3. 国際テロ問題
(1) 国際テロと我が国の立場
(イ) 近年国際テロは,発生件数が増大すると共に,地域的にも広範囲に拡大しており,世界の平和と民主社会に対する重大な挑戦となっている。さらに,国際テロを政策遂行の手段として積極的に活用するいわゆる「国家支援テロ」も注目を引いており,国際テロは益々複雑かつ困難な問題となって来ている。
また,飛躍的に増大している海外邦人の安全確保の観点からも,我が国にとって,国際テロは看過しえない深刻な問題となっている。
(ロ) 国際テロ防圧のためには,国際社会が協力して対処することが不可欠である。このような観点から,国連及び主要国首脳会議等の場において,ハイジャックをはじめとする国際テロに対処する法的枠組の整備を推進すると共に,国際テロリストを庇護する国をなくし,さらに国際テロリストは必ず処罰されるような国際環境を醸成するための努力が行なわれてきている。
(ハ) 我が国は,従来より,理由の如何を問わず,いかなる形のテロにも断固反対するとの立場に立ち,国際社会全体の問題としてサミット諸国をはじめ志を同じくする諸国と共に,国際テロ防止のため国際協力を積極的に推進していくとの基本的立場を取っており,今後とも,このような立場を堅持し所要の措置をとっていくことが重要である。
また,万一,我が国民を人質に取り,政府に対し不法な要求をつきつけるようなテロ事件が発生した場合,人質の安全救出に最大限努力することはもとよりであるが,法秩序を維持し,テロ事件再発を抑止するためにも,政府は,サミットで確認されている「テロリストに対し譲歩しない」との原則を踏まえ,テロリストの不法な要求に対しては断固たる態度をもって臨むことが国際的にも要請されている。
なお,国民各位の理解と支援が,上記の我が国の基本方針を堅持する上で不可欠の要素であることは言うまでもない。
(2) 87年以降の動向
(イ) 87年は,11月に大韓航空機事件が発生し,また,日本赤軍幹部の逮捕に伴い,アジア諸国その他における同グループの活発な活動が明らかになった通り,我が国との関連で,国際テロを巡る大きな動きのあった年である。
(ロ) 全体としては,世界の耳目を引く大規模な事件は減少したものの,国際テロは依然深刻な問題である。
近年国際的に深刻な問題となっている国家支援テロは,依然として根強く存在するが,テロに反対する国際的な機運の盛り上がりもあって,86年に比し大規模な活動は減少した。
他方,南西アジア,西欧,その他の地域においては,民族,宗教問題等に起因する紛争の過程で多くのテロ事件が発生している。パキスタンにおいては,国際テロともみられる爆弾事件の頻発等新たな動きも顕著になってきている。また,中南米その他の地域では,ゲリラ・グループによるテロ活動が活発に行われている。
(3) 大韓航空機事件
(イ) 87年11月29日,バグダッド発ソウル行き大韓航空機が飛行中爆破され,115名の乗客,乗員が犠牲となった。
現地日本大使館は,調査の結果,途中で降機した邦人名義旅券所持者男女2名の旅券が偽物であることを発見し,両名の滞在するバハレーンの当局へ通報した。犯人1名(男性)は自殺,他の1名(女性)は同当局に逮捕され,後日韓国に引き渡された。
その後の韓国の調べ等により,本事件が北朝鮮の組織的なテロ行為であることが明らかにされ,各国より非難の声明が発出された。我が国も,88年1月26日,我が国の外交官と北朝鮮の職員との接触を制限すること等を内容とする対北朝鮮措置を含む官房長官談話を発表した。
(ロ) 韓国は本事件審議のため国連安保理の開催を要請し,我が国も独自に安保理の開催を求めた。2月16~17日,安保理が開催され,議論の応酬が行われたが,北朝鮮の主張を支持する国はなく,結局,このような事件が再発しないことを期待する旨の締めくくり発言が議長よりなされた。
さらに3月,韓国政府の要請に基づき,ICAO(国際民間航空機関)理事会で本件審議が行われ,25日,我が国を含む先進国グループの共同提案による大韓航空機爆破非難及び再発防止を期する決議を採択した。
(4) 日本赤軍の動向
87年11月21日,日本赤軍幹部の丸岡修が東京で逮捕された。その後の調査で,他の日本赤軍メンバーも,フィリピンをはじめ東南アジアを拠点として活動していたことが判明し,88年4月には,日本赤軍関係者菊村憂が米国で爆弾所持等により逮捕された。同じく4月,ナポリで発生した爆弾テロ事件で奥平純三の指紋が検出され,また,6月には泉水博がフィリピンで逮捕された。
一方,「よど号事件」グループも,88年3月,新たなテロ活動を示唆した声明文を発出,5月には柴田泰弘が国内で逮捕された。
外務省は,日本赤軍のテロに備えるべく,在外公館等を通じ所要の措置を講じている。
(5) 対テロ国際協力の推進
(イ) 87年6月に開催されたヴェネチア・サミットにおいて,テロリストに譲歩しないとの原則確認等を内容とする「テロリズムに関する声明」が発出された。同声明附属書では,航空機・航空施設の爆破等の犯人を庇護する国に対しても78年のボン宣言を拡大適用することが定められた。
また,88年6月に開催されたトロント・サミットにおいて,テロリズムを含む政治宣言が発出され,ハイジャック機を離陸させないとの原則等,テロと断固闘うべきことが再確認された。
(ロ) 12月の第42回国連総会では,あらゆるテロを犯罪として断固非難し,その防止のための国際協力を訴える決議が採択された。
(ハ) 近年の空港テロの頻発,シー・ジャックの発生という事態を背景として,88年2月,ICAO主催外交会議で「国際空港における不法暴力行為の防止に関する議定書」が,また,3月,IMO(国際海事機関)主催外交会議で「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」及び「大陸棚に設置された固定プラットフォームに対する不法な行為の防止に関する議定書」が採択され,テロ防止のための国際法的枠組の整備がさらに進展した。
(ニ) 我が国は,ソウル・オリンピックをひかえ,テロ等不測の事態発生を防止すべく,韓国との間で「オリンピック安全対策日韓連絡協議会」を通じ情報交換を行っている。