第7節 国連専門機関
1. 概況
(1) 国連専門機関は,労働,教育・科学・文化,農業,保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的・技術的観点から各分野における多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。
(2) 近年南北問題の深刻化の中で,各専門機関において事業活動を拡大し,開発途上国に対する援助の強化を図るべしとする開発途上国の動きが目立ち,国内経済の低迷,財政状況の悪化を抱える先進国との間で,予算等を巡り激しい議論が行われる例が見られたが,83年においては大多数の専門機関で通常事業計画予算の実質伸び率が低く抑えられ,審議も比較的平穏に推移した。
しかし,12月には米国がユネスコにおける政治化傾向等を理由として脱退通告を行い,大きな波紋を投げかけた。
(3) 我が国は,万国郵便連合(UPU)を除くすべての専門機関で理事会メンバーを務め,その事業活動の運営に積極的に貢献するとともに,財政面においても,分担金のほか多くの任意拠出金を拠出した。
2. 各国連専門機関における活動
(1) 国際労働機関(ILO:International Labour Organization)
(イ) 83年1月~84年3月の間には,第69回総会及び第222~225回理事会が開催された。
第69回総会では,国際文書として,「職業リハビリテーション及び雇用(心身障害者)に関する条約」,「社会保障の権利の維持のための国際制度の確立に関する勧告」並びに「職業リハビリテーション及び雇用(心身障害者)に関する勧告」が採択され,「雇用政策」の第一次討議が行われた。
(ロ) 我が国は,83年度,ILOに対して,分担金1,173万3,888ドル(分担率9.5%)を支払い,アジア地域におけるマルチ・バイ方式による技術協力活動(セミナー,スタディ・ツアー等)への任意拠出金約1,200万円を拠出した。
(2) 国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educa-tional, Scientific and Cultura1 0rganization)
(イ) 83年に開催された主要会議としては,第22回総会,第116~118回執行委員会のほか,第23回国際教育局理事会,国際理解教育政府間会議,アジア太平洋地域高等学位相互認定条約採択会議,国際情報開発計画第4回政府間理事会,総合情報計画第4回理事会,第3回体育スポーツ政府間委員会及び第5回万国著作権条約政府間委員会等がある。
(ロ) 第22回総会では,84~85年の事業計画及び予算が審議採択された。
(ハ) 12月には,米国はユネスコにおける政治化傾向,予算の無制限な膨張等を理由に,ユネスコ事務局長に対し脱退通告(発効は84年12月31日)を行った。
この米国のユネスコ脱退決定に対しては,アジア,アフリカ,アラブ,ラ米及びカリブ諸国等のグループよりユネスコヘの支援を表明する声明ないし宣言が出されたが,同時にユネスコ活動の改善・改革の検討が活発化し,特に,我が国等西側諸国グループはユネスコ改革のため各種作業部会を設置し,具体的改革案を第119回ユネスコ執行委員会(84年5月)に提案すべく検討を積極的に行った。
(ニ) 83年度において我が国は,分担金188万ドル(分担率9.48%),国際情報開発計画(IPDC)に30万ドル,東南アジア基礎科学地域協力事業に10方ドル,西太平洋地域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業信託基金に計約16万ドル,東南アジアMAB(人間と生物圏)計画事業に2万ドルのほか,ヌビア及びモヘンジョダロの各遺跡救済事業に計11万ドル等を拠出した。
(3) 国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organizationof the United Nations)
(イ) 83年に開催された主な会議は,第8回世界食糧安全保障委員会(4月)及び第22回総会(11月)である。第8回世界食糧安全保障委員会では,食糧安全保障の概念について検討され,これまでの備蓄を主体とした概念から生産の増加,供給の安定,アクセスの保障を3本柱とする新たな概念につきコンセンサスが得られた。
第22回総会では,FAOの84~85年予算が決定された(4億2,114万ドル)ほか,植物遺伝資源保存に関する各国の活動と国際協力の在り方を提示した「植物遺伝資源の保存に関する国際的申合せ」が採択され,さらに第18回総会(75年)で採択された食糧農業分野における広範な国際的努力目標を提示する「国際農業調整ガイドライン」が改正された。
(ロ) 我が国は,FAOに対し83年の分担金として約2,064万9,000ドル(分担率11.72%)を支払ったほか,フィールド・プロジェクトに約172万ドルを拠出した。またFAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP:World Food Programme)に対し,通常のWFP活動分として,701万3,000ドルを拠出するとともに,国際緊急食糧リザーブ分として150万ドルを拠出した。
(4) 世界保健機関(WHO:World Health Organization)
(イ) 83年には,第36回世界保健総会(WHO総会),第71回及び第72回執行理事会並びに各地域委員会が開催された。第36回総会では,84~85年度予算,同事業計画,西暦2000年健康世界戦略行動計画の策定,母乳代替品の企業活動に関する国際コード推進等が審議された。
(ロ) 84年1月の第73回執行理事会で,西太平洋地域事務局長に中嶋現事務局長の再任が決定された。
(ハ) 我が国は,83年,WHOに対し分担金2,115万1,875ドル(分担率9.42%)を支払い,また124万ドルを任意拠出した。さらに,WHOの附属機関である国際がん研究所に対し分担金102万8,163ドルを支払った。
(5) 国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Or-ganization)
(イ) ICAOは国際民間航空の安全かつ秩序ある発展,国際航空運送業務の機会均等の原則に基づいた健全かつ経済的運営を目的としている。
(ロ) ICAOは9月,理事会特別会合を開催し,大韓航空機事件を審議し,我が国を含む西側11か国の共同提案による決議(対ソ非難,ICAOによる事件の調査及び再発防止策の検討を主な内容とする)等を採択した。この決議に基づくICAO調査に対し,我が国は調査団受入れ,資料提供等全面的に協力した。84年3月,第111回理事会での事件の調査報告書の審議に際し,我が国は報告書によりソ連の撃墜行為の不当性が改めて明らかになったとの立場から,他の諸国と協力し,大韓航空機の撃墜行為を非難し,再発防止への各国の協力を求める決議を採択させた。
(ハ) 第24回総会(9~10月)は,前述の理事会特別会合の大韓航空機事件に関する決議等を支持したほか,理事国選挙,84~86年予算を審議した。我が国は引き続き理事国に当選した。
(ニ) なお,我が国は84年分担金245万7,063ドル(分担率9.07%)を支払った。
(6) 万国郵便連合(UPU:Union Postale Universelle)
(イ) 執行理事会(4~5月)及び郵便研究諮問理事会(10月)が共にベルンで開催された。
(ロ) 執行理事会では,UPUの予算,人事,通常及び小包郵便,航空郵便物並びに技術協力等に関する事項が審議された。また,郵便研究諮問理事会では79~83年の活動の総決算,第19回万国郵便大会議(84年)に提出すべき84年以降の研究作業計画の作成等が討議された。我が国は第3委員会の議長国として会議に寄与した。
(ハ) なお,我が国は,83年において分担金として875,000スイス・フラン(4.7%)を支払った。
(7) 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)
3月には,移動業務のための世界無線通信主管庁会議が開催され,無線通信規則の一部改正が行われた。また,5月には,ナイロビ全権委員会議(82年)後初の管理理事会(第38会期)が開催され,ITUの予算,会議・会合計画等が検討された。
84年1~2月には,短波放送用周波数帯の計画的使用に関する世界無線通信主管庁会議が開催され,86年の第2回会議における具体的決定のための技術基準が作成された。
また,83年は世界コミュニケーション年に当たり,ITUはその主導機関として10~11月にジュネーヴで行事「テレコム83'」を行った。
なお,我が国は,83年,分担金627万スイス・フラン(分担率7.6%)を支払った。
(8) 世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)
(イ) 5月,第9回世界気象会議が開催され,84~93年の長期事業計画が決定され,今後推進する主要事業として,世界気象監視(WWW:World Weather Watch)計画,世界気候計画,教育・訓練計画の順に優先順位が付された。また,この総会ではA.C.W.ニールセン(デンマーク)に代わってG.0.P.オバシ(ナイジェリア)が事務局長に選出された。
(ロ) 12月には,第16回ESCAP/WM0合同委員会が我が国で開催された。我が国は,アジアの関係諸国が台風の共同観測を行い,気象予報技術を向上させるとともに,台風被害を軽減することを目的とする同委員会の「台風業務実験計画(TOPEX:Typhoon Operational Experiment)」の推進に中心的役割を果たしてきたが,83年には,第2回本実験が円滑に実施されTOPEXの本実験はすべて終了した。
我が国は,83年,WMOに分担金382,368ドル(2.56%)を支払った。
(9) 国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)
(イ) IMOは,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確保するため,条約及び勧告の作成等を行っている。
(ロ) 83年には,海上人命安全条約の第2次改正の採択,海洋汚染防止条約実施上の諸問題の検討等を行うほか,第13回総会を開催し,機関の作業計画及び84/85年予算(2,577万2,000ドル)の採択,新理事国の選出(我が国当選),各種決議の採択等の主要任務を実施するとともに,84年4月から5月までの間「特定物質の海上輸送に関連する損害についての責任及び補償に関する国際会議」を開催することを承認した。
(ハ) 我が国は84年102万9,890ドルの分担金(分担率9.67%)を支払った。
(10) 世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual PropertyOrganization)
(イ) WIPOは,工業所有権及び著作権の保護を世界的に促進することを目的としている。
(ロ) 83年には,コンピューター・ソフトウェアの法的保護に関する専門家委員会,WIPO一般総会等が開催され,84年3月には,工業所有権の保護に関するパリ条約改正外交会議第4会期が開催された。
(ハ) コンピューター・ソフトウェア保護専門家委員会では,ソフトウェアの保護に関する国際条約について検討されたが,著作権によるソフトウェア保護の可能性に関する検討を優先することとされ,国際条約制定の検討は当分見送られることとなった。
(ニ) パリ条約改正外交会議では,特許の南北問題である特許発明の不実施に対する制裁措置を強化する問題,社会主義諸国における発明保護制度である発明者証制度を特許制度と同等のものとしてパリ条約上で認知する問題等につき審議されたが,前会期同様,合意を見るに至らず,84年9月の協議に持ち越された。
(11) 国際農業開発基金(IFAD:International Fund for Agri-cultural Development)
(イ) 77年11月に発足したIFADは83年12月現在,西側先進国(カテゴリーI)20か国,産油開発途上国(カテゴリーII)12か国及び非産油開発途上国(カテゴリーIII)107か国(ただし2か国は加入書未寄託)の加盟国を数えるに至り,既承認融資プロジェクト総件数は138件,融資承認額(贈与を含む)では17億ドル以上に及んでいる。
(ロ) 84年以降の資金補充のための第2次増資については,第6回総務会(82年12月)決議に基づき,7月に第1回増資会合,10月に第2回会合,更に84年2月に第3回会合が開催されたが,第2次増資の実質的内容については何ら合意が得られていない。
(ハ) なお,12月に開催された第7回総務会においても,第2次増資早期達成を盛り込んだ決議が採択された。
(ニ) 我が国は,10月に第1次増資にかかわる拠出金の第2回目の払込み(2,007万ドル)を行った。