第6節 資源エネルギー問題
1.国際石油情勢
79年をピークとして減少傾向にあったOECD諸国の石油需要は,84年には対前年比2.7%の増加に転じた。しかし,世界の石油需給関係は依然として緩和基調で推移し,重質油を除く原油スポット価格は84年下期において公式販売価格を大幅に下回った。84年はOPECにとり,少なからず苦難の年であった。
84年の国際石油情勢における主要な動きは次のとおりである。
(1)油種間価格差の縮小
先進消費国における重質油分解装置の普及,及び84年の英国における炭鉱ストの影響等による重質油需要の増加により,軽質油の割高感が一層顕著となり,84年下期及び85年第1四半期において北海,ナイジェリア等の軽質油の値下げ及びサウディ,クウェイト等の重質油の値上げが行われた。更に,アラビアンライトの公式販売価格は85年2月,バレル当たり1ドル引き下げられ28ドルとなった。
(2)OPEC・非OPEC産油国関係
OPECは84年7月・非OPEC産油国との協調関係増進の方針を打出した。これに対して,メキシコ,エジプト,マレイシア及びブルネイは,OPEC総会にオブザーバーとして出席し,生産削減等OPEC協調策を実施した。他方,英国については10月の北海原油値下げまでは対OPEC協調策とも見なされる価格政策がとられていたが,生産面における政府の非介入政策は維持された。かかる動きはあったものの84年の非OPEC(共産圏からの純輸入を含む)の原油供給量は対前年比約130万B/D増加した。一方,OPECは原油価格維持のために10月末に生産上限を1,750万B/Dから1,600万B/Dに引下げ,その後生産上限遵守のために加盟国の生産状況等の監査制度を設定した。
なお,自由世界の原油生産に占めるOPECの比率は,82年に50%を下回った後低下傾向にあるが,84年には41%となった。
(3)ペルシャ湾におけるタンカー攻撃の影響
84年3月以降相次いだイラン・イラク両国によるタンカー攻撃は,石油市況にはほとんど影響を与えなかった。逆にタンカー攻撃の拡大を契機としてOPECが一時的に増産した結果,市場の供給過剰感が増大し,84年10月に始まった一連の原油値下げへの伏線となった。
(4)スポット取引の増大
供給過剰状況及び石油製品市況の軟化に伴う原油コスト低減指向等を背景として原油スポット取引が増大した。英国石油公社はスポット販売の増加による多額の赤字を計上し,85年3月には同公社廃止に係る法案が議会に提出された。
2.国際エネルギー機関(IEA)を巡る動き
84年におけるIEAの活動は,石油市場の長期的緩和基調の下で,従来からの長期的石油依存低減を中心とするエネルギー政策をいかに維持拡充するか,また83年末以来のイラン・イラク紛争の激化に対し,短期的供給中断対策にいかに迅速かつ柔軟に対応するかという問題,さらに多方向に亘る検討を必要とする環境問題に焦点が当てられた。
(1)IEAでは7%以上の石油の供給中断に際し,(イ)儒要抑制,(ロ)備蓄取崩し,(ハ)石油融通を3本柱とする緊急融通システムが設けられており,これまで4回テストラン(AST;Allocation System Test)が行われ,このシステムの維持改善のための努力が続けられている。他方,同時にIEAにおいては,これまでの石油供給中断の最大の問題点が石油供給量の絶対的不足というよりは価格の不可逆的急上昇にあったのではないかという問題意識に立って,供給中断の初期段階において,備蓄を大量に取り崩すことにより,市場の鎮静化を図る方策が新たに検討された。
(2)ロンドンサミットにおいては十分な石油供給を維持するために短期長期のエネルギー政策について,各国が引き続き共同して行動していくことに合意をみた。
(3)こうした流れの中で84年7月IEA理事会において,早期の備蓄取崩しに重点を置いた供給中断対策の大きな枠組みが合意され,現在その具体化のための技術的検討が行われている。
(4)中長期的問題としては,エネルギー・グラット,財政緊縮の折りからエネルギー研究開発をいかに進めて行くべきか,そのための国際協力はいかにあるべきかにつき検討がなされた(ETPS:Energy Technology Policy Study)。その結果,この分野における国際協力についても何らかの政治的モメンタムが必要との意見が示された。
(5)また,エネルギー使用に伴う環境問題,時に石炭燃焼に起因するとされる酸性雨が欧米で大問題となった。こうした問題は国境を越えた(trans boundary)取り組み、が必要であり,またIEAの目的とするエネルギー安全保障と環境保全のバランスを確保する必要から,IEAとOECD環境委等他の環境関連機関との協力,意見交換の方途が検討された。
(6)IEAは,85年7月の閣僚理事会に向けて,エネルギー情勢を踏まえ中長期的観点から上記のごときエネルギー政策をいかに進めていくのか,その真価を今問われようとしている。
3.日米エネルギー作業部会を巡る動き
(1)84年の本件作業部会は,2月東京,9月ワシントンで開催され,83年11月の「日米エネルギー共同政策」のフォローアップに焦点が当てられた。
(2)石炭については84年5月に,日本の民間産業の代表からなる石炭ミッションが訪米し,米側石炭業界との意見交換を行った。その結果技術的問題を検討するための常設作業部会(STC:Standing Technical Committee)が設置された(84年9月開催,次回は85年4月開催)。
なお,民間サイドの動きとしてベルが炭(アラスカ)のPreF/S(商業採算性調査)が開始され,中西部のペンテンプロジェクトも検討されている。
(3)天然ガスについては「共同政策表明」を受け,アラスカノーススロープ天然ガスプロジェクトのPreF/Sへ向けて,日米双方のコンダクトポイントによる話合いが行われたが,またアラスカ南部の新規タックインレットプロジェクトも検討されている。
4.アジアの開発とエネルギーシンポジウム
アジアの今後の経済発展とそれに伴い必要とされるエネルギーをいかに確保するか,またそれに対し周辺環太平洋先進国はいかなる協力ができるか。アジアの時代と言われる21世紀に向けてこうした問題を検討するため,85年3月21日,本件シンポジウムが東京で開催された。同シンポジウムには議長として大来外務省顧問,パネリストとしてスブロト=インドネシア鉱業エネルギー大臣ほか内外の政,財,官各界のエネルギー問題の権威が参加し,率直な意見交換が行われた。その結果アジア太平洋地域において,今後技術,資本の面における協力が重要であり,今後そうした問題を討議するための対話の場を設けることの有益性につき意見の一致が見られた。
5.エネルギー以外の資源問題
(1)84年の主要資源の市況
83年には,おおむね回復基調であった一次産品価格は84年4月以降下落した。まず金属では鉛,亜鉛が上昇したものの,金,銅は下落し,またすずも低迷している。農産物では,豊作あるいは増産傾向を反映して,とうもろこし,大豆が84年央以降下落,天然ゴム,綿花,ココア等も価格を下げた。また砂糖は83年以降急落した。
(2)一次産品総合計画(IPC:Integrated Programme for Com-modities)個別産品協議の進捗状況
(イ)84年7月に,84年の国際砂糖協定が採択された。一方,ココアについては,2度にわたる新協定交渉会議が開催されたが合意に至っていない。そのほか,4月に鉄鉱石の第3回目の予備協議が開催された。
(ロ)我が国は,一次産品貿易の安定を図ることは南北協力を進める上で重要な意義を持つとともに,輸入国として安定供給を確保する上でも重要であるとの認識に立ち,産品ごとの特性を重視しつつ一次産品協定及び各種協議に積極的に参加した。
(3)商品機関
(イ)国際商品協定
国際小麦理事会では,国際小麦協定の機能強化の一環として,各国の小麦政策や開発途上国の穀物流通の問題等の検討を行った。
国際すず協定においては,協定に基づく輸出統制や緩衝在庫操作にもかかわらず,(イ)膨大な在庫の存在,(ロ)非加盟国の増産,(ハ)密輸,(ニ)省すず化・代替の進展等により,ほぼ84年通年にわたって,価格は協定上の下限価格に膠着した。このような需給の構造的問題につき,理事会で検討がなされたが,目立った成果を挙げるに至らなかった。
国際ココア協定においては,現行協定に代わる新協定交渉が84年5月と10月に行われたが,緩衝在庫以外の価格安定補完措置等につき産・消間で意見の隔たりが大きく,合意に至らなかった。この間,現行協定は85年9月まで延長された。
国際コーヒー協定に基づく輸出割当てが引き続き実施された。国際コーヒー理事会は非加盟国向け輸出に係る監視制度の強化等の検討を行った。
77年の国際砂糖協定に代わる新協定交渉会議(第3回目)は84年6月中旬から開かれたが,価格安定のための具体的措置等につき主要国間で合意が得られず,価格安定のための経済条項を削除した新協定を採択した。新協定は85年1月1日に暫定発効した。
84年初めまで好況であった天然ゴムの市況がその後急落し,下方介入価格を下回ったため,協定に基づき85年1月に若干の緩衝在庫買入れが行われた模様である。現行協定に代わる新協定の交渉会議は4月下旬に開催される予定である。
国際ジュート協定は,84年1月9日に暫定発効した。理事会は我が国,西欧及び米国におけるジュート製品の販売促進事業を承認した。
国際熱帯木材協定は,84年10月1日を発効目標としていたが,各国の手続遅延のため,85年4月1日に暫定発効した。なお,我が国は協定の事務局を日本に設置するよう働きかけている。
(ロ)国際商品研究会
国際鉛亜鉛研究会の第29回総会では,鉛・亜鉛の需給見通しにつき検討を行ったほか,「電気自動車の開発状況」に関する研究発表が行われた。
国際綿花諮問委員会の第43回総会は84年10月,タンザニアのアルーシャで開かれ,綿花の需給,価格,超長繊維,夾雑物等の問題につき検討が行われた。
国際ゴム研究会の第25回総会では,ESCAPとの共同研究(ゴムの生産・消費の長期予測)が提案承認されたほか,生産及び消費動向につき分析,検討が行われた。