(1) 朝鮮半島

(イ) 概観

朝鮮半島の平和と安定は,我が国を含む東アジアの平和と安定にとり緊要であり,朝鮮半島情勢の動向如何は,我が国のみならず,東アジア,ひいては世界にとり大きな意味を有している。今日においても朝鮮半島における南北の対時という基本的な緊張状態に変化はないが,他方,87年から88年にかけては,韓国における初の平和的政権移譲や88年秋に予定されているオリンピックをめぐる国際情勢の新たな展開もあり,朝鮮半島は重要な局面を迎えており,今後の動向が注目されている。

(ロ) 情勢の推移

(i)  朝鮮半島では大規模な軍事力が非武装地帯(DMZ)をはさんで引き続き対侍しており,依然として軍事的緊張が継続している。

北朝鮮は,中国及びソ連それぞれと友好協力相互援助条約を締結しているほか,1962年に採択された「4大軍事路線」(全人民の武装化,全国の要塞化等)の貫徹を目標として軍事力を増強するとの路線を変更していないと見られる。さらに最近,北朝鮮はソ連との軍事的関係を緊密化することにより装備の近代化等を図っている。

韓国は,米韓相互防衛体制を堅持するとともに,その防衛能力を強化することにより,紛争抑止に努力している。このような韓国の防衛努力は,在韓米軍の存在に象徴される米国の確固たる韓国防衛意思と相まって,朝鮮半島における平和と安定の維持に寄与している。

(ii)  南北間においては,70年代前半の赤十字本会談及び南北調節委員会あるいは,80年代半ばの赤十字本会談,経済会談及びIOC(国際オリンピック委員会)仲介によるスポーツ会談に見られるとり,対話が進展するやに見られたこともある。しかし,南北の基本的立場の相違は大きく,86年に北朝鮮側が,例年行われてきている米韓共同訓練チームスピリット86を理由に対話を一方的に中断して以来,南北対話が実質的に再開されていなかったが,88年7月7日盧泰愚大統領は特別宣言を発表し,北朝鮮との幅広い交流促進並びに日米等と北朝鮮との関係改善への協力,中ソ等と韓国との関係改善追求などを含む6項目の提案を行い,その後も同提案を具体化するいくつかの措置を取ってきている。北朝鮮側は,右提案に反対する姿勢を取っているものの,同7月には「北南国会連席会議」を提案,韓国側は右会議の準備会談を開催することで応じており,今後南北対話の動きが注目される。

なお,88年9月にソウルで開催される第24回オリンピックを巡り,IOCの仲介の下に南北スポーツ会談が85年以来開催されてきたが,北朝鮮における開催競技種目に関するIOCの最終提案(87年7月)を北朝鮮が受け入れないため,進展が見られなかった。

(iii)  87年11月に発生した大韓航空機事件は,朝鮮半島の緊張が現実に厳しいものであることを改めて印象づけた。韓国政府の調査等により,あたかも日本人が関与したかのような擬装がなされた本事件が北朝鮮の組織的テロ行為であることが判明したため,我が国は国際テロに対する厳しい姿勢を示す等の趣旨から,北朝鮮との人的交流の制限等を内容とする対北朝鮮措置をとることとなった。また,本件は国連安保理等の国際機関においても議論が行なわれた。

(iv)  88年のソウル・オリンピックは,政治体制や理念の差異を超越して行われる平和の祭典として,米・ソ・中や大多数の社会主義国を含む161か国・地域という史上最大の参加国を得て開催される見込みとなった。同大会の成功は,朝鮮半島及びアジアの平和と安定に資すると考えられることから,我が国としてもそのためにできるかぎりの協力を行うとの方針を取っている。なお,韓国は新興工業国・地域(NIEs)の先頭走者とされるその目覚ましい経済発展に加え,大統領直接選挙を通じて平和的政権移譲を実現する等政治的発展も顕著である。近年は一部の社会主義国との間でも,貿易事務所を相互に設置する等経済面での交流が進展している。オリンピックが成功すれば,韓国の国際的地位は更に飛躍的に向上しようし,中ソ等社会主義国との交流が更に進むことが予想される。

他方,このような状況の中で,すでに経済的苦境にある北朝鮮は徐々にでも外に門戸を開き,またラングーン爆弾テロ事件,大韓航空機事件等で失墜した国際的信用を回復する方向に動きだすのか,あるいは国際的孤立を深めていくのかの,重要な岐路に立っている。

(ハ) 我が国の立場

我が国は,地理的にも歴史的にも関係の深い朝鮮半島における緊張緩和及び永続的平和の実現のために,南北両当事者間の実質的な対話が早期に再開され,双方の建設的な努力により対話が積み重ねられていくことを希望するとの立場をとっている。かかる立場から,上記7・7特別宣言を歓迎・支持するとともに,今後とも対話促進のための環境作りが重要との観点に立ち,関係国と緊密に協力して貢献していく方針である。

なお,上述のとおり我が国は北朝鮮との関係について厳しい態度で臨むこととしたが,従来の経済,文化等の分野における交流の基本的枠組みは,これを維持する考えであり,同時に北朝鮮が朝鮮半島の緊張緩和へ向けて,真摯な努力を傾けることを期待している。

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