第4節 社会・人権・文化問題

1.社会問題

(1)児童問題

(イ)ユニセフ(UNICEF:UnitedNationsChildren'sFund,国連児童基金)は,第2次世界大戦の戦禍を受けた地域の児童救済を目的として設立されたが,現在は主として開発途上国の児童の福祉向上を目的として援助活動を行っている。

4月ユニセフの執行理事会においては,ユニセフの実施している予防接種等低コストかつ高効果の方法による「児童革命(ChildRevolution)」(乳児死亡率の低下運動)に対し,各国より支持が寄せられた。また地域的には早ばつにより大きな被害を被っているアフリカ地域に対し援助の重点をおくべきことが決定された。

(ロ)我が国はユニセフに対し,85年度1,420万ドルの一般拠出を行うなど,積極的にユニセフの活動に協力している。また民間においても(財)日本ユニセフ協会による募金活動,啓発活動を中心として協力が進められており,ユニセフに対する民間からの拠出は800万ドル以上に上っている。

(2)障害者問題

81年の国際障害者年のフォローアップとして,第37回国連総会は,「障害者に関する世界行動計画」を採択したが,昨年の第40回国連総会においては,加盟国が83年から92年の国際連合障害者の10年のため・世論を動かし,同行動計画の履行のモニター及び評価に助力するように要望するなどを内容とする決議が採択された。

(3)青年問題

(イ)85年は,79年の国連総会決議により決定された国際青年年(Inter-nationalYouthYear,テーマは参加,開発,平和)にあたり,各国政府及び関連国際機関等の主催により,そのテーマ(青年の積極的な社会開発への参加及び国際平和への貢献)にちなんだ数多くの記念行事が実施された。

11月にはニューヨーク国連本部において,第40回国連総会中に国連国際青年年世界会議が開催され,我が国を含む約100か国が参加した。我が国は民間の青年代表を含む代表団を派遣した。

(ロ)国内においても中曽根内閣総理大臣を議長とする国際青年年事業推進会議が設置され,外国青年の招請・記念論文の募集等各種記念行事が実施された。

また,青年問題分野における国際協力として,国際青年年にあたり,特に開発途上国における青年関連事業に対し,資金援助を行う目的で国連事務総長により設立された国際青年年信託基金に対し10万ドルの拠出を行った。

2.人権問題

(1)我が国は85年度も前年度に引き続き差別防止・少数者保護小委員会,人権委員会,経済社会理事会,国連総会という人権問題を取り扱う国連の主要フォーラムのすべてに参加した。

(2)85年秋の第40回総会においては,例年同様,民族自決権,人種差別撤廃,宗教的不寛容,国際人権規約,世界各地の人権問題などが審議されたが,提出された決議の数が例年より多く,第3委における審議合理化の必要性も指摘された。また各国の人権問題については従来チリ,エル・サルヴァドル,グァテマラのラ米3か国の人権状況のみが取り上げられていたが,右に加えさらにイラン,アフガニスタンが取り上げられ,対象国が広がったのが特色であった。

(3)86年2~3月にかけジュネーヴで開催された第42回人権委員会においては,約75本の決議及び決定が採択されたが,いわゆる純粋な人権問題を扱った決議に加え,軍縮,南北問題等に関連した決議も採択され,討議対象の拡散傾向が強まった。我が国は,本委員会が世界の人権状況の真の改善に効果的役割を果たすべきであるとの基本的考え方に立って,各議題の審議に積極的に参加した。特に,ほかのフォーラムで行き詰まっている問題を人権に絡めて持ち出して来る傾向に対し,国連システムの各フォーラムの活動合理化及び整理の必要性を訴えた。

3.難民問題

(1)現在世界には,主なものでもインドシナ難民約170万人,アフガン難民(在パキスタン及びイラン)約430万人,アフリカ難民約350万人,パレスチナ難民約200万人が発生しており,中南米等その他の地域の難民を含めると1,000万人以上の難民が発生している。また,特にアフリカにおいては早ばつなどの天災により難民問題は一層深刻化し,同問題は人道上の問題であるのみならず,当該地域の平和と安定にも影響を及ぼし得る政治上の問題となっている。国連においては,国連難民高等弁務官(UNHCR)を中心に,難民に対する救済活動を行うとともに難民問題のいわゆる恒久的解決策である,(イ)本国への自主帰還,(ロ)第一次庇護国への定住,(ハ)第三国への定住の促進を図ってきた。自主帰還については政治的理由等により種々困難があるが,第一次庇護国における定住についてはアフリカ難民を中心に,また第三国定住についてはインドシナ難民を中心にそれぞれ促進されている。

(2)また,85年10月開催されたUNHCR執行委員会では,難民に対する救済活動,難民問題の恒久的解決策促進等のほかに,難民の不規則行動問題,難民キャンプヘの軍事・武力攻撃等の防止に関する難民の国際保護,第一次庇護国への定住を可能にするための「難民援助と開発」についても討議された。

(3)そのほか第36回国連総会により設置された大量難民流出防止政府専門家会合は,85年3月及び6月,第5回及び6回の会合を開催し,難民問題の核心である難民流出の原因に関する討議を行っている。

(4)我が国は,国連等においてこれらの難民問題に関する活動に積極的に参加してきているほか,資金面においても79年以降UNHCRに対する世界第2位の拠出国となっているのを始め,国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA),世界食糧計画(WFP),赤十字国際委員会(ICRC)等を通じて,これまでに約8億ドルの難民援助を行っており,世界の難民問題解決のため積極的に貢献している。

4.婦人問題

(1)85年7月,ナイロビにおいて,「国連婦人の10年」(76~85年)の最終年を期して世界婦人会議(国連主催)が157か国の参加を得て開催され,西暦2000年に向けての婦人の地位向上のためのガイドラインたる「ナイロビ将来戦略」がコンセンサスで採択された。

(2)86年2月の第31回婦人の地位委員会においては,上記「将来戦略」の実施に関し,国連の活動の幅広い分野に婦人関係プログラムを組み入れるべく84-89年国連中期計画を見直すため,87年に同委員会を開催する(通常は隔年開催)旨の決議案が採択された。

(3)我が国は,国連婦人開発基金(旧称:国連婦人の10年基金)に対し,85年度6,870万円を拠出した。

(4)85年6月25日,我が国は,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准を行い,本条約の締約国となった(72番目)。

5.人口問題

(1)国連人口活動基金(UNFPA:UnitedNationsFundforPopulationActivities)は開発途上国に対する人口問題分野での援助等を目的として67年に設立され,現在134か国に対し協力を行っている。

6月,国連開発計画(UNDP)管理理事会においてUNFPAの事業につき審議が行われ,86~89年事業計画が承認された。

(2)我が国はUNFPAに対し,85年度約4,290万ドルを拠出し,UNFPAの活動に積極的に協力している。

6.環境問題

(1)国連環境計画(UNEP:UnitedNationsEnvir011memProgramme)

(イ)5月,管理理事会は,86~87年の環境基金の予算案(6,200万ドル)を決定するとともに,各国政府と事務局との協議の強化のための常駐代表委員会の設立,環境基金による活動を支援する追加的財源の探究,「2000年とそれ以降の環境の展望」文書の作成,次期国連システム中期環境計画(1990~95)作成の着手,NGOとの協力の強化,オゾン層保護条約に基づくクロロフルオロカーボン(CFC)ガス規制に関する議定書作成の推進,環境影響評価等のガイドラインの作成等,2か年の活動計画を決定した。

(ロ)我が国は,85年においても引き続き,環境基金に400万ドルを拠出し,年間拠出額で米に次ぎ第2位(各国拠出総額の約14%)となっている。また,我が国は,UNEP設立以来,管理理事会理事国を務めている。

(2)環境特別委員会(WCED:WorldCommissiononEnvironmentandDevelopment)

我が国の提唱により設立された環境問題に関する独立委員会であるWCED(ブルントラント委員長〔ノールウェー首相〕)は,87年2月の報告書作成に向け,85年にオスロで第3回会合,10~11月にサン・パウロで第4回会合を開催し,検討を進めた。

我が国は,85年も84年と同じく75万ドルを拠出し,86年2月現在,右拠出総額150万ドルは,各国拠出総額の約40%で第1位となっている。

(3)人間居住委員会(CommissiononHumanSettlements)

4月から5月にかけてキングストン(ジャマイカ)で開催された第8回委員会は,国際居住年(87年)活動を推進するための決議,委員会活動の合理化に係る決議(委員会の毎年開催を隔年開催に変更するなど)を採択したほか,国連人間居住センター(ハビタット)の活動報告及び事業計画並びに国連人間居住財団の予算案を審査・承認した。

また,第40回国連総会においても前記委員会の勧告をうけ,国際居住年活動の推進決議,機構上の合理化決議(UNEPとの定期会合の廃止等)及び今後毎年10月の第1月曜日を「世界ハビタット・デー」に指定する決議等を行った。

なお,我が国は,国連人間居住財団に対し,前年同様50万ドルの拠出を行った。

7.国連大学

(1)我が国に本部を置く国連大学は,81年に策定された中期展望(82~87年)に基づき,世界各地の大学や研究機関等と提携して構成するネットワークを通じ,人類が直面する諸問題についての研究,研修及び知識の普及に努めている。

(2)7月及び12月に大学理事会が開催され,事業計画及び予算等につき審議が行われた。

また,スジャトモコ現学長の任期は8月までであったところ,2年間の任期延長が行われた。

(3)83年にヘルシンキ設置が決定した国連大学の初の直属研究研修センターである世界開発経済研究所(WIDER)は5月より活動を開始した。

(4)国連大学の活動経費の大半を賄う国連大学基金に対しては,これまでに我が国(1億ドル)を始め,フィンランド,英国等から約1億4,100万ドルが拠出されている(86年2月21日現在)。

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