第7節 科学技術及び原子力問題

1.科学技術一般

資源,エネルギー,環境等,人類全体が直面する諸問題解決の鍵として,また,世界経済の再活性化に貢献するものとして,科学技術に寄せられる期待には強いものがある。これに伴い,科学技術分野における我が国との協力についての諸外国からの要請が増大し,我が国の対外関係における科学技術の比重が高まっている。

(1)二国間の科学技術協力

(イ)4月,中曽根総理大臣のインド訪問の際に日・インド科学技術シンポジウムの開催が合意され,5月には,フィゲイレード=ブラジル大統領訪日の機会に,同国との間で科学技術協力協定が締結された。9月の全斗煥韓国大統領訪日時には,今後両国間で科学技術協力協定の締結に向けて話合いを行うことが合意された。12月には,ECと安倍外務大臣との間で,従来より行われている科学技術協力の意義を確認し一層進展させる趣旨の書簡が交わされた。アイルランドとの間でも,具体的協力についての話合いが進められた。我が国は,現在ブラジルとの協定を含め15か国と計16の科学技術協力協定を結んでいるほか,従来よりカナダ,韓国との間でも定期的に会合が行われている。主な国との協力活動は次のとおりである。

(ロ)日米協力

(a)エネルギー分野

日米エネルギー等研究開発協力協定に基づき,核融合,光合成,高エネルギー物理学,地熱エネルギー等の分野で協力が進展している。

(b)非エネルギー分野

日米科学技術研究開発協力協定に基づき,宇宙開発,核物理,生命工学,保健,環境,農業等の分野にわたる40以上の案件について協力が進展している。米国宇宙基地計画の予備設計活動への我が国参加も本協定の下で行うこととなった。

(ハ)日仏協力

85年2月,協定に基づく第8回混合委員会がパリで開かれ,新たに農業研究分野での協力が合意された。

(ニ)日・西独協力

10月,協定に基づく両国合同委員会第9回会合が東京で開かれ,既存の協力分野(海洋科学,生物学・医学,環境保護技術,新材料等)の拡充に合意するとともに,新たに労働安全・衛生に関する情報交換等の協力が合意された。

(ホ)日豪協力

協定に基づく83年11月の東京での第2回合同委員会の結果,8月にバイオテクノロジー・ワークショップが筑波で開催された。

(ヘ)日加協力

12月,第6回目・カナダ科学技術協議が東京で開かれ,海洋開発,宇宙,通信,エネルギー等多岐の分野にわたり,情報交換等の協力につき合意された。

(ト)日中協力

協定に基づく83年10月の第2回科学技術協力委員会の結果,既存の協力テーマに加え,新たに4テーマ(冶金,海洋保護,電波分野等)につき協力を開始することが合意された。

(チ)日韓協力

7月,第6回日韓科学技術大臣会談がソウルで開かれ,バイオテクノロジー,宇宙,エネルギー等多岐の分野にわたる情報交換等の協力が合意された。

(リ)日・ASEAN協力

83年12月,中曽根総理大臣の提唱に基づき,日・ASEAN科学技術関係閣僚会議が,東京において開催されたが,1年後の12月,同会議のフォローアップのための高級事務レベル会合がジャカルタ(インドネシア)において開催された。

(2)多数国間の科学技術協力

(イ)サミットに基づく科学技術協力

82年のヴェルサイユ・サミット宣言に基づいて設置されたサミット参加国の専門家からなる「技術,成長及び雇用に関する作業部会」は,科学技術の経済,雇用及び文化への影響を検討するため18の協力プロジェクトを選定し,各国研究者のネットワーク作り等による国際協力の増進を図っている。84年のロンドン・サミット以降18プロジェクトのレビュー及び環境問題の検討が行われている。我が国は,太陽光発電,先端ロボット及び光合成の3分野のリード国となっている。

(ロ)生命科学と人間の会議

83年5月のジョンズ・ホプキンズ大学(ワシントン)での講演,及びウィリアムズバーグ・サミットの機会に,中曽根総理大臣が提唱した「生命科学と人間の会議」は,他のサミット国首脳から参加者の推薦を得て,3月に東京及び箱根で開催された。この会議には,サミット7か国から生命科学のみならず,哲学,宗教,倫理分野の世界的権威者も含めて計19名が参加し,最近の生命科学の進展が,いかに人間の尊厳と両立した形で人類の発展に貢献し得るかが論じられた。この会議は,この種のものとしては世界で初めてのものであり,ロンドン・サミットの際にも各国首脳から高く評価され,引き続き第2回会議をフランスが開催することとなった。また,報告書は日,英,仏の3か国語で刊行された。

(ハ)OECD

OECDの科学技術政策委員会は,82年の閣僚理事会の決定事項であるハイテク製品貿易の分析・検討を関連委員会と協力して引き続き行っている。また,科学技術と国際競争が,バイオテクノロジーの安全性・規制,大学の研究機能等,科学技術の経済社会への影響に関して幅広く検討を行っている。

(ニ)国際連合

国連総会の下で開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力の在り方を検討する「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD:Inter-governmental Committee on Science and Technology fo Develop-ment)」の第6回会期が5~6月に国連本部で開催され,開発途上国の科学技術能力強化のために融資を行う「国連科学技術融資システム」問題のほか,ICSTDの機能強化のための方策につき討議が行われた。第39回国連総会では,ICSTDの報告書を承認するとともに,融資システム問題を協議するためのワーキンググループの設置に関する決議を採択したほか,ICSTDの活動の効率化に関する勧告もなされた。

(ホ)その他

このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO)等の国連専門機関,国連システム内及びその他の国際機関でも,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題等についての意見や情報の交換,政策面での検討等の協力が行われている。

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