9.太平洋協力

(1)全般

近年,太平洋地域のダイナミックな経済発展を背景として太平洋地域に対する関心が高まっている。

これに伴い,(a)ASEAN拡大外相会議の場における太平洋協力の話合い開始,(b)中曽根内閣総理大臣の太平洋協力に関する四原則提唱等の動きがあり,注目を集めるに至っている。

85年は,ASEAN拡大外相会議の場における人造り協力,PECC,PBEC等民間における諸活動等に1おいて着実な進展が見られた。

(2)ASEAN拡大外相会議

84年7月,ジャカルタにおけるASEAN拡大外相会議において,インドネシアのモフタル外相の発案により,多数国の政府レベル間として,初めて太平洋協力が取り上げられ,手始めに,「人造り」問題に取り組むことが合意された。

これを受けて,85年4月,同会議で安倍外務大臣の提唱した「人造りシンポジウム」が,「21世紀に向けてのASEAN及び南太平洋諸国の経済開発と人造り」のテーマの下,東京で開催された。

7月,クアラ・ルンプールにおけるASEAN拡大外相会議においては,過去1年間の事務レベル協議を踏まえて,32件の人造り協力プロジェクトの実施が決定され,我が国は,このうち15プロジェクトにつき実施する用意がある旨表明した。本件会議において,安倍外務大臣は,(あ)職業訓練,教育機関等のネットワーク化による人造りの一層の充実,人と情報の交流の強化,(い)自由貿易体制維持,(う)太平洋地域の産業・貿易構造の高度化等の重要性を指摘した。

また我が国が提案した15プロジェクトのうち,職業訓練・教育機関の有機的連携等に関する「共同研究」については,12月に東京で専門家会合を開催した。本件は,その後86年3月,バンコクでフォローアップ会合が催された。

(3)米国における動き

85年10月,国務省フェアバンクス大使(太平洋担当)の後任として,ダーウィンスキー国務審議官が太平洋担当となり,11月訪日の上,安倍外務大臣を表敬したのを始め,政府関係者並びに民間の主要な太平洋協力関係者と意見交換を行った。

近年,米国において,アジア・太平洋重視の姿勢が見られる。レーガン大統領が86年2月の一般教書の中で,ワシントン・東京間を2時間で結ぶ「ニュー・オリエント・エクスプレス」計画について言及したが,米国が太平洋を舞台にこのプロジェクトを打ち出したことは,アジア・太平洋重視の一つの象徴と考えられよう。

また,4月,レーガン大統領は,米国商工会議所での演説において,近年,太平洋諸国の発展が著しいこと,及び,日本を米国の太平洋政策の柱としている点につき言及している。さらに,東京サミット直前の4月末,レーガン大統領及びシュルツ国務長官は,インドネシアを訪問し,スハルト大統領及びASEAN諸国の外相と一連の会談を行った。

(4)主な民間機関の動き

(イ)太平洋経済協力会議(PECC)

政府(ただし個人資格)・経済界・学界の三者で構成されるPECCにおいては,85年4月,ソウルにおいて第4回総会が開催された(我が国からは,森山外務政務次官,大来外務省顧問等参加)。

同会議においては,各国の参加者より,主として保護主義の台頭に対する懸念が表明され,GATT新ラウンドの早期開始が必要であることなどにつき意見の一致を見た。また,(1)漁業開発及び協力,(2)鉱産物・エネルギー,(3)貿易,(4)対外投資,(5)畜産及び飼料・穀物の5つのタスクフォース(または,スタディグループ)の活動計画が採択された。

その後,総会の合意に基づき,86年3月には,貿易政策フォーラム(サンフランシスコ),4月投資会議(バンコク)が各々開催されたほか,鉱産物・エネルギーフォーラム(7月,ジャカルタ)等の活動が予定されている。

また86年1月中曽根内閣総理大臣訪加の際,マルルーニー首相との間で,太平洋協力を推進することにつき合意を見,総理より86年11月のPECCバンクーバー総会の成功に向けて,協力を行うことを表明した。

(ロ)太平洋経済委員会(PBEC)

財界人により構成されるPBECは,85年5月にオークランドで「太平洋の協力一信頼の確立」のテーマの下,第18回総会を開催した。

また,PBEC国際役員は,各国首脳との意見交換を順次行っており,85年3月のシュルツ米国務長官との懇談に続き,11月安倍外務大臣,86年3月クラーク=カナダ外相と各々懇談を行った。

(ハ)その他の主要民間活動

(a)太平洋諸国の著名な学者により構成される太平洋貿易開発会議(PAFTAD)は,85年8月東京にて,第15回会議を開催した。

(b)また,85年5月には,故大平総理の提唱した「環太平洋連帯構想」の継承とその思想の普及を主な目的として大平正芳記念財団が設立された。

同財団は,同構想の発展に貢献した学術論文・著書を対象として7月,第1回「大平正芳記念賞」の授与を行った。

(c)86年3月には,外務省・通商産業省・エネルギー総合推進委員会・国際石油交流センターの共催で「太平洋エネルギー協力会議」(SPEC)が各国からの参加者を得て東京で開催され,今後の太平洋地域のエネルギー協力の方向性に関する種々の有益な討議が行われた。

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