7.中近東地域
(1)第二次世界大戦前の中近東地域と我が国との関係は,地理的,歴史的要因から比較的疎遠なものにとどまり,当時は在外公館も在トルコ大使館,在アフガニスタン,イラン,イラク,エジプト公使館等8公館のみが設置されていた。(現在は24公館)
戦後は,中近東地域で数多くの国々が独立し,我が国はこれら諸国と漸次外交関係を樹立していった。また戦後復興期から高度成長期にかけて,イラン,サウディ・アラビア等から大量の原油を輸入するようになった。
(2)我が国が中東和平問題により大きな関心を持つに至ったのは第3次中東戦争(67年)の時であった。当時国連安全保障理事会の議長国であった我が国は,途中で英国に議長の座を譲ったものの,今なお中東紛争解決の基本的枠組として常に関心を集める安保理決議242の採択に際し,各国の意見調整等に多大の尽力をした。
(3)しかし,我が国が中東紛争に注目するとともに,我が国にとって中東が死活的重要性を有する地域であることを真に認識するきっかけとなったのは,73年の第4次中東戦争の際のアラブ産油諸国による石油戦略の発動であったと言えよう。同戦略の発動により,世界の主要な石油供給源であり,現在もなお我が国の原油輸入の約7割強を依存する中近東地域の紛争が,我が国経済にも重大な影響を及ぼすことが明らかになった。このことから,我が国の中近東に対する依存関係が認識され,また国際正義の観点からも中東紛争の早期・平和的解決が必要であるとの認識が国民各層に広まった。
(4)このような認識の変化を契機として要人の往来も活発化し,我が国からは73年の三木副総理(特使)以降,皇太子・同妃両殿下(76年,81年)をはじめとして,福田総理(78年),木村外務大臣(74年),園田外務大臣(78年),安倍外務大臣(83年)その他閣僚,民間経済首脳等が中近東を訪問,また中近東からも各国元首級の訪日が相次ぎ,相互理解と友好関係が深まってきている。
一方で経済分野での交流も進み,以前は中近東からの原油輸入という一方的依存関係だったものが,石油危機以降は日本製品の輸出が急増し,現在では我が国は中近東各国の輸入相手国の上位を占めるに至り,相互依存の関係ができてきている。
(5)我が国は過去において中近東地域に深い関わりを持たなかったが故に公正かつ客観的な発言を行える立場にある。我が国は,従来,この立場を生かしつつ,中近東地域の平和と安定に向けて貢献を行うべく,中東紛争の直接当事者及び紛争解決に大きな役割を果たし得る米国等の関係諸国に我が国の立場を伝えるとともに,一方では経済,技術協力を進めることによって各国の民生安定と経済・社会開発に貢献してきた。
(6)しかしながら,上記のごとく相互理解と諸般の分野における相互依存関係がとみに深まってきた現在,我が国の国際的地位の向上ともあいまって,中近東地域における我が国の政治的役割に対する関係諸国の期待が一層高まりつつある。かかる状況を踏まえ我が国としては今後とも中近東各国との諸般の関係緊密化を進めつつ,同地域の平和と安定のため積極的な役割を果たしていく必要がある。
(7)特に我が国が行ってきたイラン・イラク紛争の早期平和的解決のための環境造りへ向けての努力は,こうした我が国の積極的外交の端緒とも言え,世界的にも高い評価を得てきている。我が国は,イラン,イラク両国との間の政治対話のパイプを利用して,かかる努力を今後とも忍耐強く継続していくとともに,イラン,イラク両国との間の相互信頼と良好な二国間関係の維持強化を図っていく必要がある。また,両国の立場に十分な配慮を払いつつ,同紛争の関係諸国及び国連をはじめとする国際機関との対話の強化を図っていくことも重要な意義を持っている。