第7節 科学技術及び原子力問題
1.科学技術一般
近年,諸外国から科学技術分野における我が国との協力の要望が増大し,我が国の対外関係に占める科学技術の比重は高まっている。
85年3月17日より9月16日まで筑波で科学万博が開催され,また,その期間中我が国政府の招待に応じ,諸外国及び国際機関から,54人に上る要人が賓客として訪日した。
(1)二国間の科学技術協力
(イ)85年7月,中曽根内閣総理大臣の欧州(フランス,イタリア,ヴァチカン,ベルギー,及びEC委員会)訪問の際に,フランス及びイタリアとの間で協力関係の一層の推進につき合意が見られた。ECとの間では,核融合分野等の協力を促進することで合意が成立した。我が国は,85年末にインド及び韓国と,さらに86年5月にはカナダと,科学技術協力協定を結び,現在18か国との間に,計19本の科学技術協力協定を結んでいる。
主な国との協力活動は次のとおりである。
(ロ)日米協力
(a)エネルギー分野
日米エネルギー等研究開発協力協定に基づき,核融合,光合成,高エネルギー物理学,地熱エネルギー等の分野で協力が進展している。
(b)非エネルギー分野
日米科学技術研究開発協力協定に基づき,宇宙開発,核物理,生命工学,保健,環境,農業等の分野にわたる40以上の案件について協力が進展している。
(ハ)日仏協力
85年7月,中曽根内閣総理大臣訪仏の際に,癌の共同研究を行うことにつき基本的合意が成立した。
(ニ)日西独協力
85年10月,協定に基づく合同委員会第10回会合がボンで開かれ,新たに機械技術に関する情報交換等の協力が合意された。
(ホ)日伊協力
85年7月,中曽根内閣総理大臣のイタリア訪問の際に,協力関係の推進のための専門家レベルの交流の場を設けることにつき合意され,これを受けて12月の第3回日伊経済関係事務レベル協議の機会に科学技術作業部会が設けられ,協力の可能性につき検討が開始された。
(ヘ)日加協力
73年以後,日加科学技術協議の下で行われてきた協力を踏まえ,86年5月,マルルーニー首相訪日の機会に科学技術協力協定が締結された。
(ト)日豪協力
85年11月,協定に基づく第3回合同委員会が開かれ,新たに「悪性メラノーマに対する中性子捕捉療法」等に関する協力が合意された。
(チ)日・ブラジル協力
協定に基づく第1回合同委員会が,85年9月,安倍外務大臣のブラジル訪問の機会に開催された。
(リ)日中協力
協定に基づく84年4月の第3回科学技術協力委員会の結果・既存の協力テーマに加え,新たに4つのテーマ(冶金,電波,海洋保護等)につき協力を開始することが合意された。
(ヌ)日韓協力
85年12月,ソウルにて科学技術協力協定が締結された。
(ル)日・インド協力
85年11月,ガンジー首相訪日の機会に科学技術協力協定が締結された。
(ヲ)日・ASEAN協力
83年の中曽根内閣総理大臣の提唱した構想に基づき,85年よりバイオテクノロジー等の分野で協力が実施されている。
(2)多数国間の科学技術協力
(イ)サミットに基づく科学技術協力
サミット参加国の専門家からなる「技術,成長及び雇用に関する作業部会」は,85年,ボン・サミットでの合意に基づき,作業の完了及び18プロジェクトの独立(我が国は,太陽光発電,先端ロボット及び光合成の3分野のリード国)を決定し,作業部会の最終報告書が86年の東京サミットに報告された。
(ロ)生命科学と人間の会議
中曽根内閣総理大臣が提唱した「生命科学と人間の会議」は,85年4月に第2回会議がフランスで,また第3回会議が86年4月,西独で開催された。
(ハ)OECD
OECDの科学技術政策委員会は,「ハイテク製品貿易」及び「技術の国際流通」に関する検討をとりまとめ,85年4月の閣僚理事会に工業委員会とともに報告し,同分野の検討をひとまず終了した。このほか,バイオテクノロジーの分野においても,「組み替えDNA技術の安全性」に関し検討が進められている。
(ニ)国際連合
国連総会の下で開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力のあり方を検討する「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD:Intergovern-mentaICommitteeonScienceandTechnologyforDevelopment)」の第7回会期が5~6月に国連本部で開催され,第40回国連総会では,同委員会の報告書を承認するとともに,科学技術融資システムの今後のあり方につき国連事務総長に意見の提出を求める旨の決議を採択した。
(ホ)その他
このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO)等の,国連専門機関,国連システム内及びその他の国際機関でも,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題等についての意見や情報の交換,政策面での検討等の協力が行われている。
2.宇宙の開発と利用
(1)我が国は,85年4月から2年間にわたり実施される米国の恒久的有人宇宙基地計画の予備設計作業に欧州宇宙機関(ESA)及びカナダとともに参加するための実施取決めを85年5月に米国と締結した。また,88年初めに我が国の宇宙飛行士が米国のスペース・シャトルに搭乗して,各種の宇宙実験を行う第1次材料実験(FMPT)計画に関する協力のため,3月に交換公文を取り交した。
(2)欧州との関係では,86年4月に第11回日・ESA(欧州宇宙機関)行政官会議がパリで開催された。
オーストラリアとの間では,「ひまわり3号」の運用に関する協力のため,5月に交換公文を取り交した。
(3)第40回国連総会では,国連宇宙空間平和利用委員会第28会期(6月)の報告書を承認し,「宇宙空間の平和利用に関する国際協力」と題する決議(40/146)が採択された。
(4)85年10月,国際電気通信衛星機構(インテルサット)の第10回締約国総会がワシントンで開催され,また,国際海事衛星機構(インマルサット)の第4回総会がロンドンで開催された。
3.南極地域の調査と保全
(1)85年10月,第13回南極条約協議国会議がブラッセル(ベルギー)で開催され,また,南極の鉱物資源に関するレジーム作りのための協議国特別会議が,85年2~3月,及び9~10月にリオデジャネイロ及びパリで開かれた。
(2)南極問題は,12月の第40回国連総会において前総会に引き続き議題となり,鉱物資源協議に関する情報提供要請等に関する3つの決議が採択された。
4.原子力の平和利用
(1)概況
86年3月現在,我が国の原子力発電設備容量は33基,約2,468万kwと米,仏,ソ連に次ぎ世界第4位の地位を占め,また85年度の発電電力量で我が国と諸外国との原子力分野の協力も一層強化されることが期待される。
このような我が国の事情も背景に,85年も原子力の平和利用と核拡散防止との両立を図るべく,多数国間及び二国間で種々の協議が行われた。
(2)チェルノブイリ原発事故
86年4月末ソ連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所で事故が発生し,我が国を含む広範な地域で事故に起因する放射性核種が検出された。この事故について,ソ連が直ちに関係国に事故通報を行わなかったことは,国際的な問題となり,直後に開かれた東京サミットにおいて,中曽根内閣総理大臣のイニシアティヴの下に,対ソ非難という立場ではなく,かかる事故が全世界に与えうる深刻な影響に鑑みて,安全性,事故報告制度,相互緊急援助の面で,国際原子力機関(IAEA)の下での国際協力を強化してゆく必要があるとの考え方が各国首脳の支持を得た結果,「原子力事故声明」が発出された。
5月上旬にはブリックスIAEA事務局長ほかがソ連の招待で訪ソし,同月21日のIAEA特別理事会においては,本件について次の結論がとりまとめられた。
(イ)原子力の安全性に関して最高の基準を維持する。
(ロ)事故の評価,事故通報及び相互緊急援助に関する国際協定の作成,等についての準備作業をIAEA事務局長に行わしめる。
(3)各国との原子力協議
(イ)日中原子力協力協定
83年9月の第3回日中閣僚会議を契機とする日中原子力協力協定交渉は,85年7月妥結し,同月開催された第4回日中閣僚会議の際,安倍外務大臣と呉外交部長との間で協定の署名が行われた。
(ロ)米国との関係
日米両国間の原子力協力関係をより安定的なものとすべく,包括同意方式の導入を含む新しい枠組みを作成するための協議は,85年5月,7月,11月及び86年1月開催されかなりの進展をみたが,核拡散防止と原子力平和利用との両立のためさらに議論を尽くすべき点も残り協議を継続することとなった。
この間,東海再処理施設の運転については,暫定的に,現行日米原子力協定に基づく共同決定の期間が86年末まで延長され,その間により長期的な解決を図るとの措置がとられた。
(4)対開発途上国原子力協力
開発途上国に対する原子力協力について,我が国は,従来よりIAEAの技術協力基金に対し米ソに次ぐ拠出を行うとともに,IAEAの「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく協力,特に開発途上国の重要課題である工業,医療問題等の解決に資するためアイソトープ・放射線利用,医学生物学利用プロジェクトを中心に技術,資金面等から積極的な協力を行い,主導的役割を果たしている。また同時に国際協力事業団(JICA)による政府ベース技術協力を通じてアイソトープ・放射線の利用を中心に,研修員の受入れ,専門家の派遣等についても積極的な協力活動を行っている。
(5)国際原子力機関(IAEA:InternationalAtomicEnergyAgency)
(イ)85年9月の総会において,ブリックス事務局長を再任(2期目の任期は89年11月まで)することが決定された。
(ロ)前年に続き総会において対イスラエル制裁を目指した決議案が提出されたが,重要問題に指定され成立しなかった。また南アフリカについては,権利制限,同国からのウラン購入停止等を内容とする決議が成立した。
(ハ)また,同総会においては,中国代表が,自国の原子力施設の一部をIAEAの保障措置下におく意図がある旨表明した。
(6)原子力平和利用国連会議(PUNE)
開発途上国の提唱によるこの会議は,83年の開催予定が86年に延期され,さらに遅れて87年3月に開催されることになった。
(7)経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)
85年には,今後の原子力の見通しと課題についてハイレベルのワークショップを開催し,今後のNEAの活動の方向について検討がなされた。
また,新たな共同事業として,廃炉処分技術に関する情報交換プロジェクトが開始された。