第5節 開発途上国関係
1.南北問題
南北間の相互依存関係はますます深まりつつあるが,累積債務問題,低迷する一次産品市況,アフリカ諸国の構造的食糧不足問題等,途上国のおかれている状態は依然として厳しい。このような中で,アフリカの危機的食糧事情を巡って,官民をあげての世界的支援活動や第39回国連総会(84年)での「アフリカの危機的経済情勢に関する宣言」の全会一致での採択など,南北間の協調的ムードの盛り上がりを見たことは,特筆に値いすると言える。87年には約4年に1度の頻度で開かれるUNCTADの第7回総会の開催が予定されており,86年に入り,本格的な準備作業が始まったが,近年,「南北対話」が大した具体的成果も生み出していない状況下で,しかも,累積債務問題等早急に解決すべき問題を国際社会が抱えている時に開催されるものであるだけに,同総会に南北双方が建設的姿勢で取組むことが極めて重要である。
2.累積債務問題
開発途上国の累積債務問題は,債務国の債務返済努力,IMFを中心とした関係者の適切な対応により,当面の危機は乗り切ってきているが,85年には先進国経済の減速,一次産品市況の低迷を背景とした輸出の伸び悩みなどから,債務国の債務返済負担増大等の債務状況の悪化が見られた。85年中のリスケジュール(債務返済繰延べ)は,民間債権者によるものについて870億ドル,公的債権者によるものについて60億ドルとなり,いずれも過去最高となった。また,84年に民間銀行との間に実現を見た多年度リスケジュール(支払期限の多年度にわたる繰延べ)が,公的債権者については初めてのケースとして,85年4月パリ・クラブにおいてエクアドルとの間で合意を見たが,全体としては多年度リスケについて期待されたほどの進展は見られしなかった。
85年には,債務国の輸入・財政支出削減等の厳しい経済調整政策の維持が必ずしも成長に結び付かず,債務状況の改善が見られなかったことから,一部の債務国では政治的・社会的困難が増大し,いわゆる「調整疲れ」が見られ,中には債務返済額を一定に制限することを主張する国も現われた。この背景には,民間銀行融資を始めとする途上国への資金フローが低迷している状況があるところ,85年10月ソウルにおいて開催された世銀・IMF総会において,米国のベーカー財務長官は主要中所得債務国について,債務国自身のマクロ経済調整,構造調整政策の採用,世銀等国際開発金融機関の構造調整融資資金の拡充,民間銀行融資の拡充を三本柱とする「持続的成長のためのプログラム」を提唱し,この新たなイニシアティヴに対し,関係者より基本的な歓迎の意が表明された。ベーカー長官はまた,一次産品市況の低迷が続く中で債務返済困難の深刻化が見られたアフリカ等の低所得国向けに,IMFトラストファンド返済金を利用して融資を拡大することを提案し,86年3月のIMF理事会においては,低所得国の構造調整のための新ファシリティーの設立が決定された。
86年に入って見られた石油価格の下落は,非産油途上国の経常収支改善及び先進国の成長促進,インフレ及び金利低下等の国際経済環境の好転等,債務問題の解決にとり好ましい影響をもたらすものと考えられる一方,メキシコ等の産油債務国の資金繰りの悪化が懸念され,これまで以上に,債務国の構造調整努力の促進と,先進国の好ましい国際環境造りへの努力の重要性が増大している。