4.原子力の平和利用
(1)概況
55年に日米原子力研究協定に署名し,原子力平和利用分野における我が国の国際協力が緒についてから今年で30年が経過した。この間,我が国の原子力平和利用開発は着実に進展し,84年末現在,我が国において運転中の原子力発電設備容量は28基,約1,986万kmと米国,フランス,ソ連に次ぎ世界第4位の地位を占め,今後一層の伸びが予想されている。これに伴い,我が国と諸外国との間の協力も一層強化されることが期待されている。原子力開発の促進のためには,安全性の向上・放射性廃棄物の処理・処分問題の解決等に努めるとともに,原子力の利用に不可避的に伴う核拡散の危険をいかに防止するかという問題に効果的に対処する必要があり,原子力の平和利用と核拡散防止との両立を図るべく,84年も多数国間及び二国間で種々の協議が行われた。
(2)各国との原子力関係
(イ)米国との関係
日米原子力協定上の再処理関連規制権を現在の個別承認方式から包括的な承認方式にするための取極作成協議は,84年7月及び9月開催されたが,核拡散の防止と原子力の平和利用との両立のため,さらに議論を尽くすべき点も残されており協議を継続することとなった。
この間,東海再処理施設の運転については,81年10月の共同決定を85年末まで延長し,その間に,より長期的な解決を図るとの暫定措置がとられた。
(ロ)中国との関係
83年9月の第3回日中閣僚会議において,両国間の原子力協力をさらに促進するため,政府間で話し合うことで意見の一致を見たことを受け,84年には2月から3月,7月及び12月に原子力協力協定締結に関し正式協議を行った。
また,中国の秦山原子力発電所への機器の移転についても話合いを行い,移転される機器の平和的目的利用確保についての書簡を3月両国政府関係当局間で交換した。
(3)開発途上国協力
近年,原子力平和利用分野における近隣アジア諸国を中心とした開発途上国の我が国の協力に対する期待が高まっている。開発途上国協力について,我が国は,従来よりIAEAの技術協力基金に対し米国に次ぐ拠出を行うとともにIAEAの「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく協力,特に開発途上国の緊急課題である工業,医療問題等の解決に資するためアイソトープ,放射線による工業利用,医学生物学利用プロジェクトを中心に技術,資金面(80年から84年まで約116万ドル拠出)等から積極的な協力を行い,主導的役割を果たしている。また同時に国際協力事業団(JICA)による政府ベース技術協力を通じてアイソトープ,放射線の利用を中心に,研修員の受入れ(84年度51名),専門家の派遣(84年度8名),各種セミナーの開催等についても積極的な協力活動を行っている。
(4)国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agen-cy)
(イ)83年,84年の総会でもイスラエル問題は引き続き取り上げられており,具体的なイスラエル制裁には至らないが問題が長期化しつつある。また,南アフリカに対する権利制限の動きがある。
(ロ)84年1月に中国は112番目の加盟国となった。これに伴い,中国を原子力最先進国として理事会に加えるため,憲章第6条が改正されることになった。
(5)原子力平和利用国連会議(PUNE)
開発途上国の提唱により,当初83年に開かれることになっていた原子力平和利用国連会議は,懸案の議題である国際協力につき,84年6月,核不拡散の枠組みをどのように扱うかにつき各国の思惑を取り入れた妥協案が成立したため,86年11月に開催されることになった。
(6)経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の活動
我が国はNEA加盟国の中で米国に次ぎ,フランスとならんで大規模な原子力開発利用計画を有しているが,特に最近の我が国の原子力発電の優秀な稼働状況,濃縮・再処理の商業化に関する活発な動き等はNEA加盟国の間に大きな印象を与えており,こうした動向を背景にNEAの活動の中でも核燃料サイクル及び原子炉の安全性分野において,我が国の影響力が強まりつつある。これらの分野を中心として我が国は専門家の派遣,会議への出席,共同プロジェクトヘの参加等を通じNEAの活動に積極的に貢献している。また,我が国のNEA分担金についても84年度我が国は約550万FF(約18%)であり,米国(25%)に次ぐ分担国となっている。さらにNEA事務局には,事務局次長を含む5人の邦人職員が採用されている。
(7)低レベル放射性廃棄物の海洋処分
我が国の低レベル放射性廃棄物の海洋処分計画については,85年1月中曽根総理大臣が大洋州を訪問した際,関係国の懸念を無視して強行はしないとの我が国の方針を説明し訪問先各国の共感を得た。放射性廃棄物の海洋処分については,ロンドン条約に基づき,科学的検討が85年1月の第9回同条約締約国協議会議に向けて進められた。