第8節 食糧・漁業問題

1.食糧問題

(1)世界食糧需給動向

84年の世界の穀物生産は,特に米国における生産の回復,西欧での大増産等により,史上最高の生産量を記録し,国連食糧農業機関(FAO)の予測によれば,前年を約8.5%上回る17億8,000万トンに達するものと見られている。

一方,84/85年度(7~6月)の世界全体の穀物貿易量は,ソ連が穀物の不作から輸入を大幅に増加させることが見込まれており,前年度より約5.5%多い2億1,100万トンになると予測されている。

この結果,84/85年度の穀物全体の期末在庫は前年度を約10.5%上回る2億9,400万トン,世界の年間消費量の約18%に回復するものと見られている。

このような穀物の世界的豊作にもかかわらず,特にアフリカの食糧事情は悪化しており,食糧不足・飢餓等が大きな問題となっている。

(2)主要穀物の安定確保

我が国は国内生産と海外からの輸入を適切に組み合わせることにより食糧の安定供給を確保することを基本としている。このため国内で,生産性の向上に努めるとともに適切な備蓄政策を講じ,対外的に主要供給国との友好関係を維持発展させるとともに,アジア諸国を中心とする開発途上国の食糧増産のため資金的あるいは技術上の協力を推進してきている。また国際小麦理事会は,小麦の市況の安定及び世界の小麦問題に関する国際協力の観点から,世界の小麦需給等に関する情報交換及び協議を行っており,我が国は,この理事会の活動に積極的に参加してきている。

2.漁業問題

我が国漁業は83年も1,100万トン台の漁獲量を維持することができたが,この内200万トン余りが遠洋漁業により漁獲されている。新海洋秩序の定着した現在,沿岸国による自国200海里内の漁業資源に対する権利意識の高揚により,遠洋漁業は厳しい環境の下での操業を余儀なくされている。先進国では対外漁獲割当の段階的削減の動きがあり,また,漁業技術移転,合弁事業等自国漁業の振興への協力を入漁条件としてきている。また,開発途上国では自国経済に寄与せしめるため多額の入漁料や性急な経済技術協力を引き続き要求してきている。ちなみに84年7月に開催されたFAO世界漁業管理開発会議は開発途上沿岸国の自国資源に対する権利意識を強く認識させられるものであった。このため今後我が国遠洋漁業を取り巻く環境は一層厳しくなるものと予想される。このような国際環境の下で,我が国は84年においても沿岸各国との間で粘り強い外交交渉を展開するとともに,漁業の分野における協力関係の促進を図りつつ,我が国漁場の確保に努めた。

(1)二国間漁業交渉

我が国遠洋漁業最大の漁場である米国水域内での安定的漁業確保のため数多くの交渉を行い,84年は前年並の割当を確保し得たが,85年の当初割当は前年の約3割減となった。なお,漁獲割当の重要な考慮要件となりている日本漁船による洋上買付事業は順調に展開され,84年約34万トンに達し,85年には50万トンとするとの契約が成立している。ソ連との間では,84年さけます議定書の締結が5月行われたが,同議定書の親協定たる日ソ漁業協力協定は84年6月のソ連側による終了通告にともない84年末に失効し,85年3月現在新協定作成交渉中である。また,従来の日ソ・ソ日漁業暫定協定を一本化,長期化した日ソ地先沖合漁業協定が新たに84年12月発効した。このほか中国,韓国,カナダ,大洋州諸国等との間でも幾多の交渉を行ったが,入漁規制が一層強化される傾向にある。

(2)多数国間漁業交渉

漁業を巡る厳しい国際環境の中にあって一層厳しい規制措置の導入が懸念されたが.日米加さけます,大西洋まぐろ等の国際漁業機関では,84年はほぼ従来通りの措置を決定した。しかし.84年の国際捕鯨委員会は商業捕鯨全面禁止発効に先立つ漁期の捕獲頭数の一層の削減を決定した。特に84,85年のまっこう鯨は事実上捕獲禁止と決定されたため.我が国は捕鯨に関する制裁法を有する米国との間で協議を行った結果.両年のまっこう鯨捕鯨が確保されることとなった。しかし,米国は,商業捕鯨全面禁止を基本方針としているため.日米間で協議を継続しているが,85年秋以降の商業捕鯨全面禁止発効を控え,我が国の捕鯨は重大な局面を迎えている。

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