6.ソ連・東欧地域

(1)ソ連

政府としては,我が国の重要な隣国であるソ連との関係については,北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより,真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することを基本的課題として,従来より一貫して対処してきている。

近年,日ソ関係は,厳しい東西関係を背景として,北方領土問題が未解決であるばかりでなく,北方領土を含む極東地域においてソ連軍が増強されていること,国際社会においても,ソ連軍によるアフガニスタン侵攻,大韓航空機撃墜事件があったことなど種々の理由により,遣憾ながら依然として厳しい状況にある。

こうした状況の下で,我が国がソ連に対して,言うべきことは言い,通すべき筋は通しつつ,対話を通じて意思疎通を図っていくことは,日ソ間の無用の誤解や対立を避けるのみならず,北方領土問題を始めとする日ソ間の基本的諸問題の解決に一歩でも近づくためにも重要である。このような観点から,我が国は,84年以降,我が国のイニシアティブにより,日ソ間の種々のチャネルでの対話を実施してきている(詳細は,第2部第1章第6節2.「我が国とソ連・東欧諸国との関係」を参照)。

85年3月に誕生したゴルバチョフ新政権は,我が国を含む諸外国との対話は拒むどころか積極的に進めるとの姿勢を示し,日ソ間の懸案となっていたソ連外相の訪日を決定した。

シェヴァルナッゼ外務大臣は86年1月,ソ連外相としては10年振りに我が国を公式訪問し,安倍外務大臣との間で8年振りに日ソ外相間定期協議が行われた。シェヴァルナッゼ外務大臣は,東京滞在中に中曽根内閣総理大臣と会見し,日本国総理大臣のソ連邦公式訪問の招待を内容とするゴルバチョフ書記長の書簡を伝達した。

安倍外務大臣とシェヴァルナッゼ外務大臣との間で行われた日ソ外相間定期協議においては,日ソ関係の諸問題及び双方が関心を有する国際問題について討議が行われた。

シェヴァルナッゼ外務大臣の訪日の結果については,1月19日に表明された「日ソ共同コミュニケ」に述べられているとおりであるが,日ソ両国の最高首脳レベルをも含めて両国間の政治対話の一層の強化につき日ソ間で合意を見たこと,及び領土問題を含む平和条約交渉が10年振りに再開され,その継続につき合意を見たことは,我が国の今後の対ソ外交を進めるに当たって重要なできごとであった。

特に,領土問題については,安倍外務大臣は,シェヴァルナッゼ外務大臣との間で約3時間にもわたり交渉を行った。シェヴァルナッゼ外務大臣の領土問題の実質についての発言は,残念ながら,従来から明らかにされてきたソ連側の立場の域を出るものではなかったが,1月に再開された平和条約締結交渉を新たな出発点として,国民の総意に基づき,歯舞群島,色丹島,国後島及び択捉島の四島の返還に向けてさらに粘り強く交渉することの必要性がますます強く認識される。

安倍外務大臣とシェヴァルナッゼ外務大臣との会談の結果を踏まえて,日ソ双方の関係者がさらに今後とも一歩ずつ地道な努力を重ねることが期待される次第である。

1月19日付の日ソ共同コミュニケにおいては,86年中の安倍外務大臣の訪ソ及びシェヴァルナッゼ外務大臣の87年中の我が国訪問が合意されてお

北方領土

り,これが,8年振りに行われた日ソ外相間定期協議を文字どおり定期的なものとし定着させていくことが期待される。

一方,日ソ最高首脳の相互訪問については,政府としては,過去における日ソ首脳の往来の経緯に鑑み,まずゴルバチョフ書記長を我が国に迎えたいと考えている。

日ソ間の基本問題である領土問題を解決して平和条約を締結することにより,真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが,政府の対ソ関係を進める上での基本方針である。経済,文化等の分野における実務関係については,上記の基本方針を柱として,互恵,平等の見地に立って進めていくこととしており,シェヴァルナッゼ外務大臣の訪日の際にも,「日ソ間貿易支払協定」,「日ソ沿岸貿易に関する交換公文」,「日ソ租税条約」が署名されたほか,文化協定の早期締結のため85年5月に再開された交渉を継続することで意見の一致をみたところである。

1956年,日ソ共同宣言により,日ソ間に国交が再開されてから86年は30年目の節目の年に当たる。この間,我が国とソ連との関係は,経済・貿易・文化などいろいろの分野において進展を見てきている。例えば,戦後4,000万ドル程度で始まった両国間の貿易は,85年には46億ドル近くに上っており,我が国は,ソ連の西側貿易相手国の中で,依然重要なパートナーとなっている。

(2)東欧地域

(イ)(あ)ワルシャワ条約(WP)加盟の東欧諸国(注)との関係については,我が国は各国の国情及び政策に留意しつつ,要人往来,経済・文化面での交流等を通じ友好関係の促進に努めている。

(注)ワルシャワ条約機構加盟国はソ連のほか,東独(ドイツ民主共和国),ポーランド,チェッコスロヴァキア,ハンガリ、ルーマニア,ブルガリアの東欧6か国。

(い)85年も多くの国との間で要人往来があり・首脳レベルを含め実りある対話が行われた。特に85年6月,安倍外務大臣が我が国の外務大臣として初めて東独を,また18年振りにポーランドを各々訪問し,軍縮等の国際問題及び二国間関係の促進につき両国の指導者と率直な意見交換を行ったが,この訪問は,両国との相互理解を増進するとともに,安倍外務大臣が83年8月に行ったルーマニア,ブルガリア歴訪と同様に我が国の対東欧外交の推進に大きく貢献するものであった。

(う)経済面ではポーランド,チェッコスロヴァキア及びハンガリーとの間で各々政府間の経済混合委員会を行ったほか,巨額の対外累積債務を抱えるポーランドに対して,西側諸国とともに公的債務の繰延べを実施した。

(ロ)我が国は,独立・非同盟路線を堅持するユーゴースラヴィアの外交姿勢を高く評価している。かかる観点から,85年10月中曽根内閣総理大臣は国連総会出席の機会を利用してヴライコヴィッチ連邦幹部会議長(元首)と会談を行った。また,経済面では,ほかの西側諸国とともに公的債務の繰延べを実施した。

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