2.国際協調

(1)主要国首脳会議

(イ)第10回主要国首脳会議(ロンドン経済サミット)は,84年6月7日から9日にかけ,英国ロンドンのランカスター・ハウスを主会場として開催され,日本,米国,フランス,西独,英国,イタリア,カナダの7か国首脳とEC委員会委員長が出席した。このサミットの経済分野では「ロンドン経済宣言」が,また政治分野では「民主主義の諸価値に関する宣言」「東西関係と軍備管理に関する宣言」「国際テロリズムに関する宣言」ならびに「イラン・イラク紛争に関する議長声明」が各々採択,発表された。

(ロ)主要国首脳会議はロンドン経済サミットで第10回を迎えたが,その特徴としては以下の諸点が挙げられる。

(a)先進国を中心とするインフレなき景気回復の定着を背景として,大きな争点もなく,全体として明るい雰囲気の中で開催されたこと。また,構造調整政策の推進等,中・長期的観点に立った施策の討議にかなりの時間が割かれ,経済宣言にも盛り込まれたこと。

(b)冷却した状態にある東西関係,イラン・イラク紛争の継続等厳しい政治情勢を反映して・政治問題の比重が高まったこと。

(c)経済分野における構造調整・開発途上国との関係及び新ラウンドの三問題,政治分野における平和の問題・ソ連に対する軍備管理交渉への復帰呼び掛け,及びイラン・イラク紛争の平和的解決に向けての努力等,我が国が重点的に主張した点が各々宣言や議長声明に取り入れられたこと。これは,我が国の国際的地位の向上を反映したものであるとともに,我が国の経済・政治両分野の内外政策面の努力が各国に高い評価を受けていることが示されたものである。

(ハ)ロンドン経済サミットで採択された四つの宣言及び一つの議長声明の概要は次の通りである。

(a)「ロンドン経済宣言」

(i) 「先進国経済のインフレなき景気回復の持続と,その恩恵の開発途上国への均霑」のための方策として,節度ある財政・金融政策の維持・強化を図るとともに,財政・労働市場の硬直性を除去し,需要及び技術の変化に対応し得る柔軟な経済社会を実現するため,中・長期的視点に立った構造調整政策を推進する。

(ii) 開発途上国との関係を善意と協力の精神に基づき取り進めるとの政治的意思を再確認する。また,累積債務問題についてはケース・バイ・ケースのアプローチを基本としつつ,国内経済運営面で実効ある努力を行っている債務国に対しては,民間債務の多年度にわたる繰延べを奨励し,長期直接投資の促進を図る等の点に重要性を置く。

(iii) 貿易分野では,保護主義巻返しを再確認し,また新ラウンドに関して,その目的・タイミングにつき早期に決定を行うべく,ほかのGATT(関税及び貿易に関する一般協定)加盟国と協議をする。

(iv) 科学技術の18のプロジェクトの進展を歓迎する。各国環境大臣に対し,環境問題における継続的な協力の分野を明らかにするよう求め,また科学技術作業部会に対し,84年末までに環境問題に関する報告を求める。

(b)「民主主義の諸価値に関する宣言」

本宣言は,第10回を迎えたサミットにおいて,参加国が共有する民主主義的諸価値による連帯及び平和への積極的姿勢を示したもの。

(c)「東西関係と軍備管理に関する宣言」

本宣言は,ソ連及びその同盟諸国との間で政治的対話の拡大を探求し続けるとのサミット参加国の決意を表明するとともに,ソ連が建設的かつ積極的に行動するよう希望したもの。

(d)「国際テロリズムに関する宣言」

国際テロリズム・特に国家により支援されたテロリズムと闘うため,一層緊密な協力を行うことについて合意したもの。

(e)「イラン・イラク紛争に関する議長声明」

本宣言は,イラン・イラク紛争の拡大防止,平和的解決のための努力を行っていくことに各国が合意したもの。

(2)経済協力開発機構(OECD)

OECDは自由主義経済を標傍する24の先進国を加盟国とする機関で,経済,社会の広い分野における西側先進国間の協調の促進を目的とする。設立条約に掲げられた3大目的,(i)経済成長,(ii)途上国に対する援助,(iii)自由かつ多角的な貿易の拡大にそれぞれ対応する経済政策委,開発援助委,貿易委をはじめ,新たな問題を扱う環境委,情報・コンピューター・通信政策委等数十に及ぶ委員会が常時活動し,年1回開催される閣僚理事会で年間の活動の総覧が行われる。

84年の第23回閣僚理事会は,5月17,18の両日開催され,「貿易,金融及び開発」,「国際貿易及び投資」及び「マクロ経済」の3議題につき討議が行われた。米国をはじめ欧州においても景気回復が力強さを増しつつある明るい材料の中で,先進国経済が直面する諸問題を結束して乗り越えようとの積極的かつ建設的な姿勢が確認され,また,種々の経済問題を解決するためには,短期的観点のみならず,中長期的観点からの取組みが重要との点が多くの国から指摘された。

貿易については,新ラウンドと保護主義ロールバックが議論の中心になった。新ラウンドについて我が国は85年初めの準備開始,86年の交渉開始を主張したが,欧州諸国を中心に時期についての言及に対し抵抗が強かったため,コミュニケには「早期かつ徹底的な準備が新ラウンドの成功に不可欠であることを閣僚達は強調」との表現が記載された。また,保護主義ロールバックについてはフェーズI(短期的措置)として85年における86年分の関税前倒しの合意が確認され,86年における87年分の前倒しについて期待が表明された。フェーズII(中長期的措置)としては,セクター別スタディ等が合意された。

さらに,この年は我が国のOECD加盟20周年にあたることからこれを記念して安倍外務大臣は高度情報通信技術の発達が世界経済の相互依存関係に及ぼす影響についての研究を行う旨を発表し,これに対して各国及び事務局より歓迎の意が表された。

85年の第24回閣僚理事会は4月11~12日に,「途上国の調整と前進のための協調」,「貿易面を中心としたゲームのルールの強化」,「80年代央のOECD経済」の3つを議題として開催された。昨年に比してもOECD経済の景気回復は一層力強さを増しているが,他方,米国の財政赤字,高金利,ドルの独歩高,経常収支の不均衡等種々の不均衡が,回復の持続性を脅かすのではないかとの懸念が生じている。また,景気の上昇にもかかわらず欧州諸国等において雇用情勢の改善が見られないことも憂慮される。かかる状況にかんがみ,インフレなき持続的成長と雇用拡大を達成するべく各国が協調行動をとることが合意され,その際の優先分野としては米国が財政赤字の除去及び保護主義圧力への抵抗,我が国が金融市場の規制緩和,対内・対外投資の促進・市場アクセスの一層の促進及び輸入増加の奨励等を通じての黒字削減,欧州等その他の諸国は経済の適応力及び成長の雇用創出力の強化,財政赤字の削減,実質需要の増加等であることが示された。

新ラウンドの開始時期は84年に続いて大きな争点となったが,「できる限り早期に開始」することに合意するとともにいくつかの国が86年開始を希望する旨がコミュニケに明記された。また,保護主義の防圧のため,各国が既存の貿易制限措置のうち,一定期間内に漸進的に除去しうる措置をすべてOECDに提出し,86年の閣僚理事会に報告することが合意された。

加盟20周年記念プロジェクトについては我が国が一連の国際会議を主催することに対し,これを歓迎する旨がコミュニケに記載された。

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