9.太平洋協力

(1)全般

(イ)近年「太平洋の時代」とか「大西洋の時代から太平洋の時代」ということが言われ,太平洋地域に対する関心が高まってきている。太平洋を巡る多数国間協力の構想は,従来太平洋経済協力会議(PECC),太平洋経済委員会(PBEC)等民間機関が中心となって検討が重ねられてきた。

(ロ)太平洋協力を巡る動きは,84年に入ってから特に注目を浴びるに至った。その背景としては,(a)ASEAN拡大外相会議で初めて政府レベルで太平洋協力が討議されたこと,(b)米国がアジア・太平洋重視の姿勢を重ねて示したこと,(c)中曽根総理大臣が85年1月米国大洋州を訪問した際,太平洋協力が話し合われたこと等が挙げられる。

(2)ASEAN拡大外相会議

7月12日及び13日,インドネシアのジャカルタで開催されたASEAN拡大外相会議では,ECを除くいわゆる「6+5」会合で議長国インドネシアのモフタル外相の発案により,初めて,「太平洋の将来」との議題の下に太平洋協力が取り上げられた。

安倍外務大臣は,(イ)太平洋地域は域内諸国及び域外に対しても開かれたものでなければならず,この関連で自由貿易体制の推進,特に新ラウンドの準備を早期に開始すべきことを積極的に支持する,(ロ)相互理解の増進,特に文化・教育などの分野での協力・交流及び青少年などの人物交流の強化が望まれる,(ハ)技術革新の推進が必要,(ニ)特に情報通信技術の有効活用が必要,(ホ)経済援助,民間投資を通じての先進国側の支援体制が重要との5項目を指摘するとともに,特に「太平洋の問題は世界全体に関わる問題である」との点を強調し,今後「太平洋の将来」を長期的に考えていく上で重要なポイントであるとして評価された。

同会合では,(イ)太平洋地域の長期的趨勢につき大所高所から意見を交換し,次回以降の拡大外相会議でも取り上げていくこと,(ロ)手初めに「人造り」の分野に取り組むことなどの提案がなされ,参加国の合意を得た。

本件フォロー・アップのための高級事務レベル会合が85年1月ジャカルタで開催され,「人造り」に関し7つの優先分野(経営者・管理者育成,科学・技術,農業・林業・漁業,産業,運輸・通信,貿易・サービス,研究・企画),民間団体の活用等の諸原則等を盛り込んだ政策方針ペーパーが策定された。

(3)米国における動き

近年,米国において,アジア・太平洋重視あるいは太平洋協力に対する積極的な姿勢が目立っている。

レーガン大統領は日本・韓国訪問(83年),中国訪問(84年)と二度にわたるアジア訪問を行ったほか,政府要人の発言にもアジア・太平洋重視の姿勢が繰り返された。

また,3月にフェアバンクス太平洋担当大使が任命され,同大使はアジア・太平洋地域諸国を歴訪し,政府関係者等と太平洋協力に関し精力的に意見の交換を行った。さらに9月には政府・議会・財界・学界からのメンバーによって構成される太平洋経済協力米国国内委員会が設立され,太平洋協力を推進して行く上で大きな布石となった。

また,シュルツ国務長官は,10月「米国とアジアとの相互関係は21世紀に世界の繁栄と進歩の構築にとって最も重要なブロックと十分なり得るもので,今日アジア・太平洋地域の各国に太平洋共同体(Pacific Community)という意識が生まれつつある」との注目すべき発言を行い,さらに85年2月21日,サンフランシスコで開催された太平洋経済協力米国国内委員会第二回会合において「太平洋地域における経済協力一米外交政策の展望」と題する演説を行い,その中で,(イ)今日,太平洋地域の発展は著しくその世界における影響力は増大している,(ロ)太平洋諸国において,民間部門及び政府レベルで域内協力が推進されつつある,(ハ)米国にとり同地域の重要性は著しく増大しており,米国の外交政策にも影響を及ぼしている,(ニ)米国は域内の一員として同地域の発展と域内協力に貢献することを望んでいる旨述べ,従来からの米国のアジア・太平洋重視の姿勢を改めて示した。

(4)中曽根総理大臣の米国・大洋州訪問

中曽根総理大臣は85年の年頭に米国を訪問し,1月2日ロスアンジェルスでレーガン大統領と会談した際,太平洋協力を進めるに当たっては,ASEAN諸国など関係諸国のイニシアティブを尊重することが重要であるとの見解を表明し,これに対し米国側より賛同を得た。

また,1月13日から20日まで中曽根総理大臣は大洋州4か国を訪問した際,オーストラリア及びニュー・ジーランドにおいて,太平洋協力に関し,(イ)経済・文化・技術の分野で行われること,(ロ)排他的でないこと,(ハ)ASEAN諸国等のイニシアティブを尊重すること(ASEAN拡大外相会議の活用等),(ニ)民間のイニシアティブヘの支援が重要とのいわゆる「四原則」を明らかにし,両国の首脳から基本的賛同を得た。

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