第3節 経済問題
1. 第38回国連総会
(1) 国連包括交渉(GN:Global Negotiations)
一次産品,エネルギー,貿易,開発,通貨・金融を包括的交渉の対象とするGNを発足させることは,第34回総会以来の大きな課題であり,第38回総会でも発足のための非公式な協議が行われ,特に,GN二段階論(インド等が提唱。専門機関の権限問題との関連から,交渉開始が容易な分野からGNを発足させようとの案)に関する開発途上国側の考え方を明確にするための探求作業が行われた。
この作業は第38回総会再開会期で引き続き審議されることとなった。
(2) 開発途上国救済のための緊急措置
開発途上国の抱えるセクター別問題解決の緊急性に関する認識も高まり,第38回総会で食糧・農業,通貨・金融,貿易・一次産品,エネルギー開発,後発開発途上国のための80年代新実質行動計画の履行を含む緊急措置がとられるべき旨の決議が採択された。
(3) 新・再生可能エネルギー
81年8月,ケニアのナイロビで開催された新・再生可能エネルギー国連会議のフォローアップのため,政府間委員会第1回会合が4月に開催され,「行動計画」の早急な履行の必要性を確認し,資金動員の具体的方法の一つである協議会合開催のためのガイドラインに関し合意した。第38回総会では,同協議会合の準備及び開催を要請すること等を内容とする決議が採択された。
2. 経済社会理事会
理事会では,国際経済社会政策,国連開発事業活動,経済・災害救済特別援助,食糧,環境,人権などの諸問題が審議された。
特に,7月に開催された第2通常会期では,国連事務総長が作成した「消費者保護のためのガイドライン案」(各国の消費者保護政策の推進,消費者保護分野における国際協力の推進等を目的としている)が注目を集めた。
3. 国連における多国籍企業問題の検討
83年にも多国籍企業の行動規範を作成する作業が継続された。3月及び5月に多国籍企業委員会特別会期が開催され,多国籍企業による受入国の経済目標の尊重,所有・支配,国際収支・資金調達及び制限的商慣行規制のための規範等に関連する未合意部分が解決された。また南部アフリカにおける多国籍企業問題につき,案文が作成された。しかし多国籍企業の定義,天然資源恒久主権,受入国による多国籍企業の取扱い等政治的問題については,合意が得られなかった。
4. 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP:United Na-tions Economic and Social Commission for Asia andthe Pacific)
(1) 3月,第39回ESCAP総会がバンコックで開催され,第40回ESCAP総会の東京開催が決定された。
(2) 83年中に開催されたESCAPの主要な会議としては,第39回総会のほか,第5回統計委員会,第3回人口委員会,第7回産業・技術・人間居住・環境委員会,第10回天然資源委員会,第5回農業開発委員会,第7回海運・運輸・通信委員会の六常設委員会並びに「開発のための技術」政府間会合がある。
5. 国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Confer-ence on Trade and Development)
第6回UNCTAD総会は,我が国を含む150余か国が参加し,6月6日から約1か月ベオグラードで開催された。同総会は,「開発と世界経済の回復」をテーマに一次産品,貿易及び通貨・金融の3主要議題並びに後発開発途上国の問題を中心に討議を進め,計26件の決議を採択し,さらに,「総会声明」を発出した。
この総会に臨むに当たって南北双方とも理解と協調の精神を強調していたが,南北の考え方,立場の相違は極めて大きく交渉は難航した。最終合意は,南側にとって不満の残るものとなったが,先進国が厳しい経済情勢の下でオファーのできる余地が少なかったこと等を考えれば,わずかではあるが一歩前進と評価し得よう。
(1) 一次産品
(イ) 一次産品共通基金(CF)の早期批准を要請する決議が採択された。なお,今次総会を契機にCF協定署名,批准国は順調に増加し,84年2月末現在でそれぞれ110,70か国となった(協定発効に要する批准国数は90)。
(ロ) 一次産品総合計画の履行(第4回UNCTAD総会で採択)に関する決議では,未合意の商品協定の協議促進,既存の国際商品協定の機能見直し,暫定商品協定の検討,国家備蓄に関するガイドライン等につき今後作業を進めることが合意された。
(ハ) 輸出所得補償融資については,先進国グループと途上国グループ,また先進諸国内にも主張に大きな隔たりがあり,今次総会での合意は困難と見られていたが,カナダの提案した専門家会合の開催が多数の賛同を得,84年中に同会合を開き専門家から見た結論を出すことが決定された。
(2) 貿易
(イ) 保護主義・構造調整,第6回総会の貿易分野では保護主義に関する条項が最大の争点となり,先進国の保護主義撤廃のための時限付国別計画作成,保護主義撤廃と景気回復のリンク付けの2点が,最後まで,G77と先進国グループの争点となった。結局G77は時限付国別計画作成を取り下げ,他方先進国グループは景気回復を保護主義ロール・バック(巻き返し)の条件とはしないことで妥協が成立した。この他,保護主義・構造調整に関するワーク・プログラムの作成をG77は強く主張したが,83年秋の第27回UNCTAD貿易開発理事会に送付された。
(ロ) サーヴィス分野の貿易に関しては,G77側のガットに対する反発が予想以上に強く,先進国グループが主張する本件分野におけるガットとUNCTADの補完的役割を認めようとしなかった。
(3) 通貨・金融
第6回総会で,G77は通貨・金融こそ中枢的重要問題であるとして,短期的緊急措置と長期的観点からの通貨・金融制度の改革を強く主張した。一方,先進国グループは,この分野についてはIMF,世銀等UNCTAD以外の場で審議されるべき事項が多いとの考え方から極めて硬い態度をとることが予想されたが,結局,債務,通貨,輸出信用保証制度,ODA,国際開発機関に関する五つの決議案がすべてコンセンサスで採択され,予想以上の成果を挙げた。国際通貨問題に関する決議がコンセンサスで採択されたのはUNCTAD史上初めてのことであり,今後が注目される。
なお,非同盟首脳会議(3月)の後を受け,インドが強く固執した国際通貨・金融会議構想については,先進国グループ主要国の一致した反対と,G77内部の意見の相違等もあり,第6回総会では表面化しなかった。
6. 国連工業開発機関(UNIDO:United Nations Industrial Development Organization)
(1) 83年には,第17回工業開発理事会並びに第19回及び第20回常設委員会が開催され,84年~85年計画予算,84~85年開催予定の協議システム会合,第4回UNIDO総会の準備等について審議された。
83年には協議システム会合として木材加工,農業機械,薬品及び肥料の各会合が開かれ,各分野の専門家が意見を交換した。
(2) UNIDO憲章発効問題に関する外交協議は,批准国及び関心国が参加し5月にウィーンで開催され,憲章発効,新UNIDOの計画,財政問題及び事務局の構成・人事等について討議した。
(3) 83年における我が国の具体的協力としては,国際協力事業団による研修員(12名)の受入れ,国連工業開発基金への拠出に基づく研修事業として,工業開発エコノミスト養成コース(11名)及び工業製品品質改良コース企業内集団研修(13名)を実施したほか,国連工業開発基金へ936,000ドルの任意拠出を行った。
7. 国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)
(1) UNDPは66年発足以来国連システムにおける技術協力の中心機関として開発途上国の経済的,社会的開発促進のための技術援助を行っている。
(2) 第3次サイクル(5か年ごとの開発計画で現在は82~86年)における拠出目標は毎年の拠出の伸びが14%であることを前提として設定されたが,第1年目の82年以降の毎年の総拠出額は目標を大幅に下回っているため,今後いかに財源難に対応するかが大きな問題となっている。
(3) 6月の第30回管理理事会は,UNDPの深刻な財源難による財政危機を背景に開催されたが,前回理事会決定に基づき3回にわたり開かれた会期間委員会の勧告に従い各国の拠出に関し一定の決定を行い,またプログラム審査のための全体委員会の設置を決定した。
(4) 83年におけるUNDPへの我が国の拠出額は5,480万ドル(第3位)であり,81年4,590万ドル(第7位),82年5,140万ドル(第4位)と毎年着実に増大してきている。
8. 世界食糧理事会(WFC:United Nations World Food Council)
6月にニューヨークにおいて第9回世界食糧理事会が開催され,国家食糧戦略実施における地域別(アジア,アフリカ,ラ米)優先分野,食糧安全保障強化のための方策等が討議され,最終文書として「結論と勧告」が採択された。
この中で特にアフリカの食糧事情の悪化について考慮が払われた。