第7節 国連専門機関
1.概況
(1)国連専門機関は,労働教育・科学・文化,農業,保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的・技術的観点から各分野における多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。
(2)本来専門的・技術的観点から討議すべき専門機関の場に近年国際政治問題が持ち込まれる傾向は85年においても引き続き見られ,第38回世界保健機関(WHO)総会におけるイスラエル非難決議が採択されたほか,国連教育科学文化機関(UNESCO),国際電気通信連合(ITU)等において軍縮問題が取り上げられた。
(3)また,国連教育科学文化機関(UNESCO)においては,米国の脱退に引き続き,85年末をもって英国及びシンガポールが脱退し,同機関は設立以来未曾有の危機に引き続き直面している。
(4)85年においては,多くの専門機関において86~87年予算が審議されたが,各国における厳しい財政事情を反映し,また,経費の合理化に対する認識が深まったこともあり,多くの専門機関において予算増の縮小ないし実質ゼロ成長予算が達成された。
2.国連各専門機関における活動
(1)国際労働機関(ILO:IntemationalLabourOrganization)
(イ)85年1月~86年3月の間には,第71回総会及び第229~232回理事会が開催された。
第71回総会では「労働統計に関する条約」(第160号)及び「労働統計に関する勧告」(第170号),並びに「職業衛生機関に関する条約」(第161号)及び「職業衛生機関に関する勧告」(第171号)が採択され,「アスベストス(石綿)の安全利用」に関する討議が行われた。
(ロ)我が国は85年度,ILOに対して分担金1,300万ドル(分担率1023%)を支払い,マルチ・バイ方式による技術協力として「賃金制度に係るセミナー及びスタディミッション」のため1,600万円の任意拠出を行った。
(2)国際連合教育科学文化機関(UNESCO:UnitedNationsEducational, ScientificandCultura10rganization)
(イ)84年末,米国がユネスコにおける過度の政治化傾向,予算の膨張等を理由に脱退した後,我が国を始め西側諸国がユネスコ改革の必要性を開発途上国に直接働きかけ続けたためもあり,85年を通じてユネスコ改革の必要性に対する認識が各加盟国間にある程度浸透した。このため,第121回(5月),第122回(9月)各執行委員会を経て,85年10~11月にかけてブルガリアの首都ソフィアで開催された第23回ユネスコ総会においては,86~87年度予算の対前年度比実質ゼロ成長,米国分担金相当額(25%)の削減,事業計画の一部凍結ないし減額を達成するとともに,改革監視・促進メカニズムとしての機能を特別委員会に付与することに合意するなど,ユネスコ正常化への第一歩が踏み出された。
(ロ)しかしながら,英国はユネスコの改革は依然として不十分であるとして,またシンガポールは自国の分担金が不公平であるとして,各々85年末をもって脱退した。
(ハ)85年度,我が国は,分担金1,756万ドル(分担率10.19%),国際情報開発計画(IPDC)に30万ドル,東南アジア基礎科学地域協力事業に10万ドル,西太平洋海域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業信託基金に計約16万ドル,東南アジア地域MAB(人間と生物圏)事業に2万ドルのほか,ヌビア・カイロ博物館事業及びモヘンジョダロ遺跡救済事業に計11万ドル等を拠出した。
(3)国連食糧農業機関(FAO:FoodandAgricultureOrganisationoftheUnitedNations)
85年11月,ローマにて開催された第23回総会において,86~87年度FAO予算が決定されたほか,対アフリカ援助,アフリカ各国の政策において食糧農業復興開発を最優先とすること等を盛り込んだ「アフリカの食糧農業の危機的情勢に関する決議」,世界食糧安全保障の達成に向け各国政府等が取るべき行動の指針を示した「世界食糧安全保障コンパクト」,開発途上国が農薬の使用規制措置を整備していく上での指針,農薬輸出国が考慮すべき点を示した「農薬の使用分配に関する国際行動規範」等が採択された。
(4)世界保健機関(WHO:WorldHealthOrganization)
(イ)85年5月の第38回総会においては,86~87年の予算規模,事業計画我が国の属する西太平洋地域選出執行理事国数増加問題,イスラエルの欧州地域委員会への移転問題等が審議された。
(ロ)そのほか,85年には,第75回及び第76回執行理事会並びに各地域委員会が開催された。
(ハ)我が国は,85年WHOに対し,分担金2,384万ドル(分担率10.14%)を支払い,また240万ドルを任意拠出した。さらにWHOの附属機関である国際がん研究所に対し分担金89万6,000ドル余を支払った。
(5)国際民間航空機関(ICAO:InternationalCivilAviationOrganization)
(イ)85年6月に発生した新東京国際空港の荷物爆発事件,インド航空機墜落事件,TWA機ハイジャック事件等に鑑み,ICAOにおいて航空テロ対策が検討されてきたところ,同年12月その最優先項目として,7月以来検討されてきた航空保安に関する国際民間航空条約第17付属書の強化・修正案が,コンセンサスで採択された。
(ロ)なお,我が国は85年分担金として256万ドル(分担率9.0%)を支払った。
(6)万国郵便連合(UPU:UniversalPostalUnion)
(イ)85年4~5月に開催された執行理事会では,予算,人事,郵便業務及び技術協力等についての審議が行われた。また,10月に開催された郵便研究諮問理事会においては,機械化及び国際ビジネス郵便等についての検討が行われた。
(ロ)なお,我が国は,85年,分担金109万スイス・フラン(分担率5.1%)を支払つた。
(7)国際電気通信連合(ITU:InternationalTelecommunicationUnion)
(イ)85年7月に開催された管理理事会では,予算及び技術協力等についての審議が行われ,開発途上国援助を目的とする「電気通信開発センター」の設立決議が採択された。
(ロ)8~9月に開催された「静止衛星軌道の使用及びこの軌道を使用する宇宙業務の計画作成に関する世界無線通信主管庁会議」の第1会期では,第2会期(88年)における具体的計画作成のための原則,方法等についての検討が行われた。
(ハ)なお,我が国は,85年,分担金697万スイス・フラン(分担率6.9%)を支払つた。
(8)世界気象機関(WMO:WorldMeteorologica1Organization)
(イ)85年6月,第37回執行理事会が開催され,世界気象監視(WWW:WorldWeatherWatch)計画,世界気候計画,研究開発計画,技術協力活動,86年予算等について審議された。
(ロ)我が国は,ESCAP/WMO台風委員会の訓練部門に対し,気象学並びに河川及びダム工学に関する研修コースを実施する等の協力を行った。
また,85年WMOに分担金88万ドル(分担率4.45%)を支払った。
(9)国際海事機関(IMO:InternationalMaritimeOrganization)
(イ)85年12月の第22回海洋環境保護委員会においてr1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年議定書」附属書丑及び議定書Iの改正案が採択され,条約に定める一定数以上の締約国より異議通報がない限り,同改正は87年4月6日に発効することとなった。また海上安全委員会においてはシージャック防止措置及び「将来の全世界的規模の海難救助安全システム(FGMDSS)」の導入等について検討が行われた。
(ロ)我が国は85年に98万ドルの分担金(分担率9.70%)を支払った。
(10)世界知的所有権機関(WIPO:WorldIntellectualPropertyOrganization)
(イ)85年9月の一般総会において,86-87年度予算(9,779万6,000スイスフラン,前期比14%増)及び事業計画の採択,事務局長A・ボクシュ(米国籍)の再任命(任期6年),パリ同盟及びベルヌ同盟執行委員会構成国選挙等が行われた。我が国はパリ同盟執行委構成国として再選(7選目)された。
(ロ)特許制度のハーモナイゼーション(7月),集積回路の国際的保護(11月),商標等の国際登録(12月),バイオテクノロジー発明の保護(61年2月),被雇用作家に関する国内法モデル規定(61年2月)等に関し専門家委員会が開かれた。
(ハ)我が国は,85年に,107万7,597スイスフランの分担金(含運転資金)を支払つた。
(11)国連工業開発機関(UNmO:UnitedNatiOnsIndustrialDevelopmentOrganizati011)
(イ)85年6月21日UNIDO憲章が発効し,専門機関として国連より独立すべく準備が始まった。
(ロ)憲章に基づき,8月に第1回新UNIDO総会が開催され,工業開発理事会(53か国),計画予算委員会(27か国)のメンバーが決定され,我が国も双方のメンバーとして各々選出されるとともに,我が国が積極的に推挙したシアソン在オーストリア・フィリピン大使が新事務局長に選出された。
(ハ)9~10月に計画予算委員会,11月に工業開発理事会が開催され,新UNIDOの計画,予算,財政,機構問題のほか国連との専門機関協定等についても審議され,12月の第1回総会再開会期においてこれらが最終決定され,86年1月よりUNIDOは国連第16番目の専門機関として活動している。