11月27日コロンビア上空において発生した民間航空機破壊の如き非道な行為に示されたとおり,民間航空が,テロリスト・グループから依然として脅威を与えられていることに,深い懸念をもって留意する。我々は,民間航空に対するテロリストの攻撃と闘う決意を改めて表明する。

 よって,我々は,探知を容易にするためにプラスチック爆薬に添加物を混入することを義務付ける条約の作成交渉のため,協力を継続する。我々は,国際民間航空の保安基準の強化のために努力することを誓う。この目的に合致するものとして,我々は,研修及び技術援助を他の諸国の利用に供することの重要性に留意する。我々は,この問題に関し,国際民間航空機関(ICAO)を通じてとられているイニシアティヴを支持する。我々は,このような支援を拡大するため,ICAOとともに努力を行う。

不拡散

 我々は,核兵器,化学兵器及び生物兵器の拡散並びに弾道ミサイル兵器運搬システムの拡散が国際の安全に対して与える脅威に関して討議を行った。

 核兵器の拡散に関し,我々は,欧州理事会が最近ダブリンにおいてこの問題に関して発出した宣言に特に留意する。この文書は,効果的かつ国際的な核不拡散体制を維持すること,また,あらゆる努力をもって拡散防止を徹底し一層多くの国々による核不拡散体制参加を奨励すべく寄与することが,大きな重要性を帯びている旨強調した。核兵器の不拡散に関する条約(NPT)は,そのような体制の重要な要素である。我々は,更に,すべての国がIAEA保障措置を可能な限り普遍的に適用するように呼び掛ける欧州共同体の要請を支持する。

 我々は,また,すべての核物質供給国に対し,核物質供給国ガイドラインと同等の核物質輸出規制措置を採用するよう求める。

 NPTの締約国であると否とを問わず,我々は,ジュネーヴの第4回NPT再検討会議における討議を含め,今後数箇月のうちに行われる核不拡散関連討議において,満足のいく結果が得られることを確保するため,積極的に努力する旨を確約する。

 我々は,それらの討議が,衡平かつ安定的な不拡散体制に支持を与える旨の,出来る限り広範な合意の形成に寄与することを希望する。このような体制は,武器不拡散の要請と原子カエネルギーの平和的かつ安全な利用の発展という要請との間の欠くべからざる衡量を,その基礎となすべきである。

 地球社会は,ここ2~30年,核拡散の問題,特に先進ミサイル運搬システムと組み合わされた場合の問題に焦点を当ててきた。今日,我々は更に,化学兵器及び生物兵器の拡散から生ずる新たな,かつ,深刻化しつつある問題に直面している。

 化学兵器および生物兵器の拡散に関し,我々は,前駆的化学物質の不法移転を防止するため,国内的な努力を進め,また,西側の関係場裡における努力を追求することを確約する。我々は,生物学上の技術の分野における潜在的な不法移転の危険に対し,警戒を怠らないことを同様に確約する。

 この点で,我々は,実効的かつ検証可能な条約を通じた化学兵器の完全禁止を,化学兵器の拡散を防ぐための唯一の長期的保証として支持する。我々は,そのような条約に到達するための重要な一歩が,化学兵器の廃棄及び生産中止に関する最近の米ソ間の合意並びに化学兵器禁止条約の原署名国となる旨のNATO諸国による最近の意図表明において,踏み出されたものと信ずる。我々は,未解決の問題を解決し,最も早い時期に化学兵器禁止条約を締結するためジュネーヴ軍縮会議における努力を倍加することにつき,化学兵器に関する1989年のパリ会議において初めて表明した我々の決意を,ここに改めて表明する。同様に,生物兵器禁止条約に関する1991年の再検討会議開催を目前にして,我々は,同条約の締約国となっていないすべての国に対し,その締約国となるよう呼び掛けるとともに,同条約の実効性強化のための信頼醸成措置に参加するよう呼び掛ける。

 我々は,核兵器,化学兵器及び生物兵器の搭載が可能な弾道ミサイルによってもたらされる関連の脅威に対処することの重要性を強調したい。我々は,ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)が,ミサイル拡散規制のための我々の共同努力に寄与することに,特に留意する。我々は,いくつかの諸国がMTCRへの追加参加を最近決定したことを賞賛するとともに,すべての国に対し,MTCRガイドラインを遵守するよう呼び掛ける。

 

(ハ) 政治問題に関する議長声明

(90年7月10日,ヒューストン)

 本日発表された政治宣言は,サミット7カ国が昨夏パリで会合して以来の民主主義の歴史的な前進を祝すものである。宣言において,我々は,中欧及び東欧に自由をもたらし,ドイツに統一をもたらしている平和的な民主主義運動への支持を改めて表明している。しかしながら,欧州における偉大な出来事が,我々をして,他の地域における機会や必要を見過ごさせることがあってはならない。

 我々の討議の中で,我々は,ナミビアを,アフリカ大陸の他の地域における民主主義の進化の肯定的モデルとして,引用した。この地に参集した指導者の大半は最近ネルソン・マンデラと,また,一部の者はデ・クラーク南アフリカ大統領と会見している。我々は,南アフリカに人種差別のない民主主義社会をもたらすための交渉を促すことに,我々の努力の焦点が当てられるべきと信じる。

 中南米においては,我々はチリとパナマの民主主義への復帰,及びニカラグアにおける公正かつ自由な選挙を歓迎する。自由の風は,また,アジアを通り過ぎることなく,我々は,ネパールとモンゴルにおいて重要な変革が起きているのを目のあたりにしている。

 我々は,中国政府による最近のいくつがの行動を是認するものであるが,現段階では,昨年のサミットでとられるに至った措置は残っている。しかしながら,我々は,中国経済の改革に資する,特に環境分野での関心に応えるような世界銀行の融資があるかを模索するものとする。

 我々は,また,ソ連における事態の展開と,国際社会の直面する在来の,そして新しい挑戦に取り組むに当たり,如何にして改革途上にあるソ連が重要な役割を演じ得るかに,討議の相当部分を充てた。ブッシュ大統領は明日,より詳細にこの討議を説明することとなっている。

 宣言は,世界のあらゆる地域において民主主義の前進を確保し,促す手助けとするために西側諸国がとり得る行動を示唆して結ばれている。宣言は,政治的自由と経済的自由は相互に補強しあい,不寛容な状況の中にあっては謳歌され得ないことに留意している。

 テロリズム,並びに核,化学,生物兵器及び弾道ミサイルの拡散という,いずれも国境を超えた問題に関し,別の声明が発表された。これらの危険は,明日のコミュニケで扱われる麻薬の不法貿易の問題同様,国境を知らない。核拡散については,今年が核不拡散条約20周年にあたることから,当地における議論はより一層の意義をもつ。

 本日公表された文書が扱う問題に加え,地域紛争について討議が行われた。我々は,各紛争が夫々固有の性格を有しており,また,紛争の直接当事者が,交渉を通じた解決を導き出すべき責任を負っている旨を認識する。とはいえ,我々は,これらの地域に平和をもたらす上で,自由かつ公正な選挙が主要な役割を果たすものと信じる。我々は,アフガニスタン,カンボディア及びアンゴラにおいて,自由選挙につながる停戦,武器供与の停止並びに国連及び地域的組織に支援された移行期間を定める解決を交渉によって実現するよう希望する。

 我々は,中東情勢の現状について討議を行い,いくつかの異なるアプローチを提起しながらも,和平プロセス進展の必要性については我々全員の意見が一致した。我々は,暴力と抑圧の繰返しが,自由かつ民主的な選挙及び交渉へとつながるイスラエルとパレスティナ人との間の早期対話によって,置き換えられるよう希望する旨を表明した。

 「アフリカの角」における人々の悲劇に関し,我々は,諸々の行動の中でも特に,エティオピアの飢餓と紛争に対処するための共同努力を開始する旨の米ソの合意について討議を行った。

 我々は,また,カシミールに係る情勢の展開を,特別の懸念をもって留意した。そこでの出来事は,地域的安定を脅かしており,インド,パキスタン両民主主義国における政治的及び経済的自由の伸長を危くしかねないものである。我々は,両国間の対話に向けた最近の動きに意を強くし,このプロセスを促進し支援するため,我々として利用可能なすべての手段を用いることにつき意見の一致をみた。

 我々は,アジア・太平洋地域においては,欧州において東西関係を特徴付けてきた和解,兵力引離し及び緊張緩和というプロセスと同一のプロセスが未だ見られていないことにつき,懸念を表明した。この点に関し,我々は,日ソ関係正常化の上で不可欠な措置としての北方領土問題の早期解決を支持する。朝鮮半島は,特に,北朝鮮が未だ原子力保障措置協定を署名し実施するに至っていないため,依然として重大な懸念が残る地域である。我々は,最近の南北対話を歓迎し,それが南北朝鮮関係における転換期を画すものとなることを希望する。

 以上を総括するに,サミット参加諸国は,我々の時代として回避し得ぬ課題を共に負っている。即ち,世界各地において民主主義を促進し確保するために助力を与えるということである。我々は,今日の希望を明日の確たる成果へと転じる決意である。

 

(ニ) 経済宣言 

(90年7月11日,ヒューストン)

 1.  我々主要先進民主主義7カ国の元首及び首相並びに欧州共同体委員会委員長は,年次経済サミットのためヒューストンで会合し,世界の随所に見られる民主主義の再生を祝福した。我々は,多党制民主主義の広まり,自由選挙の実施,表現及び集会の自由,人権尊重の高まり,法の支配並びに開放的で競争的な経済の原則についての認識の高まりを全面的に歓迎する。これらの出来事は,人類の奪うことのできない権利,即ち人々が自由に選択する時,人々は自由を選択するということを高らかに宣明している。
 2.  欧州において起きている深遠な変革は,他の地域における民主化への進展と相俟って,個々人が専制や抑圧から逃れ,経済的及び政治上の願望を実現する機会のより多い世界に向け大きな希望を与えるものである。
 3.  我々は,自由と経済繁栄とが密接に結びつき相互に補強し合うものであることを十分承知している。持続可能な経済繁栄は,競争による刺激と企業的精神の奨励,即ち,個々人の創意工夫に対する誘因,基本的人権が保護されている意欲ある熟練労働者,健全な通貨制度,開放的な国際貿易・決済制度並びに将来世代のための環境保全に依拠する。
 4.  我々は,世界各地で,他の国の人々が経済繁栄と政治的自由とを達成し維持することを援助する決意である。我々は,我々の経験,資源及び善意を通じ彼らの努力を支援する。

(国際経済情勢)

 5.  近年,健全なマクロ経済政策と経済の一層の効率化を通じて世界経済の強化促進に大幅な進展が見られた。8年目に入った我々の経済の拡大は,国際貿易が急速に成長する過程で,顕著な所得拡大と雇用創出を支えてきた。しかしながら,多くの国で失業が高水準にとどまっている。インフレは,1980年代初期に比べ相当低いとはいえ,いくつかの国では深刻な懸念材料であり,引き続き警戒を要する。対外不均衡は,米国及び日本では縮減されたが,他の国では拡大した。対外不均衡を引き続き調整することは,保護主義圧力を抑え,金融・為替市場における不確実性を軽減し,金利への圧力を回避するための優先課題である。国内の健全なマクロ経済政策は,各国の状況により異なるものの,一層の対外調整に大幅に貢献する。
 6.  開発途上地域においては,1980年代後半の経験は様々であった。いくつかの経済は,特に東アジアにおいて,継続的に目覚ましい国内成長率を達成してきた。他の多くの開発途上国経済は,停滞ないし後退した。にもかかわらず,経済調整及び市場指向的政策を実施するための真剣な努力が,いくつかの国では新たな指導者の下で,良好な成果を生じ始めており,このような努力は今後も継続されるべきである。
(国際金融面での進展と政策協調)
 7.  サミット諸国は,経済の相互依存が進展する時期に,市場指向的政策の必要性及び健全な国内財政・金融政策の重要性についての共通の評価に基づき協調プロセスを進展させた。このプロセスは,為替市場における協力を含む経済政策の多角的監視と緊密な協調に注意を集中することにより,世界経済のパフォーマンスの強化と為替レートの一層の安定に重要な貢献を行った。国際通貨制度の機能を改善しその安定に貢献するため,このような協調的で柔軟なアプローチを継続し,また,適当と認められる場合には,これを強化することが重要である。
 8.  現在の経済成長をすべての国に恩恵をもたらすよう持続するため,各国は健全な政策を追求しなければならない。生産能力の拡大を伴う均衡のとれた需要の拡大が鍵であり,対外不均衡及び構造的硬直性は改める必要がある。物価上昇圧力には引き続き警戒が必要である。
 9.  経常収支の巨額の赤字を抱える国は,財政赤字の削減により調整プロセスに貢献するとともに,民間貯蓄を助長し,競争力を強めるための構造改革を実施すべきである。
  10.  大幅な対外収支の黒字を有する国は,成長と調整の基礎となる諸条件を改善し貯蓄との対比で投資の増大を図るための構造改革を伴った,国内需要のインフレなき成長を維持することにより調整プロセスに貢献すべきである。
11.  世界全体としての投資需要は,特に中欧・東欧及び市場改革を実施中の開発途上国,更には一部先進国において先々拡大すると見込まれる。このような需要に応えるため,先進国,開発途上国は等しく,貯蓄を促進し負の貯蓄を抑制すべきである。
12.  中欧・東欧経済の市場指向的構造調整は,これら経済の成長を刺激し世界経済への統合を促進する。我々は,これらの変化を支持し,このような困難な変革が世界の成長と安定に貢献することを確保するよう努める。
13.  欧州共同体においては,欧州通貨制度が高度の経済の統合と安定を導いている。我々は,経済・通貨統合に関する政府間会議の発足に関する欧州共同体の決定及び経済・通貨統合の第一段階に留意する。この第一段階の間に経済・通貨政策の一層の監視及び協調を行うことは,インフレなき成長及びより強固な国際経済体制の実現に資する。
14.  我々は,差別的制約のない,完全な主権を有する民主的な統一ドイツ実現の見通しを歓迎する。ドイツの経済・通貨・社会同盟は,インフレなき世界経済の成長及び対外不均衡の縮小に貢献する。このプロセスは,中欧・東欧における好ましい経済発展を促進する。
15.  我々は,国際通貨基金(IMF)加盟国に対し,第9次増資の下でクオータを50%増加し,債務履行遅滞国対策を強化するとのIMF合意を実施するよう求める。
(経済効率化のための施策)
 16.  経済効率向上のための改革によるマクロ経済政策の補完が過去2~3年間に相当進展を見せた。我々は,欧州共同体における域内市場実現に向けた進展並びに構造的硬直性を減少させるために継続されている北米及び日本の努力を歓迎する。にもかかわらず,我々は,小売業,電気通信,運輸,労働市場及び金融市場のような分野で規制の改革と自由化を進めるとともに,産業及び農業の補助金を削減し,税制を改善し,教育と訓練を通じ労働力の技能を向上させるための一層の措置が幅広く必要であることを強調する。
 17.  我々は,構造政策における課題と選択肢を明らかにした経済協力開発機構(OECD)の多大の貢献を歓迎する。我々は,OECDに対し,監視と審査の手続きを強化し,その作業を運営面で一層効果的なものとする方法を見出すよう奨励する。
(国際貿易体制)
 18.  開放的な世界貿易体制は,経済繁栄にとって決定的に重要である。強化されたガット(関税と貿易に関する一般協定)は,貿易の拡大並びに中欧・東欧及び開発途上国の世界経済へのより完全な統合に安定的な枠組みを提供するために不可欠である。我々は,あらゆる形態の保護主義を拒絶する。
 19.  ウルグァイ・ラウンドの結果が成功を収めることは,国際経済の最優先課題である。したがって,我々は,本年末までにウルグァイ・ラウンドのすべての分野で大幅かつ実質的な成果を達成するために必要な,困難な政治的決定を行う決意であることを強調する。我々は,交渉担当者に対し,貿易交渉委員会7月会合までに進展を得るよう,特に最終パッケージの輪郭すべてに合意するよう指示する。
 20.  我々は,交渉の重要な基本目標,即ち,農業政策の改革,市場アクセス改善のための実質的かつ均衡のとれたパッケージ,強化された多角的規則及び規律,サービス,貿易関連投資措置及び知的所有権の新分野のガットの枠内への包摂,並びに開発途上国の国際貿易体制への統合に対する我々の強い支持を確認する。
 21.  農業に関しては,農業政策改革の長期目標の達成が,農産物貿易の一層の自由化を可能とするために極めて重要である。供給過剰の原因となりがちな農業政策はコストが高いことを経験は示している。農業に関するガット交渉の成果により,需要と供給のより良い均衡がもたらされ,農業政策が国際市場の効果的な機能を阻害しないよう確保されるべきである。したがって,我々は改革の長期目標,即ち,市場のシグナルが農業生産に影響を与えるようにすること,及び公正で市場指向的な農業貿易体制を構築することに対するコミットメントを再確認する。
 22.  こうした目標の達成は,我々それぞれが国内制度,市場アクセス及び輸出補助金にわたる支持と保護の相当程度の漸進的削減を行うとともに,検疫及び衛生措置を規律する規則を策定することを必要とする。農業支持の制度が各国間で様々であるのは,農業の社会的及び経済的条件の違いを反映している。それゆえ,農業交渉は,一つの共通の計測手法を含み,すべての国の間で衡平な形でなされたコミットメントにつき規定し,食糧安全保障についての関心を考慮する枠組みの中で行われるべきである。この枠組みは,参加国が,共通の計測手段の適切な使用又は他の方法により,内国支持を削減するのみならず,関連した形で輸出補助金及び輸入保護をも削減するとの具体的な保証を含まねばならない。
 23.  貿易交渉委員会の7月会合の時までにこのような枠組みにつき合意することは,ウルグァイ・ラウンド全体としての成功裡の終結にとり決定的に重要である。よって,我々は各国の交渉担当者に対し,交渉を強化する手段として農業交渉グループ議長により提出された案文を推す。我々は,高度の個人的な関与を維持するとともに,本交渉の結果が成功を収めることを確保するために必要な政治的リーダーシップを発揮する所存である。
 24.  市場アクセスに関する交渉は,実質的かつ均衡のとれた措置のパッケージを達成すべきである。繊維に関しては,明確な日程に従って,貿易障壁を漸進的に除去すること並びに強化されたガット規則及び規律に基づいてガットに統合することを通じて,繊維・衣料分野を自由化することを目標とする。
 25.  多角的規則と規律に関する交渉は,セーフガード,国際収支理由に基づく輸入制限,原産地規則,ダンピング及びアンチ・ダンピング措置に関する改訂された規律などの分野でガット規則を強化すべきである。補助金に関しては,貿易の歪曲,補助金競争及び貿易摩擦を回避すべく国内補助金を効果的に規律する規則が必要とされる。改善された規律は,相殺措置が貿易に対する障壁とならないよう相殺措置についても適用されなければならない。
 26.  新分野に関しては,いかなる分野もアプリオリに除外されることのない契約関係に基づき実施可能なサービス貿易自由化の規則の枠組み,貿易関連投資措置の貿易歪曲効果を削減するための合意,並びにすべての知的所有権の基準及び効果的執行を規定する合意を含め,ガットの枠組みの中に新たな規則と手続きを策定することが目的である。
 27.  ウルグァイ・ラウンドの成功は,先進国及び開発途上国の双方にとり不可欠である。我々は,ラウンドへの開発途上国の可能な限り広範な参加とこれら諸国の多角的貿易体制への一層の統合を目指す。この目的を達成するため,先進国は,すべての分野において一層の多角的規律を受入れ,繊維と衣料,熱帯産品,農業などの途上国の関心分野での市場アクセスの改善を提示する用意がある。
 28.  開発途上国側としては,関税を大幅に引下げ,譲許された関税の比率を高め,国際収支の困難を理由に実施される措置を含むすべての形態の例外に関し均衡のとれた実効性のある抑制を行うことに同意し,新分野における合意に意味のある参加をすべきである。一部の開発途上国,特に後発開発途上国は,より長い経過期間またはケース・パイ・ケースの他の経過措置を必要とするかもしれないが,最終結果は,すべてのガット締約国に適用可能な単一多国間規則であるべきである。
 29.  我々がこれらすべての分野で目指す広範な実質的成果は,多角的貿易体制の制度的な枠組みを一層強化するとのコミットメントを必要とする。この関連で,国際貿易機関の考え方は,ウルグァイ・ラウンドの終結時に検討されるべきである。我々は,また,交渉成果を効果的に実施するために紛争処理手続きを改善する必要がある。このことは,多角的なルールの下でのみ行動するとのコミットメントに繋がる。
(直接投資)
 30.  投資の自由な流れは,開放的な国際貿易体制を補完することにより世界の繁栄を増進する。特に,外国からの直接投資は,開発途上国及び中欧・東欧諸国の経済の構造調整を助長し,雇用を創出し,生活水準を向上させ得る。
 31.  したがって,すべての国は,投資に対する障壁を低減するよう努めるとともに,投資を抑制したり差別するような保護主義圧力に抵抗すべきである。OECD及びガットは,投資の自由化を引き続き推進すべきである。国際開発金融機関及びIMFは,中欧・東欧及び開発途上国に対するプログラムにおいて投資の自由化措置を求めるべきである。
(輸出信用)
 32.  我々は,貿易及び援助を歪曲する輸出信用補助金に対する多数国間の規律を強化するための均衡のとれた措置のパッケージについて現在OECDで行われている重要な交渉を歓迎する。このパッケージは1991年春までに作成されることとなっているが,改善された規律と透明性を通じて,公的に支持された輸出信用及び援助信用の利用に起因する歪みを相当程度削減すべきである。中欧・東欧諸国への資金の流れに貿易の歪曲を持ち込むことを回避することも重要である。
(中欧・東欧における改革)
33.  我々は,中欧・東欧で進行中の政治・経済改革を歓迎する。ボンにおける最近の欧州安全保障協力会議(CSCE)において,また,欧州復興開発銀行(EBRD)設立の合意により,これら地域からの参加国は市場経済を支える基本原理を受け入れた。しかしながら,経済・政治改革実施の度合は国により大きく異なる。いくつかの国は,自国の経済を安定させ市場経済への移行期間を短縮するための思いきった困難な措置をとった。
34.  我々及び他の諸国は,経済・政治改革に強力にコミットしている中欧・東欧諸国を支援すべきである。支援国は,そのような改革を実施する諸国を優遇すべきである。
35.  外国からの民間投資は,中欧・東欧の発展にとり決定的に重要である。資金は,市場が開放され投資環境の良好な国へ流れる。自国経済を開放しつつある中欧・東欧の国にとっては,自らの輸出品のアクセスが改善されることも重要となる。西側各国政府は,貿易及び投資協定の締結を含む様々な措置によってこうした過程を支援することができる。輸出規制を緩和するとの最近のココムによる決定は前向きな措置である。
36.  我々は,アルシュ・サミットで開始されたポーランド及びハンガリーの両国に対する支援に関するG24による調整に関しEC委員会が行った作業を評価する。この作業は,これら両国が市場原理に基づく自立的成長の基礎を築くことに大きく貢献した。我々は,支援の調整をユーゴースラヴイアを含め民主主義が生まれつつある他の中欧・東欧諸国に拡大するとのG24の決定を歓迎する。
37.  我々は,これらの諸国がその環境を改善する上で大きな問題に直面していることを認識する。中欧・東欧諸国がこれらの環境問題に対処するために必要な政策とインフラストラクチャーを整備することを支援することが重要となろう。
38.  我々は,また,同地域の経済の発展と安定に積極的に貢献する運輸,環境などの分野における最近の域内協力構想を歓迎する。
39.  我々は,新しい欧州復興開発銀行がこれらの諸国への投資を促進する上で鍵となる役割を果たし,市場経済への秩序ある移行及び民主主義の健全な基盤に貢献するものと期待する。我々は,同銀行の早期発効を要請する。
40.  OECDの「移行する欧州経済に対する協力センター」は,欧州安全保障協力会議ボン経済会合のOECDによるフォロー・アップ作業と同様,改革を促進するとともにこれら諸国とOECDとの関係を強化する。
41.  我々は,政治・経済改革にコミットしている中欧・東欧諸国とのより緊密な関係を検討するようOECDに対し勧奨する。
(ソ連)
42.  我々は,ソ連における状況につき討議し,ゴルバチョフ・ソ連大統領がその経済計画に関し数日前に我々に送付したメッセージにつき意見を交換した。我々は,自由化し,より開放的,民主的かつ多元的なソ連社会を創出し,市場指向型経済へ移行するためにソ連で行われている努力を歓迎する。これらの措置は我々の支持に値する。ペレストロイカの成功は,これらの改革努力の断固たる追及と伸展にががっている。特に,我々は,継続的な経済対話に関するゴルバチョフ大統領の提案を歓迎する。
43.  我々すべては,これらの改革努力への支援を独自に及び共同で開始した。我々すべては,ソ連の市場指向型経済への移行及びその資源の活用を支援するため,技術的支援が現在提供されるべきであると考える。いくつかの国は,既に多額の融資を提供する立場にある。
44.  我々は,また,ソ連が市場指向型経済に向けたより大胆な措置を導入し,多くの資源を軍需部門から移転し,地域紛争を助長している国家への支援を削減するとの一層の決定を行うことは,いずれも有意義かつ持続的な経済援助の可能性を高めるであろうことにつき一致した。
45.  我々は,欧州理事会が6月26日ダブリンで行った決定に留意した。我々は,IMF,世界銀行,OECD及び指名を受けた欧州復興開発銀行総裁に対し,欧州共同体委員会と緊密に協議しつつソ連経済に関する詳細な調査を実施し,その改革に関する勧告を行い,西側の経済援助がこれらの改革を効果的に支援し得る基準を確立するよう要請することに合意した。この作業は年末までに完成され,IMFが会合を招集する。
46.  我々は,北方領土に関するソ連との紛争の平和的な解決が日本政府にとり有する重要性に留意した。
47.  主催国政府は,ヒューストン・サミットの結果をソ連に伝達する。
(開発途上国)
48.  我々は,開発途上地域への我々のコミットメントが,改革を実行している中欧・東欧諸国への支援により弱められないことを改めて表明する。開発途上国のうちで最も貧しい国々に対し引き続き特別の注意を向けねばならない。昨年12月に合意された国際開発協会(IDA)の116億SDRの増資は,これら諸国が必要としている資金を提供するとともに,環境考慮の開発融資への統合を画すものである。
49.  先進工業国は,開発途上国の長期的発展に多大の貢献をなし得る。我々は,経済成長及び物価の安定を維持することにより,開発途上地域に安定的がっ拡大する市場及び資金源を提供できる。我々は,真の政治・経済改革を実行している開発途上国に資金・技術支援を行うことにより,これらの諸国で進行中の自由化を促進できる。先進国は,援助効率を高めることを含め,開発途上国に対する開発援助及びその他の形態の支援を強化する努力を継続すべきである。
50.  開発途上地域においては,安定したマクロ経済の枠組み,一層の競争を推進する分野別改革及び市場開放により成長を促進し得るとの認識がますます受け入れられつつある。開放された民主的かつ責任ある政治体制は,市場指向型経済を有効かつ公平に運営する上で重要な要素である。
51.  知的所有権の保護並びに透明かつ公平な投資規則及び内外の投資家に対する平等な取扱いを含む投資制度の自由化によって,良好な投資環境整備に対する重要な貢献が可能である。
52.  米国大統領により発表された最近の中南米支援構想は,ラテン・アメリカ及びカリブ地域の市場指向的政策を支援し奨励しよう。我々は,このような米国の努力が同地域にとって大きな可能性を有するとともに,貿易の振興,開放的な投資制度,米国の譲許的な二国間の債務の削減及び債務の株式化・環境スワップの利用を通じてこの地域における持続的成長の見通しの改善に役立つものと信じる。
53.  多くの国において,人口増加率が資源の増加と一定の合理的な均衡を保つことが持続的開発のために必要である。こうした均衡維持のための開発途上国の努力を支援することは優先課題である。女性の教育機会を改善し経済への一層の統合を図ることは,人口安定化プログラムに対する重要な貢献をなし得る。
54.  地中海沿岸地域において現在進行中の経済的統合の計画は,奨励と支持に値する。
(第三世界の債務)
55.  この1年間に新債務戦略の下で顕著な進展が見られたが,このことは多くの債務国において将来の成長にとり不可欠な経済改革を継続する決意を新たにさせた。特に,チリ,コスタ・リカ,メキシコ,モロッコ,フィリピン及びヴエネズエラと商業銀行との間の最近の合意は,大幅な債務削減及び利払い軽減を含む。IMF及び世界銀行とともに日本は,債務削減及び利払い軽減に対する重要な金融的支援を与えている。パリ・クラブは,IMFに支援された改革と融資の中期的な計画を支援するため,とりわけ債務の多年度繰延べと債務返済期間の長期化を通じ,適当な構造調整合意を提供することに同意した。債務国の改革努力と商業銀行の債務削減は,相俟って,特にメキシコに対する新規投資と逃避資本還流の双方に明白に示されるように,債務国経済の信用に顕著な影響を与えた。
56.  これらの措置は,ケース・バイ・ケースによる債務戦略の主要な新機軸であり,深刻な債務支払いの問題を抱えつつ経済調整政策を実施しているすべての債務国にとって利用可能である。
57.  債務国によるIMF及び世界銀行との強力な経済改革計画の採用は,引き続き債務戦略の核心であり,債務削減及び利払い軽減のための商業銀行の金融パッケージの前提である。債務国が経済回復の維持を図るために貯蓄を活用し新規投資と逃避資本還流を奨励する措置を採用することが決定的に重要である。この関連で,ラテン・アメリカの投資改革と環境とを支援する最近の米国の中南米支援構想に対し,大蔵大臣により注意深い考慮が払われる必要がある。
58.  商業銀行は,思い切った改革を実施している国に対し,債務削減,利払い軽減及び新規融資を含む金融パッケージについての合意を迅速に結ぶための交渉において,現実的で建設的なアプローチをとるべきである。
59.  債権国は,この過程で,現在行われている国際開発金融機関に対する拠出,パリ・クラブにおける公的債務の繰延べ及び新規融資を通じて,引き続き重要な役割を果たす。我々は,パリ・クラブに対し債務負担に対処する追加的なオプションを引き続き検討するよう奨励する。我々は,強力な改革計画を実施している低中所得国については,これら諸国の特別な状況を考慮して,パリ・クラブに対し債務返済期間の長期化を奨励する。我々は,低中所得国の債務負担を軽減するためのサハラ以南アフリカに関するフランスの決定及びカリブ地域に関するカナダの決定を歓迎する。
60.  債権国政府は,また,パリ・クラブの債務繰延べにおいて,トロント方式の実施を通じ最貧国に対し特別の支援を与えてきた。我々すべては,最貧国に対し政府開発援助(ODA)の債務を帳消しにした。我々は,パリ・クラブに対し,最貧国に適用される既存のオプションの実施について再検討を行うよう奨励する。
61.  我々は,国連事務総長により委託された債務に関するクラクシ報告に留意し,関心をもって検討する。
(環境)
62.  我々の最も重要な責任の一つは,その健全さ,美しさ及び経済的潜在力が脅やかされない環境を将来の世代に引き渡すことである。気候変動,オゾン層破壊,森林破壊,海洋汚染及び生物学的多様性の喪失などの環境上の挑戦は,一層緊密で効果的な国際協力と具体的行動を要求する。我々は,先進国として率先してこれら挑戦に応える責務を有する。我々は,不可逆的な環境破壊の脅威に直面する中で,完全な科学的確実性の欠如が,それ自体正当化される行動を先送りする口実とならないことに同意する。我々は,強力かつ拡大する市場指向型経済が環境保護の成功のための最もよい方途を提供するものと認識する。
63.  気候変動は決定的な重要性を有する。我々は,二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を制限する共通の努力を行うことを約束する。我々は,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の作業を強く支持し,8月の全体報告の発表を期待している。第2回世界気候会議は,温室効果ガスの排出を制限ないし安定化させる戦略と措置の採用について検討するとともに効果的な国際的対応を討議する機会をすべての国に提供する。我々は,国連環境計画(UNEP)及び世界気象機構(WHO)の支援下で行われている気候変動に関する枠組み条約交渉に対する支持を改めて表明する。同条約は1992年までに策定されるべきである。適切な実施議定書に関する作業は可能な限り迅速に行われるべきであり,すべての排出源と吸収源を考慮すべきである。
64.  我々は,2000年までにフロンの使用を段階的に廃止し,その適用範囲をその他のオゾン層破壊物質に拡大するとのモントリオール議定書の改訂を歓迎する。開発途上国がオゾン層破壊と取り組むことを支援する金融メカニズムの確立は,先進国と開発途上国との間の協力の新局面を画する。我々は,インド及び中国を含むいくつかの主要な開発途上国が,ロンドンにおいてモントリオール議定書及びその改訂への加入に関する立場を見直す意向を表明したことを賞賛する。我々は,これら諸国による加入が同議定書の実効性を大幅に強化するものとして歓迎する。この議定書は,最終的にオゾン層破壊物質の世界的な段階的廃止をもたらそう。我々は,すべての参加国が可能な限り早急に改訂議定書を批准するよう求める。
65.  我々は,気候変動の科学及び影響並びにあり得る対処戦略の経済的意味合いに関する協力の一層の強化が必要であることを認識する。我々は,二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出を削減するための省エネルギー及びその他の措置を補完する新しい技術と方法を今後数十年の間に開発する協同作業を行うことの重要性を認識する。我々は,気候変動の力学と潜在的影響及び先進国と開発途上国の可能な対応に関し,科学的・経済的な調査と分析を促進することを支持する。
66.  我々は,現存する森林を守るとともに,自らの天然資源の利用に関するすべての国の主権を認識する一方,森林を拡大する行動を起こす決意である。熱帯林の破壊は憂慮すべき規模に達している。我々は,この破壊を停止させることに貢献し,持続可能な森林経営を提供することにつきブラジルの新政府が行ったコミットメントを歓迎する。我々は,この過程を積極的に支持し,途上国のこのような努力を支援するための資金につきこれらの諸国と新たに対話を開始する用意がある。我々は,ブラジルにおける熱帯雨林に対する脅威に対抗するための総合的な試験プログラムにつき,同国政府と協力する用意がある。我々は,欧州共同体委員会と緊密に協議しつつ遅くとも次回サミットまでに発表できるようにこのような提案を準備するよう世界銀行に要請する。我々は,関心を有する他の諸国に対し,我々と共にこの努力を行うよう訴える。この試験プログラムを通じ得られた経験は,熱帯林破壊に直面している他の諸国と直ちに共有されねばならない。熱帯林行動計画(TFAP)は,森林保全と生物学的多様性の保護を一層重視する形で改革され強化されねばならない。国際熱帯木材機関(ITTO)の行動計画は,持続的森林経営を重視し市場の働きを改善する上で強化されねばならない。
67.  我々は,森林減少を抑制し,生物学的多様性を保護し,積極的な林業活動を促進し,世界の森林に対する脅威に対処するために必要な森林に関する国際的取決め又は合意に関する交渉を適当な場において可能な限り迅速に開始する用意がある。そのような取決め又は合意は可能な限り早急に,1992年以前に策定される。IPCC及びその他の作業に考慮が払われる。
68.  世界中で生態学的に脆弱な地域の破壊が驚くべき速さで進行している。温帯林及び熱帯林の減少,入り江,湿地及び珊瑚礁における開発圧力並びに生物学的多様性の破壊は,その徴候である。我々は,この傾向を逆転させるため,砂漠化と戦い,生物学的多様性を保持するための事業を拡充し,南極を保護し,開発途上国の環境面の努力を支援する ための協力を拡大する。我々は,これらの目標を達成するため,UNEP及びその他のフォーラムにおいて協力し,また,生物学的多様性保護のためのUNEPの作業に積極的に参加する。
69.  環境保護努力は水際で終わらない。大洋,沿岸地域の双方において海洋汚染により深刻な問題が引き起こされている。陸上起因汚染源に対処するために包括的戦略が策定されるべきであり,我々は,これを支援することを約束する。我々は,油濁防止の努力を続け,国際海事機関(IMO)の既存の条約の早期発効を要請し,油濁に関する国際条約作成のための同機関の作業を歓迎する。我々は,環境の悪化及び海洋生物資源の規制のない漁業慣行の影響を懸念する。我々は,海洋生物資源の保存のための協力を支持し,この分野における地域的漁業機関の重要性を認識する。我々は,すべての関係国に対し保存の制度を尊重することを要請する。
70.  エネルギー関連の環境破壊に対処するには,エネルギー効率の改善と代替エネルギー源の開発に優先度が与えられねばならない。そのような選択を行う諸国にとって原子力は,我々のエネルギー供給の上で引き続き重要な貢献を行うものであり,温室効果ガス排出の伸びを減少させる上で重要な役割を果たすことができる。各国は,健康と環境を守るために原子力及びその他のエネルギーについて最高の世界的運用基準を確保する努力を続けるとともに,最大限の安全性を確保すべきである。
71.  地球的環境問題の解決には,先進国と開発途上国の間の協力が不可欠である。この観点から,1992年の環境と開発に関する国連会議は,共通の行動と協調のとれた計画につき幅広い合意を形成する上で重要な機会を提供する。我々は,環境に係る国際法に関するシエナ・フォーラムの結論に関心を持って留意するとともに,これらの結論が1992年の環境と開発に関する国連会議において検討されるよう提案する。
72.  我々は,開発途上国が貧困と低開発により悪化している環境問題を解決することを助けるための,資金面及び技術面での支援を拡充することによりこれらの国が恩恵を得ることを認識する。国際開発金融機関のプログラムは,環境的影響の評価及び行動計画を含め環境保護を一層進めるとともに,エネルギー効率を促進するために強化されるべきである。我々は,債務・環境スワップが環境を守る上で有用な役割を果たし得ると認識する。我々は,世界銀行が環境保護促進の措置に関し如何なる調整的役割を果たし得るかにつき検討する。
73.  環境及び経済の目標を上手く統合するため,政府及び産業界の政策決定者は,必要な手段を求めている。環境に関する協同の科学的・経済的な調査と分析の拡充が必要である。我々は,地球及び大気に関する宇宙衛星情報の集積を調整し共有することの重要性を認識する。我々は,国際ネットワークの設立について行われている討議を歓迎し奨励する。環境問題の解決策を形成する上で鍵となる役割を持つ民間部門を関与させることも重要である。我々は,環境と経済に関する極めて有益な作業を促進するようOECDに対し奨励する。特に重要な点は,環境指標の早期開発と環境目標の達成に使用可能な市場指向的アプローチの形成である。我々は,また,1991年に21世紀の環境情報に関する国際会議を主催するとのカナダの提案を歓迎する。我々は,消費者の要求と生産者の必要を満たすとともに市場の革新を促進する有用な市場メカニズムとして,自発的な環境ラベリングを支持する。
74.  我々は,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの成功裡の開始に満足の意をもって留意し,同プログラムが生命科学の基礎研究の進歩に対し人類すべての利益のために積極的に貢献するであろうとの期待を表明する。
(麻薬)
75.  我々は,すべての国に対し,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(ウィーン条約)へ加入し,その批准を完了し,同条約の条項を暫定的に適用するよう求める。
76.  我々は,国連麻薬特別総会の結論を歓迎し,同総会で採択された行動計画に盛られた措置の実施を求める。
77.  我々は,英国が主催した麻薬に関する閣僚会議で採択された宣言ー麻薬需要削減には不正な供給の低減と同一の重要性を政策及び行動において与えられるべきであるーを支持する。先進国は,より強力な防止努力を採用し,他の国における需要削減対策を支持すべきである。
78.  我々は,金融活動作業部会(FATT)の報告を支持し,すべての勧告を遅延なく充分に実施することを約束する。作業部会参加国の大蔵大臣による5月会合において合意されたとおり,作業部会は,これら勧告の実施を評価し促進するとともに,必要な場合勧告を拡充するためフランスを議長とし更に1年間招集される。作業部会の勧告に同調するすべてのOECD加盟国及び金融センターを有する国は,この作業への参加を招請される。新作業部会の報告は,次回サミット会合前に完成される。我々は,また,すべての他の国に対し,資金洗浄との闘いに加わり作業部会の勧告を実施するよう勧奨する。
79.  前駆剤及び必須化学物質が麻薬の不正な製造に流用されないよう効果的な手続きを採用すべきである。サミット国及びこれら化学物質の貿易を行う他の国々から構成され,化学産業の代表が参加した,金融活動作業部会と同様の作業部会をこの目的で創設すべきである。この作業部会は,コカイン,ヘロイン及び合成麻薬に関する諸問題を取扱い,1年以内に報告をまとめる。
80.  我々は,カルタヘナ宣言に特に示されたコカイン取引と闘うための戦略を支持する。我々は,麻薬の不正取引防止のため生産国が実施する活動の枠組みの中で貢献を行う必要性を認識しつつ,コロンビア,ペルー及びボリヴイアを始めとする麻薬の不正取引との闘いに強力に取り組んでいるすべての国々を,経済面,法・執行面及びその他の援助や助言を通じて支援することの重要性を認識する。
81.  ヘロイン問題は,先進国,開発途上国双方の多くの国において引き続き最も深刻な脅威である。すべての国は,ヘロインの惨禍と闘うための強力な措置をとる。
82.  我々は,麻薬の国際的な規制に積極的な先進国との非公式な麻薬協議の枠組みを支持する。そのようなグループは,需給を低減させ国際協力を改善する努力を強化し得る。
83.  我々は,現在行われている国連麻薬統制諸機関の見直しを歓迎し,より効率の良い機構がもたらされるよう求める。
(次回経済サミット)
84.  我々は,来年7月ロンドンで会合することについてのサッチャー首相の招待を受諾した。

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