第3節 無償資金協力

1.概況

無償資金協力とは,開発途上国に対する資金協力のうち,相手国に返済義務を課さずに資金を供与する形態の援助であり,政府開発援助のうち技術協力とともに二国間贈与を構成するものである。

我が国の無償資金協力は,68年度に開始され,今日に至るまでその資金量は年々大幅に増大しており,我が国のODAの拡充,特にその質の向上を図る重要な柱となっている。また,無償資金協力は,開発途上国の経済,社会開発,民生の安定及び住民の福祉の向上に寄与することを目的に実施されると同時に,我が国と被援助国との友好協力関係の増進に多大の貢献を行っている。

我が国の無償資金協力は,(イ)一般無償援助,(ロ)水産関係援助,(ハ)災害関係援助,(ニ)文化関係援助,(ホ)食糧援助及び(ヘ)食糧増産援助から成っている。85年度予算における無償資金協力予算の総計は1,700億円を超えており,10年前の予算と比較すればその規模は85倍に拡大している。

無償資金協力予算の推移

(注)1976年度以前には食糧援助費。

2.経済開発等援助費による協力

(1)一般無償援助

経済開発等援助費の主要な部分を構成する一般無償援助は,開発途上国がその経済・社会の発展のための計画を実施する上で必要な施設・資機材及び役務を調達するために必要な資金を供与するものであり,基礎生活分野での援助及び人造り援助にその重点を置いている。

85年度の交換公文ベース(交換公文を締結して相手国に援助を約束した)一般無償援助実績は,供与対象国49か国,供与総額約958億円に達している。

一般無償援助は基本的には経済的収益性が低く,開発途上国が自己資金あるいは借入資金により実施することが困難な案件を対象としており,主な対象分野としては,医療・保健,教育・研究,民生・環境改善,農業,運輸・通信などが挙げられる。

85年度の交換公文締結ベースの一般無償援助実績を分野別に見ると次のとおりである。

(イ)医療・保健分野

バングラデシュのナラヤンガンジ総合病院,ボリヴィアのサンタ・クルス総合病院等の病院建設計画のほか,フィジーの看護学校建設計画,スリ・ランカの地方病院整備計画等計18件のプロジェクトに対し,164億7,200万円を供与した。

(ロ)教育・研究分野

ビルマの青少年教育センター建設計画,スリ・ランカのマタラ教員養成学校建設計画パキスタンのカイデアザム大学整備計画,ケニアの上級技術訓練センター建設計画等総計20件のプロジェクトに対し,245億7,000万円を供与した。

(ハ)民生・環境改善分野

バングラデシュの飲料水給水施設建設計画,ビルマの都市飲料水開発計画,スーダンの首都圏衛生改善計画等総計23件のプロジェクトに対し,184億9,700万円を供与した。

(ニ)農業分野

ネパールの園芸開発センター拡充計画,インドネシアの森林造成機材整備計画,ケニアの林業育苗訓練センター建設計画,ニジェールの農業水利機材整備計画等18件のプロジェクトに対し,総額134億6,600万円を供与した。

(ホ)運輸・通信分野

タンザニアのモロゴロ道路補修計画,スーダンのゲジラ通信網整備計画等総計32件のプロジェクトに対し178億5,200万円を供与した。

(ヘ)その他

他にタイの金属・機械工業開発研究所建設計画,中国の鉱産物検査研究センター整備計画等,総計7件のプロジェクトに対し,49億500万円を供与した。

一般無償援助地域・分野別実績(注)

(注)85年度における交換公文締結ベース実績。ただし債務救済のための無償資金協力を除く。

また,我が国は,78年3月の国連貿易開発会議(UNCTAD)貿易開発理事会(TDB)閣僚会議の決議に基づき,77年度以前に我が国に対して公的債務を有している最貧困国及び後発開発途上国(18か国)を対象に,債務救済のための無償資金協力を78年度から実施しており,85年度には12か国に対し,約66億2,448万円を供与した。

(2)水産関係援助

水産関係援助は,開発途上国の水産振興に寄与するために,漁業訓練,水産研究等の施設及び漁港等漁業関連施設・資機材並びに役務調達に必要な資金を供与するものである。85年度には,マレイシアの国立エビ種苗・研究センター計画,キリバスの漁船水路・島嶼連絡路建設計画等総計14件のプロジェクトに対し,87億円の援助を実施した。

(3)災害関係援助

災害関係援助は,風水害,地震,旱ばつなどの自然災害を被った国に対する緊急援助及び紛争等により発生した難民・被災民に対し人道上の観点から行われる援助からなる。85年度には,メキシコの地震被害,コロンビアの火山噴火被害,バングラデシュの洪水被害及びカンボディア難民,アフガン難民等に対し,総計13件,19億1,346万円を供与した。

(4)文化関係援助

文化関係援助は,開発途上国における教育及び研究の振興,文化財及び文化遣跡の保存利用,文化関係の公演・展示などの開催等のために使用する資機材の購入に必要な資金を供与するものであり,75年度から文化交流に関する国際協力の一環として実施されている。85年度予算からは合計50件,総額20億円の協力を実施した。

3.食糧増産等援助費による協力

(1)食糧援助

食糧援助は,GATTのケネディ・ラウンド(KR)関税一括引下げ交渉の一環として成立した「1967年の国際穀物協定」及び同協定を引き継いだ「1971年の国際小麦協定」を構成する「1980年の食糧援助規約」に基づいて実施されており,通称KR援助とも呼ばれている。

我が国は,同規約に基づき,毎年小麦換算で30万トンの最低拠出義務を負っており,食糧不足に苦しむ開発途上国の穀物の購入(米,小麦,その他,85年度に関しては,アフリカの域内調達を図るためジンバブエ産メイズも使用した)に必要な資金を無償で供与している。85年度の予算ベースの食糧援助実績は,30か国,2国際機関に対し,総額213億8,500万円であった。国際機関に対するものは,世界食糧計画(WFP)を通ずる対カンボディア・タイ被災民援助,対アフガン難民援助及び対アフリカ難民援助,国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通ずる対パレスチナ難民援助に向けられ,これらによる援助額は全予算の36.5%を占める。国際機関に対する援助を除く食糧援助を供与先別に見ると,アフリカ地域が全体の76.4%と大部分を占め,残りはアジア地域に対して行われている。なお,86年3月に「1986年の食糧援助規約」が採択され,同規約は同年7月から発効の予定である。

(2)食糧増産援助

我が国は,開発途上国の食糧問題の解決は,基本的には自助努力による食糧増産によるべきであるとの認識の下,77年度から「食糧増産援助」として新たに予算措置を講じ,開発途上国が食糧増産プロジェクトを遂行する上で必要とする肥料,農薬,農機具等の購入のために必要な資金を無償で供与している。この援助は別途一般無償援助で実施されている各種農業プロジェクト援助とともに,開発途上国の農業開発に大きく貢献している。85年度の予算ベースの食糧増産援助実績は,42か国に対し総額380億円であった。

その内訳は,アジア地域64.2%,アフリカ地域28.2%,中近東地域1.3%,中南米地域6.3%,となっている。

4.最近の動向

(1)効果的実施・適正な援助

無償資金協力の規模の拡大とともに,効果的かつ適正な援助を実施する必要性もますます増大している。

このため,78年度から「技術協力と密接に関連する無償資金協力」の実施促進に係る業務につき国際協力事業団(JICA)に移管する等,交換公文締結後の諸手続の迅速化及び援助の適正実施のための措置が導入されている。

また,規模の拡大,対象案件の多様化に伴い,無償資金協力に係る政策の企画・立案及び実施の際の専門的な見地からの意見・助言の有用性が高まっていることから,77年度から経済協力局長の下に各界の有識者の参加を得て無償援助実施懇談会を開催し,86年3月までに計16回の会合を行っている。同懇談会の提言等を基に,(イ)事前調査の拡充,(ロ)先方政府負担分経費についての協力強化,(ハ)実施ずみ案件の評価と必要なフォローアップの実施,(ニ)無償資金協力と技術協力との有機的連携強化等,援助効率向上の努力が行われている。

(2)その他の最近の特徴

アフリカの食糧不足等に対応して・同地域向けの協力は85年度にも拡充され,食糧・農業分野を中心に,総額500億円を上回った。また,後発開発途上国(LLDC)への援助の増大も著しい。LLDC向け援助総額は85年度予算ベースでは約579億円で,前年度比約66億円増,無償資金協力全体に占める比率でも33.2%(前年度には32.2%)となっている。

また,実施に当たっては技術協力等他の形態の協力または既存案件のフォローアップ,他国あるいは国際機関との協調,供与対象国の拡大等,無償資金協力予算の運用効果を最大にするため,さまざまの機動的執行の努力を拡大している。

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