第4章 国連における活動とその他の国際協力

第1節 政治問題

1. 第38回国連総会

第38国連総会は,9月20日,イリュエカ=パナマ副大統領を議長として開会した。冒頭の各国一般討論演説は9月26日から10月14日まで行われ,元首18(国王1,大統領14,その他3),首相8,副大統領1,副首相4,外相109,常駐代表等10を含む149か国150名(西独のみ大統領と外相)が演説を行った。レーガン米大統領,ミッテラン仏大統領,ムバラク=エジプト大統領等元首級の出席という点では平年の水準を大きく上回ったが,これは,ガンジー=インド首相の呼び掛けに応じて同時期に国連の会議場を利用して首脳会議が開催された(9月27日と29日)ことにも関連したと見られる。総会出席者常連の一人であったグロムイコ=ソ連外相の欠席も対照的に目立つことの一つであった。

我が国からは,安倍外務大臣が首席代表として出席し,9月28日に演説(資料編参照)を行った。またこの場を利用して,米国,中国,イラン,イラクを含む20か国の首脳・外相と二国間会談を行った。

さらに,安倍大臣は国連事務総長とも会談し,その際国連の平和維持機能強化に関する決議のフォローアップの観点から,我が国有識者グループにより作成された国連の平和維持機能強化に関する研究会の提言(「平和に対する国連の役割の強化」の部分)を転達した。

総会では,12月20日までの会期中に143の議題が本会議及び七つの主要委員会で審議された。政治関係では,カンボディア,ビルマ・テロ事件,中米,グレナダ,フォークランド諸島,南部アフリカ,中東問題等が活発に審議された。

2. 国連における主要政治問題

(1) カンボディア問題

民主カンボディアの代表権が引き続き維持されたほか,問題解決のためには外国軍隊の撤退と自決権行使等が不可欠である旨を強調する「カンボディア情勢」決議(日本,ASEAN等共同提案)が圧倒的多数で採択された。

(2) ビルマ・テロ事件

10月に発生した韓国大統領一行に対する爆弾テロ事件が第六委員会で国際テロリズムの議題の下に取り上げられた。我が国は,非人道的なテロ行為には理由,動機のいかんを問わずすべて反対するとの基本的立場並びに本事件との関連で韓国にできるだけの支援を行うとの観点から,積極的に発言した。

(3) 中米問題

ニカラグァは,5月初旬,反政府ゲリラによる新たな侵攻を受けたとして,情勢審議及びとり得べき措置の検討のため緊急安保理の開催を要請した。5月9日,安保理は審議を開始し,その解決のため関係国に対し,コンタドーラ・グループの和平努力を訴え,同グループに対する事態解決への努力要請を骨子とした共同提案を全会一致で採択した。

また総会では,中米諸国の主権,独立,領土保全に対する侵略非難を骨子とする決議案がコンセンサスで採択された。

(4) グレナダ問題

10月13日以降,グレナダで勃発した事件に関し(156ページ参照),10月25日ニカラグァの要請を受けて緊急安保理が開催され,審議が行われた。そして,外国の武力介入を遺憾とし,外国軍の撤退を求めること等を内容とする決議案が提出されたが,米国の拒否権行使により採択されなかった。さらに総会本会議でもこの問題が取り上げられ,すべての国に対してグレナダの主権,独立及び領土保全を厳格に尊重することを要請するなどを骨子とする決議案が,賛成108,反対9,棄権27(日本を含む)で採択された。

(5) フォークランド諸島問題

今次総会では,英国・アルゼンティン両国政府に対し,本件主権紛争に関する交渉を再開するよう要請すると共に,事務総長に対し仲介の労を再度継続するよう要請したラ米20か国共同提案の決議案が賛成87,反対9,棄権54で採択された。我が国は,本決議案が,すべての国際紛争は平和的手段により解決されるべきであるとの我が国の基本方針に沿ったものであったので,一昨年同様賛成した。

(6) 南部アフリカ問題

4月パリにおいて国連ナミビア独立支援国際会議が開催され,8月には,国連事務総長が,UNTAG(国連ナミビア独立支援グループ)設立決議435の早期実施を図るため南アを訪問した。その結果,国連の公平性,UNTAG軍事部門の構成,選挙方法等これまで懸案となっていた安保理決議435の実施に係る技術的問題が解決を見るに至ったが,キューバ兵の撤退問題は,打開し得なかった。

他方5月及び10月には,ナミビア問題審議のための安保理が開催され,決議435の早期実施の再確認,南アのリンケージ政策非難等を織り込んだ決議が採択された。第38回総会では,ナミビア問題に関し五つの決議が採択された。

我が国は従来一貫して南アによるナミビア統治は違法であり,ナミビアが独立するまで国連が責任をもってその統治を行うべきであるとの見解を支持しており,この一環として3月,国連ナミビア理事会ミッションの訪日を受け入れ,我が国の対南部アフリカ政策を説明するとともに,ナミビア独立問題に関し意見交換を行った。

また,南アのアパルトヘイト政策についても,今次総会において審議が行われ,12の決議が採択された。

(7) 中東情勢(イラン・イラク紛争を含む)

83年には,ヘブロン・イスラム大学襲撃事件(8月),イラン・イラク紛争(10月),北部レバノン(トリポリ)でのPLO内紛(11月)等について安保理審議が行われた。イ・イ紛争,PLO内紛については,それぞれ停戦決議が採択されたが,ヘブロン大学襲撃事件に関連したイスラエル非難決議案は,米国の拒否権により否決された。また今次総会は,中東情勢一般,パレスチナ問題を討議したが,イ・イ紛争の討議は延期された。

84年2月レバノン情勢(国連軍のベイルート派遣),3月イラン・イラク紛争における化学兵器使用問題が安保理にて審議され,前者についての決議案はソ連の拒否権により否決された。後者については化学兵器の使用を強く非難する安保理議長声明が発出された。

(8) アフガニスタン問題

6月ジュネーヴにおいてコルドベス国連事務総長個人代表の仲介により,パキスタン外相とアフガニスタン外相の間で第3回間接会合が行われたが,依然具体的成果は得られなかった。

また今次総会においても本問題は審議され,前年同様外国軍隊の即時撤退等を要求する決議が圧倒的多数で採択された。

(9) 非植民地化問題

第38回総会第四委における討議は,例年になく平穏裏に推移した。今回の討議で注目を集めたのは西サハラ問題であった。しかし例年審議されてきた東チモール問題は当事者間の合意により議題から削除され,プエルトリコ問題についても議題掲上の動きは見られなかった。さらに太平洋信託統治地域問題についても事前の協議の結果,何らの決議も採択しないことで落着した。

(10) 平和維持活動の包括的検討問題

今回総会では,国連平和維持活動(PKO)の強化を図るための各国及び国連の努力を強く訴えた決議案が賛成97,反対16,棄権24で採択された。我が国は,同決議案がPKOに対する我が国の基本的立場に十分沿ったものであったので賛成した。

(11) 国連憲章再検討問題

4月11日から5月6日まで開催された憲章特別委は,何ら具体的成果のないまま終了したため,本件委のマンデートを巡って第38回総会において討論された。結局,本件委のマンデートの継続を内容とする我が国等46か国共同提案決議案がコンセンサスで採択された。

(12) 武力不行使世界条約起草問題

武力不行使特別委報告書の議題の下では,武力不行使世界条約起草のため同委の作業を継続する旨の決定を骨子とする決議案が,賛成88,反対14(我が国を含む),棄権9で採択された。なお本件決議案採択に先立ち主要西側諸国及びその他の若干の諸国が,大韓航空機撃墜事件につきソ連を非難する発言を行い注目された。

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