2. カナダ
(1) 内外情勢
(イ) 内政
(a) 84年9月,マルルーニー進歩保守党党首は自由党長期政権に対する国民の飽きと変化を求める期待感を背景に,政権を奪回し,首相に就任した。マルルーニー首相は,トルドー元首相の「対決の政治」に対し,「和解と協調の政治」を標ぼうし,連邦と州の関係の改善,加経済の活性化を最優先し,経済の好転,投資環境の自由化,ディレギュレーションにかなりの実績を収めた。
(b) しかしながら,国民の圧倒的人気をもって誕生したマルルーニー政権も,深刻な支持率の低迷に悩んでいる。86年4月からは野党,自由党が連続して進歩保守党をリード,87年の2月の世論調査では,1942年以来最低の22%だった。その背景には,閣僚の不祥事件が相次いだことや,「協議」の下に難しい政策決定を先送りしていることなどに対する国民のマルルーニー首相のリーダーシップに対する失望感が指摘されている。
(ロ) 外交
(a) 緊密な米加関係とともに,NATO,自由主義陣営の一員として協調的外交を基本としている。特にマルルーニー政権は,r第3の選択」として米国以外の国との経済関係拡大の方途を探ったトルドー時代と比べ,対米関係緊密化の色合いは鮮明であり,過去約2年半の間に既に3回の米加首脳会談を開催し,4月にはレーガン大統領が訪加している。
(b) また,カナダはマルルーニー首相の訪日,86年11月の対日戦略ペーパーの作成等に見られる通り,対日関係重視の姿勢をとっている。
(ハ) 経済
86年の実質GDP成長率(86年からカナダはGNPに替えGDPを採用)は、3.1%と過去3年間の平均4%と比べやや鈍化した。成長は主として年前半に見られ,年後半はほぼ横ばいで推移した。86年は内需,外需とも3%程度とバランスのとれた成長であったが,内需の中では個人消費と住宅が堅調に推移する一方,民間設備投資がわずかながら減少するなどのばらつきが目立った。産業部門別にみると,サービス部門が4.3%の成長,財生産部門は鉱業,製造業の停滞が響いて1.6%の成長であった。
失業率を見ると86年は前年より0.9%低下して9.6%となり,極めて徐々にではあるが改善傾向が定着しつつある。
消費者物価,卸売物価はそれぞれ前年同期比4.1%,0.8%と引き続き安定を示した。
注目される財政赤字対策では,86年度予算の歳出1,167億加ドル(対前年度比4.0%増),歳入は873億加ドル(同11.9%増)により財政赤字は前年度より40億加ドル減り,86年度は295億加ドルと見込んだ(ただし,この見通しは年度途中に歳入減を理由に320億加ドルに修正された)。
貿易収支(B/Pベース)は85年の175億加ドルから101億加ドルに減少し,最近5年間で最低となった。また経常収支は85年の赤字が大幅に拡大し,史上最高の88億加ドルの赤字となった。
マルルーニー政権は86年も引き続き経済活性化政策を進め、各種規制緩和に加え,金融制度や税制についても改革に向けて検討を加えている。
いわゆる米加自由貿易交渉は86年5月から月1回のペースで進められており,87年10月の交渉期限までに協定成立を目指し,精力的な交渉が続けられた。
(2) 我が国との関係
(イ) 日加関係全般
(a) 日加関係は,マルルーニー政権の対日関係重視の姿勢,中曽根総理大臣の訪加(86年1月)及びマルルーニー首相の訪日(86年5月)等もあり,順調に発展している。両国間の首脳相互訪問の実現により,日加両国は,両国が国際社会において有する共通の立場を再確認し,また将来に向けて日加協力の基本テーマを設定することにより,新しい日加間の協力関係が樹立された。その後,この基本テーマに沿って,平和と軍縮の追求・保護主義との戦い・日加経済関係の拡大等の分野における日加間の協力関係が着実に進展している。
(b) また,カナダよりは,マルルーニー首相,クラーク外相をはじめ大蔵,通産大臣等の主要閣僚・及び議員団が訪日するなど・各界要人との交流,意見交換も活発に行われた。
(ロ) 日加経済関係
日加貿易は我が国からの製品輸出,カナダからの原材料輸入という相互補完的パターンで推移している。86年の往復貿易額は104.2億米ドルで前年比12.1%の増加を示した。我が国はカナダにとって輸出入とも米国に次いで第2位の貿易相手国であった。86年で注目すべき変化は2国間収支で従来より一貫して続いていた我が国の入超が86年に初めて出超に転じ,約6.3億米ドルの黒字を出したことである。
対加自動車輸出については85年に引き続き日加双方で対加輸出をモニターすることとした。
対加石炭輸入は1,754万トン(うち原料炭は1,627万トン)と全石炭輸入の19.6%を占め,輸入量は前年に続き,豪州に次いで第2位であった。漁業関係では86年5月,日加漁業協議が開かれ,対日漁獲割当,日加水産物貿易等を中心に討議が行われた。
投資面では85年に続きさらに1社の自動車工場の進出決定が行われたほか,86年後半にかけて我が国投資家によるカナダ債券に対する投資が大幅に増加したことが注目される。
日加交流面では金尾實日加経済人会議日本側代表を団長とする大型経済ミッションが10月に訪加し,マルルーニー首相をはじめ,加側官民指導層と今後の日加経済関係のあり方を含め幅広く意見交換を行い,両国関係緊密化に大きな成果をあげた。
フォーラムとしては政府間で新たに日加金融協議(10月)が開催されたほか,民間では日加経済人会議が5月に名古屋で開かれ,両国から500名近くの参加をみた。
<要人往来>
<貿易関係>
<民間投資>
(あ) 我が国の対北米直接投資
(い) 北米の我が国に対する直接投資