第4節 社会・人権・文化問題

1. 社会問題

(1) 婦人問題

85年には「国連婦人の十年」(76年から85年まで)の成果の見直しと評価を行うための世界会議が開催される予定であるが,第37回国連総会は,この世界会議の準備を行うための経済社会理事会の諸決議を承認した。これを受けて,2月から3月にかけて第1回準備委員会,84年2月から3月にかけて第2回準備委員会がそれぞれウィーンで開かれ,世界会議の仮議題等が審議され,諸勧告が採択された。

我が国は国際協力を重視するとの観点から第37回総会が決議した85年世界婦人会議のためのESCAP地域政府間準備会議を3月26日から同30日まで東京で開催した。

第34回国連総会で採択された「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」は,81年9月3日に発効し,84年2月1日現在,本条約の締約国数は,55(批准51,加入4),既署名未批准国数は,39となっている。本条約締約国の差別撤廃委員会は8月,第2回会合を開催し,各国報告書の形式及び内容に関するガイドラインを採択した。我が国は本条約批准を国連婦人の十年国内行動計画後半期の重点課題として取り上げ,条件整備に努めている。

(2) 障害者問題

81年の国際障害者年のフォローアップとして,第37回国連総会は,「障害者に関する世界行動計画」を採択したが,第38回総会は,さらに,同計画の早期実施を加盟国に呼び掛けること等を内容とする決議を採択した。

(3) 青年問題

84年の国際青年年(85年)の準備に関する第3回会合では,85年の国連総会本会議の相当数会合を青年問題の審議に向けるよう総会に勧告すること等が決定された。我が国は,国連決議等を受けて国内委員会(国際青年年事業推進会議:議長は総理大臣)を84年2月24日,総理府に設置した。

(4) 児童問題

(イ) 5月のユニセフ(UNICEF:United Nations Children's Fund,国連児童基金)執行理事会は,84~85年管理予算を承認したが,同理事会において,下痢治療のための経口補水療法の普及,予防接種の徹底,母乳哺育の普及,子供の発育グラフの活用等,低コスト,高効果のプログラムによる,「児童革命(Child Revolution)」の推進が提唱され,同革命に対し各国の支持が表明された。

(ロ) この「児童革命」は,「世界子供白書1984」の中でも提唱され,世界各地で大きな反響を得た。我が国もその趣旨に賛同し,中曽根総理大臣からデ・クエヤル国連事務総長あての書簡をもって,同革命に対する支持を表明した。

(ハ) また,今般,女優の黒柳徹子氏がユニセフ親善大使に任命された。今後,同氏は,ボランタリーに自らの忙しい時間を割き,ユニセフ活動の啓発のために活躍する予定であり,大いに期待される。

(ニ) 我が国は,ユニセフに対し,83年,1,020万ドルの一般拠出を行うなど,積極的にユニセフの活動に協力している。また,民間でも,(財)日本ユニセフ協会による募金活動,啓発活動を中心として善意の協力が進められており,ユニセフに対する民間からの拠出は,約600万ドルに上っている。

2. 人権問題

(1) 8月1日から12日までジュネーヴで人種差別撤廃第2回世界会議が開催され,各国から南アのアパルトヘイト政策,イスラエルのパレスチナ人に対する人種差別政策等を非難する発言が行われた。また,第2次人種差別撤廃10年のための「宣言」及び「行動計画」が無投票で採択された。

(2) 第38回総会では,世界人権宣言採択35周年に関する審議が本会議で行われ,依然として世界各地に発生している人権侵害に憂慮の念を表明する旨の決議が無投票で採択された。

また,第2回世界会議で採択された「行動計画」を承認し,各国にその実施のため協力することを要請する決議が無投票で採択された。

(3) 第40回人権委員会は,84年2月6日から3月16日までジュネーヴにおいて開催され,我が国は民族自決権,世界各地の人権及び大量難民をはじめとする主要議題につき発言したほか,世界各地の人権侵害に関する状況審査ワーキング・グループ(非公開会合)に参加するなど積極的に審議に貢献した。また,前会期同様我が国は,ユーゴースラヴィアと共同で,人権と科学技術の発展に関する研究分野につき差別防止少数者保護小委員会に検討せしめる旨の決議案を提出し,右決議案は無投票で採択された。

3. 難民問題

(1) 世界全体で依然1,000万人を超える難民問題の恒久的解決の方策として,国連難民高等弁務官(UNHCR:United Nations High Commis-sioner for Refugees)は,(1)本国への自主帰還,(2)第一次庇護国への定住,(3)第三国への定住の促進を図ってきた。しかし,問題の長期慢性化に伴い,関係国のいわゆる「援助疲れ」を反映して,第三国定住がますます困難となってきており,その結果,難民流出国周辺の第一次庇護国が抱える経済的,社会的負担が増大しつつあることに加え,難民キャンプヘの軍事・武力攻撃等,難民自身の安全や難民に対する国際保護の側面でも次第に複雑な様相を呈し始めてきている。

(2) 10月のUNHCR執行委員会では,こうした難民を取り巻く状況の変化を背景に,非政治的な機関であるUNHCRとしても,人道的立場から難民発生国との直接の対話や難民発生の根源を除去するために何らかの役割を果たすことの必要性が指摘された。また,自主帰還,第一次庇護国への定住をより実現可能にするため,今次執行委から「難民援助と開発」についての検討も新たに開始された。

(3) 第35回国連総会以来「新たな大量難民流出防止のための国際協力」の議題の下に審議を続けてきているが,この問題に関し4月に初めて25か国から成る政府専門家グループの会合が,また6月に第2回目の会合がそれぞれ開かれた。第38回総会は,右報告を踏まえ,84年にも2回の会合を開くことを決議している。

(4) 我が国は,79年以降,UNHCRに対する世界第2位の大拠出国となっているのをはじめ,国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA:United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East),WFP,赤十字国際委員会(ICRC:International Commi-ttee of the Red Cross)等の国際機関を通じ多額の難民援助を行っており,世界の難民問題解決のため積極的に貢献してきている。

4. 人口問題

(1) 6月,国連開発計画(UNDP)管理理事会は,国連人口活動基金(UNFPA:United Nations Fund for Population Activities)の84~85年予算及び84~87年事業計画を承認した。また,理事会は,UNFPAの事業が,援助優先国,家族計画プログラムヘの重点的資金配分という活動方針(81年管理理事会で採択)に沿い進められていることを評価するとともに,カントリー・プログラム(国別計画)に重点を置き,インターカントリー・プログラム(複数国にまたがる計画)の割合を25%以下に抑えるという,もう一つの活動方針を早期に達成するよう要請した。

(2) 我が国は,従来,人口問題解決に対し強い関心を持ち,UNFPAに多額の拠出を行ってきている。83年度には,3,685万ドル(うち国際家族計画連盟(IPPF)へのイヤマーク拠出950万ドルを含む)を拠出し,米国に次ぐ第2位の拠出国となっている。

(3) 84年8月,メキシコにおいて国際人口会議が開かれる予定であるが,83年には,この国際人口会議の準備のための専門家会合が4回開かれ,また84年1月,3月には,国際人口会議準備委員会が開催された。

(4) 我が国は,国際人口会議に積極的に参加する意向であり,財政的にも,同会議のために50万ドルの資金協力を行うこととし,83年,25万ドルを拠出した。

5. 環境問題

(1) 国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Pro-gramme)

5月に行われた管理理事会は,84~85年の環境基金の予算案(7,200万ドル)を決定するとともに,1年間の活動として,産業界との協力による「環境管理に関する世界産業会議」の開催,オゾン層保護基本協定案作成,環境関係条約の批准・加入,各地域における環境教育,地域ごとの海洋環境保全,水質保全,遺伝子資源保全,アフリカ等で深刻化している砂漠化の防止等を推進することを決定した。また,アジアの森林の減少の防止のため,88年を「アジア・太平洋樹木年」とすることを推奨した。82年に開催された閣僚レベルの管理理事会特別会合において我が国が提唱した国連環境特別委員会の設立について,管理理事会は,全会一致で,その設立に関する決議案を国連総会に提出するとともに,総会が採択すべき21世紀に向けての環境の展望に関する文書を管理理事会が作成するのを補佐するための政府間準備委員会を設立することを決定した。

我が国は,国連環境計画に対しては,1973年の設立以来積極的に参加し,当初から理事国を継続して務めるとともに常に各国の拠出総額の10%余りを拠出し,83年は400万ドルの拠出を行った。

(2) 国連環境特別委員会

環境計画管理理事会から提出された環境特別委員会の設立に関する決議案は,第38回国連総会で採択された。これに基づき12月に委員長としてブルントラント元ノールウェー首相,84年1月に副委員長としてハーリド元スーダン外相が任命され,現在委員会の発足準備が行われている。

(3) 国連人間居住委員会(United Nations Commission on Human Settlements)

4~5月にヘルシンキで開催された第6回委員会は,84~85年度の予算案を決定するとともに,87年の「国際居住年」に向けての活動,地域の伝統的な素材及び技術の活用,建築・建設の技術に関する情報の交換等を決議した。

我が国は,委員会の設立当初から委員国を務め,積極的に活動している。

6. 国連大学

我が国に本部を置く唯一の国連関係機関である国連大学は,世界の研究機関等との緊密な協力の下に,人類が直面する諸問題の解決に資するための研究課題に取り組んでおり,国連をはじめとする国際社会において着実にその評価を得ている。

国連大学は,81年末の第18回理事会で策定された中期展望(82~87年)を受け,その具体化及びそのための体制強化に努めており,12月,フィンランド政府による誘致の申し出を受け入れ,国連大学の初めての直属研究機関である「世界開発経済研究所」(WIDER:World Institute for Developmentand Economics Research)のヘルシンキ設置が正式に決定した。

国連大学に対しては,これまでに我が国(9,600万ドル)をはじめ,英国,ヴェネズエラ・サウディ・アラビア等39か国から約1億2,952万ドルが拠出されている(84年3月31日現在)。

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