第4章 国連における活動とその他の国際協力

第1節 政治問題

1.第40回国連総会

85年9月17日,第40回国連総会はスペインのデ・ピニエス前常駐代表を総会議長として開催された。9月24日には安倍外務大臣が一般討論演説を行い,国連40周年に際しての国連の評価及び平和と繁栄の問題に関する我が国の立場を中心に,「創造的外交」を更に展開して行く決意を表明した。

また,10月14日から24日までの間・国連創立40周年記念会期が開催され,各国の元首・首脳等が記念演説を行ったほか,24日の記念式典における国際平和年宣言の採択等,各種の記念行事が実施された。10月23日には中曽根内閣総理大臣が我が国を代表して記念演説を行い,人間と自然との調和を主題に,平和と繁栄のための国際協力を基軸とする我が国外交のあり方を訴えた。

第40回総会では国連創立40周年を踏まえ国連の機能強化のための提案が相次いだが,中でも安倍大臣が一般討論演説の中で提唱し,国連の行財政機能の強化に焦点をあてた「国連効率化のための賢人会議」設置提案が具体的かつ現実的な国連改革の方策であるとして各国の高い評価を得,総会決議でその設置が決定されたことは,国連の強化を図る上でも,我が国の国連外交においても,大きな成果であった。

2.国連における主要政治問題

(1)中東情勢

85年5月,イスラエル軍のベイルート撤退後,レバノン各派間の戦闘が激化したため,レバノン情勢について安保理審議が行われ,武力行使の停止を呼びかける決議が採択された。9月にはパレスチナ被占領地における外出禁止,拘留,追放等のイスラエルの措置につき安保理審議が行われたが,決議案は,米国の拒否権により否決された。さらに10月には,イスラエルによるテュニジァのPLO本部爆撃事件及びイタリア船乗っ取り事件が安保理で審議され,前者については,かかるイスラエルの行為を非難する決議が採択され,後者については,かかる乗っ取り行為を非難する安保理議長声明が発出された。また総会は,中東情勢一般,パレスチナ問題を審議し,84年同様イスラエルを非難する諸決議を採択した。

86年に入って,1月に南レバノンにおけるイスラエル占領軍の侵略的及び残虐的行為及び聖地テンプル・マウントにおけるイスラエル国会議員等とアラブ住民との衝突事件について,また2月にはイスラエルによるリビア機強制着陸事件について,それぞれ安保理審議が行われ,イスラエルを非難する決議案が提出されたが,何れも米国の拒否権により否決された。

(2)イラン・イラク戦争

85年3月イラン・イラク両国間の都市攻撃が拡大し,地上戦へと紛争が激化したため4月事務総長による,化学兵器使用に関する専門家の欧州諸国派遣,事務総長自身のイラン・イラク両国訪問等の努力が行われるとともに,化学兵器の使用を非難し,適当な時期にイラン・イラク両国の安保理出席を要請する安保理議長声明が発出された。86年2月初めイランが南部戦線において攻勢を開始したため,安保理は2月24日,文民地域爆撃,化学兵器の使用等を遺憾とするとともに即時停戦,全軍隊の撤退を要請する決議を採択した。さらに2月末より3月初め事務総長により化学兵器調査団が再度イランに派遣され,3月14日イラク軍により化学兵器が使用されたとの報告書が公表された。

なお,総会におけるイ・イ紛争の審議は延期された。

(3)アフガニスタン問題

85年においては,コルドベス事務総長個人代表の仲介によるパキスタン外相とアフガニスタン外相との間のジュネーヴ間接会合が,6月,8月及び12月の3回(第5回~第7回)行われ,内政不干渉,国際保証,難民の帰還の3点については進展が見られたが,撤兵については話し合われず,依然具体的成果は得られなかった。

また総会においても本問題は審議され,84年同様外国軍隊の即時撤退等を要求する決議が圧倒的多数で採択された。

(4)南部アフリカ問題

国連では,84年以後頻発している南アの黒人暴動及び南ア政府の非常事態宣言の実施等南ア情勢の悪化をうけて85年7月,安保理が非常事態宣言の即時撤回を求めるとともに,加盟国に対し,南アに対する諸政策として,対南ア新規投資の全面停止,クルーガーランドその他南ア製金貨の販売禁止,南アの軍隊及び警察が使用する可能性のあるコンピューター機器の対南ア販売禁止等を求める決議(569)を採択した。同決議採択を機に我が国も10月クルーガーランドの輸入自粛協力要請,コンピューターの対南ア販売禁止等の追加措置をとった。

さらに第40回総会では,国連加盟国に対し国連憲章第7章に基づく対南ア強制制裁措置(経済関係,外交関係等の断絶を求めるもの)を勧奨する決議等が採択された。なおその一環として,新たに「対南ア制裁国際会議」を86年6月に開催する旨の決議が採択された。

他方ナミビア問題に関しては南アとアンゴラ間で,キューバ兵のアンゴラ撤退問題につき密かに交渉が行われてきたが,同年11月のアンゴラ政府による国連事務総長への同交渉内容の暴露によって交渉は全く行き詰った。第40回総会ではナミビア問題に関し,ナミビア独立を求めた安保理決議435の履行促進要請決議等が採択された。その中で,ナミビア特別総会を86年度中に開催するとの決議も採択された。

(5)中米問題

85年5月安保理が米・ニカラグァの対話再開を求める決議を全会一致で採択した。さらに,12月安保理は大西洋上にてニカラグァのヘリコプターが地対空ミサイルにより撃墜された事件を審議したが,決議案は提出されず終了した。

また第40回総会では,コンタドーラ・グループ活動の行き詰まりを反映して,決議案の一本化ができず,本件審議は延期された。

(6)フォークランド諸島問題

第40回総会では,英国,アルゼンティン両国政府に対し,国連憲章にもとづき本件に関する未解決の問題を平和的かつ最終的に解決するための方策を見出すように交渉することを要請したブラジル等7か国共同提案の決議案が,11月賛成107,反対4,棄権41で採択された。

我が国は,本決議案が我が国の基本方針に沿ったものであったので賛成した。

また,今次総会では英国が初めて修正決議案を提出したが,同決議案は,否決された。我が国は英提案の同決議案に棄権した。なお,米,加,仏等も棄権した。

(7)カンボディア問題

カンボディア代表権問題については,10月本会議において民主カンボディアを含む各国代表の委任状を受諾するとの委任状委員会報告が承認されたことにより,第40回総会における民主カンボディアの代表権は84年同様無投票で維持された。

他方,カンボディア情勢に関しては,11月本会議で,外国軍隊のカンボディアからの撤退,カンボディア人の自決権行使,事務総長の仲介努力継続等の要請を盛り込んだASEAN,日本等58か国共同提案の決議案(前年決議と同趣旨)が賛成114,反対21,棄権16で採択された。

(8)非植民地化問題

第40回総会では,本件に関する決議は,第39回総会とほとんど同一のものが採択された。唯一,西サハラ問題で,モロッコが,今後国連におけるすべての本件関係審議をボイコットする旨宣明したことが注目された。

(9)国際テロ問題

国際テロ事件の頻発を背景に,第6委員会ではテロを非難する3本の決議案(西側案,我が国共同提案。キューバ案及びコロンビア案)が提出されたが,第6委議長を中心とした各国の交渉により,すべてのテロ行為を非難するとともにテロ防止のための国際協力を訴える統合案が作成された。第6委における票決で唯一反対票を投じたキューバも本会議では右を撤回し,12月結局同統合案はコンセンサスで採択され,第40回総会の最大の成果の一つとして,高い評価を得た。

かかる雰囲気を反映し,安全保障理事会においてもすべての人質・誘拐行為を非難する決議を12月全会一致で採択した。

(10)サイプラス間遠

85年1月,国連事務総長は,キプリアヌ=サイプラス大統領に対し,同年1月回大統領により拒否されたサイプラス問題の包括的解決のための枠組に関する草案の修正したものを改めて提示した。同大統領(ギリシャ系側)は同草案を受け入れたので,4月12日,国連事務総長はデンクタッシュ・トルコ系住民代表に同草案を提示したが,トルコ系側は受け入れの可否を示さないままトルコ系側のコメントを事務総長へ伝えた。このため,事務総長は,引き続きデンクタッシュ,キプリアヌ大統領及びオザール=トルコ首相と個別に会談を行い,さらに,国連はギリシャ系側及びトルコ系側と実務者レベルの会合を持ち,草案の再修正を図った。86年3月29日,事務総長はギリシャ系及びトルコ系代表と個別に会談し,再修正した草案を再び手交した。

(11)国連憲章再検討問題

本件特別委は,(イ)国際の平和と安全の維持,(ロ)紛争の平和的解決,(ハ)国連の現行手続の合理化の3議題につき検討を行っており,3月にニューヨークで開催された同特別委第10会期ではいずれの議題についても具体的進展をみ,特に,我が国共同提案の,紛争の予防面に焦点をあてた作業文書が多くの支持を得た。第40回総会では同特別委のマンデートを更新する決議がコンセンサスで採択された。

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