4.国際経済の動向

先進国経済の景気回復は,3年目を迎えて減速傾向(OECD加盟国実質GNP成長率84年4.9%→85年2.8%)を見せるとともに,各国の財政収支,経常収支の不均衡が拡大し,また欧州を中心に依然高い失業率が続いた。85年は,かかる経済情勢を踏まえ,インフレなき持続的成長の維持に向けて,各国の政策協調が求められた年であった。

83年以降景気回復を主導してきた米国経済は,成長が鈍化(84年6.5%→85年2.2%)するとともに,大幅な財政赤字(85年度2,123億ドル)及び経常収支赤字(85年1,177億ドル)を記録した。他方,日本,西独等は,85年も経常収支黒字幅を拡大した。これらの不均衡は,世界経済の不確実性要因となっており,また産業調整の遅れ,雇用問題等の構造的要因とあいまって,各国の保護主義圧力を高めた。世界貿易量も85年に入って伸び悩みの傾向を示した(84年9%増→85年3%増)。

これに対し,主要先進国は,OECD閣僚理事会(85年4月)やポン・サミット(85年5月)等の場で,共通の政策原則を確認するとともに,各国が優先的に取り組む政策分野を明らかにした。5か国蔵相会議(9月)で,主要通貨間の為替レートが各国の基礎的条件をよりよく反映した水準となるよう,より緊密に協力することが合意されたこともあって,その後ドル高の是正が進展した。また主要国の協調の下に金利も低下し(86年3月及び4月),さらに東京サミット(同5月)では,先進諸国間の政策協調を更に強化すべく,各種の経済目標を活用して多角的監視を実施することが合意された。新ラウンドについては,GATT総会(85年11月)で,準備委員会を設置すること,及び,新ラウンドに関する閣僚会議を86年9月に開催することが決定された。また経済の実体面においても,85年秋頃より,ドルレート是正,金利低下,石油価格低下等の進展が見られ,世界経済の成長の見通しも改善されてきた。こうした傾向は,総じて世界経済の将来に明るい展望を与えるものであり,かかる情勢の下,インフレなき成長を更に確固たるものとすべく,各国の努力が期待されている。

開発途上国では,先進国経済の成長鈍化とそれに伴う世界貿易の伸びの停滞,一次産品市況の低迷等から,経済情勢は厳しさが増しており,累積債務問題についても債務返済負担の増大が見られた(85年末途上国累積債務総額9,500億ドル)。これに対し,世銀・IMF総会(10月)において,米国は「持続的成長のためのプログラム」を提案し,債務国の成長実現のための関係者の協力強化が図られた。また86年に入っての石油価格低下の影響も注目される。

国際石油市場では,需給緩和基調の下,スポットリンク,ネットバック等市場連動的な原油価格決定方式が一般的となった。85年年央までサウディの減産等により,自由世界の原油供給に占めるOPECのシェアは低下傾向にあったが,サウディアラビアが生産調整役を放棄するとともに,10月頃ネットバック価格(製品価格から逆算した原油価格)による販売を開始し,またOPEC全体としても12月の定例総会で「公正なシェア確保」の決定を行った。これを受けて,86年第1四半期に原油価格は10ドル/B台まで大幅に下落した。

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