I資料

1.国会における内閣総理大臣及び外務大臣の演説

(1)第116回国会における海部内閣総理大臣所信表明演説

(89年10月2日)

 私は、先の国会において内閣総理大臣に指名され,ここに第116回国会を迎えました。いま21世紀への跳躍台に立って,新しい時代の扉を開く重大な使命を深く自覚し,情熱を込めて国政に取り組んでまいります。

 まず,次の三つを申し上げます。

 一つは,政治と国民の皆さんとの関係であります。私は,7月の参議院議員通常選挙において示された有権者の意思を厳粛に受け止めています。政治への信頼の回復こそ内閣の最も緊要な課題であります。そのため,政治改革の前進に誠意を込めて努力を続ける決意であります。

 二つ目は,日本と世界についてであります。国際情勢は,極めて流動的であり,日本が果たすべき役割への期待と日本への批判が同時に大きくなっています。日本は,世界のために何ができるか,何をなすべきかを改めて点検してその方策を決定し,世界の平和と繁栄のために汗を流す志ある外交を展開してまいります。

 そして三つ目は,日本人の在り方という奥深いテーマであります。今や我が国は,世界から最も豊かな国と見られるまでになりました。しかし,私たち日本人は,心の底から充実感を味わい,自負心を持って子孫に今の世の中をそのままで渡せるでしようか。暫く立ち止まって熟慮し,「公正で,心豊かな社会」を謙虚に追求しなければなりません。私は,「対話と改革の政治」を旗印に,これらの緊急にして幅の広い課題と取り組み,力の限りを尽くしてまいります。

 なお,注目を集めていた昨日の参議院茨城県選出議員補欠選挙の結果は,我々の政治改革,消費税見直しを真剣に行う姿勢が認められた結果であると受け止めております。これにより消費税について冷静な論議が期待できるのではないかと思います。

 私としては,今後とも国民の皆さんの声をよく聞き,一層心を引き締めて対処してまいります。

(政治への信頼回復)

 まず政治への信頼の回復について申し上げます。

 今日,政治の過程が分かりにくく,政治と国民の心との繋がりが希薄になっていることを謙虚に反省し,民主主義の原点に立ち返って,政治を国民に開かれた明快なものにしてまいります。私は,国民の皆さんそれぞれが,毎日の生活の中で何を感じられているのか,その声にできる限り耳を傾けます。私もまた,信ずるところを率直に語り,対話を重ねてまいります。清新の気に貫かれた信頼の政治こそ,私の理想とする政治の姿であります。

 さらに,政治家一人一人が,高い政治倫理を確立することはもとより,ガラス張りで金のかからない政治活動や政策中心の選挙を実現するという,根本に遡った改革を大胆に実行していかなければなりません。政府としては,選挙制度審議会に,定数是正を含む選挙制度や政治資金制度の抜本的改革のための具体策を諮問したところであり,明年3月を目途に,可能な限りお考えを取りまとめていただくようお願いしております。ご答申を頂いた上は,その趣旨を十二分に尊重し,各党各会派のご理解とご協力を得て,明年11月の国会開設百年を目標として,その実現に遇進してまいります。

 先の通常国会において,自由民主党から公職選挙法及び政治資金規正法の改正法案,日本社会党など3党から公職選挙法の改正法案が提案され,また資産の公開を含む政治倫理の確立について,各党において法制化に向けた努力が続けられております。立法府のご努力に深く敬意を表し,政治改革の第一歩として,大局的見地がら論議を尽くしていただくことを切望します。政府としても,できる限りの努力をしてまいります。

 なお,公務員の綱紀粛正の徹底に努め,国民がらいやしくも疑惑を招くことのないよう規律ある行政を確立してまいります。

(消費税の見直し)

 先般の抜本的な税制改革は,来るべき高齢化社会を展望し,すべての人々が社会共通の費用を公平に分かち合うとともに,税負担が給与所得に偏ることなどによる国民の重税感,不公平感をなくすことを目指したものであります。私は,この改革によってもたらされる安定的な税体系こそが,安心して暮らせる福祉社会をつくる基礎となるものと確信いたしております。消費税は,税負担の公平や我が国の将来展望がらみで必要不可欠であり,これを廃止することは全く考えておりません。

 税制改革の意義や消費税の必要性について,国民の皆さんにご理解をいただく努力が十分でなかったことを率直に反省しています。消費税については,その実施状況もよく把握した上で,国民の皆さんの声をよく聞き,消費者の立場をも十分配慮して,見直すべき点は思い切って見直してまいります。それとともに,社会的に弱い立場にある人々に対しては,きめ細かな対策を講じてまいります。

 なお,私の内閣としては,消費税の税率を引き上げる考えはありません。

(行財政の改革)

 来るべき世紀に向けての足固めを図るためには,行財政の改革は不可欠であります。来年度予算において,赤字公債に頼らない財政の実現に全力を尽くします。しかし,これが達成できてもなお,160兆円もの公債残高が残り,その利払いだけでも1日300億円に上っていることを忘れてはなりません。

 臨時行政改革推進審議会の審議を踏まえつつ,決意も新たに制度や歳出を見直し,国,地方を通じた行財政改革を手綱を緩めることなく推進してまいります。

(農業の展望)

 我が国の今日の発展を思うとき,戦後の食糧不足の時代から国民の生活を支えた農業の貢献を忘れることはできません。

 今,農政に求められているのは,農業が自立できるよう確固たる長期展望を示し,農家の方々が誇りと希望を持って農業を営める環境をつくり上げ,より一層の生産性の向上を進め,国民の納得できる価格での安定的な食糧供給を図っていくことであると考えております。

 我が国農業の基幹である米については,米及び稲作の持つ格別の重要性にかんがみ,また衆・参両院におけるご決議等の趣旨を休し,国内産で自給するとの基本的な方針で対処してまいります。また,農林漁業の持つ多面的な役割を重視し,農山漁村の活性化を図ってまいります。

(世界に貢献する日本)

 世界は今,大きな変化の最中にあります。特に,ペレストロイカ,民主化,改革・開放の動きなど注目すべき変化が社会主義諸国に起こっています。このような動きを定着させ,より安定した東西関係に導くためにも,東西間の対話が一層必要になっています。また,世界経済は,基調としては順調に推移していますが,他方で対外不均衡,インフレ懸念,保護主義圧力などの問題も抱えております。こうした状況は,一方で自由と民主主義,市場経済といった我々の選択した価値が優れていることを示すとともに,数々の新たな課題への取組を国際社会に求めています。国際社会の中で大きな存在となった日本は,責任ある国家として,これから進む道筋を明確に示さなければなりません。

 その道筋は,平和国家に徹するとともに,世界の平和と繁栄のために汗を流していくことにあると考えます。我が国は憲法の下,他国に脅威を与えるような軍事大国への道を歩まず,節度ある防衛力の整備に努めるとともに,国際平和と軍縮そして繁栄という崇高な目標に向けて,主体的に貢献していく方針であります。

 私は,世界に向けてより大きな責任と役割を果たす「国際協力構想」に一層積極的に取り組み,この構想の三つの柱である,平和のための協力,ODAの拡充及び国際文化交流の強化を更に具体化し,発展させてまいります。これに加え,累積債務問題の解決と,多角的自由貿易体制の維持・強化を図るウルグアイ・ラウンドの成功に向けて,積極的に努力してまいります。

 今日人類の前には,その生存を脅かす大きな問題が横たわっております。第一に,地球温暖化を始めとする地球環境問題であり,第二に,人類を蝕む麻薬・覚せい剤の問題であります。私は,これらの課題と取り組む国々との協力の下に,強い決意をもってこのような脅威と戦ってまいります。

 環境問題は,地球という一つの丸い立体像でとらえてこそ実感が伴います。空気や水には国境はありません。その意味でも,環境問題の解決には,国際的な叡智の結集が極めて重要であります。地球温暖化の原因となる炭酸ガスや,森林を枯らす酸性雨の問題にしても,物質文明の発展とともに発生してきたものでありますが,今や地球環境の保全なくして,人類の未来はありません。我が国は,地球環境の観測・監視,排ガス規制や公害防止の技術等において高い水準にあり,持てる知識・経験や技術力・研究開発力を駆使して,世界的問題の解明と解決に貢献するとともに,発展途上国への協力を進めてまいります。去る9月の「地球環境保全に関する東京会議」の成果をも踏まえ,政府を挙げて積極的に行動していく考えであります。

 私は,8月末から米国,メキシコ,カナダを訪問し,ブッシュ大統領,サリーナス大統領,マルルーニー首相と実りある首脳会談を重ね,また,来日されたサッチャー英国首相などの各国要人との交流を深め,相互の信頼関係を構築してまいりました。これらを通じ,日本が国際社会で求められている責任の重さと果たすべき役割の大きさを再確認し,決意を新たにしたところであります。

 日米関係は,我が国外交の基軸であります。日米両国は,自由と民主主義,市場経済という共通の理念を保持しており,このことが今日の我が国の平和と繁栄をもたらしたのであります。この度の訪米では,日米安全保障体制を堅持し,引き続き両国間の問題を協力して解決していくとともに,世界的課題に共同して取り組んでいくことについての意見の一致を見ました。日米双方の抱える経済構造問題については,率直に話し合い,主張すべきことは主張し,米国の意見もよく聞き,協議に積極的に取り組んでまいります。

 西欧は,統合を間近に控え,より強力な統一体として力強い復権を遂げつつあります。日,米,欧の三極の間の関係を一層緊密化していくことは我が国にとって重要な課題であります。

 アジア・太平洋地域は,21世紀の地域であります。先般の中国での出来事は痛恨の極みでありました。中国が改革と開放の政策を名実ともに進め,孤立化の道を歩むことなく,アジア・太平洋地域の平和と繁栄に積極的に貢献することを強く希望するものであります。韓国,ASEAN諸国との関係も一層強化してまいります。

 ソ連との関係改善については,北方領土問題を解決し平和条約を締結した上で,安定的な関係を確立するとの一貫した方針に基づき,更に対話を積み重ねてまいります。

 私たちは今日,単に経済的な豊かさだけでなく,生活の充実感,文化的な豊かさ,生きがいを求めております。そのためには,経済発展の成果が社会の一部にもたらしているひずみを克服していくとともに,豊かさを心から実感できる社会へと仕組み,制度を切り替えていかなければなりません。私は,「公正で,心豊かな社会」を目標に,我が国を着実に前進させてまいる所存であります。

(公正な社会)

 近年,社会の公正さに対する国民の信頼が揺らいでいる原因の一つは,地価の異常な高騰にあります。「持てる者」と「持たざる者」との格差の拡大は,看過し得ない問題であります。地価の高騰は国民から住宅確保の夢を奪っております。投機的な取引はもとより,土地の取引に際しての法外な利益を許容しないという断固たる姿勢の下に,需給両面にわたる本格的な土地対策を実行すべきときであります。その第一歩として,政府としては,土地は限られた貴重な資源であり,公共性を持つとの基本理念を明らかにし,土地対策を総合的に推進するため,土地基本法案を既に国会に提出しており,その早期成立を強く希望しております。また,快適な住宅を供給する総合的な住宅・宅地対策に全力を挙げて取り組んでまいります。

 国土の均衡ある発展の鍵は,東京への一極集中の是正と地域の活性化にあります。多極分散型国土の形成を図るとともに,ふるさと創生を進め,青年に魅力ある地域づくり,うるおいのある美しいまちづくりに努めてまいります。

 インフレは,お年寄りや障害者など社会的に弱い立場の人々に打撃を与えます。幸いにして,物価は安定しておりますが,今後とも物価の安定に最大限努力いたします。

 国民はだれもが消費者であります。あらゆる政策の立案,実施に当たって常に消費者の視点に十分配慮することが重要であります。我が国の経済力に見合った豊かな消費生活の実現を阻害するものがあれば,それを取り除いてまいります。規制緩和などを通じて競争を促進するとともに,合理的な流通構造を実現し,内外価格差の縮小を図ってまいります。

 また内需主導型の経済構造を定着させ,輸入大国となることにより,対外不均衡を是正してまいります。

(心豊かな社会)

 真に豊かな社会は,心の豊かさの中にこそ,花開くものであります。先般の世間を震憾させた幼女誘拐殺人事件を始めとして,特に青少年にかかわる痛ましい事件が発生していることは,憂慮に堪えません。日本人の心から何か大切なものが欠落しつつあるのではないかとの感を深くしております。私は,教育の原点に立ち戻り,教育改革を通じ,人間を大切にする心をしっかりと育てたいと思います。

 「人生において最初に出会う教師は親である」と言います。「おはよう」,「ありがとう」,「ごめんなさい」と言う言葉が素直に口をついて出る躾こそは人間関係の基礎を形づくり,心の豊かさを生み出す上で極めて大切であります。家庭は最初の教育の場であるといわなければなりません。

 学校教育においては,知育偏重にならないよう戒め,個性と創造性を伸ばすとともに,その個性をお互いが尊重し合う気風を育てる教育が実現されなければなりません。この教育の成果は,社会においても生かされて次代へと受け継がれていくのであります。

 また,すべての国民が文化・芸術・スポーツに親しみ,自らの手で新しい文化をたくましく創造していける環境の醸成,基盤の確立に意を用いてまいります。

 私はかねてから,真の男女平等を目指し,女性の持つ能力と経験を活用し,均衡ある社会の発展を図るべきだと考えていました。今後とも,女性の生活感覚を大切にし,地位の向上を図り,女性がその能力を発揮し,男性と共に,力を合わせて社会に貢献できるよう努めてまいります。

 長くなる第二の人生を支える公的年金については,その制度を確かなものにしていかなければなりません。年金額の改善を図るとともに,将来にわたる厚生年金支給開始年齢の明示,被用者年金各制度間の負担の調整などを内容とする法律改正を提案しており,その早期成立を強く希望します。

 介護が必要となるお年寄りについては,寝たきりになることを極力防止し,より人間味ある生活を送ることができ,可能な限り家庭や地域で暮らすことができるような社会づくりを目指してまいります。

 また,将来の高齢化社会を担う児童が健やかに生まれ,育つための環境づくりに努めます。

 各人が生涯を通じて,生きがいを持ち,その能力や創造性を発揮していくことは,今後の社会にとって,極めて大切であります。労使との対話を深めつつ,65歳程度までの継続雇用や多様な学習機会の確保,労働時間の短縮などに取り組んでまいります。

 また,未来を切り拓く科学技術の重要性にかんがみ,その振興に努めてまいります。

(結び)

 戦後,我が国は,廃嘘の中から立ち上がり,今や最も豊かな国とみられるまでになりました。これは,我が国が基調としてきた自由と平和,民主主義と基本的人権の尊重の上に,国民のたゆまぬ努力が実を結んだものにほかなりません。これからの我が国は,この基本路線をしっかりと踏まえた上で,公正さと心の豊かさを真剣に追求する時代を迎えていると思うのであります。

 一人一人がもてる能力を十分発揮できる機会を持ち,すべての人が担い手として参加し,自己中心主義を排し,お互いを認め合う社会,経済効率一辺倒に陥らず,ゆとりがあり,文化の香りあふれる社会,このような社会づくりを通じて,心が通い合い,生きがいのある社会をつくり上げたいのであります。

 私は,「21世紀へ向けて目指すべき社会を考える懇談会」を早急に発足させ,私たちの社会の在り方について各方面のお知恵を借りつつ,そこから,幅広く息の長い国民運動の展開を期してまいりたいと考えます。

 新しい時代の夜明けをもたらすのは,青年の燃えるような使命感と情熱であります。時代は再び,青年の理想精神を求めております。発展途上国で土地の人々と生活や労働を共にし,その国のために奉仕している青年海外協力隊の皆さんや国内でボランティア活動に尽くす人々に共通してみられる,ひたむきな心と行動が求められております。青年が,激動する社会の中から,新しい時代を切り拓くために何をなすべきかを考え,何ができるかを語り,目標を高く掲げて行動に移るときこそ,我が国の未来に限りない希望が湧いてくるのであります。

 私は全力を挙げて,このような国づくりに邁進することをお誓いいたします。

 議員各位と国民の皆さんのご理解とご協力を切にお願いする次第であります。

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(2) 第118回国会における海部内閣総理大臣施政方針演説

(90年3月2日)

 総選挙による厳粛な審判の結果,私は,再び内閣総理大臣に任命され,国政を担当することになりました。内外の山積する諸問題を前に,身の引き締まる思いでありますが,選挙の結果を謙虚に受け止め,国民的合意を目指して全力を傾けてまいる決意であります。皆さんのご協力をお願い申し上げます。

 世界は今,歴史的な変化の中にあります。特に劇的な変化をしているのは,ソ連・東欧諸国であります。ベルリンの壁の崩壊に象徴されるように,自由の抑圧,社会主義的統制経済の非効率,その中から自由と民主主義と市場経済を求める動きが大きなうねりとなっております。激しい変化の過程では不安も見られますが,苦しくてもこの改革は決して後戻りできないとの,ポーランドやハンガリーの首相の言葉が今も鮮やかに耳に残っております。

 ブッシュ大統領とゴルバチョフ議長によるマルタ首脳会談は世界の平和と安定にとって,極めて象徴的なことであります。東西の力の対決,冷戦時代の発想を乗り越えて,対話と協調によって新しい世界秩序を模索していこうという動きは,独り欧州にとどまらず,アジア・太平洋地域へと連動させていかねばなりません。力による対立が世界の秩序を支配する中では,日本は力による貢献をすることはできませんが,対話と協調によって新しい平和共存の世界の構築への模索が始まっている今出我が国は,積極的な役割を果たしていかねばならないのであります。

 先般の訪欧を機会に,我が国と欧米との協力関係がより一層強化されたこと,東欧諸国との友好関係が新しい段階を迎えたこと,そしてこれら各国首脳との会談が極めて有意義であったことをここにご報告申し上げたいと思います。更に先週,ブッシュ大統領から,昨年の会談に引き続き,早急に,議題を決めずに国際情勢及び二国間関係全般にわたり話し合いたいとの提案がありました。国会のご了承をいただき,直ちに訪米し,率直な意見交換を行ってまいります。

 今日,世界の経済秩序も重要な岐路に立っております。保護主義圧力の増大は,戦後の繁栄を支えてきた自由貿易体制の存立を脅かしております。他方,経済のグローバル化が急速に進み,我々の住む世界は,一つの共同体としてますます連帯感を深めており,正に「地球化時代」とも言うべき様相を呈しております。

 内に目を転じると,我が国社会もまた大きな変動期を迎えています。高齢者の急増,出生数の減少,農林漁業の後継者難や中小企業の人手不足,女性の社会参加など社会の基本構造を左右する大きな変化が見られ,これらへの適切な対応が迫られております。経済成長の持続にもかかわらず,国民一人一人に豊かさの実感が乏しいとの声も多く聞かれます。大都市地域においては,地価の異常な高騰や住宅の取得難が見られます。また,次の時代を担う若者たちを中心に生きがいや人間関係の上で様々な問題が生じつつあることが指摘されております。

 このような内外の諸情勢を踏まえ,私は,次の方針により,政策を展開してまいります。

 まず第一に,我が国は,新しい秩序を築くための国際的な努力に,持てる経済力,技術力,経験を活用しつつ積極的に参画していくことであります。

 第二に,公正でしかも心から豊かさを享受できる社会を建設していくことであります。特に,長寿社会における福祉の充実,土地・住宅問題の解決,内外価格差の是正は当面の急務であります。

 第三に,政治改革を進め,「信頼の政治」を確立することであります。リクルート事件の反省の上に立って,政治倫理を確立するとともに,金のかからない政治活動や政策中心の選挙の実現など実のある政治改革を全力を挙げて進めてまいります。先の国会における公職選挙法の改正の実現は高く評価されるものであり,これは平成の政治改革第一歩ととらえられるものであります。現在,選挙制度審議会において,定数是正を含む選挙制度及び政治資金制度の抜本的改革のための具体策について,精力的にご審議いただいております。今年は,時あたかも国会開設百年という記念すべき年に当たっており,同審議会のご答申をいただき,その趣旨を尊重した改革の実現に向けて不退転の決意で取り組んでまいります。引き続き政治改革について各党各会派のご理解とご協力を是非ともお願いいたします。

 本年11月には,日本国及び日本国民統合の象徴である天皇の皇位継承に伴う儀式として,即位の礼及び大嘗祭が挙行される運びとなっております。即位の礼は,国民がこぞってお祝い申し上げ,世界各国からも祝福されるものとして粛然と実施できるよう万全の準備を進めてまいります。また,大嘗祭は,皇室の伝統にのっとって厳かに執り行われるよう必要な手だてを講じてまいります。

(外交)

 国際関係は政治面でも経済面でも大きな変化を遂げつつあります。東欧諸国が予想を越えたテンポで自由,民主主義及び市場経済を目指した改革を進めており,ソ連ですらも共産党一党独裁の放棄と市場経済の導入への道を歩み始めたこと,東西ドイツが統一に向けて動き出したことは,誠に注目すべきことであります。また,米ソ関係が協調関係へと改善を見せ,東西間の軍備管理・軍縮交渉に進展が見られることは歓迎すべき動きであります。

 他方,アジア・太平洋地域においては,経済面での目覚ましい発展は見られるものの,いまだ不安定な要因も抱えております。その他の地域においても,いくつかの紛争に解決の兆しは見られますが,全体として政治的安定度が高まったとまではいえない状態にあります。

 世界経済もまた,構造的な変化に直面しております。情報・科学技術の急速な発展,相互依存関係の深まりとともに,我が国やECの経済力の増大,アジアNIESの躍進,EC統合の動きなど,躍動的な変化が見られる一方で,保護主義圧力の増大,開発途上国の巨額な累積債務問題など不安定さを増す要因も少なくありません。

 こうした中で迎える90年代は,新しい時代の始まりでありますが,その進む方向の青写真は未完成で,希望と不安が混在する時代であります。このような時にこそ,我々は希望に満ちた新しい国際社会を作るための国際秩序の構築に参画し,「志ある外交」の展開に取り組んでいかねばなりません。

我々の求める新しい国際秩序は,

第一に,平和と安全が保障されること,

 第二に,自由と民主主義が尊重されること,

 第三に,開放的な市場経済体制の下で世界の繁栄が確保されること,

 第四に,人間らしい生活のできる環境が確保されること,

 第五に,対話と協調を基調とする安定的な国際関係が確立されることを目指すものでなければなりません。

 新しい国際秩序の構築を目指すに当たっては,確固とした日米間の協力関係が基軸にならなければなりません。日米の協力関係は,我が国の平和と繁栄のみならず,アジア・太平洋地域ひいては地球的な規模での国際関係の安定にとって不可欠であります。この協力関係の要をなす日米安全保障体制については,今後とも堅持していくことは申すまでもありません。

 日米間の貿易・経済問題の解決は,我が国の直面する最も大きな政策課題であり,中でも構造問題協議は緊急かつ重要な懸案であります。この協議は,我が国の国民生活の質の向上に寄与するとともに米国の競争力強化にも資するものであり,両国間の協力関係の基礎を強化することに直結するものであります。私は,この協議の前進に最大限の努力を払ってまいります。また,世界が共通に抱える各般の分野の問題に対し両国が共同して取り組むことにより,一層良好な日米関係を発展させてまいります。

 今日の国際経済が直面する重要な課題は多角的自由貿易体制の維持・強化であります。世界経済の発展は自由貿易体制に大きく負っていることは言うまでもありません。保護主義は,一時しのぎにはなっても,結果としてその国の経済基盤を弱め,より大きなマイナスをもたらすことを忘れてはなりません。このような見地から,本年末を交渉期限とするウルグアイ・ラウンドを何としても成功させるとともに,我が国としても,対外不均衡の一層の是正を図り,我が国経済を国際的に調和のとれた構造に転換するため,内需主導型の経済運営を堅持するとともに,市場参入条件の改善,製品輸入促進税制の導入などを図っていかなければなりません。政府としては,国民生活の質の向上,消費者重視の視点からも,輸入拡大を目指した施策を強力に推進する所存であります。国民各位及び各企業も,その方向での努力を積み重ねていただくよう強く希望します。

 アジア・太平洋地域の政治的安定と経済的発展を確保することは我が国にとって極めて重要な課題であります。この地域は世界経済の成長を大幅に越えるスピードで発展しており,21世紀には,ますます大きな存在となることが予想されます。また,我が国からの投資・貿易は年々拡大し,この地域の経済発展に大きく貢献しており,我が国とこの地域との結び付きはますます強いものとなっております。しかし一方で,いまだ南北が軍事的に対峙している朝鮮半島,引き続き戦闘の続いているカンボディア,西側諸国との関係がなお修復されていない中国など先行きの見通しが困難な地域を抱えております。さらに,多くの国が経済発展の過程にあって援助や投資・貿易の拡大を必要としております。我が国は,アジアの一国として,具体化に向け歩み出した経済面での地域協力を含め,これらの地域の平和と繁栄のために引き続き努力するとともに,ASEAN諸国などアジア・太平洋諸国との関係を一層強化してまいります。また,北朝鮮との間においても,対話の実現を図り,関係改善が進むよう努力してまいります。

 ソ連との関係については,北方領土問題を解決して平和条約を締結し,安定的な関係を確立するとの基本方針の上に立って,日ソ関係全体を均衡のとれた形で拡大させることが我が国の方針であります。最近の国際社会の構造的変化の中で日ソ関係を正常化することの重要性がこれまで以上に高まっております。明年のゴルバチョフ議長の訪日に向け双方が一層の対話を積み重ね,日ソ関係の抜本的改善が図られることを期待するものであります。

 欧州では,東西分断を超えた新しい秩序の構築への大きな胎動が始まっております。政治・経済・文化の各面において西欧各国との関係を一層緊密化し,日欧関係を一辺とする日米欧三極の関係強化を図っていく考えであります。

 我が国は,国際社会から恩恵を受けつつ,ここまで発展してきており,国際協力を通じて世界の平和と繁栄のために貢献しなければならない立場にあります。既に打ち出している「国際協力構想」は,平和のための協力,ODAの拡充及び国際文化交流の強化を柱として,着実に成果をあげておりますが,今後この構想を一層強力に推進してまいります。また,地球環境,麻薬,テロ,人口増加といった問題への取組と科学技術面での協力を強化し,地球的視野に立った国際協力を推進する所存であります。

 特に,地球環境の保全については,国際的な枠組みづくりへの参加,国際協力に努め,地球環境の観測・監視,調査研究や技術開発の推進を図るとともに,資源を大事にし自然を愛する心,いわゆる環境倫理を大切にして,環境保全のための努力を着実に進め,世界的規模での取組へと結実させてまいります。

 以上のような時代認識,国際情勢を踏まえて,国際社会の中で我が国が選択すべき姿勢は,次のとおりであります。

 その一つは,我が国が,世界のどの国に対しても軍事的な脅威を与えるような存在となってはならないということであります。このような方針の下,我が国は,日米安全保障体制を堅持し,専守防衛に徹し,非核三原則と文民統制を確保しつつ,節度ある防衛力の整備を図るとともに,国際的に気運の高まっている軍備管理・軍縮の促進への外交努力を一層強化してまいります。

 そして,このような基本方針の下に,経済的,技術的な持てる力と経験を地球的な視野から見て緊要なプロジェクトに効果的に投入し,地球の未来を全人類のために明るく豊かなものにしていく建設的な努力を繰り広げるとともに,経済を中心とする(きし)みを対話と相互の努力によって平和的に解決してまいります。

 私は,このような我が国の姿勢を改めて平成日本の決意として宣言するものであります。

(豊かな人生)

 今日,我が国においては,子どものころは勉強し過ぎ,就職すると働き過ぎ,退職後には時間のあり過ぎという状況で,生き生きとした人生が送れていないのではないかとの声も聞かれます。私は,人生のあらゆる段階で生活の在り方を自由に選択でき,健康で豊かな高齢期を迎えることができ,また育児・介護を中心とする負担が女性にががり過ぎている現状が改善されるなど,国民一人一人が豊かさを実感できる環境をつくり上げてまいりたいと思います。このため,「生涯はつらつ,生涯しあわせ」を基本理念とする新人生設計計画ともいうべき構想を推進することとし,その具体的対応の第一弾として,ゴールドプランすなわち「高齢者保健福祉推進10か年戦略」を策定し,今世紀中に実現を図るべき目標を明らかにいたしました。寝たきり老人ゼロ作戦の推進,在宅介護体制の緊急整備,保健福祉施設の大幅な拡充,在宅福祉などの充実のための福祉基金の創設などを強力に推進してまいります。障害者や母子家庭の方々に対しても,きめ細かな対策を講じてまいります。また日ごろからの健康づくり,疾病予防,がん対策や難病の克服,食品の安全性の確保などにも努力を積み重ねてまいります。

 人口の高齢化の問題で忘れてはならないのは,高齢者が増えていくという側面だけでなく,我が国においては,誕生する子どもの数の減少が進んでいることであります。出生数の減少は,我が国の将来に様々な問題を投げかけるものであります。若い人々の子どもを持つ意欲を積極的に支えていくことに日本の未来をかけて,努力していかなければなりません。子どもは世の宝であります。この宝を守り,健やかに,たくましく育てていくことこそは,何にもまして大切な仕事であります。私は,これらのことを肝に銘じて,効果的な環境づくりを積極的に進めてまいります。

 女性が,職業生活と家庭生活を調和させつつ,男性と共にその能力と経験を生かすこともできるよう,育児休業制度の確立などに向けて積極的に努力してまいります。

 また,生涯を通じて,各人が,生きがいを持ち,その能力や創造性を発揮していくことは,今後の長寿社会にとって極めて大切であります。65歳程度までの継続雇用を始め高齢者のための様々な就業機会の確保,生涯にわたる能力開発などを進めてまいります。

(教育・文化)

 教育は国家百年の大計であります。自我を確立し,歴史,文化,伝統を尊び,国際社会の中で信頼される公正な心と豊かな創造性を持つ青少年の育成に努めていかなければなりません。学校教育においては,知育偏重にならないように戒め,個性と創造性を伸ばすとともに,その個性をお互いが尊重し合う気風を育てる教育を実現してまいります。また国民の多様かつ高度な学習意欲にこたえ,精神的,文化的な充実が得られるよう,生涯にわたる学習やスポーツの機会の整備に力を注いでまいります。

 今日,国民の間には心の豊かさを求めて文化への志向が高まっております。我が国独自の伝統文化を継承しつつ,新しい芸術文化の創造・発展を図るため,すべての国民が芸術文化に親しみ,自らの手で新しい文化を創造していける環境の醸成,基盤の確立に努め,優れた芸術文化の振興・普及や,文化によるまちづくりなどを支援する芸術文化振興のための基金を創設してまいります。

(土地・住宅)

 私は,国民の間に豊かさの実感が乏しいのは,住生活の貧困が大きな要因であると考えています。地価の高騰は社会的な公正感を揺るがせ,国民の住宅確保の夢を奪っております。待望の土地基本法の成立を踏まえ,早速土地対策の重点実施方針を取りまとめましたが,今後一層,地価の動向に細心の注意を払い,投機的な取引を厳しく抑制するとともに総合的な土地・住宅対策を強力に展開してまいります。土地税制は総合的に見直し,平成2年度中に成案を得てまいります。大都市地域の市街化区域内の農地への課税については,総合土地対策要綱に沿って,関係制度の整備,充実等と併せ見直しを行い,平成4年度からの円滑な実施を図ることとしております。

 また,東京通勤圏において勤労者が良質な住宅を確保できるよう,この10年間に100万戸を目標に新たな住宅供給を行うことを始め,多様かつ切実な需要に応じた総合的な住宅対策を展開してまいります。

(内外価格差等)

 我が国の物価は,極めて安定的に推移しております。しかし,消費生活に直結する価格の中には,外国の水準に比べてなお割高感を拭1ないものもあります。このため私は,新設した内外価格差対策推進本部の長として,流通の合理化,独占禁止法の厳正運用,輸入の促進,公共料金の適正化などに取り組み,内外価格差の是正に努め,国民生活を一層充実させてまいります。

 現在,我が国経済は,息の長い拡大を続けております。今後とも,主要国との協調的な経済運営を進め,為替レートの安定を図りつつ,内需を中心としたインフレなき景気の持続的拡大と対外不均衡の一層の是正を図るため,引き続き,適切かつ機動的な経済運営に努めてまいります。

 勤労者の豊かでゆとりのある生活の実現にとって欠くことのできない労働時間の短縮に真剣に取り組んでまいります。また,良好な労使関係の維持,発展を図るとともに,活力ある中小企業の育成を図ってまいります。

 さらに,学術研究や,原子力,宇宙研究開発を始めとする科学技術の振興に努め,その成果を国際的に展開し,人類の新たな未来を創造してまいります。

 北海道の総合開発と沖縄の振興開発に,引き続き積極的に取り組んでまいります。

 本年4月から開催される「国際花と緑の博覧会」を通じ国際交流を深めてまいります。

(消費税の見直し)

 先般の税制改革は,来るべき高齢化社会を展望し,国民の重税感,不公平感をなくすことを目指したものであります。このうち消費税につきましては,すべての人が社会共通の費用を広く公平に分かち合うという趣旨によるものでありますが,国民各層から様々なご意見やご指摘をいただきました。政府は,この新しい税について,消費者の立場,生活重視の思想に立脚しつつ,思い切って見直し,既にその内容を決定したところであります。今後,早急に改正法案を国会に提出し,各党各会派のご審議を得て成立を期し,更に新税制の定着に全力を尽くしてまいります。

 この見直しにおいては,逆進性の緩和の観点や社会政策的配慮から,食料品について小売段階を非課税とするほか,家賃,出産の費用,入学金,教科書代を始め,身体障害者用の物品,老人に対する在宅サービスなどについても非課税とし,さらに年金生活を送る方々のために一層の所得減税を行うこととしております。中間申告や納付の回数の増加などにより,消費者の立場から指摘されていた仕組みの上での問題点についても,現時点においてできる限りの措置を講じております。また,歳出面でも,消費税の使途を明確化するとともに,高齢化に対応した公共福祉サービスの充実を図ることとしております。

 私は,この新税は我が国の21世紀を支えるため必要なものと確信しております。税の負担には確かに痛みを伴います。しかし,社会全体のことを考え,ご理解の上,ご協力いただくようお願い申し上げます。

(行財政改革)

 平成2年度予算においては,特例公債依存体質からの脱却を果たすことができました。これは,歴代内閣のご努力と皆さんのご協力の賜物であります。

 しかしなお,国債残高が累増し,平成2年度には164兆円にも達する勢いであり,財政は依然として厳しい状況にあります。高齢化社会に多大な負担を残さず,再び特例公債を発行しないことを基本として,国債残高が累増しないような財政体質をつくり上げることを目指し,来るべき世紀に向けての足固めを図っていかなければなりません。

 手綱を緩めることなく制度や歳出を見直すことはもとより,来月に予定される臨時行政改革推進審議会の最終答申を最大限尊重し,更に新たな気持ちで行財政改革を推進してまいります。

 また,先の国と地方の関係等に関する答申に沿って,国から地方への権限委譲などに積極的に取り組み,地域の活性化を促してまいります。

 地方財政については,その円滑な運営を期することとしております。

 なお,公務員の綱紀粛正の徹底に努め,いやしくも疑惑を招くことのないよう規律ある行政を確立してまいります。

(農業)

 農林水産業は,国民生活にとって最も大切な食糧などを安定供給するという重大な使命を担っております。

 農業が自立できるよう,確固たる長期展望の下,誇りと希望を持って農業を営める環境をつくり上げてまいります。急速な高齢化が進んでいる今,進取の気性に富んだ後継者を育成するとともに,生産基盤の整備,バイオテクノロジーを始めとした先端技術の活用などにより,一層の生産性の向上を進め,国民の納得できる価格での安定的な食糧供給を図ってまいります。私は,これらの施策を積み重ねることにより,食糧自給率の低下傾向に歯止めをかけ,供給熱量で5割の自給率となるよう努力してまいります。

 また,農林水産業の持つ多面的な役割を重視し,地域の資源を活用しながら,条件の不利な中山間地域を始め農山漁村の活性化を図ってまいります。

 我が国農業の基幹である米については,米及び稲作の持つ格別の重要性にかんがみ,また衆・参両院におけるご決議等の趣旨を体し,国内産で自給するとの基本的な方針で対処してまいります。

(活力ある地域づくり)

 地域の活力は,我が国の発展の基盤であります。私は,先の「活力ある地域づくりに関する懇談会」のご提言にもあるように,創造性豊かで,多様な選択可能性に富む地域づくり,ふるさと創生の具体化に努力してまいります。また,過疎地域の活性化についても,意を用いてまいります。

 東京への過度の集中や依存を改め,多極分散型の均衡ある国土づくりを強力に推進することは,国の責務であります。地価の高騰を招かないように配慮しつつ公共投資を推進し,第4次全国総合開発計画に沿って,都市・産業機能の地方分散を図るとともに,基幹的な高速度交通網や高度の情報・通信網の整備,イベント開催などによる交流ネットワークの形成を進めてまいります。特に,新東京国際空港の早期完全空港化に積極的に取り組んでまいります。また,より高度な交通サービスを実現するために,リニアモーターカーなどの技術開発を推進してまいります。

 最近の交通事故の急増にかんがみ,交通安全の確保に万全を期するとともに,「国際防災の10年」の始まりに当たり,大都市などにおける防災対策の充実,防災分野の国際協力を推進してまいります。また,安寧と自由・民主主義を脅かす暴力事件やテロ・ゲリラ事件には断固たる決意を持って対処してまいります。

(結び)

 私は,世界も,日本も自らの未来を決める歴史的な転期を迎えていることをひしひしと感じております。

 冷戦の克服の過程を歩みつつある今日,経済と科学技術の持つ重要性が増大する中で,我が国は,国際社会の恩恵を受けて蓄積してきた経済力,技術力,経験をもとに,地球社会のために積極的に貢献し得る時代(とき)を迎えたのであります。

 我々の周りには,現在も貧困や病気に苦しむ人々,開発途上にあって援助に頼らざるを得ない国々,自由を求めて歩み始めた国々,そして環境破壊の脅威に(さら)されている地球があります。我々は,世界各国と手を携えながら,経済的援助にとどまらず,先進技術の移転,人づくりなど幅広い貢献を行うことによって,これらの諸問題の解決に主導的な役割を果たしていかなければなりません。全世界の人々の人間的でより豊かな生活を可能とし,美しく快適な地球を創出していくという高い理想の実現に向けて汗を流していこうではありませんか。

 こうして出来上がった新しい国際社会は,戦争という言葉すら要らない,平和と繁栄の世界となるに違いありません。この崇高な理想の実現に向けて,私は,全力を尽くしてまいります。

 議員各位と国民の皆さんのご理解とご協力を切にお願いする次第であります。

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(3)第118回国会における中山外務大臣の外交演説

(90年3月2日)

 第118回国会が開会されるに当たり,わが国外交の基本方針につき所信を申し述べます。

 (はじめに一変化する世界と日本の対応)

 国際社会は,今,政治,経済両面にわたって歴史的変革の時期を迎えております。特に,欧州の国際政治は何人の予想も上回る速度で変化しております。東欧は旧来のイデオロギーを捨てて民主化と自由経済の道を歩みつつあり,ソ連もまた,レーニンの共産革命以来70年余の歳月を経た今日,共産党独裁の放棄と市場経済の導入への道を歩み出しました。さらには,これまで進められてきた西欧の統合に向けての進展に加えてドイツ統一問題が急激な展開を見せております。また,米ソ関係においても,これまでの対立から対話の拡大へ,さらには冷戦の発想を超えた新しい関係の構築へと向かう動きが見られており,これらの動きは当然世界に大きな影響を及ぼすものと考えられます。このような変化は,自由と民主主義及び市場経済の理念がより一層多くの人々に受け入れられつつあることを示すものであり,歓迎すべきものであります。

 しかし他方で,現在のソ連・東欧における変化はその速度が速いだけに不安定性がつきまとっております。また,国際社会はなお多くの不安定要因を残しております。アジア・太平洋地域だけを見ても,朝鮮半島,カンボディア等において依然として緊張や不安定要因が残っております。世界における国家間の対立もイデオロギーに起因するものだけではなく,歴史,文化等に起因する対立にも看過すべからざるものがあります。軍備管理・軍縮も,国家の安全を高めるものではありますが,これのみで直ちに平和を実現しうるものではありません。

 国際経済の面におきましても,相互依存関係が著しく深まる一方で,様々な構造的変化が進展しており,また保護主義の台頭もあって,多角的自由貿易体制を始め戦後の国際経済の枠組みは重大な岐路に立たされております。さらに,開発途上国の累積債務問題は世界経済にとって大きな問題を投げ掛けております。

 このような時に当たって,今や世界のGNPの14%を占める経済力と極めて高い技術力を持ち,さらには経済的な後進国から先進工業国へ発展する過程で体得した貴重な経験を保有するわが国が,世界の平和と繁栄を確保するため,積極的外交を展開していくことは,極めて重要であります。私は,わが国が国際社会における自らの責任と役割を自覚して,新しい発想の下で自らの犠牲を払ってでも国際社会の繁栄と安定に貢献していく姿勢を貫いていくことが,これからの世界でわが国が信頼される国になっていく所以(ゆえん)でもあると確信いたしております。

 このような見地に立って,以下,日本外交の当面の重点課題につき所見を申し述べます。

 (米欧との関係)

 対決を克服し対話と協調に基礎を置く新しい国際秩序を築くためには,全世界,特に先進民主主義諸国が一丸となって取り組む必要があり,そのためにも日米欧の関係強化を必要としております。

 日米関係は,両国が自由,民主主義,市場経済といった基本的な価値を共有する同盟国として相互依存関係をますます緊密化していることを背景に,基本的に堅固であります。日米両国の協力が必要とされる問題は,今や世界的規模の広がりを見せており,他方で,日米関係の国際情勢に及ぼす影響もますます大きくなってきております。その意味でも,米国との間で二国間の主要問題に関する政策協調を進めるとともに,地球的規模の問題に関する共同作業を強化していくことが重要であります。

 日米二国間関係では,依然として巨額に上る貿易不均衡を背景として経済面において厳しい状況に直面しております。この中で日米構造問題協議は,現下の日米間の最大の課題であります。本協議は,わが国の国民生活の質の向上に資するとともに,米国の競争力強化にも資するとの視点から,私といたしましても,この協議の前進に向けて最大限の努力を行ってまいる考えであります。

 このような日米関係の基盤となるのは日米安保体制であります。最近の東西関係の変化にもかかわらず,国際政治は,依然として力の均衡と抑止を基調としていることに変わりはありません。その中にあって,わが国が効果的な抑止の確保と積極的な対話の展開によって自らの平和と安全を確保しつつ,広くアジア・太平洋地域の安定と発展を図っていくために,日米安保体制は不可欠であります。政府としては,今後とも節度ある防衛力の整備に努めるとともに,日米安保条約を堅持し,その円滑な運用のため尽力してまいる決意であります。

 2日からの日米首脳会談につきましても,政府としては,このような日米関係の重要性についての認識を踏まえて臨む方針であり,私といたしましても,国会の御了承を得て総理に同行し,日米の協力関係の一層の強化に最大限の努力を払ってまいる所存であります。

 日欧関係につきましては,その協力関係を格段に強化する必要があります。私は,民主的で繁栄した安定的な欧州が構築されることが,将来の望ましい国際秩序形成にとって不可欠であると考えます。かかる観点から,EC統合に向けた西欧の動き,ECとEFTAとの関係の進展,さらには両独統一に向けた動きを含む東西ヨーロッパ関係の進展等に注目しております。このようにますます重要性を増している欧州との間で,政治・経済,文化等の幅広い分野で緊密な関係を構築していくことはわが国にとっての重要課題であり,先般の総理の訪欧の際も,日欧関係の強化に関し各国首脳と意見の一致を見たところであります。

 日米欧三極関係の大幅な拡充により,新しい国際秩序の構築に大きく寄与することが可能となります。わが国は先般の総理訪欧において,ポーランド,ハンガリーに対し,民主化と民生向上の(かぎ)となる両国の経済再建,経済開発に資するべく,経済支援策を打ち出しましたが,これは,東欧において現在起こっている出来事が我々を含む世界全体の平和と繁栄に直接関係する性格のものであるとの認識に立つものであり,国際社会の将来に明るい展望を開くために,欧米諸国と協力して対応していくというわが国の姿勢を内外に明らかにしたものであります。今後,わが国としては,ポーランド,ハンガリー以外の東欧諸国に対しても,その改革の進展を見極めつつ,米欧と協調して積極的に対応してまいる所存であります。

(アジア・太平洋諸国との関係)

 次に,アジア・太平洋諸国との関係について申し上げます。

 現下の国際情勢に(かんが)み,アジア・太平洋地域の不安定要因の除去に努め,繁栄を確保し,外に開かれた活力ある地域を作り上げることは,今まで以上に重要性を増しております。

 まず,朝鮮半島につき,私は,南北当事者間の対話の進展を期待し,そのための環境作りに応分の貢献をすべく努力をしてまいります。韓国との間では,21世紀に向けた世界的視野での協力関係を構築してまいりたく,同時に在日韓国人子孫の法的地位,待遇に関し,現在韓国側と進めている協議につきましても誠意をもって全力で取り組んでまいります。また,政府は可能な限り早い時期に盧泰愚(ノテウ)大統領をお迎えすることを強く希望しております。北朝鮮との関係改善も大きな課題であり,そのため引き続き粘り強く対話を呼び掛けるとともに,日朝間の各種人的交流を側面から支援してまいる所存であります。

 中国が孤立化の道を歩むことなく,諸外国との協力関係を維持・発展させていくことは,アジア・太平洋地域ひいては世界の平和と安定にとり誠に重要であります。そのために日中関係が果たす役割は大きく,日中間で良好にして安定した関係を維持・発展させていくことが重要であります。先般,鄒家華国務委員が来日された際にも,わが方から,西側諸国との関係改善には双方の努力が必要であり,就中(なかんずく),中国側の一層の努力を期待する旨を中国側に対して改めて明確にしたところでありますが,今後とも,日中関係ができる限り早く従前の関係に復するよう,双方で努力を積み重ねていくことが重要であると考える次第であります。

 ASEANは,総じて平和と安定を確保し経済的にも目覚ましい発展を遂げつつあります。わが国はASEANの役割を重視しつつ,協力関係を増進してまいる考えであり,かかる観点より私は年初にタイ,マレイシアを訪問した次第であります。フィリピンにつきましては,昨年12月に反乱事件という大変残念な事態が生じましたが,わが国としては,フィリピンにおける民主主義の確立及び経済の再建の努力に対し,今後とも多数国間援助構想等を通じ,協力してまいる所存であります。

 東南アジア最大の不安定要因であるカンボディア問題につきましては,選挙に先立つ暫定期間における国連の役割の強化につき国際的な合意が得られる等,一定の進展が見られておりますが,和平の(かぎ)となる暫定政権のあり方につき,関係者による協議の一層の進展が望まれるところであります。かかる状況の下,わが国といたしましては,和平達成の過程において具体的な形で貢献してまいるとともに,和平達成後の人的・資金的協力につきましても積極的に検討してまいる所存であります。

 インド亜大陸におきましても,わが国はこの地域の安定と発展のために,引き続き協力するとともに,この地域の国々との関係に一層の幅と深みを持たせるよう努めてまいる所存であります。

 太平洋諸国との関係につきましては,豪州,ニュー ・ランド及び太平洋島(しょ)国との間の友好協力関係の一層の拡大・強化に努力してまいります。

 昨年11月,アジア・太平洋経済協力閣僚会議がはじめて開催されましたが,わが国は,これが地域のブロック化を目指すものではなく,開かれた協力であるべきことを強調し,具体的な協力構想を提唱いたしました。今後とも,PECCの活動も含めて,アジア・太平洋協力をさらに発展させるために努力してまいります。

(日ソ関係)

 次に日ソ関係について申し述べます。

 東西関係の変化が真にグローバルなものとなるためには,アジア・太平洋における東西関係の重要な要素である日ソ関係の正常化が実現することが重要であります。わが国は,領土問題を解決して平和条約を締結することを最重要課題として,日ソ関係全体を均衡のとれた形で拡大させつつ,日ソ関係の抜本的な改善を実現するとの考え方に立って努力しており,これにはソ連側の基本的理解も得られております。わが国としてはゴルバチョフ議長の進めている「ペレストロイカ」の正しい方向性を支持するとともに,ソ連の「新思考」外交が日ソ関係改善を含め,アジアと太平洋の平和と繁栄に向け積極的に適用されることを期待するものであります。このような認識に立って,私は,明年のゴルバチョフ議長の訪日に向け,日ソ間の一層の対話を積み重ねていく所存であります。

(中近東,アフリカ,中南米諸国との関係)

 わが国外交の地理的広がりを確保し,全世界的規模の外交を強化する努力も不可欠であります。

 米ソ関係の好転を背景としたナミビアの独立等地域情勢の安定化の兆しはありますが,全般的に言えば中近東,中南米,アフリカ地域には,深刻化する累積債務問題や困難な開発問題に加え,不安定な政治状況の下に置かれている諸国も多々あり,国際社会としては大きな関心を引き続き払っていく必要があります。わが国といたしましても,このような問題の解決を目指す様々な努力を可能な限り積極的に支援し,また種々の国際的協力を行ってまいる所存であります。

 中東和平の帰(すう)はなお予断を許しません。わが国といたしましても昨年PLO議長及びイスラエル外務大臣を日本にお迎えし,更なる和平努力を訴えましたが,今後とも中東和平に積極的に貢献してまいります。また,レバノンにおける真の平和と統-の実現を強く期待するとともに,イラン・イラク和平交渉における国連事務総長の努力を全面的に支持し,紛争解決に向けてできる限りの協力を行ってまいる所存であります。

 わが国を含む国際社会は,長く南アフリカ政府に対しアパルトヘイトの撤廃を求めてきましたが,最近マンデラ氏釈放等南アの国内情勢に大きな前進が見られるに至っております。わが国は,このような情勢の変化と変革への動きを高く評価し,南アの当事者間の交渉によるアパルトヘイト問題の平和的解決の動きを支援するとともに,アパルトヘイトの犠牲者に対する援助,南ア周辺諸国に対する経済協力等,南部アフリカ地域全体の安定のため一層の貢献を行ってまいる所存であります。

 中南米地域におきましては,多くの諸国で近年民主化が進展しております。今般,ニカラグアにおいても国際的な監視の下に自由かつ公正な総選挙が行われました。これは真の中米和平達成への重要な一歩であり,わが国といたしましても歓迎いたしたいと思います。

わが国としては,中南米地域の真の安定と発展のため,引き続きできる限りの貢献を行ってまいる所存であります。

(世界経済への貢献)

 世界経済は,主要国間の大幅な対外不均衡の存在や保護主義圧力の増大,累積債務問題等を抱えており,各国の政策協調の維持・強化が求められております。わが国としては,サミット等を通じ主要先進諸国間の政策協調を積極的に推進するとともに,対外経済関係の円滑な運営に努める必要があります。このため,国内経済を世界経済全体と調和のとれたものにしていくとの観点から,わが国にとっての最大の政策課題である対外不均衡を是正すべく,内需主導型の経済運営を堅持するとともに,市場アクセスの一層の改善,規制緩和を含む構造調整の推進,製品輸入促進税制の導入等の総合的な輸入拡大策を推進する方針であります。

 ウルグアイ・ラウンド交渉につきましては,私自身,昨年11月,主要交渉参加国の関係閣僚を日本に招請し,非公式な意見交換を通じ交渉の進展を図りました。本年,交渉は最終局面を迎え,国内的にも困難な調整が予想されますが,自由貿易体制の下で繁栄を成し遂げたわが国としては,多角的自由貿易体制の維持・強化が,わが国のみならず世界の今後の繁栄の前提であることを念頭に置いて,この交渉の成功のため全力を尽くす決意であります。

 世界経済の繁栄を確保するためには,開発途上国経済の健全な発展が極めて重要であり,先進諸国と開発途上国との協力関係を強化するとの観点から,累積債務問題及び政府開発援助の拡充・強化に取り組んでまいります。

(世界の平和と繁栄への貢献-「国際協力構想」の推進)

 わが国は一昨年,日本の国際的地位にふさわしい貢献をするための具体的施策として,平和のための協力,政府開発援助の拡充及び国際文化交流の強化を三本の柱とする「国際協力構想」を発表し,着実に具体化を図ってまいりました。

 「平和のための協力」につきましては,確固たる平和の基盤を作るための外交努力とともに,国連の平和維持活動に対する協力の強化等に引き続き努めてまいります。特に,昨年ナミビアでの制憲議会選挙に,計27名からなる,初めての本格的な要員派遣を行い,国連等より高い評価を得ました。また,先月にはニカラグアの選挙監視のために要員を派遣いたしました。今後とも,資金面の協力とともに,要員派遣にも努めたく,そのために必要な体制の整備に努めてまいる所存であります。

 国連やジュネーヴ軍縮会議等の多数国間の軍備管理・軍縮努力につきましても,わが国の技術と経験を提供する形で,検証分野において具体的な貢献をしてまいります。

 「政府開発援助の拡充」,すなわちODAの拡充につきましては,非軍事的手段により国際社会に積極的に貢献しようとするわが国外交の重要な柱であります。振り返るに,わが国自身,かつては途上国でありました。そのわが国が世銀や米国等の援助を受けながら経済発展を達成し,今日では総額1兆2000億円と世界でー,二の規模の援助量を誇るに至っております。このような歴史を背景とするわが国のODAは,アジアを中心に,アフリカ,中近東,中南米を含む正に世界的な広がりをもった地域で,開発途上国の経済の発展,国民の生活水準の向上,貧困の軽減,人造りの増進などに貢献し効果を上げております。わが国といたしましては,援助される側であった経験をいかし,途上国のみならず他の援助国,国際機関との政策対話,政策協調をさらに推進するとともに,現在実施中の第4次中期目標に沿い,引き続きODAの量的拡充,内容の改善,質の向上,援助実施体制の強化に努め,新たな諸課題にも積極的に取り組んでまいる決意であります。また,評価システムを強化し,援助の効果的・効率的実施にも一層の努力を払い,幅広い国民の皆様の御理解と御支持を得るよう努めてまいりたいと考えます。

 「国際文化交流の強化」につきましては,諸外国のわが国に対する関心と期待の増大に積極的にこたえ,わが国に対する理解を深めるとともに,国際的な文化面での様々な努力に対し積極的な協力を行っていくことが,わが国にとって緊要な課題となっております。

私といたしましても,幅広い文化交流を通じて新しい文化の創造を促し,世界的な文化遺産の保存のために更に努力してまいる所存であります。また,文化交流を支えるのは人の交流であり,各国の間の相互理解を促進するためにも,様々なレベルでの人的交流を進める必要があります。現在わが国で学ぶ外国人留学生は,約3万人に上りますが,人と人との交流はわが国の国際化に寄与するものであり,その積極的な推進を図ってまいる所存であります。

 さらに,今日,地球のいかなる国においても,より豊かな環境の下,一人一人が健康で人間的な生活を営んでいけるよう,人類は多くの課題を克服してまいらなければなりません。わが国といたしましても,環境,麻薬,国際テロ,人権・難民問題等の地球的な規模の諸問題に対し,「地球社会の責任ある構成員」として行動することが重要であります。

 地球温暖化等の地球環境問題につきましては,わが国といたしましても,豊富な経験と技術力を活用し,国際的な枠組み作りや開発途上国における環境問題に関しこれまで以上に協力を拡充してまいります。

 麻薬問題につきましても,人類全体に及ぼす深刻な影響に(かんが)み,この分野における国連等の活動を今後とも支援してまいりたいと思います。

 また,わが国は,理由の如何を問わず航空機爆破を始めとするあらゆる形態のテロに断固反対し,国際社会全体の安全の問題としての観点からその防止のための国際協力を強化してまいります。

 人権につきましても,昨年の主要国首脳会議において人権に関する宣言に参加し,人権尊重の立場を改めて明確にいたしました。難民問題につきましても,国連難民高等弁務官事務所等に対する資金協力を始め,インドシナ難民の定住受け入れ等の面で協力を更に強化してまいる所存であります。

 最近の科学技術の飛躍的な発達は,経済発展の原動力であるとともに,人類共通の諸問題を解決する無限の可能性を秘めております。このような認識の下,科学技術立国を目指すわが国といたしましては,研究者間の交流,国際共同研究の推進,技術の交流・移転等,わが国が得意とする科学技術面での国際的貢献を行ってまいると同時に,科学技術の適正な利用を図るよう努めてまいります。特に開発途上国の人々が,健康的で充実した生活を享受できるようにするため,世界で一番の長寿社会を実現したわが国の経験をいかしつつ,医療面での国際協力を積極的に推進してまいります。

(外交実施体制の強化)

以上のごとく,今日国際社会の中においてわが国の果たすべき役割は飛躍的に増大しております。こうした中で新たな状況に的確に対応しつつ積極的な外交を推進するとともに,緊急事態における迅速な対処を含め,増大する在留邦人の保護体制を充実させていくために,外交実施体制の一層の強化が必要であり,このために更なる努力をしてまいる所存であります。

(結び)

 以上申し述べてまいりましたことから明らかな通り,今日わが国にとって外交の重要性はますます高まっております。しかも,わが国にとりまして外交は即内政であり,内政すなわち外交であります。そして,世界の平和と繁栄なくして日本の安全と繁栄はなく,日本の行動は世界の平和と繁栄に大きな影響を与えます。このような認識の下に,私は自らに課された責任の大きさを改めて痛感し,日本のため,そして世界の平和と繁栄のため,第一線に立って全力を尽くしてまいる決意をいたしております。国民の皆様方及び同僚議員各位の御理解と御支援をお願い申し上げる次第であります。

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