第4節 国際通貨・金融問題

1.国際通貨情勢

84年の外国為替市場の特徴は,80年以降上昇基調を続けてきた米ドルが米国の高金利・米国経済に対する信認を背景として引き続き上昇基調で推移したことである。

(1)米ドルは84年初,米国の経常収支・財政のいわゆる双子の赤字拡大から先行不安を背景として下落したものの,その後,金利の上昇もあって再び上昇基調をたどり,年末から85年初にかけて急上昇した。

このようなドルの急上昇に対し,85年1月に開かれた5か国蔵相会議では「必要に応じ市場に協調介入する」旨のコミットメントが再確認された。これを受けた形で欧州市場を中心に協調介入が行われたが,その後もドル高基調に大きな変化は起こらなかった。

こうしたドル高の背景には,米国の金融当局が84年前半マネーサプライの目標値を慎重に管理する引締め政策をとったことと大幅な財政赤字とがあいまって米国の金利が相対的に高水準で推移したことが挙げられる。さらに,力強い拡大を示す米国経済に対する信認及び米ドルが基軸通貨として持つ特殊性等が,経常収支赤字拡大に伴うリスクの増大にもかかわらずドル資産の強い需要を招き,米ドル高基調を持続させる要因となったと考えられる。

(2)円の対米ドル相場は,一時的な上昇局面も見られたが,通年では軟調裡に推移し,年末には84年の最安値である251円台まで,さらに85年2月には260円台まで下落した。他方,欧州通貨に対しては一貫して円高基調を保った。

円相場のこうした動きは,我が国経済の良好なパフォーマンスによる円高効果が働いている一方で,米国の高金利による日米金利差を反映して,我が国から大量の長期資本が流出したことが円安要因として大きく働いたと考えられる。

(3)一方,欧州通貨は,84年初,強調裡に推移する場面も見られたが,雇用情勢の悪化,景気回復が緩やかであったことなどから,米ドル及び円に対し大幅な下落を続け,軒並み史上最安値を更新し続けた。特に英ポンドは石油価格の低迷,英国金利の低下に炭鉱ストの長期化という先行き不安要因も加わり85年初大幅に下落したため,英国は1月に大幅な金利引上げ及び市場介入により対米ドル相場安定を図った。ただ,総じていえば,84年の欧州諸国の通貨当局の姿勢は国内景気を重視し,通貨防衛のための金利引上げ等の政策にはむしろ消極的なものであったといえよう。

なお欧州通貨制度(EMS)内では,加盟国間の経済パフォーマンス格差の縮小及び中心通貨である独マルクが軟調であったことにより,米ドル高基調ながら比較的緊張のない状態で推移した。またEMS内の制度面においては,9月に欧州通貨単位(ECU)のウェイト変更及びギリシャ・ドラクマをECU構成通貨に含める旨の決定がなされた。

2.国際通貨基金(IMF)を巡る動き

IMFの活動の活発化に伴い,83年を通じIMFの資金ポジションの強化を図る一連の措置が講じられたのを受け,84年もIMFは,持続的成長のための政策協調,債務問題への適切な対応等引き続き国際協調の要としての役割を果たした。

(1)IMF資金の利用状況

84年のIMF融資額は,史上最高の83年に比べ42.2%減少した。これは,世界経済の回復基調に伴う開発途上国経済の改善もあり,累積債務問題が危機的段階を当面乗り切ったことなどによる。

すなわち,84年の引出し(加盟国が自由に引き出せるリザーブ・トランシュの引出しを除く)は,史上最高の83年126億SDRから73億SDRへと減少した。

また,スタンド・バイ取極は,83年33件から84年29件へ,拡大取極件数は,83年10件から84年4件へ,両者併せたコミット総額は83年229億SDRから84年148億SDRへと減少した。

しかしながらIMF融資を絶対額でみると,83年,82年に次いで史上3番目の融資額であり,融資の内容をみても,困難な経済調整政策を進めている国が多いことを示す。

主要債務国の動きをみると,12月末,IMFは,アルゼンティン及びフィリピンに対し,それぞれ総額17億SDR及び6億SDRの新規融資を承認した。

(2)IMF資金へのアクセス

84年9月のIMF暫定委員会は,検討課題となっていた増枠融資制度を85年についても引き続き存続させるが,融資限度枠を削減することで合意した。85年の融資限度枠は,(イ)1年間にクォータ比95%,3年間で280%,累積で408%,(ロ)1年間にクォータ比115%,3年間で345%,累積で450%となり,加盟国の国際収支上の必要性の深刻さの度合いに応じ,どちらかを適用することとなった。

また,輸出所得変動補償融資及び緩衝在庫融資に関する融資限度枠も変更された。

(3)SDRの配分

84年9月の暫定委員会では,SDRの新規配分に要するIMF協定の要件すなわち世界的な国際流動性の不足が存在するか否かにつき見解が対立し,84年4月の暫定委員会に引き続き,現在の第4基本期間におけるSDRの配分についての新たな合意は得られなかった。

(4)債権国,債務国対話

84年9月の暫定委員会は,次回会合(85年4月)において,債務問題の解決に向けられた現行政策と全般的国際金融情勢を踏まえ,中期的枠組の中で,加盟国の調整努力及び国際収支の見通しに関連した問題を検討する旨合意した。討議事項には,対外債務,国際資本移動,貿易政策,それらの問題に対処する際のIMFの監視の役割などが含まれる予定である。

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