3. 国際機関を通じての経済協力

開発途上国の安定と発展の問題は,国連等の国際機関においても,現在の国際社会が直面する重要な課題として取り組まれており,国連総会,国連貿易開発会議(UNCTAD)等の場において幅広く議論されている。また,世銀等の国際開発金融機関及び国連開発計画(UNDP)等の技術協力を中心とした国連機関により,開発途上国の国民の社会経済生活の改善・発展のための援助が行われている。我が国は,これら国際機関の活動を通じ開発途上国の発展に貢献することは,国際社会における我が国の主要な責務であると認識し,その活動に積極的に協力している。

(1) 開発途上国に対する協力のためのイニシアティヴ

(イ) 第7回国連貿易開発会議(UNCTAD)

開発途上国の貿易と開発の問題を総合的に取り扱うために,4年に1回開催される国連貿易開発会議(UNCTAD)の第7回総会が,87年7月9日から8月3日までスイスのジュネーヴで開かれた。今次総会は,一次産品価格の低迷,累積債務問題等,開発途上国が困難な問題を抱える経済情勢の下で開催されたが,米国等他の先進国が積極的姿勢を示し得ない中にあって,開発途上国の我が国に対する期待は相当大きなものであった。我が国は,倉成外務大臣が首席代表として出席し,300億ドルの資金還流計画等我が国の新たな開発途上国向け諸措置を説明するとともに・議事運営に関しても主導的役割を果たした。また,開発途上国に対する資金フローを促進するための方途,及び一次産品の加工度向上に関する提案を行ったが,我が国のこのような貢献は開発途上国より高く評価された。

(ロ) 国際防災の10年の提唱

我が国は,自然災害対策に関する知識・研究・技術の水準が高く,また,国際災害援助体制の整備も進展しており,この分野において国際社会に積極的貢献をなし得ると従来より認識していた。87年の第42回国連総会において,我が国は,1990年代を「自然災害による被害を軽減するために国際協力を促進するための国際防災の10年」とする決議案をモロッコと共同提案した。最終的には93か国が共同提案国に加わり,決議案はコンセンサスにて採択された。今後「10年」の具体的な活動内容につき検討されることになるが,自然災害分野における知識・研究・技術の豊富な我が国に対しては,積極的な貢献が期待されている。

(ハ) OECDにおける援助関係活動

OECD開発援助委員会(DAC)(注)においては,援助政策等援助に関する諸問題についての討議が行われているが,我が国は,世界第2位の援助供与国であるとの立場より,DACの活動に積極的に参加している。

DACの諸会合のうち,最も重要なものは,年1回閣僚レベルの援助担当責任者が出席して開催される上級会合である。87年の上級会合においては,今後のDAC全体の援助量の見通しの外,アフリカの貧困国を中心とした構造調整政策の問題,即ち,途上国の構造調整努力に対する追加的支援及び債務救済の問題,構造調整政策が途上国に与える政治的,経済的及び社会的影響,構造調整政策支援にあたっての援助国間の援助調整,並びに途上国の行政能力の強化・といった多岐にわたる問題についての議論が行われた。

(2) 国際機関を通じる援助

87年の我が国の国際機関を通ずる援助実績は22億681万ドルであり,対前年比23.4%増であった。またODA全体に占める国際機関を通ずる援助の比率は29.6%であった(86年は31.7%)。

我が国の国際機関を通ずる援助は順調に増大してきており,その結果,我が国の国際機関を通ずる援助がDAC全体の国際機関を通ずる援助に占める比率は,この10年間(75-76年平均から85-86年平均にかけて)に9.0%から20.4%へと急速に拡大している。また,国際機関を通ずる援助がODA全体に占める比率についても,我が国の場合,85-86年平均で32.1%と,DAC諸国の平均の22.5%(対EC拠出を除く)をはるかに上回っている(ただし,国連諸機関に対するODAは,同期間で我が国は6.6形と,DAC平均8.0%を下回っている)。

2国間援助には,我が国の外交政策に沿って機動的かつきめ細かに運営し得る,受取国との関係の増進に直接寄与する,といった長所があり,他方,国際機関を通ずる援助には,国際機関の専門性を活用し得る,援助の中立性を確保し得る,我が国の援助実施体制が不十分な途上国にも援助を供与し得る等の特長がある。

援助が外交の有力な手段であることに鑑み,今後とも,我が国としては,以上のような2国間援助及び国際機関を通ずる援助双方の長所を勘案しつつ,政府開発援助の拡充に努めていく考えである。

(イ) 国際開発金融機関に対する協力

国際復興開発銀行(世界銀行,IBRD),国際開発協会(IDA)及び国際金融公社(IFC)の国際開発金融機関に対して,我が国は積極的な協力を行っており,IBRD及びIDAについて,我が国の出資シェアは米国に次いで第2位となっている。特に,IBRDに対しては・日本特別基金を創設し,87年度中に90億円の拠出を行った外,我が国の資本シェアも5.19%から6.69%へと大幅に拡大することとなった。IDAに対しても,総額約124億ドルの第8次増資において約26億ドルを出資することとなった外,85年7月から88年6月まで活動が行われる「アフリカ基金」に対して,87年度には115億円の特別協調融資を行った結果,我が国の同基金に対する累計協力額は447億円となり,同基金に対する協力国中第1位の協力額となった。

アジア開発銀行(ADB)については,我が国の資本シェアは14.89%を占め,米国と並んで第1位の出資国となっている。また,ADBに対しては,資金還流措置の一環として日本特別基金を創設し,拠出を行う予定である。

米州開発銀行(IDB)及び米州投資公社(IIC)についても,我が国は域外国中第1位の出資国となっている。IDBに対してはADB同様,資金還流措置の一環として日本特別基金を創設し,拠出を行う予定である。

アフリカ開発銀行(AfDB)に対し,我が国は域外国中,米国に次いで第2位の出資国となっている。他方,アフリカ開発基金(AfDF)に対しては,合意済の第5次増資の応募終了後のシェアは米国を抜き第1位の出資国となることが見込まれている。

国際農業開発基金(IFAD)についても,我が国は先進国グループ内で米国に次ぐ第2位のシェアを占めており,通常の拠出以外にも「アフリカ特別プログラム」への拠出を行うなど積極的な対応を行っている。

多数国間投資保証機関(MIGA)は,加盟国間の直接投資に係る非商業的リスクにつき保証を行うことにより,開発途上加盟国への投資拡大を図ることを目的とする国際機関である。我が国は,87年6月5日に先進国中では初めてMIGA設立条約の締約国となった。その後,各国も同条約に締結を行った結果,88年4月12日に条約は発効し,近々業務が開始される予定となっている。

(ロ) IMF構造調整ファシリティー

IMFが低開発諸国に対し緩和された条件で国際収支援助を行うことを目的として86年3月に創設した構造調整ファシリティー(SAF,資金規模27億SDR)については,その規模を増額することがIMF専務理事によって提案され,87年6月のヴェネチア・サミット及び9月のIMF暫定委員会において同提案が支持された。こうした支持を受け,87年12月,IMFは拡大SAF(EnhancedSAF,資金規模60億SDR,現行SAF未実行分と合わせて82億SDR)を創設する旨発表した。

我が国はSAF拡大にあたり,日本輸出入銀行より,22億SDR(邦貨約3,800億円,1SDR:172.76円(88年4月25日現在))を限度としてIMFに資金を供与することとし,また,政府より,途上国への貸出し金利を譲許的なものとするためのグラントとして,拡大SAFに対し,その貸出残高が存続する期間を通じて総額3億SDR(邦貨約518億円)を拠出する予定である。

(ハ) 国連援助機関

我が国は,国連システムにおける技術協力の中心機関であるUNDP(国連開発計画)を中心としつつ,WFP(世界食糧計画),UNICEF(国連児童基金),UNFPA(国連人口活動基金),UNIDO(国連工業開発機関),FAO(国連食糧農業機関),UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)等の国連援助機関がそれぞれの援助の分野において行う活動にも積極的に協力している。これらの国連援助機関に対する87年の拠出総額は3億1,900万ドル,対前年比5%増であり,このうちUNDPに対する拠出が最も多く約7千万ドルであった。UNDPは,国連システム最大のネットワークである112の現地事務所を有しており,また,各事務所の常駐代表は,国連事務総長から各国連援助機関の活動の援助調整官に任じられている。我が国は,今後ともUNDPを中心として,これら国連援助機関の活動を調整しつつ,各機関の専門的知識,経験を活かした援助の実施に貢献していく必要がある。

国際機関を通じた援助の新しい形態として,いわゆるマルチ・バイ援助がある。これは援助国と国際機関が協力して援助を行い,援助の効果・効率を高めようというものであるが,2国間援助による実施の困難なものを,国際機関に信託基金を設置し国際機関が援助を実施したり,あるいは,1つのプロジェクトを二国間援助と国際機関援助のとうし上共同で行う等の形で実施されている。87年においては,太平洋島興国援助のために,UNDP内に太平洋島興国基金を設置した外・ビルマに我国の無償援助により看護学校を建設し,UNDPより看護婦養成がのための専門家を派遣する等の協力が行われた。マルチ・バイ援助は,援助の効果的実施の重要性が認識されている今日,その活用につき一層検討していく必要がある。

(ニ) その他の主要国際機関を通ずる協力

我が国は,国際開発金融機関及び国連機関以外の国際援助機関に対する拠出も行っている。

開発途上国の農業研究と食糧増産に寄与するため,「緑の革命」で有名な国際稲研究所(IRRI)をはじめとする国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の国際農業研究センターに対し,我が国は87年に約2,025万ドルの拠出を行ったが,これは米国,世銀に次ぐ第3位の拠出額となっている。

この外にも,アジア生産性機構(APO),東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC),アジア工科大学院(AIT),コロンボ計画,国際下痢性疾病研究センター(ICDDR,B),東南アジア運輸通信開発局(SEATAC),西アフリカ・オンコセルカ症基金といった専門的な国際機関に対し幅の広い協力を行い,国際機関を通じたきめの細かい援助の実施に努力している。


(注)OECD開発援助委員会。米,日,仏,西独,加,伊,英等主要援助国18か国及びECが加盟している。DACにおいては,援助政策,援助の量的な見通し等につき討議が行われ,援助の量と質に関する統計・分析を行っている。

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