2. 国際協力事業団(JICA:Japan Intemational Cooperation Agency)を通ずる政府ベースの協力

(1)研修員受入れ

研修員受入事業は,開発途上諸国の中堅技術者,行政官,研究者ほかを当該国政府または国際機関の要請に基づき,日本に受入れて,我が国の進んだ技術を研修する機会を与える技術協力の最も基本的な形態である。

84年度中に新規に受入れた研修員は,5,165名であった。これによって,我が国が54年以来JICAを通じて政府ベースで受入れた研修員は,合計55,615名に達した。

研修員受入れ(JICAベース,1954~84年度末累計実績)

他方,JICAベース技術協力の一環として実施している第三国研修は,75年タイにおいて実施されて以来着実に拡大し,84年度には17件12か国(メキシコ,タイ,チリ,シンガポール,インドネシア,フィリピン,フィジ、マレイシア,ペルー,ケニア,象牙海岸及びパプア・ニューギニア)で実施されるに至った。第三国研修は,開発途上国が我が国の資金的,技術的協力を得て,当該国と自然的,社会的あるいは文化的環境を同じくする近隣諸国から研修員を招請し研修を実施するものであり,開発途上国間の技術協力を促進するとともに,より途上国の実情に即した研修を実施し得るという利点がある。

81年1月,鈴木総理大臣(当時)がASEAN諸国を歴訪した際,「ASEAN人造りプロジェクト構想」との関連で提唱したJICAの附属機関としての「沖縄国際センター」は85年4月開館され,コンピューター,視聴覚技術等ASEAN向けの研修を主要な事業として実施している。

また,東京都内にての受入れ研修員の増加に対応すべく建設中であったJICAの「東京国際研修センター」も85年6月に開館された。

(2)専門家派遣

開発途上国の政府,政府関係機関,試験研究機関などにおける企画立案,調査研究,指導,普及活動,助言などの業務の実施を目的として専門家を派遣する専門家派遣事業は,研修員受入事業と並ぶ最も基本的な技術協力の形態である

84年度中にJICAを通じて新規に派遣した専門家は,計6,965名であった。これによって,我が国が開発途上諸国への専門家派遣を開始した54年以来の総計は55,093名に達した。

専門家派遣(調査団を含む)(JICAベース,1954~84年度末累計実績)

また,技術協力の根幹をなすとも言える技術協力専門家の養成確保及びこれら専門家の現地活動の強化を図るため,JICAの機関として,83年10月に国際協力総合研修所を設立し,84年度においては,約1,100名の専門家等に対し派遣前研修等を行い,16名の国際協力専門員(ライフワーク専門家)を確保した。

(3)機材供与

機材供与事業は,派遣専門家,帰国研修員,青年海外協力隊員が技術の指導,普及,移転を行うに当たり必要とされる機材を開発途上国の要請に基づき供与する事業であるなお.この機材供与事業は,後述のプロジェクト方式技術協力に伴う機材などの供与とは別のものであり,通常「単独機材供与」と呼ばれている。

84年度に供与した機材は,約束額ベースで13億6,446万円であった。83年度までの累計総額は,支出純額ペースで90億5,511万円であり,地域配分は,アジア・大洋州49.9%,中近東10.6%,アフリカ11.8%,中南米23.8%,その他3.9%となっている。

(4)開発調査

JICAによる開発調査は,開発途上国などの要請を受けて,当該国の経済,社会開発上有効と認められる公共的な開発計画に関して実施されるもので,フィージビリティ調査,マスタープラン調査.各種資源調査,地形図作成,地下水開発調査等の総称である84年度は,189億円の予算規模(外務省予算及び通商産業省予算)をもって,212件にのぼる調査を行った(複数国にまたがるもの等を除く)。地域別にみると,アジア58%(うらASEAN44%),中近東13%,アフリカ7%.中南米21%,大洋州1%であり,分野別にみると,運輸23%,農林水産業18%,公益事業18%,鉱工業17%,建設11%,通信6%,その他7%である。

(5)プロジェクト方式技術協力

プロジェクト方式技術協力とは,専門家の派遣,研修員の受入れ及び機材供与の3要素を有機的に組み合わせた総合的な技術協力である通常,活動の拠点となるセンター,研究所などにおいて下記の分野における専門技術者等を養成し,もって開発途上国に対する技術の移転・定着を図っている81年1月に表明された鈴木総理大臣(当時)の構想による「ASEAN人造りプロジェクト」は,本方式により実施されており84年度末には本格的な協力段階に入った。

プロジェクト方式技術協力は,以下のとおり5事業に区分される。

(イ)センター協力

開発途上国の技術訓練センターなどを拠点として,各種技術分野における人材の養成・訓練を行う。協力内容は,一般的な職業訓練とインフラ,鉱工業分野での技能者養成及び研究開発プロジェクトに大別される84年度には,54億4,586万円の予算規模をもって,18か国37件(ASEAN人造りプロジェクト5件を含む)の協力を行った。

(ロ)保健医療協力

開発途上国国民の健康の維持増進を図り,社会福祉の向上に寄与することを目的として,途上国で必要とされる医師,看護婦など保健医療部門の人材養成訓練を行う。協力内容は,基礎・臨床医学の研究,特定疾病の抑制対策,地域保健対策に大別される。

84年度には,39億2,700万円の予算規模をもって,26か国34件の協力を行った。

また,82年3月に発足した国際緊急医療体制により,84年12月から85年3月までエティオピア飢餓被災民救済のため4次にわたり救急医療チームを派遣した。

(ハ)人口・家族計画協力

家族計画の広報普及活動・視聴覚教育活動・普及員の養成などを通じ,開発途上国の人口問題に寄与しようというものである。

84年度においては,8億2,900万円の予算規模をもって人口増加に悩むアジアの5か国及び中米1か国を対象に協力を行った。

(ニ)農林業協力

開発途上国の産業構造の中で農業の占める比重は極めて高く,農林業開発への協力は,開発途上国の経済・社会開発上の最重要施策となっている。

農業生産性向上のための技術の移転・普及に重点を置いて実施しており,内容も農業,食糧増産,養蚕,畜産,林業,水産など多岐にわたっている。

84年度には,70億4,976万円の予算規模をもって,19か国45件の協力を行った。

(ホ)産業開発協力開発途上国の地場産業を主な対象として,特定産業の育成・振興のため

の計画作りから人材の養成,技術の研究・開発にまで及ぶ総合的・多角的な協力を行う事業である。

84年度には,15億1,600万円の予算規模をもって,13か国15件の協力を行った。

(6)開発協力

(イ)開発投融資

(a)開発投融資の意義

JICAによる開発投融資は,我が国の民間企業等が開発途上地域などで行う経済協力に対する財政支援制度であり,政府ベースと民間ベースの経済協力の連携の強化及び資金協力と技術協力の結び付きの強化を図るものである。

(b)投融資業務の内容

JICAの投融資は,開発途上地域などの社会の開発並びに農林業及び鉱工業の開発に資する次の事業であって,日本輸出入銀行あるいは海外経済協力基金からの貸付けなどを受けることが困難と認められる事業を対象として,他の政府関係機関に比し相当緩和した条件の資金を供与するものである。

(i) 関連施設の整備

開発事業に付随して必要となる関連施設であって,周辺地域の開発に貢献する施設の整備事業,例えば,道路,橋梁,港湾施設,上下水道,市場,学校,病院,公民館,教会,訓練所などである。

(ii) 試験的事業

開発事業のうち試験的に行われるものであって,技術の改良又は開発と一体として行わなければ,その達成が困難な事業である。

(c)投融資事業の実績

84年度の投融資額は,関連施設の整備,試験的事業合わせて総額11億円となった。

(ロ)開発協力調査及び開発協力技術指導

前述の開発投融資の対象となる事業に対し必要な調査及び技術指導(専門家派遣及び研修員受入れ)を行っている84年度は,26件の調査を実施するとともに,30人の専門家の派遣並びに24人の研修員を受け入れた。

(7)青年海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteers)派遣

青年海外協力隊派遣事業は,我が国の開発途上国に対する技術協力の一環として開発途上国からの要請に基づき,技術を身につけた青年を派遣し,相手国の人々と生活を共にしながら,相手国の社会的・経済的発展に協力し,もってこれら諸国と我が国との親善関係を深めることを目的として,65年に開始された。

協力隊員の派遣は,我が国政府と相手国政府との間での派遣に関する基本取極に基づいて行われている84年度においては,85年1月にコロンビア及びジョルダンとの間に,また3月にはドミニカ共和国(ただし発効は同国の国内手続終了後)との間でそれぞれ派遣取極が締結され85年3月末現在,派遣取極締結国は,37か国となっている(うちカンボディア,ラオス,エル・サルヴァドル,インド及びウガンダの5か国には,現在は隊員を派遣していない)。

84年度には29か国に677名の隊員を派遣した。これにより65年以来84年末までに派遣した隊員の累計は34か国5,598名(うら女性隊員1,000名)となった。なお,85年3月末現在派遣中の隊員数は1,298名(うち女性隊員298名)となった。

青年海外協力隊派遣(JICAベース,1965~84年度末累計実績)

(8)ASEAN青年招へい

ASEAN青年招へい事業は,83年5月,中曽根総理大臣がASEAN諸国を歴訪した際提唱された「21世紀のための友情計画」に基づき,ASEAN各国の青年を5か年にわたり合計3,750名を我が国に招へいするものである84年度はASEAN諸国から合計748名の青年を1か月間招へいし,研修並びに我が国青年との交流を行った。

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