2. 政府開発援助(ODA)

(1) 概要

(イ) 世界一の援助国にとっての課題

(i)  従来,我が国は,南北問題の根底にある相互依存の認識と人道的考慮に立脚し,開発途上国に対する経済技術協力に力を入れてきた。平和国家を標傍し,自由世界第2位の経済力を有し,かつ対外経済依存度の高い我が国にとり,これは,国益にも合致し,最も有力な国際貢献の手段の一つとして国内各方面に幅広い支持が得られつつあるとみられる。

加えて近年,先進諸国の中でも最も安定した経済発展を維持し,厖大な貿易黒字を抱えている我が国に対し,先進国・開発途上国の双方から,国際的な貢献,特に経済技術協力分野での貢献を一層強化していくことの期待が益々高まってきている。

このように,我が国が政府開発援助(ODA)を通じ,世界人口の4分の3を占める開発途上国地域に対して行う各種の協力は,今日の国際社会において我が国に課せられた重要な責務になっていると言えよう。竹下総理大臣が88年5月の訪欧時に発表した国際協力構想においても,ODAはその三本柱の一つとして重要な位置付けが与えられた。

(ii)  このような状況下,我が国は,過去10年間ODAの拡充のために累次にわたり中期目標を設定し,計画的な取り組みに努めてきた。この結果,我が国の実績は77年の約3,800億円(14億ドル)から87年の約1兆780億円(75億ドル),円ベースで3倍弱,ドルベースで5倍強に増え,ODAの対GNP比率も77年の0.21%から87年の0.31%へと改善をみてきた。このような我が国の実績の伸びは,OECDの開発援助委員会(DAC)に代表される18か国全体の平均の伸びの約2倍のペースである。

88年度予算においても,一般会計予算では主要項目中最大の伸びを確保して,対前年比6.5%増の7,010億円,事業予算ベースでは8.8%増の約1兆3,500億円(100億ドル)となり,90億ドル弱の援助予算を組んだ米国を抜き,世界最大級の規模に達することとなった。

(iii)  他方,このような予算面での努力に加え,急激な円高の影響により,第3次中期目標(86-92年)で定められたODA拡充の目標は,当初予定より実に4年早く達成される見通しとなってきた。

そこで,ODAを通ずる我が国の国際的貢献の姿を一層明確に打ち出すとの方針に基づき,第3次中期目標の見直しを図ることとし,関係省庁間で折衝が進められた結果,6月14日の関係4大臣会合において内容につき合意が得られ,同日の閣議に報告されて,第4次中期目標として新目標が打ち出された。これによれば,「我が国のODAがDAC諸国の中で占める分担割合を,経済規模の大きさにおいて占める割合に見合った水準に引き上げる」との従来にない新しい考え方を取り入れ,右を念頭に置いて,過去5か年間(83-87年)のODA実績総額たる250億ドルを今後5か年間(88-92年)で倍以上とし,実績総額を500億ドル以上とすることとなった。併せて,ODAの対GNP比の着実な改善を図ることも改めて確認された。

また,援助の内容の充実にも従来以上に配慮していくこととし,特に無償援助の拡充,就中,後発開発途上国(LLDC)への援助の一層の無償化の促進と債務救済措置の拡充,留学生対策や研修員受入れの充実など技術協力の強化,円借款の質の改善と弾力的供与,一般アンタイ化の推進等が盛り込まれた。また,他の先進援助国や国際機関との協調,援助要員の拡充や評価活動の充実など援助実施体制の強化にも努めることとなっている。

(iv)  この新中期目標は,6月の先進国サミット会合で竹下総理大臣より披露された。その際,後発開発途上国に対する我が国の債務救済措置の新規拡充策として,78~87年度の10年間に取極を結んだ円借款総額(約55億ドル)に基づく将来の元本,利子の返済分を無償資金協力により置換える旨も併せ発表された。このようなODA分野における我が国の思い切った決定は,各国より高い評価を得た。

我が国のODAは,予算ペースでは前述の通り既に世界一の規模に達しているが,実績ベースでも,88年中もしくは89年中に米国を追い抜き,世界一の規模になることが確実視されている。量の拡充においてここまでの成長を見せてきた我が国の援助活動に求められるのは,質の面,内容の面での一層の充実である。このために今後,世界一の援助国の名に恥じない努力と工夫が望まれる。

(ロ) 援助の質的改善

援助の質・内容面での改善の中で強調されなければならないのは,いわゆる「贈与比率」や「グラント・エレメント」(商業ベースの借款に比し,どの程度ソフトであるかを示す指標)の問題である。

援助は,その条件においてできる限りソフトであること(贈与に近いものであること)が望まれている。しかし,我が国の場合,累次にわたり改善が図られてきてはいるが,DAC18か国中で贈与比率(最下位),グラント・エレメント(17位)共になお低い位置にあるのが実情である。これは,限られた予算の範囲内でできる限り援助量の拡充に努めてきた結果でもあるが,近年は,予算策定に当たって,質の改善を図る見地から贈与部分の拡充に特別の配慮を加えている。例えば,88年度予算において無償資金協力にはODA一般会計予算全体の伸び(6.5%)を上回る伸び(9.8%)が確保され,また技術協力予算についても対前年度比10-7%増と拡充が図られた。加えて,第4次中期目標でも質の向上が明確に打ち出されている。

(ハ) 援助のグローバル化

我が国援助の拡充に伴い注目される第2の点は,我が国援助の対象地域の拡大,すなわち援助の「グローバル化」と呼び得る現象であろう。

従来,我が国援助の地理的配分は,政治的,経済的,歴史的関係からアジアにその大半(7割前後)が向けられてきた。しかしながら,近年は援助大国としての責任から,アジアのみならずアフリカ,中南米,中近東,大洋州とあらゆる地域へと援助の広がりが見られるようになってきた(87年実績,アジア34.16億ドル,アフリカ5.16億ドル,中南米4.18億ドル,中近東5.26億ドル,大洋州0.68億ドル,その他3.04億ドル)。

特にアジア以外の地域では,最貧国を多数抱え,大きな経済困難に苦しんでいるアフリカ諸国について援助拡充に努めており,この10年間で対アフリカ援助量は約10倍と,全体の伸びの2倍のペースで増大した。この間IDA「アフリカ基金」との特別協調融資等,国際的な対アフリカ援助強化の動きに積極的に加わると共に,87年度から,アフリカ諸国向け3年間5億ドルのノン・プロジェクト無償資金協力を開始した。87年度は,11か国に対し221億円のノン・プロジェクト無償資金協力を行うこととし,アフリカ各国から高く評価された。また,青年海外協力隊の約4割はアフリカで活躍している。

もっとも,現状ではアジア諸国より依然我が国円借款に対する旺盛な資金需要があるので,アジア諸国に対する援助のシエアが一時的に増大することもあろうが,上述の対アフリカ援助の増大等にみられる我が国援助の裾野の広がりによって,長期的な趨勢としては,我が国援助の一層のグローバル化が図られて行くこととなろう。

(ニ) 援助実施形態の多様化,弾力化

一方, 開発途上国の現状を見ると,近年,その経済発展状況や経済困難の程度を反映し,その援助ニーズも多様化している。こうしたニーズにきめ細かく応えるためには,援助の実施形態や手法において新しい工夫を凝らしていく必要がある。

例えば,累積債務,外貨不足,財政困難等に苦しむ国々については,経済政策支援借款等のノン・プロジェクト型資金協力や内貨融資の拡充,既往プロジェクトのリハビリのための借款等が行われているが,その一層の弾力的運用に努める必要がある。

また,援助をより効果的なものとするため,フィリピンをはじめとして国別援助計画の策定,被供与国との政策対話の促進も図られている。例えば,対比援助については,87年6月に大来元外務大臣を団長とする経済協力総合調査団を派遣し,ハイ・レベルでの政策対話を行った。また,それに先立ち,JICA国際協力総合研修所の最初の国別研究会として設置されたフィリピン国別研究会は,87年5月に報告書を発表し,その内容は内外から高い評価を受けた。

自然災害等の発生に際し迅速に「ヒト」と「モノ」の両面から援助を行うべく,近年我が国は国際緊急援助体制の整備に努めており,87年9月には「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が制定された。

こうした措置に加え,実施体制の強化や援助関連人材の育成が焦眉の急となっている。我が国の将来の援助要員養成のために「国際開発大学構想」の検討も,学識経験者等の協力を得て進められており,87年7月には報告書が外務大臣に提出され,具体化に向けて進展が期待されている。

(2) 技術協力

(イ) 概要

技術協力は,開発途上国の経済・社会開発に必要な技術を移転するため,途上国政府または国際機関の要請に基づき,研修員受入・専門家派遣等を通じて行う経済協力の一形態である。これは,開発途上国の国造りを担う人材を育成するという側面と共に,人と人との接触を通じて,我が国と開発途上国国民との間の相互理解と親善が深められるという特色を持っている。

政府ベースの技術協力は,主に国際協力事業団(JICA)を通じて実施されており,同事業団は主として外務省の交付金(88年度1,062億円)により,事業を実施している。

我が国技術協力に対する開発途上国からの要請は,年々多様化・高度化する傾向にあり,かかる開発途上国のニーズにきめ細かく対応するため,我が国は技術協力の質的・量的な拡充に努めている。例えばASEAN各国に対し協力中の「ASEAN人造りプロジェクト」や「ASEAN科学技術協力」などは,コンピューターやマテリアルサイエンス(材料科学)分野等,途上国のニーズの多様化・高度化に対応した協力内容となっている。また,最近では民間活力を活用した事業や,地方公共団体・NGOとの連携による協力等,技術協力の裾野の拡大にも努力している。

87年におけるDACベースでの我が国の技術協力関係支出額は,8.51億ドル(1,230億円)に上り,ドルベースで対前年度比23%増となった。

我が国の技術協力実績をDACベースの国際比較で見ると,86年の協力額(5億9,900万ドル)ではDAC18か国中,仏・米・西独に次いで第4位であるが,技術協力のODAに占める割合ではDAC平均20・2%の約半分の10.6%で,DAC加盟国中,第14位であった。我が国としては,ODAの質的な改善を図るためにも,技術協力の質的充実に留意しつつ,今後とも量的拡充を図るとともに,国際協力事業団等実施体制の強化に努めていく必要がある。

(ロ) 国際協力事業団(JICA:JapanIntemationalCooperationAgency)を通ずる政府ベースの協力

(i)  研修員受入れ

研修員受入事業は,開発途上国の中堅技術者,行政官等を研修員として我が国に受入れ,これら研修員に対する特定分野の専門的知識・技術の移転を通じ,途上国の経済・社会開発を支援する事業であり,我が国技術協力の最も基本的な形態である。

受入れの形態は,途上国に共通してニーズの高い研修内容であらかじめ設定したコースを提示し,集団で研修を実施する集団研修と,途上国の具体的要請を待って研修プログラムを作成する個別研修に大別される。

本事業の特徴としては,我が国で研修を実施するため,確実で広範な技術の移転が可能となる点や,研修員の滞日生活を通じ我が国との相互理解と友好親善の増進に寄与する副次的効果が挙げられる。

87年度に新規に受け入れた研修員は4,656名であった。

また,第三国研修は,途上国間技術協力を支援すると共に,研修参加国のニーズにより適合した研修が可能となる点で効果的な協力である。87年度には新規に11件実施し,208名に対して研修を行った。

(ii)  専門家派遣

開発途上国の政府・政府関係機関・試験研究機関等における企画立案,調査研究・指導普及活動・助言などの業務の実施を目的として専門家を派遣する専門家派遣事業は,研修員受入事業と並ぶ最も基本的な技術協力の形態である。

また,技術協力を効果的に実施するためには,技術協力に携わる専門家の養成・確保が鍵であるが,これに総合的に対処するため,JICAの附属機関として83年10月に国際協力総合研修所を設立し,専門家の登録を行うとともに(87年度末現在登録者578名),専門家の派遣前に派遣前研修を行う外,次代の専門家の養成・確保をねらいとした中期研修等を行っている。また,技術協力を強化するためには,専門知識のみならず,途上国事情や経済協力の方式に精通し,技術協力の中核となり,生涯にわたり一貫して協力活動に携わる人材を確保することが必要であるとの観点に立ち,JICAは,国際協力専門員(ライフワーク専門家)の確保に努めている(87年度末現在35名)。87年度に新規にJICAを通じて派遣した専門家は,プロジェクト方式技術協力の専門家を含めると,2,259名であった。

(iii)  機材供与

機材供与事業は,主として派遣専門家,青年海外協力隊員,帰国研修員が技術指導,普及,移転を行うに当たり必要とされる機材を技術協力の一環として供与する事業である。なお,この事業は,後述のプロジェクト方式技術協力を伴う機材供与とは別のものであり,通常,「単独機材供与」と呼ばれている。

87年度には18億8,900万円の予算規模をもつて,79件の協力を行った。

(iv)  開発調査

開発調査事業は,開発途上地域における公共的な開発計画に関し,コンサルタント等からなる調査団を派遣し,開発計画の推進に寄与する計画を策定し,報告書を作成する事業であり,技術協力の一環として計画策定等に係る技術移転を図るとともに,我が国経済協力の対象案件の発掘,形成にも重要な役割を担っている。87年度は,225億円の予算規模により,249件の調査(フィージビリティ調査,マスタープラン調査,資源調査等)を行った。

(V) プロジェクト方式技術協力

プロジェクト方式技術協力とは,専門家の派遣,研修員の受入れ及び機材供与の3要素を・効率的・有機的に組み合わせた総合的な技術協力である。本協力では必要に応じ,資金協力との連携を図りつつ,通常,活動の拠点となるセンター,研究所などにおいて人造り協力(専門技術者等の養成)を行っている。

プロジェクト方式技術協力は,次の5事業に区分される。

(a) センター協力

開発途上国の技術訓練センター等を拠点として,各種技術分野における人材の養成・訓練を行う協力で,一般的な職業訓練,インフラ部門の技術者養成から,コンピューター,マイクロエレクトロニクス,放射線の利用等,高度技術の移転,さらには防災技術,企業管理等様々な分野にわたる協力を行う事業である。

(b) 保健医療協力

途上国が必要とする医師・看護婦など,保健医療部門の人材養成訓練を行う協力で,基礎,臨床医学の研究,特定疾病の抑制対策,地域保健対策に大別される。

(c) 人口・家族計画協力

家族計画の広報普及活動,視聴覚教育活動,普及員の養成などを通じ,途上国の人口問題に寄与しようとするものである。

(d) 農林業協力

農業生産性向上のための技術移転・普及に重点を置いた協力で,農業・食糧増産・畜産,林業,水産など協力分野は多岐にわたる。また,協力内容は,伝統的な養蚕や育苗技術からバイオテクノロジー,遺伝資源保存技術など高度な内容のものまで実施している。

(e) 産業開発協力

途上国の地場産業の育成・振興を行うことを目的として,その計画作りから人材養成,輸出振興のための通商技術の研究・開発にまで及ぶ総合的・多角的な協力を行う事業である。

(vi)  開発協力

開発協力は,開発途上地域等の社会・経済の開発に協力する見地から,我が国の民間企業等がこれら地域で行う民間ベースの経済協力に対し,ソフトな条件の資金の供給と技術の提供(専門家派遣,研修員受入れ及び調査)とを連携させた支援を行う事業である。具体的には,(i) 各種開発事業に付随して必要となる関連施設であって周辺地域の開発に資するものの整備事業(上下水道,学校,病院等)または,(ii) 技術の改良または開発と一体として行われなけれぼ達成が困難な試験的事業(農作物の試験的栽培,試験造林等)のうち,日本輸出入銀行,海外経済協力基金からの貸付等を受けることが困難と認められる事業を対象としている。

87年度は,約19億円の投融資を行うとともに,30件の調査を実施し,32人の専門家の派遣及び29人の研修員の受入れを行った。

(vii)  青年海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooporation Vo)青年海外協力隊派遣事業は,我が国の開発途上国に対する技術協力の一環として,技術を身につけた青年を派遣し,相手国の人々と生活を共にしながら,国造り・人造りに協力し,もってこれらの諸国と我が国との友好関係を深めることを目的として1965年に開始された。

協力隊員の派遣は,我が国政府と相手国政府との間での協力隊派遣取極に基づいて行われている。87年度においては,ブータン,ヴァヌアツ,インドネシア,グァテマラ,ジャマイカとの間に新たに派遣取極が締結され,88年3月末現在,派遣取極締結国は45か国となっている。

87年度には34か国に794名の隊員を派遣し,88年3月末現在派遣中の隊員数は1,820名となっている。

(viii) 青年招聘事業(21世紀のための友情計画)

「21世紀のための友情計画」は,未来の国造りを担う途上国の青年を我が国に招聰し,日本の同世代の青年との交流を通じ,相互理解を深め,真の友情と信頼を培うことを目的とするもので,当初ASEAN青年招牌計画として中曽根総理大臣(当時)が83年にASEAN諸国を歴訪した際に提唱し,84年より実施された。

同計画が国の内外で好評を博したため,86年度にほ,招牌対象国をビルマ,パプア・ニューギニア及びフィジーに拡大し,87年度には,中国及び韓国に拡大した。87年度招牌実績は,ASEAN諸国から800名,中国及び韓国よりそれぞれ100名等,総計1,034名である。

(ix)  国際緊急援助隊の派遣

我が国は,従来,海外で大規模な災害が発生した場合,被災国に対し災害援助資金の供与,国際救急医療チームの派遣などを行ってきた。しかし,85年9月のメキシコ大地震及び11月のコロンビア火山噴火による災害に対する援助の経験などを踏まえ,特に災害緊急援助のための「人の派遣」について,救助人員の派遣を含む,より総合的な形での国際緊急援助体制の整備を行い,87年8月の国会において「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が成立し,同年9月公布・施行された。

87年度においては,バングラデシュ洪水災害,ヴェネズェラ洪水災害,ヴィエトナム台風災害等9件の災害に対し,国際緊急援助隊として合計26名を派遣した。

(3) 無償資金協力

(イ) 概要

無償資金協力は,開発途上国に対する資金協力のうち,相手国に返済義務を課すことなく,相手国の実施する経済,社会開発プロジェクトに資金を供与するものである。なお,我が国政府が資機材・設備等を調達してそれを供与する,という現物供与の援助形態はとっていない。

我が国の無償資金協力は,1968年度に開始され,以後,今日に至るまで無償資金協力事業予算は年々大幅に拡大し続けている。87年度予算は2,011億円であり,10年前の77年度予算(290億円)の約7倍の伸びを示している。無償資金協力は,我が国の政府開発援助(ODA)の拡充,就中,贈与比率及びグラント・エレメントにより示される援助の質の向上を図るための重要な柱となっている。さらに,開発途上国の累積債務問題等経済困難が深刻化する今日,無償資金協力の果たす役割は益々大きなものとなっている。

我が国の無償資金協力は,基本的に,(i)一般無償援助,(ii)水産関係援助,(iii)災害関係援助,(iv)文化関係援助(以上「経済開発等援助」),(v)食糧援助,及び(vi)食糧増産援助(以上「食糧増産等援助」)より構成されている。このうち,一般無償援助には,78年の国際連合貿易開発理事会決議に基づく債務救済のための無償資金協力,及び,87年のヴェネチア・サミットにて表明されたアフリカ諸国等に対する3年間で5億ドル程度のノン・プロジェクト無償資金協力が含まれている。

(ロ) 経済開発等援助費による無償資金協力

(i)  一般無償援助

経済開発等援助費の主要な部分を構成する一般無償援助(88年度予算の場合,経済開発等援助費1,471億円のうち1,331億円が一般無償予算)は,開発途上国がその経済・社会の発展のための計画を実施する上で必要な施設・資機材及び役務を調達するために必要な資金を供与するものである。

一般無償援助は,原則として,経済的収益性が低く,開発途上国が自己資金により実施することが困難な案件を中心とする基礎生活分野及び人造り分野を主要対象としている。他方,我が国無償資金協力が対象としている開発途上国は,経済・社会開発の比較的順調に進んでいる諸国と後発開発途上国(LLDC)等に分極化が進んでいること等から,相手国の開発ニーズは多様化してきており,我が国としては,これらに対し適確に対応する必要がある。従って,相手国の開発状況,案件内容等を勘案」従来円借款により対応してきた文化交流分野,輸出振興分野及び後発開発途上国の基礎インフラ整備についても,無償資金協力によりある程度弾力的に対応している。

87年度の一般無償援助実績は,供与対象国65か国,総額1,358億円に達している(債務救済のための無償資金協力及びノン・プロジェクト無償資金協力を含む)。

87年度の予算ペースの一般無償援助実績を地域別・分野別に見ると下表のとおりである。

また,我が国は,78年3月の国連貿易開発会議(UNCTAD)貿易開発理事会(TDB)閣僚会議の決議に基づき,我が国に対して77年度以前に取極めを行った公的債務を有していた後発開発途上国等(18か国)を対象に,債務救済のための無償資金協力を78年度から実施しており,87年度には14か国に対し,約78億6,191万円を供与した。

(ii)  水産関係援助

水産関係援助は,開発途上国の水産振興に寄与するために,漁業訓練施設,訓練船,漁港施設,水産研究施設,漁具等資機材等及び役務調達に必要な資金を供与するものである。

開発途上国では,食糧問題に対処するため動物性たんぱく質の供給源として,あるいは外貨節約,さらには外貨獲得の手段として,水産開発の重要性が改めて認識されており,この分野で世界で最も進んだ技術と豊富な経験を有する我が国に寄せる期待は高まっている。そして水産関係援助の実施は,被援助国と我が国との漁業面における友好関係の維持・発展に寄与している。

87年度には,アルゼンティンのプェルト・デセアード漁港拡張計画中国の北戴河中央増殖実験ステーション整備計画,セネガルの零細漁業振興計画等,計16件の事業に対し97億円の協力を実施した。

(iii)  災害関係援助

災害関係援助は,風水害,地震,早魃などの自然災害を被った国に対する緊急援助,及び紛争等により発生した難民・被災民に対し,人道上の観点から行われる援助から成る。87年度には,中国の森林火災被害,フィリピン,ヴィエトナムの台風被害,エティオピア飢餓被災民,カンボディア難民等に対し,総計12件,9億5,265万円を供与した。

(iv)  化関係援助

文化関係援助は,開発途上国における教育及び研究の振興,文化財及び文化遺跡の保存活用,文化関係の公演・展示などの開催等のために使用される資機材の購入に必要な資金を供与するものであり,文化交流に関する国際協力の一環として75年度から実施されている。87年度には計49件,20億円の協力を実施した。

(ハ) 食糧増産等援助費による協力

(i)  食糧援助

食糧援助は,我が国が「67年の国際穀物協定」に加入した68年以来実施されており,通称ケネディ・ラウンド(KR)援助とも呼ばれている。現在は,「86年の国際小麦協定」を構成する「86年の食糧援助規約」に基づいて実施されている。

我が国は,同規約上,毎年小麦換算で30万トンの最低拠出義務を負っており,食糧不足に悩む開発途上国が穀物(米,小麦,メイズ等)及びその輸送役務の購入に必要な資金を無償で供与している。87年度の予算ベースの食糧援助実績は,28か国,2国際機関(難民に対する食糧援助)に対し,総額168億4,900万円であった。供与先別に見ると,アフリカ地域が全体の46.1%,アジア地域40.0%,中近東地域8.9%,中南米地域が5.0%となっている。なお,最大の受益国はバングラデシュ(25億円)であった。

(ii)  食糧増産援助

我が国は,開発途上国の食糧問題は,基本的には食糧増産のための自助努力により解決されるべきであるとの認識の下,77年度から「食糧増産援助費」について新たに予算措置を講じ,開発途上国が食糧増産プロジェクトを遂行する上で必要とする肥料,農薬,農業機械等の購入のために必要な資金を無償で供与している。87年度の予算ベースの食糧増産援助実績は,49か国に対し総額358億5,000万円であった。その内訳は,アジア地域54.1%,アフリカ地域35.0%,中南米地域7.3%,中近東地域3.6%となっており,最大の受益国はフィリピン(31.4億円)であった。

(ニ) 最近の動向

(i)  ノン・プロジェクト無償資金協力の実施

アフリカ諸国及び後発開発途上諸国においては,人口増加,生産の低迷,非効率な経済・財政運営を背景に,累積債務の増大,国際収支赤字の拡大等の経済困難が深刻化してきている。このような経済困難を克服するためには,経済の構造改善及び緊急に必要な外貨の確保が必要との認識の下,これら諸国の構造改善努力を支援する必要性が国際的に高まってきている。

我が国としては,従来政府開発援助の中での対アフリカ諸国向けの比率が比較的小さいこと,及び我が国の国際社会における地位が高まったこと等を背景に,87年5月の「緊急経済対策」でノン・プロジェクト無償資金協力の実施を発表した。さらに,6月のヴェネチア・サミット及び7月の第7回国連貿易開発会議(UNCTAD)等において,アフリカ諸国等後発開発途上国に対し3年間で5億ドル程度の無償資金協力を実施することを表明し,高い評価を得た。

ノン・プロジェクト無償資金協力は,累積債務等の経済困難を抱えるアフリカ諸国等が緊急に必要としている輸入物資を確保し得るよう資金を供与するものであり,国際収支支援の性格を有し,即効性が期待されている。また,輸入物資の調達先については,原則「アンタイド」としている。87年度においては,ケニア,タンザニア,ザンビア等アフリカ諸国計11か国に対し,221億円のノン・プロジェクト無償資金協力を実施することとした。

(ii)  アフリカ重視

我が国のアフリカに対する無償資金協力は,近年のアフリカ諸国における食糧不足及び経済状況の悪化に伴い,大幅に拡充してきている。87年度においては,アフリカ諸国の長期的な生産力向上,及び民生改善を目的とした援助の強化と,上記ノン・プロジェクト無償資金協力の実施により,約束額ベースで総額700億円を上回り,無償資金協力全体に占める割合は35形であった(86年度は,543億円,30%)。

(iii)  無償資金協力のより一層効果的な実施

無償資金協力をより一層効果的に実施するために,次のような措置をとっている。

(a) 無償資金協力と技術協力の連携

無償資金協力と技術協力の連携を強めることは,援助効果を高める上で極めて重要である(例えば,我が国の無償資金協力で建設した職業訓練センターに技術者を派遣する等)。このような観点から無償資金協力の実施に際し,可能な限り技術協力との連携が図られてきている。

(b) 他の援助国・援助関係機関との連携

他の援助国・援助関係国際機関は,それぞれ特定の分野ないし地域において豊富な知識・経験を有しているため,我が国が必ずしも十分な経験を持たない地域・分野における協力を実施する際には,これら援助国・援助機関との有機的連携を図っている。

(c) フォローアップの拡充

過去に実施した無償資金協力案件の効果的運用を支援するため,相手国政府からの要請,あるいは評価調査結果等を踏まえ,調査団を派遣の上,必要に応じ新規追加援助として,施設の拡充,供与機材のスペア・パーツ等の追加供与によるフォローアップ援助を拡充している。このような援助は,援助の継続性及びきめ細かな援助という観点からも重視されなければならない。また,我が国が行った援助に限らず,相手国政府ないし他の援助機関が実施した既存案件等の改善・増強・拡充等のいわゆる「リハビリテーション援助」も実施している。

(4) 政府直接借款

(イ) 概要

我が国の2国間開発援助の過半を占める政府直接借款(いわゆる円借款)は,開発途上国の開発資金需要に応えるための有効な援助手段として,重要な役割を果たしている。

87年度の円借款供与実績〔交換公文(E/N)締結額ベース〕は,7,037億円と前年度比65.0%の大幅増となった。これは,86年度実績が4,264億円と85年度比約4割減となっていたことの反動と言えよう。86年度にこのように大幅減となっていたのは,開発途上国における経済・財政状況の悪化及び累積債務の深刻化を背景として,円借款供与要請が控えめとなったこと等の事情が考えられる。しかし,87年度においては,87年1月以降,新規事前通報分より円借款金利を平均0.6%程度引下げたことによって,開発途上国(就中,アジア諸国)からの要請額が増大したこと,また,5月の「緊急経済対策」の中で決定された200億ドル以上の資金還流措置の下で,ノン・プロジェクトの円借款供与がなされたこと等によって,E/N締結額は大幅増となった。もっとも,過去の最高である85年度実績の7,323億円には及ばなかった。

開発途上国の現在の困難な経済状況下で,開発需要に即応した円借款供与を実施していくためにも,今後とも更なる援助形態の多様化及び供与の弾力化に努める方針である。

(ロ) 87年度供与実績の特徴

地域別シェアでは,アジア向けが89%で前年度の67%から大幅に増加した(うち,ASEAN向けば22%から41%へとほぼ倍増)ため,相対的に非アジア地域の割合が減少した。中近東向けは2年振りに2けたを割り,前年度の14%から6%へ,中南米向けも従来の5~10%レベルから1%へ,アフリカ向けも前年度の9%から4%へと,それぞれ減少した。これは,86年度においてE/N締結のなされなかったフィリピン,タイ,ビルマ,パキスタン,バングラデシュといった大口の円借款供与国向けのE/N締結が,87年度においては順調になされたことによるところが大きい。逆に,中近東及びアフリカ諸国とのE/N締結額の伸び悩み,中南米諸国とのE/N締結額の大幅減も影響している。

供与形態別では,87年度は,商品借款(1,400億円,86年度は25億円)を中心にノン・プロジェクト借款が増大し(合計1,701億円),E/N締結額の24%を占めた(86年度は18%)。これは,資金還流措置の導入及び累積債務問題の深刻化を背景とした,ノン・プロジェクト借款の需要増加による。プロジェクト借款について言えば,従来より円借款の大宗を占めている道路,港湾,発電所及び通信施設等の経済インフラ関連が,プロジェクト借款のうち72%を占めた。農林水産業と鉱工業関連は,それぞれ8%,10%であった。

我が国は,開発途上国の要望を考慮するとともに援助資金の効率的運用を図るとの観点から,78年以降円借款の調達条件に関し一般アンタイ化に努めてきており,87年度には一般アンタイ比率は前年度比11ポイント増加の62%を示している。

また,上述の200億ドル以上の資金還流措置の下で,世銀等国際開発金融機関との協調融資及び開発途上国の経済政策支援のための借款を供与しているが,87年度には,計1,328億円(事前通報ベース)が具体化した。これらの円借款の特徴は,ノン・プロジェクトかつ一般アンタイドという点である。

さらに,円借款援助形態の多様化及び供与の弾力化を図る観点から,内貨融資の拡大(本融資は新規供与額の11%で,前年度に比べて2ポイント増加),既往プロジェクト活性化協力のための円借款供与(420億円,事前通報ベース),債務繰延べ措置をとる国に対する円借款供与のケース・バイ・ケースでの柔軟対応(債務繰延べ対象期間中であるエクアドル,ボリヴィア,ザイール及びマダガスカルに対し供与を決定)等に努めている。

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