第5節 開発途上国との関係
1.概況
84年の開発途上国経済は,先進諸国の本格的な景気回復の影響を受けて,実質経済成長率が前年の1.5%より3.7%(85年4月のIMF統計,以下同じ)へ伸び,経常収支赤字も大幅に削減される等,明らかな好転が見られた一方で,依然として,一次産品市況の低迷,累積債務問題,アフリカの飢饉等多くの困難に直面し,経済回復のテンポには大きな跛行性が見られた。
まず,非産油途上国についてみると,アジア地域では,韓国,台湾,シンガポール等の新興工業国・地域を中心に引き続き高い成長率が達成された。一方,累積債務問題を抱える中南米地域等では,経済調整政策の推進,先進諸国の景気回復による輸出拡大等により,貿易収支は黒字に転じ,経常収支赤字も大幅削減する等,経済再建努力の成果があらわれ,実質経済成長率も3年振りにプラスへ転じたが,依然として全体として見ればまだまだ厳しい局面に直面している。また,後発開発途上国を最も多く抱えるアフリカ地域においては,経済成長率の回復は見られたものの,一次産品市況の低迷,干魃による飢饉等のため,一人当たり所得は低下した。
産油国は依然としてオイル・グラットの中で石油輸出の低迷に苦しんだが,輸入削減等の経済調整努力により経常収支赤字は大幅に削減された。
2.累積債務問題
開発途上国の累積債務問題は,84年を通じ,IMFを中心とした協力が行われ,関係者による債務返済繰延べ措置,追加融資等の適切な対応,債務国自身の経済調整努力及び先進国の景気回復,金利の低下等の好ましい国際経済環境により,当面の危機は回避された状況となった。対外債務残高も84年末で8,950億ドル(世銀統計)に達したものと推定され,対前年比伸び率は6%と鈍化した。中でも,債務国に経済調整の時間と債務返済負担の平準化という利点を与える債務返済の多年度にわたる繰延べ措置,すなわち多年度リスケが,ポーランド(4月),メキシコ及びヴェネズェラ(9月),エクアドル(12月)について商業銀行団との間で合意されたことが特筆される。また,フィリピンについても難航していたIMFとのスタンド・バイ・クレジット交渉が10月に合意され,12月に公的債務返済繰延べ(パリクラブ)及び民間銀行債務についての返済繰延べにつき基本的合意がなされた。さらにアルゼンティンについても9月にIMF融資が基本合意され,12月には民間銀行団との間で,また85年1月には公的債務(パリクラブ)についての返済繰延べが基本的に合意された。
債務国の返済を可能ならしめるには,開発途上国への資金フローを確保するとともに,輸出拡大を通じ外貨獲得能力を向上させることが重要であるが,中南米を中心とする多くの債務国では,緊縮財政,輸出促進等経済調整に一層努力した結果,貿易収支は黒字に転じ,債務返済能力に改善が見られた。
しかしながら,アフリカの低所得国や中南米の中小債務国においては,いまだ経済調整政策が軌道に乗っていない。債務問題の解決には中長期的な観点からの努力の継続が必要であるが,特に,債務国は,厳しい緊縮政策をとりながら債務を返済し続けていくために,国内の政治・社会的困難に直面することとなり,債務国側においては,先進諸国との「政治的対話」を持ちたいという要求が,84年から85年にかけての一連のラ米債務国会議において,中南米諸国から出された。これら債務国側の要望に対し,9月に開かれたIMF暫定委員会及び世銀・IMF合同開発委員会において,85年4月の両会合で,債務問題を含め,開発途上国の抱える金融,開発,貿易上の諸問題について,中長期的観点から検討することとなった。