第4節 国際通貨・金融問題
1.国際通貨情勢
85年の外国為替市場の特筆すべき動きは,80年以降米国経済に対する信認,高金利等を背景として継続していたドル高基調が,85年9月に開催された5か国蔵相会議以降急速に是正されたことである。
(1)米ドルは米国の経常収支・財政のいわゆる双子の赤字拡大による先行不安にもかかわらず,85年前半も高金利を背景に対円,欧州通貨ドル高基調にて推移した。
このようなドル高基調に対し,85年9月に開かれた5か国蔵相会議(G-5)は,各国は持続的成長の強化のための政策措置の実施の決意を表明,また為替相場に関しては,各国間の基礎的経済条件が為替市場に十分に反映されていないとの見解を明らかにした。為替市場では既に長期のドル高に対する警戒感が高まっていたところに,米国景気の鈍化傾向が明らかになりつつあった時期というタイミングの良さに加え,米国のドル高放置策の転換と各国通貨当局の積極的な協調介入により対円,欧州通貨に対するドル高是正は急速に進展した。
(2)円の対米ドル相場は,85年前半は1ドル250~260円台にて推移し,7,8月にやや円高となったものの,G-5直前では242円のレベルであった。しかるに,G-5以降は10月末211円台,12月末200円台,3月には一時174円台となるなど,円は半年の間に約35%のかってない急激な円高を記録した。また,欧州通貨に対しても80年以来引き続き円高基調を保っている。
円相場のこうした動きは,我が国経済の良好なファンダメンタルズを反映したものと考えられる。
(3)一方,欧州通貨は,雇用情勢の悪化,景気先行の不透明感なども加わって,85年年初に米ドル及び円に対し軒並み史上最安値を記録した。
しかし,その後徐々に値を戻していたところにG-5以降のドル高是正により,石油価格低下の影響を受けた英ポンドを除き,欧州通貨もドルに対し急速に上昇した。欧州各国の経済パフォーマンスの格差は各通貨の対米ドル上昇率の差となって表われ,欧州通貨制度(EMS)は86年4月,3年振りに独マルクの切上げ,仏フランの切下げを中心とする多角調整を行った。
2.国際通貨基金(IMF)を巡る動き
(1)国際通貨制度の改善
85年9月のIMF暫定委が国際通貨制度の機能改善に関するG-10及びG-24両報告書につき予備的な意見交換を行ったのに引き続き,86年4月のIMF暫定委は国際通貨制度に関し本格的な意見交換を行った。その結果,現行制度の弾力性を評価しつつ,為替相場の変動及び長期の不整合性が懸念材料であることを認識し,一層適切な為替レートの実現のため各国による政策協調の必要性が指摘された。IMF理事会は,為替レートの安定及び政策の相互一貫性を高めるのに貢献し得るであろう制度上の変更の可能性を更に検討することとなった。また,通貨制度の機能においてIMFサーベイランスの果たす重要な役割が確認され,政策運営及び経済パフ才一マンスの中期的枠組に関し,一連の客観的指標の作成の検討,IMF「世界経済見通し」において主要先進国における政策の相互作用の分析に一層の重点をおくことが留意された。
(2)SDR問題
イ86年4月のIMF暫定委は,SDRに関し,準備通貨として一層魅力あるものとすべく通貨としての性格の改善につきIMF理事会が検討するよう勧告した。また,暫定委は,SDR配分問題を討議したが,大部分の国が配分に好意的であったものの,配分につき合意は得られなかった。暫定委は理事会に対し,SDRの役割及びSDR配分に関する討議を続行し,この討議の進行状況について次回暫定委において報告するよう求めた。
ロ85年10月のIMF暫定委員会は,増枠融資制度を86年においても存続させるが,融資限度枠を縮小し次のとおりとすることで合意した(括弧内は85年の利用枠)。
(イ)通常ケース1年90%(95%),3年270%(280%),累積400%(408%)
(ロ)特別ケース(国際収支の特に悪化した国を対象)1年110%(115%),3年330%(345%),累積440%(450%)
(3)構造調整ファシリティーの創設
85年10月のIMF暫定委は,85年から91年にかけて利用可能となるトラスト・ファンド返済金(約27億SDR)をIDA適格の低所得国支持のために利用することを合意したところ,これを受け具体的運営の検討作業を進めたIMF理事会は,3月26日,構造調整ファシリティーを創設した。
(4)IMF資金の利用状況
85年のIMF融資実績を見ると,加盟国による純引出し額(引出し額(注)から返済額を差し引いたもの)は,4億SDRと,前年の50億SDRから大きく減少した。この要因として,過去に行われた多額の融資からの返済の増大と新規融資の減少が挙げられる。
開発途上国向け引出し(注)は40億SDRと,前年の73億SDRから減少する一方,途上国からの返済は36億SDRと,前年の23億SDRから増加した。
一方,85年における新規融資コミットメント額は12億SDRと,前年の6億SDRから倍増した。
(注)各国の対外準備とみなされ引出し自由なリザーブ・トランシュを除く。