第2節 軍縮問題

1. 米ソ間核軍縮交渉

(1) 戦略兵器削減交渉(START)

本交渉は,82年6月29日からジュネーヴで開始され,83年中には3回のラウンドが行われた。米国は,米ソ間で戦略的に見て最大の不安定要因となっている弾道ミサイル(特に地上発射弾道ミサイル)の大幅削減を目指すとの基本的立場に立って,弾道ミサイル(総数及び弾頭数)の削減,投射重量の規制,爆撃機搭載の巡航ミサイルの規制等を提案しており,さらに10月4日,削減のための具体的な方法としてビルド・ダウン方式を提案した。これに対しソ連は地上発射弾道ミサイル,潜水艦発射弾道ミサイル及び爆撃機の総数を現状で凍結し,その上でこれを削減していくとの立場をとっている。交渉は,12月8日以降,ソ連が「米INFミサイルの欧州配備によりSTARTについても再検討の必要がある」としたため,無期限休会となっている。我が国は従来本交渉は核兵器の大幅な削減を通じて東西間の長期的に安定した核バランスをもたらすものとして評価しており,交渉が速やかに再開きれ,実質的進展が図られることを強く期待している。

(2) 中距離核戦力(INF)交渉

本交渉は,79年12月のいわゆるNATO二重決定(ソ連SS-20等に対抗するためのNATOの核の近代化及びINF交渉の実施を決定)に基づき,81年11月にジュネーヴで開始され,83年中に3回のラウンドが行われた。

米国は,ソ連全土のSS-20を含むINFミサイルが撤廃されれば,米INFミサイルの欧州配備を取りやめるとのゼロ・オプションを究極の目標として維持しつつ3月にソ連のINFミサイルの弾頭数をグローバルベースで均等の水準まで削減すれば,米国のINFミサイル配備数を大幅に削減するとの暫定案を提案した。さらに,9月には暫定案に加え,ソ連のINFミサイル全体を米国の欧州配備INFミサイルで相殺せず(ただし,グローバル枠を満たすため配備の権利を留保する),また,航空機の規制をも実施するとの新提案を行った。11月には新提案を具体化するためINFミサイル弾頭を双方420に規制する旨提案するなど,83年中を通じて交渉の早期解決へ向けて努力を傾けた。これに対しソ連は,米国が米INFミサイルを欧州に配備しないならば,ソ連欧州部における中距離核兵器の配備を凍結する,次いで合意後5年間で双方の中距離核兵器を300基以下とするとの立場をとり,さらに10月,ミサイルについては,ソ連として欧州部のSS-20を英・仏が現在保有するミサイル弾頭数と均衡化させるように削減する(SS-20,140基)用意のある旨明らかにした。このような米ソ交渉の動きの中で11月3日,ソ連は米INFミサイルの欧州配備開始を理由に本交渉を一方的に中断した。ソ連は交渉再開のためには,米及びNATO諸国が米INFミサイルの西欧配備開始以前の状況に戻る用意があることを示すことが必要である旨主張するとともに,東欧における新型ミサイルの配備等の対抗措置を示唆している。我が国としては,極東におけるSS-20の増強配備は,この地域の平和と安全を一層脅かすものであり,今後ともINF交渉がアジアを犠牲にすることなく,アジアの安全保障をも念頭に置いたグローバルな観点から進められるべきであるとの立場を関係各国に訴えるとともに,ソ連が速やかに交渉の席に戻ることを期待している。

2. 軍縮委員会及び国連における軍縮討議

(1)軍縮委員会(CD:Committee on Disarmament)

ジュネーヴ軍縮委員会は,具体的な軍縮措置について交渉を行う唯一の多国間交渉機関である。委員会は,2月1日から4月29日まで(春会期)及び6月13日から8月30日まで(夏会期)開催され,各国から副大統領,外相等比較的多くの要人が出席し演説するなど,国際政治の一つの重要な舞台となった。開催以来約2か月間は議題や作業部会の設定等の手続事項の審議に費された。結局,議題は,(イ)核実験禁止,(ロ)化学兵器禁止,(ハ)放射性兵器禁止,(ニ)非核兵器国の安全保障,(ホ)包括的軍縮プログラム,(ヘ)宇宙における軍備競争防止,(ト)核軍備競争停止と核軍縮及び核戦争防止が合意され,このうち(イ)~(ホ)の5議題については作業部会が設置され,4月以降実質審議に入った。特に化学兵器禁止については,活発な審議が行われた。また,後の2議題については,本会議等で意見交換が行われた。

我が国は,春会期で,我が国が軍縮の各分野に共通する問題として重視している「検証問題」に関する作業文書を,また,夏会期には核実験禁止に関する三つの作業文書を提出した。

(2) 第38回国連総会

今次総会では,INF交渉に象徴される東西間の立場の隔たりと軍縮交渉の全般的停滞を反映して,審議にも西側,東側及び非同盟間の意見の相違が大きく,前年を更に上回る62件の軍縮関係決議が採択され,そのうち核軍縮関係決議が約半分を占めた。

我が国は,核実験全面禁止及び化学兵器禁止に関する原提案国の一つとして両決議の案文作成に積極的に貢献したのに加え,INF交渉,核不拡散条約再検討会議,兵器用核分裂性物質の生産停止,海底核禁止条約,放射性兵器禁止及び信頼醸成措置に関する計8件の決議の共同提案国となり,これら決議はいずれも採択された。

なお,82年の第2回国連軍縮特別総会における我が国の提案に基づき,国連軍縮フェローシップ参加者25名が来日し(9月),また,原爆資料の国連への備付けが「国連軍縮展」として実現し,安倍大臣の出席の下,9月に開所式が行われた。

(3) 国連軍縮委員会(UNDC:United Nations Disarmament Co-mmission)

国連軍縮委員会は5月9日から6月3日まで国連本部で開催され,(イ)軍事費凍結・削減問題,(ロ)パルメ委員会報告,(ハ)信頼醸成措置(CBM)のガイドラインの作成を中心に審議した。審議は例年に比し密度は高かったが,西側,東側,非同盟それぞれの立場の隔たりは大きく,実質的進展は少なかった。

3. 主要軍縮問題

(1) 核実験全面禁止(CTB:Comprehensive Nuclear Test Ban)

(イ) 83年の軍縮委員会では,核実験禁止に関する作業部会が82年に続いて再び設置され,核実験禁止の「検証と遵守」を検討する作業が継続された。

(ロ) 我が国は,7月「核実験の検証と遵守」,「国際地震データ交換システム」及び「新しく整備した群列地震観測システムの国際地震探知網への寄与」と題する3本の作業文書を提出し,作業部会の作業に積極的に貢献した。

(ハ) 第38回国連総会で,我が国は豪州,カナダ等と共同し,軍縮委員会に対しCTBの交渉のためCTBに関する事項の検討を再開するよう,また84年会期中に作業部会のマンデート改訂問題を取り上げるよう要請する決議を提出し,決議は賛成多数で採択された。

(2) 核不拡散問題

(イ) 我が国は,核不拡散のため核兵器不拡散条約(NPT)への普遍的加盟の達成を重視し,未加盟国の条約加盟促進を呼び掛けてきた。83年,サントメ・プリンシペが新たにNPTに加入し,NPTの締約国数は120か国となった。

(ロ) 85年にNPT第3回再検討会議がNPT第8条の規定に従って開催される予定で,83年中に軍縮委員会のメンバー国及び国際原子力機関(IAEA)の理事国となっているNPT加盟国を中心に準備委員会を設置することが決定された。

(3) 原子力施設攻撃禁止

(イ) 83年の軍縮委員会において,放射性兵器禁止条約に関する作業部会が82年に続いて設置され,条約交渉及び問題点の検討が行われた。

(ロ) 我が国は82年6月の第2回軍縮特別総会以来,原子力施設攻撃禁止問題に重大な関心を表明してきたが,今後とも軍縮委員会の本件に関する検討作業の実質的進展のため,努力していく所存である。

(ハ) しかし,軍縮委員会内には,原子力施設攻撃禁止といった戦争法規を議論すること自体に抵抗を示す国があるほか,この問題自体について解決すべき複雑な問題が多々あることから,見通しは必ずしも明るくないと言えよう。

(4) 化学兵器禁止問題

83年の軍縮委員会では,化学兵器禁止条約に盛り込まれるべき主要な問題点,特に,定義,化学物質の禁止の範囲及び検証問題に審議が集中した。ソ連が82年の第2回軍縮特別総会に,また米国が83年2月軍縮委員会にそれぞれ化学兵器禁止条約案に関する文書を提出したことが注目される。

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