第4節 政府直接借款

1.概況

政府直接借款(いわゆる円借款)は,我が国二国間政府開発援助の大宗を占め開発途上国への重要な援助手段となっている。

85年度の円借款供与実績は交換公文締結額ベースでは,7,323億円と前年度(5,749億円)を27.4%上回った。これは我が国が内外の厳しい経済環境にもかかわらず円借款の拡充に努力してきたことにもよるが,一部には84年度以前に供与の意図表明は行ったものの交換公文締結が85年度に行われたという事情もある。全般的には,世界経済の停滞の下で開発途上国の経済・財政状況が悪化したために,債務繰延べ国の増大及びプロジェクトに対する被援助国の内貨資金の不足などの問題が生じ,他方で円借款実施機関である海外経済協力基金の赤字が拡大するなど円借款供与をとりまく環境は一層厳しいものとなっている。

我が国としては,上記制約要因をも踏まえ,かつ被援助国の開発ニーズにも配慮しつつ,引き続き円借款の拡充に努力する方針である。

2.85年度供与実績の特徴

(1)地域別供与動向

我が国円借款の供与先としては,従来から地理的,歴史的・経済的に我が国と密接な関係を有するアジア地域に重点が置かれてきたが,我が国経済力の拡大に伴って中南米,中近東,アフリカ等非アジア地域に対する円借款の拡充にも努力してきた。85年度における非アジア地域に対する円借款供与額(交換公文締結ベース)は,中近東及び中南米地域に対する供与増に伴い,1,847億円となり対前年度(665億円)に比し25%増となった。なお,85年度において,我が国は,世銀の提案による「アフリカ基金」(第5節1.(1)参照)との特別協調融資としてトーゴ、マラウィ,ソマリア,及びギニアに対し総額140億円の円借款供与を行う旨の意図表明を行った(交換公文締結は86年度となる見込み)。

図1地域別供与実績(交換公文締結ベース)(86.3.31現在)

(2)形態別供与動向

新たに供与する円借款は形態上,道路,港湾,発電所,通信施設等のプロジェクトに対して供与するプロジェクト借款と,国際収支の悪化や外貨不足等から国内経済を維持するのに必要な基礎的物資の輸入に困難をきたしている国に対して,その輸入資金として供与する商品借款に大別される。我が国は図2.に示されているとおりプロジェクト借款を中心に円借款を供与しているが,商品借款については援助効果の速効性等のメリットもあり,85年度においては,地震災害に見舞われ経済状況が悪化したメキシコに対し緊急援助として約119億円を供与したほか,バングラデシュ,パキスタン,フィリピン,ビルマに対して供与した。

また,過去に供与した借款について,その債務返済が困難に陥った場合国際的な協調の下で債務繰延べ措置をとっているが,85年度においては債務繰延べ国が増えたことに伴い,ザンビア,マダガスカル,モロッコ,シエラ・レオーネ,コスタ・リカ,エクアドル,ジャマイカ,ドミニカ,チリ,フィリピン及びユーゴースラヴィアの12か国(84年度5か国)に対し前年度(18億円)を大幅に上回る総額343億円の債務繰延べを行っている。

図2形態別供与実績(交換公文締結ベース)

 

(注)()外数は金額:億円,()内数はシェア:%,右端数は合計額。

(3)調達方式別供与動向

円借款の調達方式は74年の「開発途上国(LDC)アンタイイングに関する開発援助委員会(DAC)了解覚書」に基づき,77年まではLDCアンタイドが主流をなしていたが,77年末の対米通商交渉を契機とする78年1月の牛場・シュトラウス共同声明で,日本政府の一般アンタイド化の基本方針が確認されたことに基づき,78年4月から一般アンタイドを基本方針としている。一般アンタイドの実績は,次第に伸長し,81年度からは50~60%前後で推移してきている。

図3調達方式別供与実績(交換公文締結ベース)

(注)()外数は金額:億円,()内数はシェア:%,右端数は合計額。

(4)所得水準別供与動向

我が国は,近年の世界経済の低迷は開発途上国,とりわけ,特に貧困な開発途上国に大きな打撃を与えている状況に鑑み,後発開発途上国(LLDC)に対しては,従来より援助を無償化する方向で努力しており,85年度の対LLDC円借款はバングラデシュに対する供与にとどまった(シエラ・レオーネに対しては債務繰延べを行った)。

表1所得水準別供与実績(交換公文締結ベース)

(5)分野別供与動向

プロジェクト借款について対象分野別の供与動向を見ると,従来より経済社会開発基盤整備のための円借款(具体的には道路,鉄道,港湾,水力・火力発電,通信等)が供与対象の大宗を占めており,85年度においても,これら経済インフラに対する供与額は3,614億円で59.0%のシェアを占めている。

85年度は,上水道整備を中心とする社会インフラ分野に対する供与のシェアが増加し,鉱工業及び農林水産業分野の案件への供与のシニアは減少した。

表2分野別供与実績(交換公文締結ベース)

 

 

 

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