第7節 国連専門機関
1.概況
(1)国連専門機関は,労働,教育・科学・文化,農業,保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的・技術的観点から各分野における多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。
(2)近年専門機関の場に国際政治問題が持ち込まれる傾向にあるが,84年には第19回万国郵便連合(UPU)大会議では南アフリカ追放決議が,また第37回世界保健機関(WHO)総会ではイスラエル非難決議が採択された。
また,近年各専門機関の事業活動を拡大し,開発途上国に対する援助の強化を志向する開発途上国の動きが目立ち,先進国との間に予算等を巡り激しい議論が行われる例が見られたが,84年は多くの専門機関においては予算審議の年でなかったため審議は比較的平穏に推移した。
(3)他方,国連教育科学文化機関(UNESCO)においては,その現状に対する批判,改革の議論が広がり,現状に強い不満を抱く米国が84年末で脱退し,また英国及びシンガポールは脱退を通告した。
国際労働機関(ILO)においては,ポーランドが同国の労働組合問題の取り扱い振りを不服として,脱退を通告した。
(4)我が国は,世界保健機関(WHO)を除くすべての専門機関で理事会メンバーを務め,その事業活動に積極的に貢献するとともに,財政面においても,分担金のほか多くの任意拠出金を拠出した。
2.各国連専門機関における活動
(1)国際労働機関(ILO:International Labour Organisation)
(イ)84年1月~85年3月の間には,第70回総会及び第225~229回理事会が開催された。
第70回総会では「雇用政策に関する勧告」が採択され,「賃金労働時間統計条約」,「職業衛生機関」に関する討議が行われた。
(ロ)ポーランドは第228会理事会においてポーランドの労働組合問題に関する審査委員会の報告がテーク・ノートされたことに抗議し,11月脱退を通告した。
(ハ)我が国は84年度,ILOに対して分担金1,300万ドル(分担率10.23%)を支払い,マルチ・バイ方式による技術協力として「中小企業の労働条件改善のための訓練にかかるアセアン諸国ワークショップ」のため1,300万円の任意拠出を行った。
(2)国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Edu-cational, Scientific and Cultural Organization)
(イ)83年末ユネスコにおける過度の政治化傾向,予算の無制限な膨張等を理由に脱退通告を行った米国は,その後84年を通じ十分な改革が見られなかったとして同年末をもって脱退した。また12月英国はユネスコは一層の改革が必要であるとして,さらにシンガポールは自国の分担金が不公平であるとして各々脱退通告を行った。
(ロ)米国の脱退通告を契機にユネスコ改革問題が大きく取り上げられ,5月の第119回執行委員会において改革のための臨時委員会が設置され,9~10月の第120回執行委員会においては同臨時委員会が作成した改革のための勧告案が承認された。
さらに,85年2月,米国の脱退に伴う諸問題を審議するために第4回特別執行委員会が開催された。
(ハ)我が国は,ユネスコ改革のための臨時委員会のメンバーとして,改革勧告案作りに参加する等,ユネスコ改革に積極的に取り組んできた。83年7月にムボウ事務局長が来日した際,安倍外務大臣より,同事務局長に対し改革への努力を要請し,また10月同事務局長宛の外務大臣書簡をもって,一層のユネスコ改革の必要性を指摘するとともに,事務局長の努力を改めて要求した。さらに85年2月特別執行委員会においてユネスコ改革に臨む我が国の強い決意を表明した。
(ニ)そのほか84年1月~85年3月に開催された主要会議としては第5回アジア・太平洋地域教育担当大臣経済企画担当大臣会議,第4回国際成人教育会議,第39回国際教育会議,第24~26回国際教育局理事会,第6回国際水文学計画政府間理事会,第13回海洋学政府間委員会(IOC)総会,第17及び18回IOC執行理事会・第5及び6回国際情報開発計画政府間理事会等がある。
(ホ)84年度我が国は,分担金1,750万ドル(分担金10.19%),国際情報開発計画(IPDC)に30万ドル,東南アジア基礎科学地域協力事業に10万ドル,西太平洋地域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業信託基金に計約16万ドル,東南アジアMAB(人間と生物圏)計画事業に2万ドルのほか,ヌビア及びモヘンジョダロの各遺跡救済事業に計11万ドル等を拠出した。
(3)国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organiza-tion of the United Nations)
(イ)84年に開催された主な会議は,世界漁業管理開発会議(7月)及び第86回理事会(11月)である。
世界漁業管理開発会議は新海洋法秩序の下での特に開発途上沿岸国の排他的経済水域(EEZ)内漁業資源の管理開発を審議する,漁業に関する国際会議としては国連海洋法会議以来の重要な会議であり,「戦略」及び「行動計画」が審議・採択された。
第86回理事会においては,アフリカの食糧農業事情が最大の議題として審議され,アフリカの食糧事情に関する決議が全会一致で採択された。また,85年を国際森林年として宣言する決議が採択された。
(ロ)FAOは,WFPと合同で83年にアフリカの食糧事情調査タスクフォースを設立し,84年中随時同情勢に関する報告を発表し,これら報告書はアフリカの危機的な食糧情勢についての各国の理解を深める一助となった。
(ハ)我が国はFAOに対し,84年の分担金として2,458万2,000ドル(分担率12.46%)を支払ったほか,フィールド・プロジェクトに約180万ドルを拠出した。
(4)世界保健機関(WHO:World Health Organization)
(イ)5月の第37回総会においては,82~83年の会計報告等財政問題,乳幼児哺育の現状と評価,必須医薬品に関する行動計画等が審議された。
(ロ)そのほか,84年には第73回及び74回執行理事会並びに各地域委員会が開催された。
(ハ)我が国は,84年,WHOに対し分担金2,384万1,170ドル(分担率10.14%)を支払い,また約139万ドルを任意拠出した。さらに,WHOの附属機関である国際がん研究所に対し分担金80万9,142ドルを支払った。
(5)国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)
(イ)84年2~3月,第111回理事会において大韓航空機事件のICAO調査報告書の審議が行われた。我が国は同報告書によりソ連の撃墜行為の不法性が改めて明らかになったとの立場から他の諸国と協力し,大韓航空機の撃墜行為を非難し,再発防止への各国の協力を求める決議を採択させた。
(ロ)5月の第25回(臨時)総会においては,民間航空機に対する武力不行使の法典化のための国際民間航空条約改正議定書が我が国を含む全会一致で採択された。
(ハ)85年3月,第114回理事会での事務局長選挙においては,ランベール現事務局長がコンセンサスをもって再選(任期3年)された。
(ニ)なお,我が国は84年分担金として245万7,063ドル(分担率9.07%)を支払った。
(6)万国郵便連合(UPU:I'Union Postale Universelle)
(イ)84年6~7月の大会議では,国際事務局長選挙並びに執行理事会及び郵便研究諮問理事会の理事国選挙が行われ,ポット・デ・バロス(ブラジル)が国際事務局長に選出された。また,年次経費の最高限度額の決定及び連合経費の分担等級の増設を含む条約改正等が行われた。
(ロ)そのほか84年1月~85年3月には,執行理事会,郵便研究諮問理事会等が開催された。
(ハ)なお,我が国は,84年,分担金94万スイス・フラン(分担率4.7%)を支払つた。
(7)国際電気通信連合(ITU:International Telecommunica-tion Union)
(イ)4月の管理理事会では,85年予算,技術協力等についての審議が行われた。
また,国際電信電話諮問委員会総会においては81年から84年までの研究成果のとりまとめ及び85年から88年までの作業計画の決定が行われた。
(ロ)なお,我が国は84年において,分担金664万2,000スイス・フラン(分担率6.9%)を支払った。
(8)世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)
(イ)5月,第37回WMO執行理事会が開催され,世界気象監視(WWW:World Weather Watch)計画,世界気候計画,気象計画の応用,技術協力計画等が審議された。
(ロ)我が国は,ESCAP/WMO台風委員会の訓練部門に対し,気象学並びに河川及びダム工学に関する研修コースを実施する等の協力を行った。また,84年WMOに分担金178万9,770ドル(分担率3.49%)を支払った。
(9)国際海事機関(IMO:International Maritime Organiza-tion)
(イ)84年には「特定物質の海上輸送に関連する損害についての責任及び補償に関する国際会議」を開催し,69年の油濁民事責任条約及び71年の国際油濁損害補償基金条約の改正議定書を採択するとともに,機関の各委員会において,海上人命安全条約及び海洋汚染防止条約の改正等について検討を行った。
(ロ)我が国は85年に98万2,855ドルの分担金(分担率9.70%)を支払った。
(10)世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)
(イ)11月のバイオテクノロジー発明と工業所有権に関する専門家委員会では,生命工学技術の保護に関する総合的な検討をWIPOにおいて行うべきであることが決められた。
(ロ)85年2月のコンピューター・ソフトウェアの保護に関する専門家委では著作権によりどの程度まで保護が可能であるかにつき検討がなされたが,結論を採択するには至らなかった。
(ハ)我が国は84年,98万7,325スイス・フランの分担金(分担率4.9%)を支払つた。