(3) アフガニスタン問題
(イ) 概観
アフガニスタン問題は,1979年12月にソ連がアフガニスタン内政の不安定な状況下に軍事介入し,自国寄りの政権(カルマル政権)を擁立したことに端を発し,国民の支持を得ない右新政権及びそれを支えるソ連軍と反体制勢力が各地で対立してきた結果発生した問題である。ソ連のアフガニスタン軍事介入が主権尊重,領土保全,内政不干渉等の国際法の基本原則に反する侵略行為であることから,西側を始めとする国際社会の強い非難を浴び,東西対立の「象徴」的な地位を占めるに至った。
しかし,85年のゴルバチョフ・ソ連共産党書記長就任後,ソ連の対アフガン政策に変化の兆しが見られ,特に87年秋以降の打開努力により88年4月14日,コルドヴェス国連事務次長仲介によるアフガニスタン(ナジブラ政権)とパキスタンとのジュネーヴ間接交渉が妥結され,5月15日よりソ連軍の撤退が始まったことにより,問題の解決に向けて大きな展開が見られた。
(ロ) 情勢の推移
(i) アフガニスタン問題の政治的解決を目指して,コルドヴェス国連事務次長を仲介としたパキスタン・アフガン両政権間の間接交渉は,82年に開始され,87年においても引き続き2~3月及び9月の2回にわたりジュネーヴで行われたが,交渉の中心課題であるソ連軍の撤退期間をめぐり関係国間の主張に隔たりがあり,同年末の段階では合意には至らなかった。しかし,88年に入り1月にはシェヴァルナッゼ・ソ連外相が,ソ連軍の年内撤退の意思を表明,次いで2月には,ゴルバチョフ書記長がソ連軍撤退の意図をより明確にした上で,ソ連・アフガン政権側が従来ソ連軍撤退の前提条件としていたソ連撤退後のアフガン政権の在り方を撤退の問題とは切り離すことを表明した。
88年3月に再開されたジュネーヴ間接交渉では,これまで焦点であったソ連軍の撤退期間については,交渉再開直後に9か月とすることで決着がみられ,合意文書そのものについては,ほぼ合意が成立した。他方,間接交渉枠外の問題として,暫定政権問題と米・ソの軍事援動の停止が問題となり,米ソ間での協議が図られた。その結果,後者については,米国がソ連のアフガン援助が停止されない限り反体制勢力への支援を継続する旨一方的に宣言することとなり,前者については,国民の総意に基づく政権樹立のために仲介をコルドヴェス国連事務次長が個人的資格で行うこととなった。
こうして,4月14日,米国,ソ連,パキスタン,アフガニスタンの各国外相及び国連事務総長出席の下,合意文書の署名が行われ,ソ連軍は88年5月15日から9か月以内に,しかも兵力の50%は最初の3か月以内に撤退することとなった。
(ii) ジュネーヴ合意がこの時点で成立した背景としては,87年来アフガン問題の打開を追求してきたソ連が,5月末に予定された米ソ首脳会談を前に対米及び対西側に対するソ連の一層のイメージ改善を図り,国内経済の建て直しに必要な西側諸国との関係改善を促進する等の外交的配慮と,効果の上がらない駐留の経済的負担等に対する国内的配慮があったと思われる。また,ナジブラ政権が反体制勢力に対し呼び掛けていた国民和解政策も行き詰まり状態にあったこと,パキスタンとしては経済・治安上の負担の大きい難民帰還を図るためアフガニスタンの安定が不可欠としていること等の要素もあった。
(iii) 他方,国内反体制勢力は,自らの参加しないジュネーヴ交渉に対して批判的であり・今回の合意も認めておらず,今後も戦闘を継続するとの姿勢を示していることから,ソ連軍撤退後のアフガニスタンは混乱が継続する倶れも強く,事実反体制勢力の攻勢が徐々に強まっている。情勢の安定化の為には,同国における幅広い政治基盤を有する政権が早期に樹立されることが期待されており,7月9日,コルドヴェス事務次長は停戦及び新政権樹立に関する和平私案を発表した。
(ハ) 我が国の立場
我が国は,ソ連軍の軍事介入以来,機会あるごとにソ連軍の即時全面撤退を含む問題の早期包括的解決の必要性を訴えてきており,ソ連のアフガニスタンからの撤退を求める累次の国連総会決議を支持してきた。このような観点から,ソ連軍撤退はアフガニスタン問題の包括的解決の第一歩であり,国際社会が長らく求めてきた撤兵の実現は東西関係の安定化及び当該地域の平和に資するものであり・我が国として評価できるものである。
我が国としては,この合意に基づいてソ連軍の撤退が確実に実施され,今後難民の自発的帰還の確保,アフガン国民の総意を反映した幅広い基盤を持つ政府の樹立が図られることにより,アフガニスタン問題の包括的解決へ向けて大きな進展が図られることが重要であると考える。このため我が国は,国連が行うソ連軍の撤退監視を含む合意履行のための措置に要する経費のうち500万ドルを国連特別拠出金2,000万ドルのうちから支出すること,並びにこのような国連の活動(UNGOMAP)に対し文民の要員を派遣することとした。また,すべての難民の自発的帰還を確保するために,国連諸機関が行う活動に対しても積極的に協力することとしている。さらに,将来,アフガニスタンに真に同国民を代表する新政権が成立した際には,同国に対する復興援助に対し,我が国として何を成し得るかについて,今後検討が必要である。