4.中南米地域
(1)中南米地域は,約3億7,500万人の人口を有し,開発途上国の中にあっては,「中進国」に位置付け得る比較的所得水準の高い国々を含む33の独立国から成り,広大な土地と豊富な天然資源,人的資源にも恵まれ将来に向けて大きな発展の可能性を秘めた地域である。その国際社会における政治,経済的な地位も近年ますます増大している。
(2)これら中南米諸国と我が国とは,政治面で伝統的に良好な関係にあるほか,経済面でも同地域の豊富な資源と我が国の工業,技術力を背景とする相互補完関係にある。近年,中南米諸国は自国の経済社会開発を推進するに当たり,経済大国となった我が国による協力に対し期待感を強めてきている。また,中南米には100万人に近い在留邦人と日系人が在住しており,我が国と中南米諸国との友好関係の促進にも大きな役割を果たしている。
(3)我が国と中南米諸国との経済関係は戦後順調に進展してきており,中南米は我が国にとっての重要な資源供給地となっている。
我が国の対中南米貿易の往復額は,60年には6億ドルであったものが,81年には史上最高の172億ドルを記録した。その後,世界経済の停滞と世界貿易の縮小,累積債務問題を始めとする中南米諸国の経済困難等の影響もあって,若干落ち込み,85年実績は147億ドルとなっている。
また,我が国の対中南米投資は年々増加を続け,投資累計額は,130億2,000万ドル(85年3月末現在,許可ベース)であり,我が国の海外投資総額の約18.2%を占め,地域別で見ると北米,アジア地域に次いで第3位である。
(4)我が国の対中南米経済技術協力は年々拡大傾向にあるが,同地域には中進国が多いこともあり,政府ベースの協力は,ほかの開発途上地域と比較して技術協力の比率が高いことに特徴がある。全体としては輸出信用等を活用した民間レベルの経済協力が中心となっている。
(5)我が国と中南米との間では,近年においては,要人の相互往来を始めとして人的交流も深まりつつあり,また文化,科学技術面等の交流も活発になってきており,今後とも多角的な関係の構築に向けて努力を払うことが重要になっている。
このような状況を背景に,85年9月から10月にかけて,安倍外務大臣はブラジルを公式訪問するとともに,大地震発生直後のメキシコを訪問し,被災地等を見舞った。中南米からは,85年6月にコロンビア外相が外務省賓客として,また5月から9月にかけて筑波科学万国博覧会賓客としてコスタ・リカ大統領,ジャマイカ首相,ウルグァイ外相等が訪日した。
(6)流動化する中米情勢については,85年5月,ニカラグァの民主化促進を目的に米国が対ニカラグァ経済制裁措置を発表したこと等により両国間の関係はさらに悪化したが,コンタドーラ・グループの和平努力は精力的に継続され,中米和平協力協定最終案を巡り,関係国間で協議が続けられている。我が国は中米問題が早期に平和的に解決されることを希望するとともに引き続きコンタドーラ・グループの和平努力を強く支持している。
(7)中南米諸国は引き続き経済困難に直面しており,累積債務問題については,債務国の自助努力,IMF,債権国政府等の支援措置,民間銀行団による多年度債務一括繰延べ等により,当面の危機は一応回避してきている。しかし85年に入って石油を始めとする一次産品価格の低下,世界貿易の縮小,高金利等の要因により,中南米諸国の債務問題は再び深刻化しつつある。
我が国は,本問題に関し,パリ・クラブ(債権国会議),国際民間銀行団による債務繰延べ,IMF等国際機関を通じる協力等により可能な限りの支援を行ってきている。
(8)また,85年,中南米では9月のメキシコ地震,11月のコロンビア火山噴火と,二つの大きな自然災害が発生し,大きな被害が生じた。我が国は,地震国,火山国としての経験を生かしつつ,何れも過去最高額に上る緊急災害援助,医薬品供与や救急医療チーム,地震等専門家チームの派遣など,迅速かつ大規模な援助を実施したほか,安倍外務大臣自ら見舞いのためメキシコを訪問した。
85年12月には,これら災害の経験に基づき,我が国は,今後開発途上国で大災害が発生した場合の協力体制整備のため,国際緊急援助隊を設置した。