(2) 第27回OECD閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(1988年5月19日パリ)

1. OECD閣僚理事会は,5月18日及び19日に開催された。議長はスウェーデンのヒエル・オロフ・フエルト大蔵大臣及びアニタ・グラディン外国貿易大臣が務め,副議長は米国のジェームズ・A・べーカー三世財務長官及びギリシャのバナヨティス・ルメリオティス国家経済大臣が務めた。

以下は,閣僚の合意を記録したものである。

I . より良い経済パフォ一マンス及び雇用創出の達成

2. 現下の経済情勢においては勇気づけられる動きがある。

―OECD諸国の成長が1987年後半に加速化し,経済の拡大が6年目に入ったこと。世界貿易が堅固に伸長していること。

―OECD平均のインフレが過去数年間に低下し,現在低水準に留まっていること。

―OHCD経済で10月の株式市場危機に際して予想以上の強靱さを示したこと。

―大幅な対外不均衡が次第に縮小しつつあること。

―国際協力が,特に,経済政策の一層の協調を達成するとともに主要先進工業国間の合意を受けての為替レートの一層の安定を図るための努力と多角的貿易交渉の新ラウンドとを通じて強化されたこと。

―加盟国において実施された税制改革,規制緩和,補助金削減及びその他の構造調整が経済の機能を改善しつつあること。

―ほとんどの開発途上国は依然として困難な問題に直面しているが,いくつかの国の状況は,世界貿易のより力強い成長とより堅調な一次産品価格,多くの開発途上国による調整政策の実施及び債務問題への対応手法のメニューの拡大によって緩和されていること。

3. OECD加盟国政府は,以上の動きを進展させ,雇用創出的なインフレなき成長を確保し,今後これを持続していく。自己満足している余裕はない。次のような重要な課題が依然として残されている。

―引き続き不確実性及び潜在的不安定性の主要な原因となっている大幅な対外不均衡の継続的な縮小を確保していくこと。

―失業率は依然として多くの国で許容しえない程高いが,特に欧州でとれを引き下げること。

―インフレ圧力再燃のいかなる兆候に対しても警戒を続けること。

―内外両面における構造的な硬直性と歪みの減少に向けて着実な進展を図ること。

―多角的開放貿易体制を強化すること。

―あらゆる形態の保護主義と闘い,防遏すること。

―開発途上国と協力して,それら諸国の問題の解決に取り組むとともにその潜在的な経済力が最大限発揮されるよう努めること。

―経済成長が環境上の配慮と両立するよう図ること。

II . 政策指針

4. マクロ経済政策と構造調整政策は相互に補強し合い,ともに最大限活用されなければならない。構造の体質及び市場の柔軟性を改善することは,経済の感応度を高め,その結果マクロ経済運営の有効性を高め,力強く持続的な成長の見通しを改善する。このような見通しは,構造調整を一層魅力的かつ見返りの多いものとする。国際協力は,マクロ及びミクロ経済政策の双方において重要な要素となっている。

5. すべてのOECD加盟国政府は,雇用創出的なインフレなき成長を助長し,対外不均衡を是正し,財政赤字を抑制し,国内の貯蓄と投資の適正なバランスをもたらし,秩序ある金融市場を維持し,為替レートの一層の安定を達成するための財政金融政策を進めるととを通じて協調的努力に貢献する。特に貿易,農業,産業補助金,税制,金融市場及び国際投資等の分野における構造政策を改革するため,国内的,国際的に,その活動を強化する。この関連で,財界,労働界及び一般国民の間での構造改革の幅広い理解及び受容を推進することは、重要であると考えられる。社会的パートナーも関与した対話は、多くの国でこの目的に役立ってきた。

6. 閣僚は,経済政策委員会による構造政策の改革に関する報告〔C/MIN(88)4〕を歓迎するとともに,同報告第2章で示されている優先課題を支持する。閣僚は,事務総長に対し,OECDにおける構造改革の監視の一層の拡充と強化を要請するとともに,明年の閣僚理事会で報告を行うよう求める。

7. 米国については,連邦政府の財政赤字の一層の削減が基本的な要請である。米国行政府と議会はこの目的につき合意しており,財政赤字が1989年及びそれ以後の年に大幅に削減されることを確保するための行動がとられる。全体的な貯蓄・投資バランスの改善・産業部門の国際競争力強化,政府支出の削減及び政策の結果もたらされた歪曲効果…例えば農業支持…の除去の目的で,構造改革が遂行される。金融政策は,金融市場及び外国為替市場の秩序ある条件を育成しつつ経済を物価安定に向けての軌道にのせておくことを確保するという目的に沿って,運営される。財政赤字削減の継続及び民間貯蓄の拡充は,金融政策への圧力を緩和し国内のインフレ圧力を封じる。更に,これらの行動は,米国の輸出の力強い拡大継続の余地を生み出し,米国の経常収支赤字の削減,ひいては金融の一層の安定に寄与することとなる。保護主義と闘うことは,カナダとの自由貿易協定を多角的開放貿易体制の維持強化の目的及び国際義務に従いつつ早急に実施することと同様,引き続き優先課題である。

8. 日本においては,力強い内需によって導かれ,輸入の急増を伴った最近の成長プロセスが国際的調整に貢献しており,今後とも持続される必要がある。この点についての短期見通しは良好である。日本政府は,このプロセスが継続するよう努める。財政政策は,財政再建という中期的枠組みの範囲内で引き続き弾力的なものとされる。金融政策は、引き続き対外調整に寄与するとともに,流動性をインフレなき需要の拡大に合致した範囲で供給するよう,注意して運営される。構造改革の継続は,インフレ・リスクの軽減と調整に寄与し,もって消費機会を拡大し輸入を増大させる。特に,市場アクセスの改善並びに規制緩和及び農業,土地利用政策,税制,流通制度を含む幅広い分野における構造調整の一層の促進のための政策が立案,実施されつつある。

9. 欧州においては,構造改革が継続,強化される。このような改革は,マクロ経済政策の弾力的な運用とあいまって,需要と生産の拡大を維持し欧州の潜在的経済力を高めるうえで不可欠である。このことは,市場の信頼を確立し,経済の感応性を改善し,より良好な投資環境を創出し,もってインフレなき成長と雇用拡大への展開を明るくする。欧州諸国の政府は,各国間の差異を考慮に入れつつ,構造改革の利益を最大化し個々の国の政策行動の幅を広げるために,構造改革及びマクロ経済政策の実施に当たっての協力を継続する。

10. 1992年までにEC域内市場を完成するとの欧州共同体の計画は,欧州経済圏を創出するためにECとEFTA諸国が既存の自由貿易協定を超えて両者の協力関係を深化させ,拡充する共同の努力と合わせ,構造政策の改革及び成長への強いモメンタムとなっている。これらの動きは,多角的開放貿易体制の維持強化の目的に従い,かつ,国際義務に従って進められる。

11. 欧州各国政府は,以下の改革に,特段の注意を払う。

―規制の軽減・更により一般的には対内的及び対外的な競争に対する障壁の除去による市場の柔軟性の増加。金融市場の自由化と統合の継続を含む。

―農業市場における需給のよりよい均衡の達成を目指した農業政策の改革。ECの最近の合意の継続的な実施を含む。

―農業及び産業に対する補助から,減税及びより強力で成長支援的なインフラ投資への政府金融の方向転換。

―税制による歪曲効果の低減。限界税率が依然として過度である場合には,その引下げを含む。

―教育,訓練その他の措置を通ずる労働市場の柔軟性の改善。必要である場合には新規立法を含む。

12. これらの改革は,イノベーションと雇用のための機会の拡大をもたらす。これらは,インフレ・リスクを回避するとともに利子率の低下をもたらす環境を醸成する上でも貢献する。ドイツにおいて構造改革の速度を早めることは,とりわけ,国内需要を強化し,依然として大幅な経常収支黒字の削減,ひいては欧州内及び世界的な対外収支のより良い配分に寄与する。欧州における相互に支援的な財政金融政策は,構造改革によって創出される成長機会を最大限生かし,信頼感,生産的投資,価格安定,失業の低下に寄与する。

13. カナダ,ニュージーランド,豪州は徹底した構造改革を遂行する。この先,カナダは,税制改革の第二段階に着手するとともに,米国との間で最近締結した自由貿易協定を,国際義務に従い・かつ,多角的開放貿易体制の維持強化の目的に沿って実施する。更にカナダは,財政赤字の削減を引き続き優先課題とする。カナダはまた,経済的歪みを軽減するため農業を含む幅広い分野において一層の改革を遂行する。ニュージーランドは,自国経済を国際競争の下に開放し,国内市場への広範な政府介入を撤廃するという,OECD諸国内でも最も抜本的な市場改革に取り組んできたが,今後ともこの計画の実施を継続する。豪州は,国内市場の規制を緩和し国際競争に大いに直面することを含む広範な構造改革の計画を継続する。

〔開発途上国〕

14. 開発途上国の経済状況及びパフォーマンスは,著しく多様化している。しかし,すべての開発途上国の見通しにとって中核となるのは,強力で持続可能な経済成長をもたらすような世界的な経済環境である。OECD加盟国は,この目標にコミットした。OECD加盟国は,開発途上国の輸出品に対し市場を一層開放するため出来る限りのことを行うとともに,政府開発援助特に贈与及びその他資金フローの両方を維持し,また可能な限りこれを増加させることが重要であると考える。OECD加盟国は,また,産業及び技術面での協力並びに直接投資を奨励する。

15. 他方,開発途上国は,自己の経済パフォーマンスと政策を改善し,その信用力を高め,より魅力的な投資環境を創出し,また市場をより開放的にすることについて重要な責任を有する。必要とされる遠大な国内政策努力は,しばしば困難ではあるが,不可欠なものである。多くの国は,成長を志向した大幅な改革に既に着手したが,その成否は,OECD諸国の継続的な支援に一部依存している。

16. 多大の債務を抱える多くの中所得国は,持続的な経済成長に必要とされる投資の再開及び金融面での安定を達成するのに依然困難を有している。一般化されたアプローチ又は一律的な措置によってはこれらの国の多様化した問題に適切な解決策を示すことは出来ない。このため,すべての関係者は,ケース・バイ・ケースで,商業銀行債務についての多岐にわたる市場志向型のメニューも含めて,債務問題及び新たな資金需要に適切に対処していく努力を継続しなければならない。このようなアプローチをとるに当たって,当該開発途上国の調整努力に適切な考慮を払うべきである。債務戦略のこのような方向を支援するため,IMF,世銀及びその他の国際金融機関が相応のファシリティー及び資金を備えることが重要である。この点で,閣僚は,世銀の一般増資についての最近の合意並びに債務戦略における中心的な役割の強化を狙いとしてIMFの政策及び手段が改善されつつあることを歓迎する。閣僚は,また,パリ・クラブでなされた努力を歓迎する。

17. 国際直接投資もまた構造調整と成長に大きな貢献をなしうることが,今や開発途上国において以前よりも広範に認識されるようになっている。しかしながら,直接投資のフローに対する重要な障害が残っており,投資受け入れ国及び投資国の双方は協調的な行動を通じてこの問題に取り組まれなければならない。MIGAとIFCの歓迎すべき新たな活動は,開発途上国への国際投資の促進に資する。

18. より貧困な開発途上国にとっては,IDA増資,世銀と二国間援助国との協調融資及びIMFの拡大構造調整ファシリティーが,これら諸国の状況の改善に貢献する。最貧開発途上国,とりわけサハラ以南の最貧国の債務救済のための条件緩和も一つの貢献をしている。にも拘らず,債務負担は増え続けている。このため,構造調整努力を行っている最貧国に対する債務救済の諸提案は,可能であれば,公的リスケジューリングにおける金利の削減あるいは同様の効果をもつ代替的な手段を含め,慎重な考慮に価する。政府開発援助の質量両面での改善が不可欠である。

〔新興工業経済との関係〕

19. 世界経済の重要な担い手が,新興工業経済の中から出現しつつある。これは歓迎すべき展開である。このことは,開放的な世界経済を運営していくための協調的な努力の中でより大きな役割を果たす機会をこれら諸国に与えるとともに,国際的な調整過程の中でこれら諸国にその能力に応じた責任を与えるものである。相互の利益を認識し関係国の経済の多様性を考慮に入れつつこれら勢力を交えて行う対話は,世界経済の継続的な成長と発展のための政策協調についてのより良い理解と見解の収れんに資することが出来よう。

〔貿易〕

20. 世界貿易をめぐる状況は,多くの点で対照的な様相を呈している。貿易は,堅調に伸長している。しかしながら,保護主義圧力及び貿易面での緊張は,依然として強い。OECD加盟国政府は,総じてこれら圧力に抗してきたが,相当数の輸入制限が維持され,あるいは新たに導入された。ガットの枠組みのなかでの解決を求める傾向がより顕著になっていることは勇気づけられることであるが,依然として多くの深刻な二国間紛争がある。時として差別的な,一方的措置あるいは二国間での解決を求める傾向は,依然として多数国間主議に対する特に深刻な脅威となっている。ウルグァイ交渉成功の環境を醸成するため・OECD諸国は,保護主義と闘い貿易摩擦を友好的かつ無差別的に解決するための確たる努力を払う。この関連で,閣僚は,多角的貿易体制の強化の必要性及びガット機能の改善の重要性を認める。OECDにおける貿易政策のモニタリングの強化をはじめとする広範な作業は,これら努力を支援するものとなる。

21. ウルグァイ・ラウンドは,1987年1月に定められた計画に沿って満足のいく進捗が図られている。農業,熱帯産品,サービス,知的所有権,セーフガード並びに紛争処理及びガット機能を含む制度的問題をはじめとする交渉事項に関し,多くの重要な提案が行われている。交渉がより困難な局面に入るので,多角的体制を強化し現代世界の要請に適合させることを目的とするこれら野心的な交渉のモメンタムを維持することが不可欠である。本年末までに具体的な進展を示せる段階に達するためには,今後数か月の間に交渉のすべての分野においてできる限りの前進が図られなければならない。このため,加盟国は,すべての問題に関し大枠の取組みについて合意を求めていくべきである。そのことにより,12月にモントリオールで予定されている会合において,プンタ・デル・エステ宣言に従い,交渉の十分かつ完全な成功のための堅固な基盤となる中間レヴューを実施し得ることとなる。

22. ウルグァイ・ラウンドにおいては,すべての参加者に対して相互の利益及びより大きな利益を確保する積極的な成果がもたらされるべきである。交渉においては,各開発途上国の世界経済における増大しつつある夫々異なる役割,関心及びそれら諸国が担うべき責任がその発展段階に応じて然るべく考慮されねばならない。先進開発途上国は,ガットの枠組みにおける一層の義務を受諾することにより,多角的体制の強化に貢献するとともに,その利益を享受することになろう。OECD加盟国にとってと同様に開発途上国にとり,貿易自由化は,経済の合理化及び活性化に積極的な役割を果たし得る。

23. 貿易問題に係る加盟国の動きは,ウルグァイ交渉の雰囲気に必然的に影響を及ぼす。したがって,特にプンタ・デル・エステ等でのコミットメントに沿って,スタンドスティルが厳格に遵守され,長年にわたり維持されてきている保護主義的な措置をロールバックする努力が強化されることが不可欠である。アンチ・ダンピング及び相殺関税手続きの濫用は,避けねばならない。

24. 加盟国が実施し強化しようとしている調整及び成長政策も,活動の拡大及び為替市場の安定を助長することにより,ウルグァイ交渉に貢献すべきである。

25. OECD加盟国にとり,サービス貿易の自由化は,サービス取引がそれら諸国及びその貿易パートナーの経済に対し,益々大きな貢献をしていることからして,引き続き重要な目標である。OECDは,この分野における作業,特に多角的サービス取極めへの取組み及びOECDコードの強化についての作業を継続する。

〔農業〕

26. 閣僚は,農業委員会と貿易委員会との共同報告〔C/MIN(88)5〕に留意し,その結論を支持した。最近,いくつかの産品については,供給管理政策あるいは市場シグナルや在庫処理対策に対する生産者の反応を通じ,また,気象条件を通じ,市場の均衡が若干改善した。この改善にも拘らず,OECD域内の供給は,農民に対する市場シグナルの十分な伝達を妨げている政策により増大され,引き続き有効需要を上回っている。その結果,依然として厳しい経済及び貿易問題が残っている。OECD事務局の推計では,1980年代の初め以降,OECD全体として,納税者及び消費者の負担となる農業助成のコストはおおよそ倍増し,1984~1986年には,年間2000億ECUに達した。比較的短期の間における政策の趨勢及びその影響を評価することは困難である。いくつかの勇気付けられる努力はなされているが,1987年5月の閣僚理事会以降全体的にごく限られた進展しかなかったことは明らかである。したがって,政策改革の努力がすべてのOECD加盟国により緊急の課題として強化されることが緊要である。この関連で,既にとられた改革措置が一層の前向きの行動により補強されることが不可欠である。このことは,強く求められている構造調整及びウルグァイ・ラウンドの成功に貢献するであろう。

27. 昨年の閣僚理事会で合意された諸原則に基づいて,市場のシグナルが農業生産の方向付けに更に影響を与えるようにするための一層の措置が,農業助成の漸進的かつ協調的な削減及び他のあらゆる適切な手段を通じて講じられ,その際には,社会的及びその他の要請に配慮することができる。多国間かつ多品目ベースでの取組みによる協調的な国際行動は,改革の進展を強化する。この関連で,閣僚はウルグァイ・ラウンドが決定的な重要性を有することを再確認する。

28. ウルグァイ・ラウンド交渉は,加盟国政府が,1987年に閣僚が定めたところに従って存続可能な長期的な農業改革の達成を強化する合意を引き続き求めていくに当たっての枠組みを提供する。中間レヴューが,他の分野におけると同様,この分野での交渉プロセスに弾みを加えることが重要である。このため,加盟国は,昨年より開始された改革のプロセスを促進し,農産物市場での現在の緊張を解く短期及び長期の要素を含む大枠の取組みについての合意をパラグラフ21に従って求めていくべきである。

29. 農産物市場における貿易をめぐる緊張は,とりわけ,輸出補助金と輸入制限を含むあらゆる形態の助成の維持,また,ある場合にはそれらの強化により,依然として極めて深刻であることから,加盟国は,対立的で安定を損なう貿易政策を避けるために長期的目標を含めて1987年の閣僚理事会コミュニケに従って,措置を講ずることが求められる。

30. OECDは,農業,改革,及び農業の構造調整の進展のモニタリングに関する作業を遂行する。この関連で計画され,また講じられた諸措置の影響の十分な分析がなされる。PSE/CSE及びOECDの農業モデル等の分析手段の改善と最新化が進められる。また,OECDは,農業生産あるいは農業に投入される資源の数量的な制限,直接的な所得支持,構造調整の促進を目的としたその他措置,環境への視点を含めた地域開発政策等の措置が農業改革に対し果たしうる貢献を研究する。OECD諸国における農業政策の経済全般への影響に関する作業も積極的に遂行され,拡大される。

〔金融市場〕

31. 金融市場における自由化及び規制に係る改革は,金融仲介の効率性を改善し,競争を強め,もって投資決定の指針となる市場の判断の役割を増大させた。しかしながら,1987年10月の株式市場危機,特に市場間で,また,国境を越えて伝播した衝撃の速度及び広がりは,専ら国毎の対応に立脚した政策の潜在的な脆弱さ及び限界に対する懸念を惹起した。金融市場の円滑な機能を確保するための国際協調は,OECD域内及び更に広い範囲に広がろう。OECDは,出現しつつある世界的な金融システムの性質及び機能を分析し,特に証券市場について健全性確保の観点からの取極めの対象範囲及び協調に係るギャップ及び不十分さを明らかにする努力を強化する。

〔国際投資〕

32. 国際投資は,構造調整及び技術進歩の促進に重要な役割を果たすとともに,収支の不均衡を緩和し,経済の効率性と成長に寄与する。したがって,投資分野における保護主義圧力台頭の兆候は,憂慮すべきものである。閣僚は,そのような保護主義に対抗し,開かれた投資環境を維持し,この分野での国際的なコミットメント特にOECD自由化コードを遵守し,OECD内国民待遇インストルメントを強化する決意を明らかにした。国際投資及び多国籍企業に関する1976年宣言の見直しは,OECD経済における一層の自由化と開かれた投資環境維持のための国際的枠組みを補強する上で,重要な機会を提供する。内国民待遇の適用拡大に向け,漸進的段階的取組みがなされる。後退は,回避されなければならない。一層の自由化のための効果的プロセスを実施するための方策が探求される。国際投資問題へのOECDの取組みを特色づけてきたバランスは,同宣言の異なる要素間のバランスを含め,引き続き保持されるべきである。

〔技術〕

33. 技術進歩は,世界経済の発展の主要な原動力の一つである。新技術の発生と普及のプロセス,よりダイナミックな経済パフォーマンスとより良い社会福祉への新技術の貢献可能性・技術と社会の間の相互作用,環境への影響等の問題が加盟国政府の主要な政策課題となっている。これらの問題及びその国際的側面の重要性が増大しつつあることを認識して,閣僚は事務総長の進捗報告に記載されたOECDの将来活動のための大筋の方向付けを歓迎するとともに,事務総長に対し適当な時期に閣僚理事会に報告するよう要請する。また,閣僚は,経済成長と社会発展に対する科学技術の重要性を反映するとともにこの分野における開放度を促進する最近の科学技術の国際協力のための原則に関するOECD理事会勧告を歓迎する。

〔環境〕

34. 各国の状況の相違を考慮に入れた上での環境の保護及び改善は,すべての加盟国にとって重要な目標である。このため,「環境と開発に関する世界委員会」報告書でも強調されているように政府の決定の適当な分野すべてにおいて,均衡がとれ効率的な方法で環境上の配慮が十分に考慮されるべきであり,これにより持続的な成長に貢献する。したがって,政策策定における環境上の配慮と経済上の配慮との一体化に関するOECDの作業は,拡充,強化される。国境を越える性格を有する環境問題に向けられている継続的な努力に対しても,プライオリティーが与えられる。更に,OECDは,気候温暖化等の地球的規模の問題及び開発途上国の環境悪化の問題に対する努力を強化する。この意味において,OECDは,持続可能な開発への一層の貢献として,多数国間及び二国間援助プロジェクトを環境面から見直すための共通の手法を開発する活動を継続すべきである。

〔より良い雇用のための教育と訓練〕

35. 職業上の適応性は,今日の職場において益々重要なものとなってきた。教育制度は,すべての若年者に対し,技能を習得し,勤労生活を通じて適応していくための基本的な能力を付与するものとしていくべきである。公共及び民間の訓練及び再訓練の機会がすべての労働力人口の構成員及びこれに加わろうとする者のニーズを満たすため利用可能なものとなるよう,あらゆる努力がなされるべきである。職場における個々人の適応及び再配置のための機会は,可能な限り広範なものであることが重要である。長期失業者の問題に注意が払われるべきである。

〔社会保障〕

36. 社会保障制度は,個人の安定や福祉のみならず経済の効率性や調整能力にとっても極めて重要であるが,一般に予算の制約下にある。このことは,公的資金による医療や年金について特に当てはまる。これらの問題は,7月6,7日に開催される社会保障大臣会議における中心議題となる。

〔エネルギー〕

37. エネルギー情勢は,過去数年の間に相当変化した。現在の状況のもとでは,合理的な条件による短期的なエネルギー供給は,確保されている。しかしながら,緊急時対応及びより一層持続的なエネルギー構成をもたらす構造変化を通じたエネルギー安全保障の確保は,短期及び長期の両面で引き続き中心的課題である。構造調整は,需給パターンの変化及び新技術に対応して,また政策の結果として・すべてのエネルギー市場及びエネルギー産業において進んでいる。他方,エネルギー貿易,研究開発,環境及び安全性・緊急時対応並びに非加盟国に係る重要な問題に対してより大きな政策上の関心が払われている。

38. このような状況においては,エネルギー供給源の多角化,域内エネルギー資源の開発,エネルギー使用の一層の効率化,緊急対応体制の強化及びエネルギー貿易の一層の自由化に関して加盟国間で合意されたエネルギー政策を継続していくべきである。エネルギー安全保障を維持する上で必要な構造的,政策的適応を確保するために,加盟国及び次第にそれ以外の世界のエネルギー動向について注意深くモニター及び分析を継続していく。

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